VS魔法使い
第十五話です。
昨日コメントした通り、今日はもう一話上げます。
時間的に遅くなってしまうかもしれませんが、ご容赦ください。
それでは、どうぞ。
男たちの気配は森を出てすぐのところにあった。
男達はその場から動かず、何やら指示を飛ばしているらしい。
何か通信機のようなものがあるのだろうか。
街の中では少なくとも見かけなかったし、街の人の暮らしの様子を見ても、電気が普及していそうな印象は受けなかった。
魔法のアイテムか何かだろうか。
こういう時、遠くの映像が見えないのは少し不便に感じるが……。
今できないことを言っていても仕方ない。
(落ち着いたら光魔法のようなものが使えないか、調べてみよう)
まずはこの状況を切り抜けるのが先。
ここから街まではまだ数時間は歩かなければならない。
今の時間は、そろそろ夕方。
既に日は傾き始めている。
このまま男たちを迂回して森の中を進み、離れた所で森を出てもいい。
しかしこれは、女の子達の体力的にかなり厳しい。
いくら魔法への興奮で疲れをごまかしてきたとはいえ、いい加減音をあげてもおかしくない。
むしろここまでよく持ったと感心してしまうほどだ。
それに、もし追手にもっと人数がいた場合、いや、先程の口ぶりでは確実にいるだろうが、見つかってしまったら挟み撃ちや包囲の危険がある。
そうなれば、女の子達を連れて逃げるのが一気に困難になってしまう。
ならば、あえてここを動かず、追手が近づいてきたら見つからない最低限の移動でかわし、追手が諦めるのを待ってもいい。
この方法なら、最悪夜を越えるかもしれないが、ある程度確実に抜けられるだろう。
だが、それは完全に沈黙を保ち、見つかるかもしれない重圧に耐え抜けられればの話だ。
正直、すでに食べものが残り少ない。
お腹が空けば不安にもなるし、夜暗くなればその不安と恐怖もある。
そこに、本当に帰れるのかという不安も出てくるはず。
今は私を信じて大人しくついて来てくれているが、それをあてにはできない。
小さな子二人はおそらく耐えられないと思った方がいいだろう。
それなら。
(私が囮になる。私を狙っていたって話だし、私が出ていけば確実に気を引ける。私一人に対してすぐに応援を呼びはしないだろうし、されそうになってもその前に倒せば問題ない)
この先の三人を倒したら、そのまま街道を進んで逃げる。
おそらく追手の連中は森の中を探すのに必死だろうから、逆に見つかりにくいかもしれない。
もし街道を待ち構えていたとしても、同じように予め捕捉して私が一人で各個撃破すれば良い。
街道なら、この道を行けば街に着くと信じられるだろうし、小さい子二人なら私が抱えて走ってもいい。
この体ならそれくらいは出来る。
女の子達に走り倒しは無理だろうから、暗くなったら岩陰に隠れるなりして休み休み進むこともできる。
街道に灯りはないから隠れることもできるし、風魔法での警戒もしやすい。
足を止めて隠れたりするにしても、街道としてしっかり街が見えるのと、森の中とでは、持てる希望も大きく違うだろう。
今はとにかく、少しでも早く街に辿り着くこと。
それが最優先だ。
私はそう結論付け、一度足を止めて女の子達に追手がいることと、追手を躱せば街までは街道を進むだけだとできるだけ落ち着いて伝えた。
「それで、追手はどうやって躱すのですか?」
領主の娘さんは、私の話を聞き終えるとそう尋ねてきた。
「私があいつらを倒す」
私は簡潔に答えた。
「何を言っているんですか!?もし倒せなくて、あなたが捕まってしまったらどうするんですか!」
私の答えに、領主の子は目を見張り、小声ながらもつようく反対してきた。
その上、
「ならば私が囮になります。男たちは私が引き付けますから、その間に皆さんは逃げてください」
などといい始めた。
とてもいい子なのは分かるのだが、それは別のところで活かして欲しい。
少なくとも今ではない。
「大丈夫、みんなも見たでしょ。遺跡で男たちを捕まえたの私だから。私、こう見えて強いんだから」
皆を安心させられるように、努めて明るく言う。
「でも……」
領主の娘さんは尚も不満げな様子だ。
けれど、ここは納得してもらうしかない。
「大丈夫。私を信じて」
