始まりの街、フリウス
昨日はなんだか多くの方に見ていただけたようで、評価ブックマークが増え、感謝でいっぱいです。
感想もいただけまして、うれしい限りにございます。有難うございます。
それでは、第六話、お楽しみくださいませ。
力強い風を背に受けて、走り続けること数刻。
冷静に考えればこの道に沿って行けば馬車に追いすがらなくても、人がいるところにはたどりつけるのでは。なんなら新しい轍をたどればそれでいいのでは。
と思い至り、日が傾いてきたこともあっていい加減馬車を追いかけるのに若干飽きてき始めたころ。
先を行く馬車の立てる音が小さくなり、ついに消えた。
魔法の範囲から外れたわけではない。
馬車が止まったのだ。
馬車の音が小さくなったころから、雑踏のような音が聞こえ始めていたから、おそらく街のような場所に入ったのだと思う。
それから馬車の辺りでは、人があいさつやねぎらいの言葉を交わすのが聞こえていたが、扉を閉めるような音とともに、人の声は聞こえなくなってしまった。
(さすがに屋内の声を拾ってくるのは難しいか)
距離が近かったり、もう少し魔法の扱いに習熟していたら聞こえていたかもしれないが、そこまでを求めることはおそらくないだろう。
私は確かに死んだことにされて家を追い出されたし、アルビノはあの国では忌避されるものらしいし、爪弾き者であることは確かだ。
けれど地球で見かけた小説のように、知識を生かしたチートで世界を席巻しようとも、与えられた力を存分に発揮して魔物や超常の存在と戦おうとも思わない。
私はマーガレットだけど、海斗でもある。
私の目的は、あくまでマーガレットにこの世界の様々な景色を見せてあげること。そのついでに、海斗個人としてマーガレットのことやここに来た理由、帰還の可否を知れればいい。
故に、必要以上に目立つことはしない。
一人称を私としているのも、いざ人としゃべるときに俺などと言って不審がられるのを避けるため。
私はあくまで珍しいアルビノであること以外は普通の女性であればいい。
とはいえ無力な女性であっては旅が覚束なくなってしまうから、身を守るための力はつけるし振るいもする。
要は余計なことはしなければいいのだ。
身の丈に合った行動を心掛けよう。
(でも便利そうだから練習はしておこう)
できるようになって損はない。
何がいつ役に立つかなんて誰にも分らないのだ。
手札は多く持っておくに越したことはない。
もちろん、その手札の活かし方も重要だけれど。
そんなことを考えているうちに、大分目的地に近づいていたらしい。
石造りの壁に囲まれた街らしいものが見えてきた。
魔法を解いて歩いて近づいていけば、下り坂の先にあるその街の姿がはっきり見えてくる。
街の真ん中に立つ大きな屋敷、そこから広がる道沿いには所狭しと建物が並ぶ。
周りを外壁で囲われたその街は、かなりの規模であることがうかがえる。
「これは、いきなり当たりを引いてしまったかもしれない」
これだけの規模なら、きっといろいろなことを知ることができるだろう。
むしろ、この世界のことで知っていることなど無いに等しい私には、初めての体験ばかりだろう。
思わず足取りが軽くなるのも当然といえる。
私は期待に胸を膨らませながら、一心にその街を目指した。
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「それで?なんでこんな時間に外歩いてたの?親御さんはどうした?」
どうしてこうなった。
「いや、だから私は旅をしてて……」
「うんうん、そういうのに憧れる年ごろなのはわかるけど、こんな時間まで帰ってこなかったらお母さん心配するだろう。早く帰って、安心させてあげなさい。ほら、送ってあげるから。家はどこにあるか分かるかい?」
(私はやんちゃな迷子じゃない!)
