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第2話:採用されちゃったもんね〜!!(ぴーす)

この作品のコンセプトは

「馬鹿みたいにスゴイことやってるしょーもない話」です。



 落ちてきた髭もじゃの爺さんが顔をあげる。

 その頬にはでかいアザがあった。

 殴られたのだ。

 爺さんが立ち上がる。


 ──でかい。


 身長4m……いや、5m?

 ここまででかいとこちらの物差しが機能しない。

 遥か見上げる爺さんは、俺たちを一瞥もしなかった。

 自分の次に天井から落ちてきた男に意識が向いていたからだ。


「おいキサマァ! 客神である私に……こんな横暴を働いていいと思ってるのか!?」


 爺さんが怒鳴ると、落ちてきた男は漆黒の羽を広げた。

 とてつもなくでかい羽だった。そして頑丈だ。

 部屋の壁に収まりきれず、壁を破壊してばさりと広がったんだもの。


 これは威嚇だ。

 野生動物が、対峙する相手に体を大きく見せるあれだ。


「うるせぇ────っ!!! 俺の愛すべき部下をゴミ扱いするヤツ創世神オヤジであろうと容赦しねぇ──っ!!」


 その声でガラスが全部割れた。

 つまり、ジャッカル社のビルの窓ガラス全部だ。

 たぶん、トイレの鏡とかも割れてるし、お茶組みの陶器類も木っ端微塵だ。

 水道管とかガス管も破裂してるんじゃないか?

 オーガの強靭な鼓膜すら破れるかと思ったんだ。間違いない。


 まだ耳がキンキンしてるし……

 キララはいつのまにか耳を塞いで防いでいた、抜け目ないヤツだ。

 面接官の人らは……羽で見えないけど、多分無事だろう。


 降り立ったその男は見覚えがあった。

 まず目につくのは頭部に目立つ大きくて立派な二対の角だ。ハサミのようにいで立ち、薄暗い灰色で、その一つでも相当重そうに見える。

  

 顔立ちはめちゃくちゃ整ってる。

 髪も床に着くぐらい長いサラッサラの銀髪だ。

 なんかもうキララより遥かにイケメンだ。

 完全上位互換!

 めっちゃくちゃ美化された御伽噺から、

 そのまんま抜け出てきた美しさだ。

 ……実際御伽噺の時代の人だけど。


 羽はまるで漆黒のカーテンだ。

 そこに星空のように散りばめられた、

 本人の魔力の瞬きがある。

 一見細身だが、

 その上背は髭もじゃの爺さんと変わらない。

 その身に羽織る漆黒のケープは、

 羽の中の瞬き同様に、

 そのまま彼の溢れ出す魔力でできている。 

 

 怒りと情熱を孕んだ力強いその眼は、見るだけで並の魔族を殺してしまう。

 実際130万年ほど前に、全長(直径)114京とんで514兆1919億8101万9198光年とんで100万㎢全高7891垓6090京71兆4193億700万光年とんで4兆8100万kmほどの大きさの円柱状暗黒巨大銀河(つまり、魔界の一つだ)を領地にしていた『爆衝銀河魔王ばくしょうぎんがまおう』カ・イデミール・ス・アシを両眼から射出した魔力光線でその魔界ごと木っ端微塵にしたのは記憶に新しい。

 

 そんなスゴイヤツといえば、この世界ではただひとりしかいない!


