護衛隊長ヴァイツ2
第二十二話です。
今回も別視点です。
それでは、どうぞ。
顔合わせの当日。
領兵たちの訓練にも使われる、広場の一角。
屋敷の使用人に連れられて、件の少女がやってきた。
(白色種の独特の容姿と整った顔立ちは目を引くな。それ以外は見たところ、普通の少女のようにしか見えんが)
だが、知らない人間を見ても警戒したり委縮したりせず、前を見据えてこちらに向かってくる。
(年の割に、肝は据わっているようだ)
その若干歳不相応な様子に私は興味を引かれつつ、観察を続ける。
少女が到着し、サリファスの主導で自己紹介の流れになる。
ここは今回の任務の責任者である私から名乗るのが筋だろう。
「では私から。私はお嬢様の護衛隊長を務めるヴァイツという。よろしく頼む」
私は簡潔に名乗ると、残りの四人にを促し、少女の観察を続ける。
私が名乗っているときもそうだったが、少女は名乗る者をじっと見据えている。
まるで、その者の何かを見通すかのように。
(注意深く相手を観察しているのか。益々歳の通りには見えないな)
これくらいの年の子供であれば、自分のなれない場所に連れてこられ、知らぬ者らを前にすれば、どんなに普段気が強い者であれ、少なからず落ち着かない様子になるものだ。
それが、この少女はそんな様子は一切見せないうえ、観察までしているとは。
まるで、こういった場にいることに慣れているかのようだ。
(いったい何があればこんな子供が育つのか……)
街にいる子供たちとは大きく異なるその姿に、思わずそんなことを思った。
そして、少女の落ち着いた簡潔な自己紹介が終わったところで、今回の人員で最も若い兵士が少女に対して文句を付け始めた。
その態度や言葉遣いは領兵として決して褒められたものではないが、黙っておく。
昨日、領主様とのお話の後、選出された兵たちに話をしに行った。
そして案の定、今回の任務に少女が加わると伝えれば、彼らは反発した。
彼らにも領兵としての誇りがある。
領主様からお嬢様の護衛に選ばれるということは、その働きが領主様に認められたということになる。
お嬢様の護衛として選出されたものはその栄誉に喜び、選出されなかったものは非常に悔しがった。
それなのに、お嬢様を救ったとはいえそれが本当かどうかもわからない。
実力のほども定かではない、街を無邪気に走り回っている子供たちと同じころの少女が護衛に参加するという。
領兵たちからすれば、許容できるはずもない。
反発して当然であった。
そして私はあえてそれを押さえつけるでもなく、せめて実力を見ることができればいいのだが、と零すにとどめた。
今回選出された者はみな、領兵たちの中でも優秀でその実力に自信を持っている者たちだ。
そしてその尊厳を軽視されることに黙っているほどおとなしい者たちでもない。
領兵にとって領主様の指示は絶対のものであるが、おそらく何かしらの行動を起こす。
その程度によっては私の立場として止めなければならないが、望む流れを引き寄せることはできるだろう。
それを、少女の見極めに使わせてもらうとしよう。
そしてその少女にも、彼らの不満を受け止めてるくらいはしてもらわねば、とてもではないが学園での護衛を任せることなどできはしない。
話に聞くところによれば、学園は物理的な危険はなくとも、やはり生徒同士の衝突はあるようだから。
若い兵が処女に食って掛かっているが、少女は特に何か反応する風でもなかった。
この事態を想定していたかのように、落ち着いて対応している。
対応といっても、ほぼ無視しているだけだが……。
(この光景では、どちらが子供でどちらが大人かわからんな)
それにしても、この少女、大人びているというには対応が大人のそれだ。
年相応であれば、大人がこんなふうに食って掛かってきたらそれに言い返すなりおびえて萎縮するなりしてもおかしくない。
それを平然と受け流しているなど、とても子供がすることとは思えない。
(これを頼もしいとみるか、怪しいとみるか)
現段階ではどちらとも言えないな。
だがそれはすぐにわかる事でもない。
(今はその実力のほどを見させてもらうとしよう)
若い兵が少女に無視されて段々と頭に血が上ってきているように見える。
あまり軽はずみな行動はしないだろうが、これ以上続いて万が一のことがあっては困る。
そう思い、手合わせでもさせてみようかと考えていたら、
「お話し中にすみませんサリファスさん。ぶしつけなお願いで申し訳ないのですが、彼らとぜひ手合わせをしてみたいので、どこか場所をお借りしてもよろしいでしょうか」
少女はそうサリファスに声をかけていた。
