護衛隊長ヴァイツ
第二十一話です。
別視点で、ちょっとした説明が入ります。
昨日も評価、ブックマーク頂けておりまして、嬉しいです。有難うございます。
それでは、どうぞ。
※本文中に登場するライザはエリザベスの愛称です。
「領主様、ヴァイツでございます」
「入ってくれ」
領主様の返答を待ち、私は領主様の執務室に足を踏み入れた。
「お嬢様のエクストリィル往復の護衛に関しまして、お話があると伺いましたが」
近く、私が使えているフリウスの街の領主様の娘であるエリザベス様が、隣国エクストリィルにある魔法学園にご入学されるとのことで、私たち領兵の一部がその護衛につくこととなっている。
正確には入学のための試験を受けに行くのだが、その試験はあくまで魔法を扱う資質があるかどうかの検査の側面が強い。
お嬢様は生まれたばかりのころに同様の検査を受けているため、入学は確実視されている。
「ああ、実はな、今回の護衛の人員について、一名加えようと思っている。その者と護衛につく五名とで顔合わせをしたい。そのために他の人員に声をかけておいてほしい」
「お待ちください。まずはその者の詳細をお伝えいただかなければ、今回護衛隊長をお任せいただいた身として、判断いたしかねます」
出発のでもうそこまで日がないというのに、人員追加とは。
しかも顔合わせが必要ということは、領兵ではない外部のものということか?
「そうだな。その者の名はマーガレットという。お前も先日見たと思うが、ライザを救ってくれたハンターだ。彼女を道中の護衛に加え、さらにライザと共に魔法学園に通い、学園での護衛を依頼することとしたのだ」
私は領主様の言葉に耳を疑った。
ちょうど私は別件にて屋敷を離れていたため、その場には居合わせなかったが、そんな依頼をしていたとは。
お嬢様を救っていただいたとはいえ、得体のしれぬハンターの小娘だという。
「お言葉ですが領主様。私は賛成できません。お嬢様を救っていただいたのは確かでしょうが、他に何も実績もなく、今回の任に加えるほどに信用できるとは思えません」
ただでさえハンターなどごろつきの集まりであり、街の細かな困りごとの解決に役立っているとはいえ、いまいち信用しきれない部分がある。
「ましてや、学園内は安全に配慮され、護衛は不要とされています。むしろその娘がよからぬことを企めば、お嬢様が危険に晒されることになります」
近頃、街に白色種の娘が訪れたという報告があった。
人目を集めやすい白色種がこの街に何の用かと、その動向を探ってみれば、この街以前の動向はつかめず、この街でやっていることといえばハンターとして依頼をこなすか街をぶらつく。
少し深く調べようとすれば、たちまち尾行はまかれてしまい、それ以上のことがわからない。
それだけで何か企んでいると判断するのは早計だが、企んでいないとも言えないのだ。
「そうでなくとも、その娘は白色種。白色種を欲しがる家や組織は多く、その娘を狙った騒動にお嬢様が巻き込まれかねません」
さらに、白色種といえばその珍しさや能力の高さゆえに多くのところで確保したいと考えられている。
それは単純に優秀な人材を求めるところから、良い商品を求める違法な組織まで、枚挙にいとまがない。
そんな存在をお嬢様のそばに付けるなど、余計な騒ぎを招き寄せることになりかねない。
それは、結果的にお嬢様を余計な危険にさらすことになるのではないか。
「領主様、そのハンターを加えることが、本当にお嬢様のためになるのか、何卒ご再考をお願いしたく」
「ヴァイツ、お前の言うことは十分に理解している。サリファスと相談した時もそういった懸念は考えられた」
「それでは」
「だがな、これはライザが望んだことでもあるのだ」
「エリザベス様が?」
「ライザは先の事件で助け出されたときにマーガレット殿のことをいたく気に入ったようでな……。ライザが初めに望んだ事は、マーガレット殿をライザの専属護衛にするというものだったのだよ」
「それは!」
私はその内容に思わず身を乗り出した。
「ライザが言うには、捕まっていた場所で何人もの男を、さらにこの街に移動する途中で犯人らしい男三人を、ものともせず打ち倒してしまったそうだ。さらに男たちを拘束するのに魔法も用いたという。拘束した男たちは今確認に向かわせているが……」
我々領兵が目を光らせていた中で、お嬢様やほかの子供たちをさらって行ったことを考えれば、犯人どもはそれなりにずる賢く、中には手練れもいただろう。
それを白色種とはいえ、年端もいかぬ少女が犯人らを余裕で倒し、拘束したと。
しかも魔法まで扱うなどと……。
冗談もここまでくると笑えない。
「今の時点でそれだけの実力があるのなら、この先を見据えれば護衛としてこれ以上ない人材と言える。白色種であることも、我が家の庇護下においてしまえばある程度牽制となろう。褒美として我が家に迎えられれば、我が家にとって恩恵が大きいと考えた。何よりライザが強く望んだことであったからな、私はマーガレット殿にこの話を持ち掛けたのだよ」
「それで、その者はなんと」
私の問いに、領主様は愉快そうに口角を持ち上げた。
「あの者はな、この誘いを断りおった。私も予想外でな、あの時ばかりは表情に出てしまったよ。聞けば、旅がしたいからどこかに仕えるなどということは考えておらぬと。想定していた待遇を示してみても、揺らぎもせんかったな。普通であれば飛びついてもおかしくない条件だと思ったのだがな。いやはや、面白いものもいたものだよ」
そういって領主様はおかしくてたまらないというように笑っている。
私がここに仕え始めてもう長いが、これまで見てきた領主様が表情を崩すなどというところは見たことがなかった。
