手合わせ
第二十話です。
お待たせいたしました。
四連休が始まる!と、調子に乗ってビールを飲んでいたら案の定寝落ちしてしまい……。
お酒、おいしいですよね。
では、どうぞ。
「では、どなたからやりますか?」
急な話の流れに呆気に取られていた様子の五人だったが、さすが精鋭、すぐに立ち直った。
「お前、ずいぶんと調子に乗ってるみたいだな……。だがちょうどいい。ここでお前に現実ってもんを徹底的に叩き込んでやる。ヴァイツ隊長、俺がやります。いいですよね?」
「ああ、構わん。俺が判定役をやろう」
そして真っ先に声を上げたのは、やはり私に絡んできていた一番若い男だった。
「武器は訓練で使用する木剣を使ってもらう。決着はどちらかが降参するか、こちらが戦闘不能と判断するまでだ。だが任務の前だ、故意に相手に故障を与える攻撃はしないように。危険だと判断した場合は介入する。二人とも良いな」
「はい。構いません」
「分かりました。隊長」
判定役に名乗り出たヴァイツさんがこの手合わせのルールを確認してきた。
そしてこの若い男、ヴァイツさんにはちゃんとした言葉遣いをしている。
下に見た相手には強気に出ちゃうタイプなのだろうか。
用意された木剣を手に取ってみれば、訓練用ということもあってか、しっかりした重量感がある。
私が見た目通りの子供だったなら、まずまともに振れなさそうだ。
隣で同じように木剣を選ぶ若い男の様子を見れば、手にした木剣を軽々と振り回している。
素人目に見ても、しっかり使いこなせているように見える動きだ。
領兵の実力者として選ばれるだけのことはあるということか。
私は一振りの木剣を選ぶと、両手でしっかりと握り、何度か振ってみる。
森でしっかりと鍛えた体は、剣という物の重さに振り回されることなく、私の思った通りの動きをしてくれる。
これくらいならば、片手で扱うこともできそうだ。
(そういえば、まともに剣を使うのは初めてだな)
森にいたときは狩りは弓や魔法を主に使っていたし、刃物も短剣や解体用のナイフくらいしか使っていなかった。
地球にいた頃には剣を握る機会など無かったし、使おうと思うこともなかった。
普通に暮らしている人はまず考えない事だろう。
そんなわけで剣についてはずぶの素人だが、この手合わせでは特に問題ないだろう。
剣以外は使っちゃいけないなんて言われてない。
もし剣だけといわれても、勝つ自信はある。
それだけの能力が、この体にはある。
先ほどから男の身のこなしや素振りの様子を見た印象では、森にいたころ相手をしていた魔物たちほどのものではないと感じていた。
森にいた頃、猿型の魔物にかなり苦戦させられたのを思い出す。
奴ら、やたらすばしっこいうえに力も強く、さらに頭もいいようで、人間のように特別な道具を使うことはないものの、環境を最大限活かした立ち回りには感動すら覚えたし、学ぶことも多かった。
それはさておき、目の前の若い男には、森で相対した魔物たち以上の脅威は感じない。
私は別に強者のオーラだとかそういうものは分からないから、直感頼りになってしまう。
森にいた頃は魔法のお陰で大体私の方が先に相手に気づくことが多かったから、気づかれないように観察してみて、これはダメだと感じたものには手を出さず避けるようにしていた。
その後、体づくりをしてから再度挑んでみたものもいたが、どれも当時手を出していたらとても敵わない危険なものばかりだった。
そういった森で暮らしていた頃の経験上、今の私が感じる直感は侮れないということは理解しているけれど、まずはしっかりと相手の力を知る必要がある。
今回だけ戦ってもう二度と関わる事がないのならば開始とともに魔法でも打ち込めば終わらせられそうだが、それではダメだ。
これから任務を共にするのだから、相手を知り、自分の力量を知ってもらう必要がある。
だからといって、全部をさらけ出すつもりはないけれど。
とりあえずは魔法なしでどれだけやれるかを試してみようと思う。
そうして、武器を決めた私たちはヴァイツさんに促され、距離をとって向かい合った。
向き合った男は何を想像しているのか、にやにやと笑みを浮かべている。
彼は私を侮っているようだから、きっとどのように甚振るかでも考えているのだろうか。
傍からみればこの状況、見た目七歳の幼女ににやにやと若干気持ち悪い笑みを浮かべる若い男、という、地球でなくとも真っ先に通報されそうな絵面なのだが。
