第1話:かませ犬派遣会社、ジャッカル!
パロディギャグです。
ゆるーい感じで読みやすく、を心がけて楽しく書きました!
よろしくお願いします。
なんでこんなことになっちまったんだ……
目の前には横長く伸びた机、机の上にはいくつかの資料。
5つのパイプ椅子に座るのは、机側に3人。
こちら──つまり椅子だけの側に2人。
資料を手にしているのは潰れたガマガエルみたいに醜い顔のおっさんたち。
それに負けないブサイクな俺。
その顔は青ざめていて、隣に座るイケメン野郎はニッコニコの笑顔。
部屋の名前は特別応接室。
看板に飾られる札には『ただいま面接中──
──かませ犬派遣会社、ジャッカル』
と書かれていた。
第1話:かませ犬派遣会社、ジャッカル!
時間を少し戻そう。いや、だいぶ戻そう。
俺は魔族だ。
身長は2m40cm。体重は400kg。
いわゆるオーガ的な……無骨な魔物だ。
何を着ても筋肉と脂肪でパツパツだし、
髪はザンバラでボサボサしてる。
俺の住む魔界は、平和な世界だった。
絶対的な魔王さまが長い長〜い大戦争終わらせて、俺たちはその1000万年後に生まれた。
いわば戦後世代だ。実に平和ボケしている。
俺は顔がブサイクだった。
オーガとか、一見カッコよさげだ。
背、高いし。マッチョだし。
でも、俺は顔がゴツゴツし過ぎてて体もデカ過ぎて、顎もシャクレ気味で、ブサイクだった。
肌も他が赤とか赤黒いのに対して、俺は上から下まで緑色だ。
だから、いわゆる「いじめ」にもあってきた。幼少期の話だ。
そして成長して、体が大人になると、今度は怖がられて誰にもいじめられなくなった。
代わりに、俺に近づくやつはいなくなった。
怖いからだ、顔が。
でかいからだ、体が。
気持ち悪いからだ、性格が。
そんな俺が、この『かませ犬派遣会社、ジャッカル』の面接を受けている理由は、色々ある。
率直に言うと、まず勘違いしていた。
まず、ジャッカルの社長──「ジャッカル・インカージョン」は、魔王なのだ。
それも、そんじょそこらの魔王ではない。
魔王の中でも並の神々を凌ぐ全能の超越者の1柱。
【四大魔王】の冠をいただく、最高峰の魔王なのだ。
だから、最初はいわゆる普通の魔王軍だと思っていた。
だけど、実際は全然違った訳だ。
それでも、ジャッカルさんが経営する会社に入ることはステイタスだと思っていたし、
あわよくば……あわよくば、魔王の側近になれたらいいなぁ、とうわついた思いだったのだ。
とにかく俺は門をたたいた。
1次試験は楽々突破。2次試験試験は筆記試験──⚪︎×問題。
これも楽勝だった。
問題は次だ、最終面接。
ブサイクで、口下手。俺は面接というものが大嫌いで苦手だった。
会場の控え室でそわそわしている俺に、そいつは話しかけてきた。
「おまえ、すげぇガタイだな! オーガ族か!?」
俺が振り向くと、イケメンがいた。
身長およそ185cm。すらりと伸びた手足。長いまつ毛で一筆できそうだ。金髪で、体も髪の毛も縦に長く流れていて、碧眼。耳が横に尖っている。
──エルフだ。
初めて見た。
というか、魔界にエルフっていたんだ。
そいつはギラギラした眼をしていた。
今あったばかりの俺に、
もうたまらなく興味津々のようだった。
「俺、俺! キララってんだ! オーガ、俺、初めて見たよ! でけーなぁ! マジカッコいいわ!」
嘘つけ、エルフのお前が俺をかっこいいなんて思うもんか。
と返すと、キララは全く無視して俺の腕を揉み始めた。
「うわっ! すっげ!! 弾力すげ!! 圧縮ゴムかよ!? 指太ってェ〜!! かっけェ〜!!」
「いや話、聞けよ!? なんだよ馴れ馴れしいな!?」
俺はなんだか悍ましくなって腕を払った。
キララはにししと笑っていた。
「わりーわりー! いやホラ、エルフってヒョロガリモヤシじゃん!? イメージが! やっぱ男としてさぁ! ゴリゴリマッチョには憧れんの不可避だろ、こんなん!!」
キララはスーツをまくって、腕にフンと力を入れる。
しかし、力コブは悲しいほどになかった。
「お前、なんでこんな会社の面接受けてんだよ……」
「お、てめぇが受ける会社を『こんな会社』呼ばわりかよ! 気がつえーなァお前!!」
「いやっ、ちが……」
いや、違くはないか。
【かませ犬派遣会社、ジャッカル】
それは文字通りだ。
つまり、この会社はこの世界や、異界なんかの抗争や戦争、果ては『いろんな物語』にでてくるかませ犬や背景のエキストラを派遣して、生計を立てている会社だ。
2次試験の⚪︎×問題。さっきの問題も──
問1.かませ犬とはヒーローの踏み台である、⚪︎か×か?