とはいえ、私がもしその場にいたならば、同じように表情を取り繕う余裕など無かっただろう。
この誘いを平民が断るなど、そのくらいあり得ないことだからだ。
「断られたことに、ライザも深く落ち込んでなあ。ならばライザを魔法学園に通わせる間だけ、仕えさせることが叶わぬなら依頼という形ではと、条件を変えたのだ。マーガレット殿は魔法を独学で使っているというから、学びの機会があれば逃さぬのではないかと思ってな。そうしたら、本人は抑えている風ではあったが、目の色が変わっていたな。そういうことであればと受けてくれることになった」
領主様はここで一度言葉を切ると、それまで笑みを浮かべていた顔を引き締めて続けた。
「それにな、マーガレット殿が言うには犯人の一人が持っていたという話だが……縛精の杖をもっていてな、それについて教えてほしいといってきた」
「なんですと!ならばなぜ護衛になどと!?縛精の杖の所有は重罪ですぞ!」
縛精の杖というのは、その名の通り、杖に埋め込まれた宝玉に精霊を縛り、その力を吸い上げて魔法を行使するもの。
隣国サニィサンにいた一人の研究者が、魔法の資質に関係なく万人が魔法を行使できるようにと造りだしたものだという。
当初はその汎用性が注目され、魔法使いの地位を懸念するものや魔法の素質を持つ者らの一部からは、精霊に対する冒とくだという声が上がったものの、おおむね世間には受け入れられた。
だがある程度出回ったところで、ある場所にて事件が起きた。
その縛精の杖が多用された場所で、ある時を境に魔法が一切使えなくなったのだ。
そして調査に向かった魔法の資質に優れたものは、精霊の気配がなくなっていると報告した。
それは世間に衝撃を与えた。
資質は必要だが、人間が作業するよりも効率よく、場所を問わずどこでも使うことのできる力。
それが魔法だった。
故に魔法使いはこれまで重用され、力を得てきた。
だが、もし魔法がこの世界から失われたら、魔法使いはただの人に成り下がる。
そして何より、これまで姿は見えずとも人間の良き隣人としてあるとされてきた精霊がいなくなるということに、魔法使いだけではない多くの人々が声を上げた。
その流れは強く、瞬く間に縛精の杖は駆逐され、その研究や製造にかかわっていた者たちは次々に粛清されていった。
縛精の杖を作り出した者たちは、当初の受け入れられ方とは一変し、もはや反社会的な勢力として認知されるようになった。
この流れで縛精の杖はこの世から姿を消すように思われたが、最初に作り出した研究者が刑罰の執行直前に脱走し、行方をくらませた。
その後、縛精の杖はちらほらとみられることから、いまだその研究者は杖を作り出していると考えられ、各国の長たちはその者の追跡に力を入れつつも、見つからずにいた。
その杖を持ち、それが何かを詳しくなくとも理解していたようだ。
本来ならば即座に捕縛し、入手経路を吐かせるとことである。
「先もいったが、マーガレット殿は犯人が持っていたといっており、それをライザも認めている。その時同行していた、被害にあった子供も同様だ。それにな、彼女は杖に閉じ込められた精霊を助けたいのだと言ってきた。その時の目つきと声音に込められた怒りと気迫には、私も思わず息を呑んだ」
「それは……」
「精霊の気配を感じ取れるのは、魔法を扱う素質が特に高いものだけだ。精霊を身近に感じられるかあであろう、そういった者たちは特に清廉な性格をしたものが多く、精霊に対する愛着が強い。そして精霊を害する者に敏感だ。彼女もその例にもれないのだろう。故に、私はマーガレット殿を信ずるに値すると判断した」
領主様が語られた内容はどれも信じられないような事柄ばかりであった。
だがもしそれらが本当であるならば、遠ざけるよりむしろ取り込むほうが良い人材のように思える。
だがそれでも、私自身が信用できないものをお嬢様のそばに置きたくはない。
もしお嬢様の身に何かあれば。
そう思うと、素直に了承することができなかった。
そうして悩む私に、領主様は満足そうに頷いた。
「ヴァイツ、そう難しい顔をしなくてもよい。そもそもお前がこの話を聞いてすぐに納得するとは思っていない。故にお前に頼みたいことがある」
「は、何でございましょうか」
「この護衛の任務の期間、マーガレット殿を見極めよ。その実力が本物であるかどうか。その人となり、思想に至るまで、可能な限り探れ。その結果いかんによっては、魔法学園の滞在をお前の判断で取り消してよい。そして万が一、あの者が我が家、もしくはこの国に仇為す存在であるならば、即刻切り捨てることを許可する」
そう、領主様は鋭い視線を私に向けながらいった。
「これはライザのことを、そして我が家のことを第一に考えてくれているお前にしか頼めぬ。もちろん、このことは他言無用だ。ほかの人員にも話してはならぬ。隠し事をする心労をかけるが、お前ならやってくれると信じている。任せてよいか?」
「は、ご期待に沿えるよう尽力いたします」
領主様の命は私の望むところであった。
その命に従い、私はマーガレットという者を納得するまで見極めよう。
「頼むぞ。早速だが、まずは顔合わせだ。もちろんこの時から見極めに使えそうなことは惜しまずにしろ。必要なことがあれば言うとよい」
「かしこまりました」
そうして訪れた顔合わせの日。
(まさか、ここまでとは)
私は目の前で繰り広げられる光景に、驚きを表情に出さないようにすることで精一杯だった。
如何でしたでしょうか。
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