 その男は魔王。

 最高位の神々に匹敵する、

 『四大魔王』の一翼。


 『魔覇陰光神まはいんこうしん』ジャッカル・インカージョン。


 かませ犬派遣会社、ジャッカルの社長。

 その人である。

 



 第2話:採用されちゃったもんね〜!!(ぴーす)




 髭もじゃの爺さんは社長の気迫に全く負けず、それどころかカンカンの様子で言い返した。


「お前んとこからワシの世界にそこそこ強い魔族を5万体ほどエキストラで借りたい、っていうちゃんとした依頼だっつーの!! 何がダメなんだこのハゲ!! こっちは子飼いの魔王から頼まれてんだよ『今のままだと勇者一群との決戦が格好つかねー』って! なんとかしてくれってさぁ!?」


「うるせぇハゲ!! そもそも5万『体』じゃねぇ5万『人』だハゲ!!」

「ハゲてねーわ目ん玉ついてんのかハゲ! メガネかけろメガネ!!」


 小学生の喧嘩かよ……

 横でキララはゲラゲラ笑ってるしよ……

 俺は笑えねーよ呆れてるよ。


「おまえんトコの世界は前にも3万人貸し出した上で、帰ってきたのが1500人しかいなかったんだぞ!! こっちは可愛い部下2万8500人死んでんだぞハゲが!! 貸すわけねーだろ殺すぞ」


「しょーがねーだろそん時は勇者が全知全能に至ってたせいで想定の倍は強くなってたんだよワシのせいじゃねーわボケ!」


「てめぇ仮にも全知全能の神だろうが何が『想定の倍は〜』だクソボケが!! てめぇの世界すらまともに管理できねぇならもう神辞めて畑でもいじってろボケジジイが!!」


「だからケジメとって勇者一行抹殺して世界リセットしてチャラにしたじゃねーか! たかが数兆年しか生きてねぇ若造のくせに2831億年前のこと忘れるなんて、もう痴呆入ってんのか? 脳みそジジイはてめぇだろうが!?」


 数字のスケールばっかりでかいが、やってることはマジでガキの喧嘩だこれ……

 いや、宇宙を作ってるような神のスケールだと却ってこんな感じになるのか?


 実際この2柱からすれば、俺たちなんて焼いた時に出る宙をただよう灰ほどにも価値のない存在だろうけど……


「てめぇもうキレたわ! 他の神にはヘコヘコして人借すのに、俺には誠意すらなしとかもうキレたわ!!」


 髭もじゃの神がそう言って手を叩くと、

 その瞬間に全てが変わった。

 文字通り、全てが、だ。


 まず爺さんのアザが消えた。

 そして部屋の中はドロドロの溶岩の満ちる超熱帯となり、

 にも関わらず溶岩から色とりどりの花々がずらりと咲き誇るみょうちきりんな世界へと変わっている。

 見上げると、ぽっかり空いていた天井はそのまま宇宙そらとなっていた。ていうか酸素がない。

 この場に。


 マジかよ!?


「ギャハハハハハ! やべーやべーこれスゲー!!」

「いやキララおまえっ……おまえ『ひまわり』になってんぞ!? ひまわりからお前の顔のパーツと髪生えてんぞいやキモっ!? 超キモいな!?」

「そーいうアニキは豚になってるぜ? ハハハおもしれーっ!!」


 !?


 マジか、マジだ。

 俺今マジで豚だ。ブヒーッ!!


 神とは、己の認識する世界を自在に支配する者のことだ。

 己の認識と魔力が行き届く限り、その領域において全知全能の存在だ。

 つまりこれは、髭もじゃ神の認識に現実が書き換えられているのだ。

 目の前の髭もじゃは、マジモンの神らしい。


「あー……やっべ。なんか眠たくなってきた……アニki俺moo寝ruuuわ……」


 ダメだ意識を保てブヒキララ! 

 後半もうすでに言葉が意味ブヒんねーけど!

 意識を失ったらブヒで死ぬぞ魂レベルで死ぬぞ!?

 こんなブヒレベルな争い──いや、やってることは高次元の神々のやりとりだけど──で死ぬなんてブヒの極みだぞ!?

 ええいブヒブヒ鬱陶しいな! 思考に割り込んでくるな! ブヒ!


