褒美
遅くなってしまいましたが、第十六話です。
本日二話目の投稿となります。まだ第十五話を読まれていない方は、前へリンクから前話にどうぞ。
明日の投稿は午前6時ではなく、夜ごろを予定しています。
明後日以降は午前6時に戻す予定です。
ご承知おきください。
それでは、どうぞ。
それから私と女の子達は、到着がすっかり遅くなってしまったものの、無事にフリウスの街にたどり着くことができた。
衛兵さんたちは、遅くなっても戻ってこない私を心配してくれていたらしい。
近づいたときは誰かと問われたが、私だとわかると、途端に表情を緩めていた。
しかし、私に続く人影に気づくと途端に表情を引き締め、そして領主の娘さんに気づくと、その目を大きく見張り、蜘蛛の子を散らしたようにあわただしくなった。
その後、衛兵さんたちに連れられて、家に帰りたがる小さい二人をなだめつつ、私を含めた六人は領主の屋敷に向かった。
屋敷の前につくと、知らせを受けていたのであろう領主様と思しき男性が待っていて、娘さんがあいさつしたと同時に抱きしめてその喜びをあらわにしていた。
私より大きい子と小さい二人の両親も領主の屋敷へと呼び出されたようで、屋敷の一室に通された私たちのもとに、二組の親が駆け込んできた。
それぞれ、自分の子供たちを抱きしめて、再開を泣いて喜んでいる。
胸温まるその光景を見られただけでも、助け出した甲斐があったというものだ。
だが、猫耳の子の親はいつまでも現れることはなく。
猫耳の子も、抱き合う親子を羨ましげに眺めるだけで、親を待つ子供のようにソワソワとした様子を見せることはなかった。
そして、親が迎えに来た子供たちは別室で聞き取りを受けた後に家に帰り、私と残った猫耳の子は領主様の下に呼び出された。
「此度は娘を助け出してくれたこと、深く礼を言う。有難う」
そう言って領主夫妻と娘さんは深く頭を下げた。
「その礼に、私は、マーガレットといったか、そなたに褒美を授けたいと思う。聴けば、そなたはサリファスと知り合いのようだな。なんでもその年ですでに旅をしているとか」
「はい。その通りです」
褒美か。
少し上から目線に感じなくもないが、貴族とはそういう者なのだろうと受け入れておく。
それよりも、褒美の内容が気になった。
金は助かるが、あれは嵩張るから悩みどころだ。
「そうか。だが、その身で旅というのも危険が多かろう。そこでだ、私はそなたを娘の騎士として迎えることで褒美の代わりとしたいと思う。もちろん、娘を守ってもらうことになるのだから、旅とは別種の危険があろう。だが、娘の騎士となるならば屋敷に部屋を用意する。もちろん給金も出す。旅の下の生活よりは過ごしやすくなろう」
私を娘さんの護衛にしたいということか。
ちらと娘さんのほうを見れば、きらきらした目でこちらを見ている。
きっと、これが私のためになると思って、領主様に言ったのだろう。
私を自分の騎士に取り立ててほしいと。
それだけではよそ者を招き入れるにはずいぶん脇が甘いようにも思えるけれど、それはこの領主の気質なのか、はたまた誰かの差し金か。
サリファスさんがなんだか意味ありげな視線を向けてきているし、きっとそういうことなのだろう。
「若くして賊どもから子供たちを救い出したその実力、実に見事なものだ。その力、わが娘のために振るってはくれぬだろうか。娘も是非にといっておるし、いかがかな?」
領主様も真剣な様子だ。
きっと、この世界で貴族の騎士になれるというのは相当の名誉なのだろう。
でなければ、娘さんが言うお礼には挙がらなかったと思う。
あれだけきらきらした目を見れば分かろうものだ。
このあたりでは有能だといわれるらしい白色種を取り込みたい意志もあるのだろうが、住まいも用意されて給金も出るとは、かなりの好待遇のように思える。
しかし、申し訳ないが、それしきのことで私の決意は揺るぎはしないのだ。
「ありがたいお申し出、身に余る光栄にございます。ですが、断らせていただきます」
領主様の目を見据えてはっきりと告げた。
私の言葉で、空気が凍り付いたようにも思う。
まさか断られるとは思っていなかったのだろう。
領主一家の顔が漏れなく面白い顔になっている。
隣にいた猫耳の子も、目を真ん丸にしてこちらを見ている。
驚きを隠せないその表情、とても可愛い。
……サリファスさん、あなたもですか。
「……すまないが、その理由を聞いてもいいかね?」
咳払いと主に再起動した領主様が訪ねてくる。
「私は旅をすることを目的としております。ゆえに一か所に留まり続けるわけにはいかないのです」
この説明で分かってもらえるだろうか。
この領主様は話が通じそうな感じがしたから、正直に言ってはみたが。
「それは、どうしてもせねばならぬ旅なのか」
「はい。この世のすべてを見るまでは」
「そうか。わかった。であるならば引き留めるわけにもいくまい。何か望むものはあるか。褒美として与えられるものならば、できる限り用意しよう」
そう言って領主様は割とあっさりと引いてくれた。
話の分かる人でよかったと、そう思っておこう。
娘さんはそんなにがっかりした顔をしないでくれ。
善意を蹴ってしまったのは申し訳ないが、余計に心ぐるしくなる。
「では、一つお教え願いたいことがあります」
「うむ、遠慮はいらん。言ってみろ」
領主様の問いに、私はあのことについて聞いてみることにした。
「この杖について、何かご存じのことがあれば教えていただけませんでしょうか」
そう。
精霊が閉じ込められていた、あの杖である。
「そなた……それをどこで?寄りにもよってそなたがとは思いたくはないが、答えの如何によっては考えを改めなければならん」
何だ。
これはそんなにまずいものなのか。
そして私は何かあらぬ疑いをかけられていないか?