みたいな、ふざけた内容だった。
「しかしよー、さっきの⚪︎×問題難しすぎね? 俺ぜんっぜんワカンなかったから、全部テキトーにかいたぜ?」
「ハァ? 嘘でしょ!?」
ホントホント! と笑ってくるキララ。
2次試験までで1919人中、1869人は落とされたはずだ。
残りは50人。
ヤマカンで生き残るなんて、なんてツキの強いヤツなんだ、こいつは……
しかし、見れば見るほどイケメンだ。
腹立たしいほど顔が整っている。
人形のような白い肌に、白スーツと紺色のネクタイに、ブロンドの髪のコントラストがキマっている。
実に画面映えしている。
「なんで……」
思わず聞いていた。
「なんでキララは、ジャッカルに……?」
こいつなら、どんな仕事でもできるだろうに。
勇者、魔法使い、盗賊。ポジションなら天才系の後輩、生意気なライバル、ヒーローに全てを託して舞台から去る師匠……
顔がいいから、
どんなことをやらせても絵になるはずだ。
薔薇と後光の似合う男だ。
物語において、美形であるかというのは大事だ。
どんなに凄惨な悲劇が起きても、ヒーローとヒロインがブサイクとブスならそれは喜劇だからだ。
陰鬱な話でも、儚い美形なら耽美だがブサイクでやりすぎると単にドン引きしてしまうものだ。
美少女獣娘の奴隷を救い上げるのがニキビヅラのバーコードハゲの汗っかきチビデブのブサイクでは、ロマンスは生まれない。
ヒロインとして豚鼻で鼻毛見えてる頭円形脱毛体ハンバーガーなデブス悪役令嬢なんか、そもそもヒーロー役に婚約破棄されて当然だろう。
誰が彼らに感情移入する?
無理だろ、それは。
だから、俺たちは頭にタライをおっことす。
ドロだまりに自分から突っ込んでいく。
間抜けを演じて、踏み台に徹して、汚れて、笑いと哀れみをとって、生きていく。
それがかませ犬の人生ってヤツだろう?
それを、こいつは。
キララって、エルフは──
「決まってんだろ? かませ犬がカッコいいからだ!!」
──ギラギラした眼で、
最高にカッコいい微笑みをそえて、
否定してきやがった。
「おまえそれ……ホンキで言ってる?」
「いってるいってる!! 俺いつもチョーホンキよイッポンギ!!」
キララは熱く、そして軽く語り始めた。
「だってよ、どんなに勇者が名声を得ても、最初に戦うのって、だいたいモブじゃん? かませ犬じゃん?」
「てことはよ、未来において全知全能とか、そーいうとこまでイっちゃうヤツだろうと、俺らがいなきゃ、そこまでいけなかったかも、だろ? 踏み台がなきゃ跳び箱は飛べねーぜ?」
「ヒロインの女の子との出会いを、俺たちが演出するんだぜ? 恋のキューピッド役も俺たちの仕事だ! ヒーローとヒロインがアツアツカップル成立した後で、アタマの良いやつは気づくんだ、『あいつがいたから、こいつらは今幸せなんだよな……』って」
「こんなにやりがいのあるポジション、ほかにねーよ!
勇者がいない神話はあるさ!
魔王がいない冒険はあるさ!
戦士がいない、賢者がいない、盗賊がいない物語はあるさ!!
それでも、絶対。
かませ犬は、
最初の雑魚敵ってのは、
最初のボスキャラってのは、
どこの世界でもいるんもんなんだぜ?」
「──!」
どうだスゲェだろ?
キララは自信に満ち溢れていた。
曇りなき眼で堂々と言い放った。
ああ、コイツはイケメンだわ。
なぁなぁでここにいる俺とは、もうモノが違うわ。
「そーいうお前はなんでこの会社に?」
「お、俺は……」
口籠もった。
恥ずかしいからだ。
かませ犬というものに立派な「ビジョン」を持っているキララに比べてると、魔王さまの臣下になれるかも、なんてなぁなぁな理由でここにいる俺は、なんて恥ずかしい存在なんだろうか。
俺が上手く口が動かせずにモゴモゴしていると、キララはにかりと笑って
「ま、お前いかにもかませ犬ってツラしてるもんな! 適材適所! ここは自分の能力を活かせる、って仕事だろ!!」
「おま、それ。そーいうこと本人の前で平然と言っちゃう?」
「いっちゃういっちゃう! だって褒めてんだぜ?」
ほんっとにこいつは……
「それよか、お前ここにいるってことは、俺と面接同時にやるってことだぜ? よろしくな!」
「……マジか?」
──そして、時間が今に舞い戻る。
キララは面接官の3人とひっきりなしに喋っていた。
そして、その内容が面白い!