そう叫びたい気持ちを何とかこらえ、もっともらしい言い訳を探して頭を巡らせる。
順番が回ってきて、検問を受けようとしたらマントを脱ぐように言われたので脱いだら、門の横に建てられた詰め所らしきところまで連行され、優しそうな顔をした衛兵さんに質問攻めにされていた。
彼は背の低い私にちゃんとしゃがんで目線を合わせ、穏やかに話をしてくれる。
しゃべる言葉も丁寧だし、いい人なんだろうなというのはわかった。
(私からすれば余計なお世話なんだよね。申し訳ないけど)
私はこんな身なりだが、中身は20を超えたれっきとした大人なのだ。
自作の服も、子供の旅ごっこの一環だと思われたらしく、よくできているねと言われた。
この歳でこんな露骨な子供扱いをされるとは……羞恥心で顔から火が出そうだ。
周りも周りだ。
ほほえましそうな顔してこっちを見ないで。
そこの女の人、あらあら、元気な子ね。じゃないんだ。
どうせなら早く仕事しろって彼をせっついてくれば良いのに。いや、これも彼の仕事なんだろうが。
「あの、私一人でも帰れますから」
「そうかい?道はちゃんとわかるんだね、えらいぞ。でも暗い道は危ないから、僕も一緒に行こう。最近は小さい子がいなくなるなんて噂もあるから。君みたいにかわいい子は特に気を付けないと」
そういって彼は詰め所を覗くと、中にいるらしい仲間に声をかける。
困った。
同行なんてされたら、ありもしない家を探して歩き回る羽目になる。
家など無いことがばれれば、さらに面倒なことになるに違いない。
悩んでいる間に、彼が戻ってきてしまう。
いっそ一度逃げて出直すか。
それで夜にでも壁を乗り越えて入り込んでしまえばいい。
結構な規模の街だ。入ってさえしまえば、人に紛れてバレることはないだろう。
性急ながらそう考えて、身をひるがえそうとしたとき、
「お嬢様、こちらにおられましたか。探しましたぞ」
そう聞こえたと思いきや、抱き上げられた。
突然のことに、振り払おうと体に力を籠めようとすると、
「今は合わせてくだされ。後ほどお話をさせていただきたく」
私を抱き上げた、いかにも執事然とした初老の男性が小声でそう言ってきたので、とりあえず任せることにした。
(このままだと厄介なことになるのは間違いなかったし……最悪は不意を突いて魔法で逃げればいいか)
「貴方は領主様の。では、そちらの女の子は……」
「ええ、領主様の親戚に連なる方でございます。つい先日、お忍びで遊びに来られまして。知らせる予定はなったのですが、活発な方ですから、屋敷に閉じこもっているのが窮屈だったようで飛び出されてしまいましてな。こちらで見かけたと聞いて迎えに参りました次第にございます」
「そういうことでしたか。近頃不穏な噂もありますから、大事にならなくてよかったです。お嬢様、先ほどは失礼しました。ですが、お出かける際には気を付けてくださいね」
「……貴方には余計な心配をおかけしました。お気遣いはしっかり伝わってきましたよ。これからも、その調子でお仕事に励んでください。じいにも迷惑を掛けました。さあ、帰りましょう」
何とかお嬢様らしい口調を意識してしゃべってみれば、衛兵さんは驚いたように固まっている。
とりあえず衛兵さんには手を振っておくが、なぜか執事らしき男が動かない。
見てみれば、こちらも驚いたように軽く目を見張って固まっていた。
(合わせろといったのは自分だろうに。失礼な)
抗議の意味を込めて軽く蹴ってやれば再起動したようで、衛兵さんに声をかけて歩き出した。
もう一度衛兵さんに手を振ると、他の人たちまで手を振り返していた。
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「先ほどは見事な演技にございました。わたくし、思わず感服してしまいましたぞ」
「それはどうも、ありがとうございます。もういいので、早くおろしてください」
「おっとこれは失礼いたしました」
門からしばらく歩いた先の広場で、私は執事らしい男と向き合った。
「それで、私に何か御用ですか?私は先ほど初めてここを訪れたばかりです。貴方は領主様に仕えている方のようですが、私のことを知っていらっしゃる様子なのはなぜなのか。教えてくれますよね?」
「ええ、もちろんですとも。ですがここで立ち話も何ですから、よろしければ、」
「いえ、お気遣いなく。ここで大丈夫です」
どこかへと促そうとする男の言葉をはっきりと遮る。
さっきの茶番では面倒を避けるために合わせたが、それが終わった今、警戒しない理由はない。