「待ってください。これはお嬢様方をお助けしたときに戦った相手が持っていたものです。私はこれが何なのかを知りたいだけです」
「それは本当か?適当を言って逃れようとしているのではあるまいな?」
「本当です。これがそのように疑いをかけられるような代物であると知っていたなら、お見せして教えを乞うようなことはしなかったでしょう」
「だがな……」
これはまずい。
何か納得できることを言えればいいのだが、やってないことを証明するのは無理だ。
「お父様。マーガレット様がおっしゃっていることは本当です」
「何?」
どう答えたものかと悩んでいたら、思わぬところから援護が入った。
領主の娘さんだ。
「私、マーガレット様が戦ってらっしゃる所を見ていたのです。その杖は確かに、マーガレット様が相手されていた男が持っていたものに間違いありません」
「あたしもみました。マーガレット様が言っていることに間違いはない……です」
なんと、猫耳の子までもかばってくれた。
というか、あなたたち見てたのか。
隠れてろって言ったよね、私。
二人の方を見てみれば、ふいっと目をそらされた。
自覚あるのか。
見つからなかったからいいけど。
「そうか……ならば信じよう」
二人の言葉を受けて、領主様は納得してくれたらしい。
助かった。
「して、そなたはそれの何が知りたいのだね」
納得してくれたとはいえ、領主様の雰囲気はかたい。
できれば答えたくないというのを感じるほどに。
ならばこちらも最大の手を切るとしよう。
「私は、この杖に取り付けられた宝石、この中に閉じ込められた精霊を助けたい。その方法を、知りたく存じます」
「なに!?」
「なぜそれを!?」
私の言葉に、領主様とサリファスさんが同時に驚きの声を上げた。
この杖を見た途端に嫌悪感を示していたこと。
この杖に嫌悪感を覚えそうなことと言ったら精霊さんが閉じ込められていることしかない。
そう思ってズバリ言ってみたが、良い反応が得られた。
「それを知って、どうするつもりだ」
「先ほども申しました通り、私は精霊を助けたいだけでございます。他意はありません」
領主様は私の答えを聞いたきり、考えこんでしまった。
おおかた、私が信用に値するかというところだろうか。
騎士の剣ではかなり積極的に歓迎をされていたことの差を考えると、この杖はどうやらかなり重要な案件であるようだ。
だが、私は無理にこの場で聞こうとも思っていなかった。
必要なら実績を積んで信用を得てから出直すし、他の街に行って聞いて回ってもいいのだ。
流石に聞く相手やタイミングは慎重に選ぶけれど。
そう思っていれば、またもや援護射撃が飛んだ。
「領主様。わたくしはお話してもよいかと存じます。お嬢様をお救い頂いた方でもありますし、わたくし個人といたしましても、信用のおける方でございます。先の件と併せてお話しし、依頼してもよろしいのではないかと」
何故か知らないがサリファスさんは私を高く買ってくれているらしい。
なんでだろうか。
助かるからいいけれど。
「ふむ。確かにそなたの言うことにも理があるな。分かった。マーガレット殿、そなたの願いを聞こう。だが話すのは私ではない。そしてその前に、そなたに依頼したいことがある」
「はい、私にできることであれば」
ここで依頼をしてくるということは、杖に関わる何かなのだろうか。
それに話してくれるのは領主様ではないと。
そうすると、その話してくれる誰かに関する依頼、ということになるのだろうか。
「して、その依頼に関わる事だが……。マーガレット殿。そなたは魔法を使うそうだが、それは誰かに教えを乞うたのかね?」
「いえ、私が使う魔法はすべて独学のものです」
「そうか、ならばこの依頼はそなたの為にもなろう。では依頼内容を言おう。そなたに依頼したいのは、これから三年間、わが娘エリザベスとともに、隣国サニィサンの首都エクストリィルにある魔法学園に入学し、エリザベスの護衛を務めるというものだ」
魔法はあまり一般的ではないようだが、学園のような専門機関が存在するとは。
魔法は限られた人間しか使えないものなのだろうか。
既にトラブルのにおいがする。
「その依頼と、杖の話とでいったいどのような繋がりがあるのでしょうか」
「それを話すのは、この依頼を受けるか決めてからだ。依頼に当たってだが、依頼自体の報酬とは別に、護衛にかかる費用はこちらで負担しよう。学園でかかるものについても同様だ。そなたはエリザベスとともに学び、エリザベスにかかる危険を徹底的に排除してくれればそれでよい。どうかな?」
私にとっては願ってもない話ではある。
先ほどはこの世界の一般的な魔法がどのようなものか図り損ねたし、魔法について詳しく知りたいとも思っていた。
それが専門機関で学べるならばこれ以上のことはない。
三年という期間も、足場固めとしてであれば許容範囲だろう。
「かしこまりました。その依頼お受けいたします」
「うむ、よろしく頼む。細かいところについては、後ほどサリファスと話してくれ。では約束通り、その杖について話せる人物を紹介しよう」
さて、なんとなく想像はついてきたが、誰の名前が出るだろうか。
「スカーレット・ハイライン。エクストリィル魔法学園の学園長だ」
第十六話、いかがでしたでしょうか。
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