「先ほど言ったことに注して始めよ」
くだらないことを考えていると、ヴァイツさんから声がかけられた。
合図とともに始めるのではないらしい。
「先手は譲ってやる。来いよ」
男は剣を構えることなく立ったまま言ってくる。
「では、お言葉に甘えて」
まずは正面。
全力ではないものの、それなりの速度で距離を詰めて横に剣を振るう。
男は長身ではないものの、百七十センチメートルほどの体躯だ。
この身長差だと私は男の足元を狙っての戦いになる。
上半身を狙うならば跳躍する必要があるが、普通それは隙にもなる。
男は、私の速度が予想外だったのか軽く目を張るも、すぐに対応してきた。
男の膝関節を狙って振るった私の剣は、男の剣によって弾かれる。
弾かれた衝撃のまま、後ろに下がれば今度は男が踏み込んでくる。
私はそれを躱し、再び切り込む。
そこからはその流れの応酬になった。
初めこそ男は手を抜いていたようだが、やり取りを続けるにつれてその攻勢は激しくなっていった。
それに対して、私は彼の攻撃を躱し、お返しに一手を差し込むことを繰り返す。
剣術など知らない私だけれど、私の目は激しさを増す男の動きをも十全にとらえ、体はその対処にしっかりと反応できている。
そしてじっくり男の動きを観察できていた私は、剣を振るうことがだんだん楽しくなってきていた。
(ここは……こう?いや違う、こうかな?それでこう……。私にはこうしたほうが動きやすいな)
男の動きを模倣しながら、自分の体躯に合わせて動きやすいように、無理のないように調整していく。
私が模倣にうまくいかずもたつけば、男は逃さずそこを突いて来る。
模倣に成功して男を攻めれば、男はそれの対応した動きでさばいて来る。
私はさらにそれを真似て、次の動きへと活かしていく。
男の実力は確かなもののようだ。
模倣した動きを自身の体躯に合わせて調整すれば、体が無駄なく動いてくれるのがわかる。
それは元にした男の動きが無駄なく行われていることを示す。
剣術にはそこまで興味がなかったが、図らずしていいお手本を得た私は楽しくて高ぶる気分のまま、男の持つ技を吸収していった。
その応酬は男の繰り出した大振りな一撃を私が大きく後退して躱したところで終わった。
「はぁっ……なんなんだお前、なんでこれだけやって平然としていやがる……!」
男は乱れた呼吸を整えながら、私に鋭い視線を送ってくる。
そこに始める前のような侮りの色は無かった。
だが代わりに、思うようにいかなかった苛立ちかが現れているようにも見える。
私も疲労を感じるほどではないにしても、上がった息を落ち着けながら声をかけた。
「どうでしょう?私の実力のほどは分かっていただけたと思いますが。認めていただけるなら、私はここで終わりでも構いません。お互い、余計に体力を消費できるほど暇ではないでしょう」
そういってヴァイツさんの方を見れば、軽くうなづいてくれる。
だが、
「ダメだ。認めてほしければ俺を倒して見せろ。お前は多少動けるようだが、これまでは辛うじて互角だっただけだ。こっからは本気でいく。さすがに持たないだろうが、これを凌げたら考えてやるよ!」
そういって男は先ほどまでよりもさらに激しい攻撃を繰り出してきた。
それを私は冷静に捌いていく。
(もう、参考に出来そうな動きはなさそう、か)
男は感情的になっているのか、攻撃は激しくなっているものの、動きの複雑さはなくなってしまっている。
これでは得るものも得られない。
であれば、これ以上続ける意味も薄い。
(終わらせる)
かなりの勢いをもって振り下ろされたに合わせ、私は自分の剣をその上に重ねるように置き、押さえつける。
男はそれを力づくで退けようとするが、その前に私は片手を男の手首に添え、呟く。
「お願い」
「がっ!?」
直後、電気特有のはじける音とともに男の体が硬直する。
その隙を逃さず、私は男のバランスを崩して引き倒し、その首元に木剣を添えた。
「私の勝ちです」
驚きに目を見開く男にそう囁く。
背後ではヴァイツさんが、そこまで、と手合わせ終了の合図を出していた。
如何でしたでしょうか。
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お酒飲んで寝落ちには注意します。はい。




