第12話:激震! 魔王さま殺害事件!!
恋はスリルショックサスペンスなのである
異界についた俺たちは、
キーマさんに連れられて依頼人の元へ案内された。
つまり、この異界の神の元へ、だ。
神は威厳のある風体だった。
どっしりとした肩幅、
白くもじゃもじゃした髭、
なんか髭をそのままトレースしたみたいな髪の毛、
鼻がでっかくてゴツゴツしていて、
半裸に謎の意匠を凝らしたベルトに、
スカートのようなひらひら付きのズボン。
どっからどう見ても宗教画的な神だった。
その神が、キーマさんに……
つまり、いちゴブリンにごま擦りながらペコペコしている絵面は、
子供番組のヒーローが事務所のお偉いさんに裏でペコペコしている味があるというか……
見てはいけないものを見てしまっているというか、
なんとも言えない……その……
「なんというか、虚しさを感じるわね」
ロリリの言葉にすごく頷く俺。
そうだよ! それが言いたかったんだ……!!
でも本人のいる前でぶった斬りすぎだよ!
ほらみろ神さま泣きそうになってんじゃねーか!!
「てか、神なら魔王軍のエキストラぐれー自分で用意できないんすかね?」
おっ! 追撃画面端ィ!!
ってやめろバカキララおまえ、
それはそれができないなんか神的なあれそれ的な、
な、なんか事情があるに決まってんだろ!?
「いんや、今回はこのハゲの力が足りてないだけだぞ」
キーマさん即死魔法唱えないで!?
だめだ! 神は死んだ!!
そのあとキーマさんが神さまを軽く蘇生させ、
エキストラとして使う人数の確認に入った。
必要な人数は3万人から4万人。
……いや無理だろ!?
「結局どうするんすか? ここにいるのは俺たち4人ですし、あと1人入れても……」
「そらぁ大丈夫。エキストラの9割9分は、俺がやるから」
……へ!?
「あ、なるほど!」
キララが手を叩いた。
「分身っスね!」
えっ!?
いや、流石に無理がないかそれは?
俺も正直それだと思ってたけど……
一人で何万人も分身って、
だいたいそれだとエキストラ全員キーマさんと同じ背格好になるし、
変化魔法かけるにしても万単位の人間に千差万別の外見変化を掛けるなんて、
それこそジャッカルさんぐらいのパワーがないと無理じゃないんすか?
「お、いいとこ気づくじゃねぇの」
キーマさんは爽やかに笑った。
そして、指をくるっと回してすこし大きめの甲冑と分厚い布を創造した。
「そこはほら、ゆとりのある服や甲冑を着て、その下に……例えば布を丸めて押し込めるじゃんか。するってぇと……」
「おお! キーマさんの外見がオークさながらに……!!」
「例えばよ、長ズボンや長スカートを穿いて、その下に超々高下駄をはくじゃん? んで黒いケープをばさりと羽織る。するってぇと……」
おおすげぇ!
どっからどうみてもイケメン細身で高身長の吸血鬼だ!
「すげーすげー! アナログな工夫ってやつっスね!!」
キララが感心に目を輝かせている。
俺も同意見だ。
正直すげぇ! こんなちょっとしたことで、
全然別人に見えるんだ……!
「結局よ、エキストラってえのは背景の賑やかしだからよ! あーなんかいるなぁ〜って思わせりゃ勝ちなのよ! 細かいとこなんてフツー見ないからよ」
キーマさんの説明は極めて腑に落ちた。
たしかに、俺も漫画とかよく読むけど、
背景の細かいところまで穴が開くほど見てるわけじゃないもんな。
そりゃ、気になる作品とか好きなやつはじっくり見るけど、
なんとなーく、って感じのやつだと、
なんとなーく、って感じで流し見ちゃうし。
「ついでに言うと、かませ犬の仕事のキモってやつは、何やっても『これ』だと思ってんのよ」
創意工夫ってやつっすね!!
「いや、『気持ちよくさせる』ってことさ」
なんすかそれ?
「いいか、かませ犬ってのは、ヒーローやヒロインが最初に自分の力を自覚するってぇのがあるだろ?」
俺やキララがガマ先輩から最初に習ったことっすね。
「他には……例えば、悪役令嬢ってやつでは、その世界の本来のヒロインをいじめる役で、それを主人公のスーパーヒロインにぶっ飛ばされて、ざまぁみろ! ってされる役だろ?」
ふむふむ。
「他にもいろいろあんだけど、共通してんのは『ヒーローを気持ちよくさせる』って部分だと、俺は思うんだよ」
おお! たしかに!
「イケイケのイケメンヒーローが、ゴリラみたいな大男と戦って、ゴリラが勝つのは当たり前だろ? それじゃ、なにも面白くねーよな? キララ、おまえこいつと素手で喧嘩して、勝てると思うか?」
「無理っス! ぜってぇ〜勝てねっス!!」
「俺もだよ。俺は魔法力なら、こいつには絶対に勝てる。100回やって1000回勝てると思う。だが、腕力のみで殴り合いなら、100回やる前に殺されるだろうな」
殺さないっすよ!?
「まぁそー言う話ってことだ。それでキララがなんかすげーパワーで勝っちゃうから、盛り上がるし気持ちいいんだよ。それはありえないことだからな、普通は」
「あら、私はたぶんこいつと殴り合っても勝てるわよ?」
そりゃおまえはロリなの外見だけじゃねーか!
「わあってるよ、そんなこと。でもロリラレムよ? その外見から一才変化しちゃいけない、筋力もそのまま、って縛りをもうけりゃどうよ?」
「うーん……それは、悔しいけど、無理……かも」
どんだけ俺に負けたくないんだおまえは。
「でもすげーっスよ! その超魔力!! 分身に制限とかないんスか? 人数とか、一体の密度とか!?」
「数には制限ねぇな、たぶん。今までで一番分身したのはある世界で魔王連合の下っ端の魔物全部やった時だから……だいたい6280垓5500京200兆無量……」
数字出されるともうわけわかんないっすね。
ていうかそれもう惑星全土がキーマさんだけで満員電車じゃないですか!!?
「いやぁ、あん時は辛かったわ。自分の密になった体臭がくっせぇのなんのって……」
「いやだわ。女の子の前でそんな話しないでもらえる?」
うん、なんか今日はやけにキララとロリリと波長が合うなぁ。
「ってかキーマさんもう一人はどこにいるんすか? 先にこっちの世界に来てるはずじゃ……?」
「そうだな、もう集合時間過ぎてんのに、何やってんだあいつ……?」
「ウェィっス! 俺がちょっくら見てきましょっか!? ダッシュダッシュで行きますよ!!」
「いや、俺がいくよ。だいたいおまえらじゃ、顔わかんないだろ?」
そう言って、キーマさんは席を立った。
残された俺たちは魔城のいる現地民の魔族とたわいのない世間話に花を咲かせた。
相変わらずキララは老若男女に大人気だったし、
ロリリの周りには魔人ハアハアおぢさんが群がっていた……
「きゃあああああああ!!!」
そんな時、絶叫が響いた。
広間の全員の視線が一箇所に集まった。
侍女が飛び込んできた。
「ま、魔王さまが、何者かに殺されましたあっ!!」
…………は?
……はあああああああ!!!?