「知 る か ! !」


 それを、もはや神のモノとなっていた『この世界』を、

 ジャッカル社長はパンチ1発でブッ飛ばした。

 俺とキララは元の姿に戻り、部屋もまた、天井の壊れた面接部屋に戻っていた。


「んなっ!? わ、ワシの支配する領域を……ワシの全能を掻き消しただと……!?」


「ドアホ! ここは俺の会社だ! 『俺の世界』だ!! この世界にお前のモンになる物なんかひとっつもねーよハゲ!! 愛する俺の部下はてめぇのモンにはならねぇよバカ!!」


「……ッ!!」


 すげぇ! 

 ヤンキーみたいな物言いだけど、

 やってることは本当にすげぇ!


 これが魔王……!!

 これが、ジャッカル・インカージョンか……!


「くそっ! 俺は9114垓514京1919兆810億の『100万(ミリオン・)無限数の多元宇宙(マルチ・フルバース)』を支配する神だぞ!? 318那由多1919阿僧祇114恒河沙年無量大数以上の時を生きる偉大な神だぞ!! おまえ如き若造に……くっそぉ〜!!」


 ……なんつーか

 事実なんだろうけど数字だけ並べられるとバカみたいじゃないですか。

 事実なんだろうけど。


 気づいたら、本当に気づいたらだ。

 そのバカみたいな神にキララが捕まっていた。


「キララがアララ、なんちゃって」


 冗談言ってる場合かアホ!!

 てへぺろじゃないよお前! 

 いや人生で多分一番の大ピンチにてへぺろする余裕がすげーな!?


「動くとこいつを殺すぞ!!」


 なんていうか、追い詰められると神も人も魔族もやること同じなんだな。

 いやスケールは違いすぎるんだけど、やってること同じだわ。


「すげーヒゲっスね! 触っていーすか?」

「お前はなんなんだよ!? もうちょっとビビれ!!」

「えっ? なににスか?」

「この状況だよ! つかワシにだよ!!」


 あいつは相変わらずだしよお……

 あーなんか腹立ってきた。


「異界の神よ。その子に人質の価値はないよ」


 社長の後ろから、

 ガマガエルみたいな顔の面接官が言った。

 渋い声だった。


「社長は『部下』なら命を捨ててでも守るが、その子たちは最終面接に残っただけだ。つまり、まだウチの部下じゃないのだよ」


「なっ!?」


 !?


 えっ!? 

 待って、待って!!?

 え、もしかして俺も大ピンチだったの?

 なんか流れ的に俺だけは助かると思ってたけど、

 実はキララと仲良く絞首台の上に立ってたのか!?


 キララもそれに気づいたっぽいけど、

 嬉しそうに俺に手を振るんじゃねーよバカ!

 犬か、お前は!!


 だけど、ジャッカルさんは、羽を収めた。


「なにっ!?」


 なんだあっ!?

 なんでジャッカルさんは威嚇を、戦闘態勢を解いたんだ!?


「そいつらは殺させん! ……わかった。俺は手は出さん」

「ば、バカが血迷ったか!!」


 いやお前が狼狽えるんかい!!


「いやお前が狼狽えるんかーい!!」


 ああもうお前は黙ってろよ人質の自覚ある?

 面接の時と変わんねぇ超ニッコニコ笑顔だし、

 こいつ楽しんでるだろもう!


 と、

 ずぶり、と音がした。

 にぶい音だ。

 粘着力のギトギトあるスライム湖に、石を投げ入れた時みたいな。


 神が吐血した。

 吐血した血がなんか馬面で、

 体は人間で腕が4本ある赤ん坊になった。


 うぉんぎゃああ……! 

 いんぎゃあああ……!


 ……そういや神さまってなんかそういう生まれ方するよね。

 改めて見るとキモいなこれ……うん。


 あ、ジャッカル社長がそれを踏み潰した。

 容赦ないなぁ、さすが魔王。


 んで、髭もじゃの神はどうなったかって?

 胸をぶっとい腕が貫通してたよ。

 後ろから、ガマガエルみたいな顔の面接官が、手刀で貫いたんだな。


「おま……えぇ……」


「あっ! くそガマ公! いいとこ取りしてんじゃねーよ!!」


 呼び名気安いすね!?