まさか少女の方からそんなことを言い出すとは思っておらず、驚きを隠せなかった。
その申し出をサリファスは快諾し、私の立ち合いの下、名乗りを上げた若い兵と少女で手合わせを行うことになった。
手合わせで余計なけがなどをされても困るから、使用できる武器は訓練で使用する木剣としたが、これらは大人の男向けに作られているものであり、普段から使い慣れている兵士の方に利がある。
それ故、少女がもしなにがしかの申し出をしてきたのならば、それに応じて認めようとは考えていた。
そんな考えに反して、少女は用意された木剣を興味深そうに試してみている。
その姿を見ていれば、剣の振り方は素人のそれであっても、素人にありがちな重さに振り回されたり、勢い余って自分に当ててしまったり、地面にたたきつけてしまったりということがない。
それはつまり、その剣を十分に扱えるだけの握力と膂力を備えているということに他ならない。
(益々訳が分からんな……これが白色種であるということなのだろうか)
白色種は能力が高いといわれてはいるが、実際にどの程度なのかは分かっていない。
それは世間においてはある種噂話のようなもので、信じる者もいれば信じない者もいる。
そもそもの数が少なく、確かめようにもその多くがどこかしらの傘下に収まってしまうため確かめようもない。
結局少女は特に武器に意見を言うことなく、二人が武器を選んだところで、声をかけて手合わせを開始した。
開幕は少女の一振りからだったが、
(速い)
開始直後は二人の間にはそれなりに距離があった。
それをその体には見合わぬ速度でもって詰めると、若い兵に切りかかった。
若い兵も驚いたようではあったが、即座に対応した。
(素早さはあるようだが、剣に力が載っていない。先の様子を見るに剣を握るのには慣れていないか、そもそも初めてか。いくら素早くともそ奴は倒せんだろうな)
この手合わせ、決着がつくまでそう時間はかからぬだろうと思う。
しかし、予想に反して少女と若い兵は一進一退の攻防を続けていた。
少女が若い兵に切りかかるが、その軌道の甘さ故、簡単に若い兵はそれをいなす。
お返しとばかりに若い兵が剣を返すが、少女はその身軽さでもって攻撃を躱す。
それが淡々と繰り返される。
(予想外に粘るが……。だが子供の体力、すぐにばてるだろう)
その時が立ち合いの終わりになる。
そう考えていれば、その攻防はむしろ激しさを増していく。
さらに、
(今のは、直前の……)
何と、少女は若い男が直前に取った手を真似し始めたのだ。
もちろんその動作は、彼が訓練の果てに身に着けた技術であり、一朝一夕でどうにかなるものではない。
実際、少女は再現に失敗しているようで、たびたび手が止まったり、ふらつきさえしている。
若い兵はそれを逃さずに狙うが、少女は辛くも回避し続ける。
そうしているうちに、少女の動作からはよどみが消えていく。
(若い兵との手合わせを、剣術の練習の場にしてしまっているというのか)
目の前の光景を表すならば、それ以外になかった。
若い兵もそのことに気づいたようで、腹立たしそうな表情をしてさらに攻勢を強めるも、少女は揺らぐ様子もなく合わせてくる。
その中に、動作の試行錯誤を含ませながら。
(これは、もはや手合わせなどではない)
優秀なはずの領兵が、年端もいかぬ少女に遊ばれている。
(この少女、いったい何者なのだ。何が目的だ?)
昨日の領主様との話し合いでその目的が旅をすることだとは聞いていたものの、そう思わざるを得ないかった。
手合わせは若い兵の大きな一振りで流れが止まる。
「どうでしょう?私の実力のほどは分かっていただけたと思いますが。認めていただけるなら、私はここで終わりでも構いません。お互い、余計に体力を消費できるほど暇ではないでしょう」
そのタイミングで、少女はそう言ってこちらに視線を投げてくる。
もはやその実力に疑いを持ってはいない。
私は頷き返した。
だが、実際に戦っていた若い兵は納得いかなかったのだろう。
手合わせのものとは思ない気迫で、再び少女に向かっていった。
その剣筋はもはやなりふり構っている様子ではない。
いくら少女の方が実力があろうと、こうなっては危険がある。
私が急いで介入しようとした。
しかし少女は瞬く間に若い兵との間を詰めると、次の瞬間には倒れた若い兵に剣を突き付けていた。
「そこまで!」
(本当に、この少女は一体……)
私は終了の声を上げつつ、少女の存在をどうとらえていいやら、頭を悩ませていた。
如何でしたでしょうか。
お楽しみいただけましたら、評価、ブックマークをお願いいたします。