エルフとしてのこれまでの人生。
筋トレしても全然筋肉がつかず、脂肪をつけるために大食いになった結果地元の大食い大会で優勝しちゃった話。
かませ犬じみた顔の魔族に喧嘩を売って、普通にボコボコにされて、かませ犬みたいな顔した魔族に助けられて、そいつにも喧嘩を売ってボコボコにされた話。
オークは「そういう種族」だと思って煽ったら、オーガみたいなごっつい筋肉のオーク長が出てきて物理的に屈服された話とか。
側から聞いてる俺でも正直面白くて笑いそうになる。
面接官からのウケは当然いい。
キララはニッコニコ、面接官もニッコニコという訳だ。
俺は、まだ何も話せていない。
そもそも質問すらフられない。
疎外感。
まるで、俺の存在がこの場の誰からも認識されていないような……
俺はキララの話に笑いそうになりながら、ああ、くやしいなあ。って思っていた。
「それで、キミの方は、なんでウチで働こうと思ったの?」
と、そんな空気を感じ取ってくれたのか。
はたまた義務的にやらざるをえなかったのか、面接官の1人がキララとの話を切り上げて、俺に話をフってきた。
俺は突然すぎて、上手く口が動かなかった。
「あっ、いや……それは……」
じろり。
面接官3人の視線が俺に集まっている。
キララとの話の興奮がどこかに飛んでいる。
極めて白い目だ。
圧迫感に、俺は吐きそうになる。
何か……何か言わなきゃ……!
すると、
「いや、こいつすげぇこの会社に憧れてんスよ!」
キララが割り込んできた。
面接官の1人──俺に話を振ってくれたヤツが、
「キミには聞いていないよ」
と言った。
当然の意見だ。
しかし、キララは意に介さない。
「まま、聞いてくださいよ。かませ道……って、あるじゃないっスか。
人を引き立てて、
ヒーローを引き立て、
英雄物語のきっかけとなるべき人物!
決して目立たず、しかし英雄を語る際に絶対に外せない存在!
最初に出会う雑魚敵。
最初に戦う強敵。
なんかイキってるヤツ。
ヒロインとの関係をつなげるキューピッド!!
それを静かに、たしかにまっとうするのがかっこいいんだって。
それが『かませ道』で、この会社の誇るべき仕事だって……」
キララ。ここにきて、俺を利用して自己アピールか。
……そうだよな。
お前は、光の当たる場所に立つべきエルフだ。
陰気臭い俺なんか、踏み台にすりゃあ
いい。
「それを、アニキが俺に教えてくれたんスよ! 今さっき、そこで!!」
「!?」
キララは俺に顎をしゃくった。
俺も驚いて顎をしゃくった。
何言ってんだこいつ!?
だって、お前が今言ったこと、全部お前が俺に、控え室で言ったことじゃん!?
「俺マジそれに感動したんスよ! ぶっちゃけ俺この会社、『なぁんか魔王さまとお近づきになって、権威にあやかりてぇ〜』って感じで受けたんスけど、それ聞いてマジ心変わりしました!」
なんて堂々と嘘をつくんだこいつ……!
「だから俺、アニキと一緒に働きてぇんスよ! この会社で!!」
「!!!!」
ちくしょう……ちくしょう!!
なんてかっこいいんだ、こいつ、こいつは……!!
「キミと彼の関係は?」
「幼馴染っス! チョー仲良くて、昔っからこいつ俺のアニキ分だったんスよ!」
ちょ、おま!?
そんなすぐバレる嘘を!?
「んん〜? でも履歴書の出身地全然違うよねぇ〜?」
「あー、それ! 俺ちっちぇ頃親の転勤で引っ越したんス! でもアニキのこと忘れられなくて、しょっちゅう遊びに行ってたんス!」
な、なんて切り返しのうまいヤツだ。
あーいえばこーいうの見本市かよ!?
「俺たち仲良すぎて──お互いのケツの穴のシワの数まで知ってる仲っスから!!」
いや待てなんだそれは!?
待てなんだそれは!? それ必要な情報かそれ!?
「へぇ……」
面接官のおっさんもなんで頬染めんの!?
恍惚のツラしないでやめて!?
キララもこのタイミングで俺にウィンクしないで!!
「仲、良いんだねぇ……」
面接官のおっさんは満足げだった。
言葉がねっとりしていた。
結果的に、それに関する質問はやんだのだ。
俺は、命拾いしたと言えよう。
してしまった。
代わりに、かけがえのないものは失ったがなぁ!?
キララ!
笑ってんじゃねーぞこのやろう!!
俺が内から湧き上がる「こいつ殴りてぇ〜」という激情を押さえ込んで、なんとか苦笑いを浮かべていると、
どごん! と音がした。
凄まじい衝撃が部屋の中を駆け巡った。
それもそのはず。
俺たちと面接官の間に、天井が落ちてきた!
「な、なんだあっ!?」
いや、落ちてきたのは天井だけじゃない。
モジャ髪の、髭面の、半裸の、なんかスカートっぽい腰巻きした、
いかにも神っぽいデカくてゴツい爺さんも、天井と一緒に落ちてきたんだ!!