少女は森の中で
第三話目です。
読んでいただいてありがとうございます。
一人二人と評価してくださる方がいて、うれしい限りです。
拙作ではありますが、お楽しみいただければ幸いです。
鳥のさえずりが響く、鬱蒼とした森の中。
私は視線の先にいる、ウサギのような小動物に狙いを定める。
音をたてないように静かに、森でかき集めた材料で作った弓を引く。
しなる弓がキリキリと音を立てるが、ウサギもどきに聞こえる距離ではない。
今も、ウサギもどきは無警戒に下草を食んでいる。
余計な音を立てないよう静かに引かれた弓は、限界まで引かれた直後、その緊張を解かれた。
放たれた矢は、風の魔法の補助を受けて、一直線に標的へ。
もちろん、その速度はウサギもどきに反応する時間など与えない。
「……よっし」
視線の先には、矢で地面に縫い留められてもがくウサギもどきの姿。
これで今晩のご飯確保だ。
「干し肉のストックも少なくなってきたし、もう少し獲ってから戻ろうかな」
矢を回収し、仕留めたウサギもどきに簡単な処理を施した後、紐で括って腰につるす。
獲物の処理とか、やり始めた当初は戸惑ったものだ。
それでも、あの時から今までの間、ほぼ毎日のように繰り返せば流石になれるというものだ。
上手いかどうかはともかくとして。
隣をふわふわと漂う、小さな淡く輝く光の玉こと、精霊さんにお願いすれば、そよ風に乗せて森の気配を運んでくれる。
そよ風とともに森を歩くこと数刻。
十分な量の獲物を得た私は拠点としている隠れ家に戻ってきた。
崖から身を投じてから三か月余り。
私は切り立った山肌に偶然見つけた洞窟を隠れ家にして生きてきた。
この洞窟は、私がこの森の中で唯一安心できる癒しスポット。
(ここを見つけていなかったら、私は早々に命を落としていたかもしれない)
見つけた当初はそこまで大きくない生き物が作ったのであろう、小さなこの体をさらに縮こまらせてようやく入れるくらいの浅いくぼみでしかなかった。
それが今や、入り口から入ってしばらく通路を進んだ先に、森の素材を使って作り出したベッドやテーブルを置いて余りあるほどの広さがある一室を有するまでになっている。
かつて住んでいたアパートの部屋は10畳程度と割と広めだったが、それよりも広いかもしれない。
もちろん安全面にも気を配っている。
入り口は出入りの時以外は元の崖にしか見えないように、土の魔法でふさいでしまっている。
ふさぐといっても、入り口を板程度の厚さでごまかすのとはわけが違う。
なんせ、入り口から部屋までの通路をすべて埋め立ててしまうのだ。
入り口から部屋までは少なくとも10メートルはある。
少し掘り進んだところで、部屋までたどり着くのは容易ではないはずだ。
崖から落ちて数日は木の根元に身を預けて寝ていたことを考えれば、十分に安全な場所といえるだろう。
獲物は隠れ家からしばらく離れた場所で加工する。
隠れ家の近くで加工しないのは、単にそのほうが隠れ家を発見されるリスクが低いだろうと思ったから。
たまに動物が近づいてくることがあるけれど、ここにいるときは風の魔法で気配には気を付けているから、今のところ危険な目にあったりということはない。
肉を持っていかれたことは何度かあった。
少し困ったのは、持って行ったのがシマウマのような模様のクマみたいな生き物だった時。
このクマが来始めた時は、安全第一で気配を察すると同時にすぐ逃げたのだけれど。
どうやら味を占めたらしく何度もやってくるようになったので、罠を仕掛けて成敗してやった。
お陰様で部屋の床はふかふか快適になった。
外での処理を終えるころには日が傾き始める。
隠れ家に戻ったら、夕食の準備をしてから体を鍛えるのに時間を使う。
鍛えるといっても武術の知識なんてものはないから、とにかく森の中を走り回って、戻ってきたら筋トレ。
日が沈む前には切り上げて隠れ家に引っ込む。
自作のテーブルとイスで夕食を済ませた後、これまた自作のカップを手にくつろぐ。
この部屋にあるものは何もかもが自作だ。
そのどれもが、自分にとって会心の出来と言える。
元々モノ作りが好きではあったけれど、家具一式のようなそれなりに大掛かりなものを作るのは初めてだった。
初めてにもかかわらず自信作と言えるものができたのは、ひとえに成長著しいこの体と、私に寄り添ってくれる精霊さんのお陰。
「ありがとう。いつも助かってるよ。これからもよろしくね」
私の周りをふよふよ漂う精霊たちに感謝を伝えれば、その淡い輝きを少し強めて、私を中心にくるくると回る。
それはまるで踊っているかのようで、きっと喜んでくれていると、そう思えた。
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崖から身を投じたあの日、斜面を転がり落ちた私は意識をなくしていた。
どのくらい気を失っていたのかもわからないけれど、目を覚ました時、私は落ちてきたままの状態だった。
斜面に転がり落ちた跡があったから。
運ばれるときにはめられた枷はどうやら落下の途中で壊れたらしく、手足は自由になっていた。
そして、何とか生きていることを自覚した後、私を襲ったのは猛烈な空腹感だった。
森の中になら、きっと何か食べられるものがあるだろう。
そう思った私は迷わず足を踏み出した。
行く先のあてなどあるわけもないが、とにかく食べ物を求めて歩いた。
するとほどなく、小さな赤い実を沢山つけた低木を見つけることができた。
本来なら、ちゃんと食べられるものなのか確かめるべきなのだろうが、我慢できなかった。
実を一つもぎ取ると、すぐに口に放り込んでかみつぶした。
その木の実は、とにかく酸っぱかった。
その酸っぱさすら、まともな食事を口にしてこなかったこの体には美味しいものだった。
小さい実の中はほとんどが種で、果肉は少なかったけれど、私は夢中になって食べた。
食べて食べて、気が付いたらその木に生っていた実を食べつくしてしまっていた。
一つは小さかったけれど、数を食べたからか、それともこの体の小ささゆえか、空腹感はすっかり落ち着いていた。
お腹が落ち着いたら、今度はのどが渇いてきた。
口の中も酸っぱくてたまらないし、早く水が欲しかったから、いつもよりすこし食い気味に精霊さんにお願いした。
「精霊さんっ、水をたくさん、ください!」
結果、頭上から風呂桶をひっくり返したような勢いで水が降ってきて、一瞬でびしょぬれになった。
(違う。そうじゃない)
思わずそんなことを思ってしまったのも仕方ないと思う。
改めて手のひらに水を出してもらってのどを潤し、一息ついたところで、辺りが暗くなってきていることに気づいた。
慌てて、どこか寝るのに適した場所を探そうと歩き出したが、暗くなった森の中、山歩きの知識も体力もない子供がまともに動けるわけもなく。
すぐに足元も見えなくなり、動けなくなってしまった。
久しぶりにお腹も満たされたせいか、眠気も強く感じ始めた私は、これ以上動き回るのをあきらめ、手探りでたどり着いた木の根元に蹲った。
「精霊さん、どうか、私を見守っていてください……」
すでに眠気が限界だった私は、半ば無意識にそうつぶやき、睡魔に身を任せた。
そうして、一日目の夜は過ぎていった。
第三話目、いかがでしたでしょうか。
回想が終わりましたら、いよいよ人里を目指す展開となります。
ご期待くださいませ。
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