 ガマガエルの人はなんかすげぇハードボイルドに重低音な声で、


「キララくんのおかげで0,0秒の隙ができましたので、つい」


 いやそれ隙って呼ばないでしょ。

 コンマまで数値出してるけどゼロ秒じゃん時間無いじゃん!?


 神はどちゃりと倒れた。

 キララはひょい、とそこから離脱した。

 うつ伏せにピクピクしてるからまだ生きてるんだろうけど、

 もう血が一滴も流れてないのは、

 なんかミステリアスパゥワー的なアレなんだろうな。


「さて、このハゲはその身体で責任とって貰うとして、社長からそこの2人に直々に言ってやる」


 ありがたく思え、と言った。


「お前ら2人、採用だ!! 守っちまったからな!! ガハハハハ!! ちくしょうガマ公にハメられたわ!!」


 あ、そっか。

 悪魔の王だから契約的なの厳守するんだ。

 『部下なら守る』だから『守ったから部下』も成立したのか!


「とにかくお前ら採用だ、えーっと……」

「あ、俺キララっス! こっちは俺のアニキ!! 2人でバリバリかませどう極めてくつもりなんで、これからよろしくおねあいしゃーす!!!」


 軽いよお前は!?

 わかってたけど、なんとなくやらかすと思ってたけど!

 さっきまで超次元神話大戦やってた人兼上司兼この魔界の王兼魔界の神に、

 よく気軽に握手しに行けるなもう尊敬するわ!!!!


「ほっほーう。おまえらこの俺の前でかませどうを極めるって言ったな?」


 ……『ら』?

 

「よし、悪魔の王に言い切ったからには、できなかったら責任持って、お前らの魂は俺が喰うからな! 若いエルフと強いオーガか、カレーのおかずにゃちょうどいい!」


 いやっ、ちょっと待って、

 待ってくださいお願いします!!


「ダメダメ。もう契約しちゃったもんね〜!」


 そ、そんな……バカな……!!


「ウェーイ! アニキ! 俺らイキナリ社長とお近づきだせ!? これもう出世街道大爆進マチガイナシじゃね?」


 果ては地獄だがなこんちくしょう!!

 ここ既に魔界だけど!!




 エルフのキララ。 

 オーガの……。


 両名揃って


『かませ犬派遣会社、ジャッカル』に


 採用決定!!


 ……入社してしばらくは、俺たちの周りがざわついていた。


 曰く、『尻の穴のシワの数まで知ってる仲だ、ツラ構えが違う』、だから近づけねえ。

 完全なる2人の世界、隙がない、とのことだった。


 えぇ!? あの話、広まってんのぉ!?

 

 嘘だよと慌てて否定しても、

 なんかそもそもスゴイドン引かれてるし……

 逆に、

 慌ててるしマジだったのかとか思われてるし……


「ハハハ、アニキ! 俺たちもう一蓮托生っスね!! 2人でどこまでもイキましょうや!!」

「う、うわああああ! 俺はもう、お婿にイケないよおおおおおお!!!!」


 





◾️


「てめぇガマ公、俺にガキども守らせるためにわざとあんなこと言いやがったな?」


「はい。見込みある若者を取り込むのは、会社のためにもなるでしょう」


「あと、会社では『ガマ公』はやめてください」


「いいじゃねーか2人きりなんだからよ! それよりあいつらほんとに使えんのか? どっちもバカにしか見えなかったが……」


「ええ。

 口先の上手いお調子者のバカと、

 能力は優れているが陰気なバカですよ」


「つまり、昔の私たちにそっくりってことです」


「……ガマ公」


「なんでしょう? インク?」


「俺が能力優れてる方だよな?」


「冗談でしょ?」


「ははは……殺す!!」


「いいでしょう! 久々の喧嘩だ。やってみろォ!!」

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