身元ははっきりしているようだけど、信用できるかどうかはまた別の話なのだから。
「かしこまりました。では、お話させていただきます」
今ここで話せという意志を込めてじっと見つめていると、ようやく話す気になったらしい。
「わたくしはサリファス=キーズスと申します。この街の領主様に仕え、家令を任されております。貴女を知りましたのは、先ほど帰還しました当家が所有する馬車の御者の報告にあったからでございます。街道の途中に子供が、近くに親がいる様子もなく一人でいると。もしかしたら逃げ出した奴隷かもしれないと。その場合、逃げ出した奴隷は所有者のもとに必ず送り返さねばなりませんので」
「それで何故領主様の家令がでてくるのですか?衛兵さんもいるようでしたし、そちらに任せるのが普通なのでは?」
「ええ、ご指摘はもっともにございます。本来ならばそうするのですが、私共にも、わたくしが直接でなければならない理由がありまして。それ故、わたくしが直接確認に向かった次第でございます。予想よりも早くこの街に到着されていらっしゃったので、少々驚きました」
「ちなみに、あなたが出なければならない理由というのは?」
「申し訳ございませんが、わたくしの口からそれを申し上げることはできません。どうか、ご容赦くださいませ」
(まあ、そうだよね)
むしろただの小娘にしか見えない私によくここまで話してくれたものだと思う。
ここらで終わりにしよう。
もう日が暮れているから、早く素材を換金するなりしてお金を作らないといけない。
換金できなけば、今日は野宿だ。
「わかりました。話していただいてありがとうございます。もう遅い時間ですから、終わりにしましょう。先ほどは助かりました。改めてお礼申し上げます。では」
「お待ちください」
話を切り上げて立ち去ろうとしたら、行く手を塞がれた。
「なんですか?」
「貴女様は先ほど、この街に来たのは初めてだとおっしゃられていました。であれば、宿の場所などもご存じないでしょう。また、入り口にて抱き上げました際に勝手ながら調べさせていただきましたが、金銭をお持ちでいらっしゃらないのではないでしょうか。よろしければ、屋敷にてお部屋をご用意いたしますが、いかがでしょうか」
あの瞬間にいつの間に。
そんなことを調べられていたとは全く気付かなかった。
サリファスおそるべし。
「ええ、まあ貴方の言う通りですが。お金は素材を換金して作りますし、宿も探せば見つかると思いますから大丈夫です。それに、そこまでしていただいても返せるものがありませんし、私のような怪しいものを招き入れては良くないと思います」
「残念ながら、換金できる場所はもうしまっておりますよ。そして、これは私のお礼にございます。先ほどの不十分な説明で了解していただいたお返しとお考え下さい。ですから、お返しいただくことなど何もございません」
つまり口止め料ってことかな。
余計なことをと言いふらすなということか。
「我が屋敷の警備には万全を期しておりますから、どのようなお客様をお招きしても、安心してお過ごしいただけるものと自負しております。素材の換金も、こちらで承りましょう。明日の朝にはお渡しの準備ができますので、わざわざ換金所を探す手間も必要ありません」
変に借りを作ってしまうのも気持ち悪いので断ろうと思ったが、ずいぶんと推してくる。
もちろん口止めの意味合いもあるんだろうけど。
これ以上断り続けるのは心苦しいものがあるし、私としても渡りに船で助かるのは事実。
ここは厄介になっておくことにしよう。
「では、お言葉に甘えることにします。よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそよろしくお願い致します。私の名に懸けて、精一杯おもてなしさせていただきます」
「……お手柔らかにお願いします」
貴族式のおもてなしなんてされたら、元一般庶民の私はいたたまれなくなってしまう。
地球でみた貴族の生活を想像しただけで苦笑いがこみあげてくる。
極端な話、寝る場所さえあればそれでいいのだが。
「ああ、そういえば忘れておりました」
勝手に想像で戦々恐々としていると、先を歩いていたサリファスがおもむろに振り向いて、言った。
「ようこそ、フリウスの街へ」
第六話、いかがでしたでしょうか。
もし僅かにも、面白い、続きを読みたいと感じていただけましたら、どうか、評価、ブックマークをよろしくお願いいたします。
本日はもう一話投稿しようと考えております。
時間としては夜ごろになるかと思いますが、ぜひご覧いただければと思います。