私はその両肩をつかんで、まっすぐにその目を見つめ、言い聞かせるように言った。
あ、この子の瞳、空の色みたいな明るい青。
とても綺麗。
長くきれいな金髪と相まってとても可憐だ。
いけない。思わず見入ってしまった。
我に返って改めて見てみれば、領主の娘さんはなぜか顔を真っ赤にして、
「……はい」
蚊の鳴くような声でそう答え、俯いてしまった。
(……強く言いすぎちゃったかな)
領主の娘さんの様子は気になるが、とりあえずこれで皆には納得してもらえたはず。
私は森の浅いところに土魔法で溝を作り、私が戻ってくるまでここで隠れているように言って、森の外へと足を向けた。
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「ふう……ようやく出られた」
森の外へ出た私は、わざと大きめの声でいった。
私が出た場所は、追手の三人から少し離れた場所。
三人の様子を見れば、突然森から出てきた私に驚いているよう。
私を目的の白色種と認めると笑みを浮かべて近づいてきた。
「よう嬢ちゃん。森から出てきたってことは依頼帰りかい?」
ハンター風な格好をした男が二人に、ローブを纏う男が一人。
そのうちのハンター風な格好の男の一人が話しかけてきた。
「はい。ちょうど以来の採集物が集まったのですが、森の中で迷ってしまって。だんだん暗くなってくるし怖くて……。何とか真っ暗になる前に出られてよかったです」
私は不安げな様子を装いながら、男たちが仕掛けてくるのを待つ。
脈絡もなくこちらから仕掛けてしまっては不審がられるだろうし、彼らの勘が良ければ女の子を連れだしたのが私だと気づきこそしなくても、疑われてしまうかもしれない。
「そうだよな、夜の森は危ないからな。もうすぐここらも暗くなる。俺たちはちょうどフリウスから出てきたところでな、ここの近くに俺たちがよく使う野営に向いた場所があるんだが、嬢ちゃんもこないか?暗くなる中を焦って移動するより、明日明るくなってからのほうが良いぞ」
案の定、男は私を誘ってきた。
野営地に向いた場所というのはこいつらの狩場だろうか。
それとも只嘘をついているだけか。
どちらにせよそんなところにみすみすついていく選択肢はない。
もう一人のハンターの後ろに隠れるようにして、ローブの男が仲間に連絡しているのが丸聞こえだ。
なになに?目標の白色種を見つけたから確保する。ほかのメンバーは引き続き捜索を続けろと。
舐められたものだ。
まあ、私の想像していた通りに動いてくれて助かるけれども。
「お気遣いありがとうございます。でも、私は街に帰ろうと思います。急げばまだ間に合うと思うので。それでは、皆さんもお気をつけて」
そう告げて私が立ち去ろうとすれば、男は私の行く先をふさぐように立ちはだかってきた。
「あの、何ですか?」
「嬢ちゃん、人の好意は無下にするもんじゃないぜ?さ、俺たちと一緒に安全なtころに行こうか」
そう言って、男は私の腕をつかんできた。
「私は大丈夫ですから!離してください!」
「良いから大人しく来ればいいんだよ!おい、お前も手伝え」
男は私を押さえつけようとするが、私はそれを身をよじったり、引いたりして上手くかわす。
男は焦れたように、残りの二人の方に声をかけた。
「女の子供に手こずってんなよ」
「うるせえ、こいつ意外と力が強くてな。ああクソ!大人しくしろ!」
「いや!離して!」
私が男に押さえつけられまいと暴れていると、もう一人のハンター風な男が、苦戦している男をからかいながら近づいてきた。
「はいはい、大人しくしてね。じゃないと痛い目にあうぞ?」
そう言って二人目の男が伸ばしてきた手が、私に触れた。
(……今!)
「お願い!」
それと同時に、私は用意していた雷魔法を発動した。
「「あがっ!?」」
直後、私の体は一瞬の間雷を纏い、静電気の音を大きくしたような音とともに、私に触れていた男二人は弾かれるように吹き飛び、地面に転がった。
転がった二人は時折体をびくりとはねさせ、起き上がってくる様子はない。
「……なんだ今のは」
一人残ったローブの男のほうを見れば唖然とした表情をしていた。
どうやら今起きたことが理解できなかったらしい。
しかし、割と早く立ち直ったようだ。
「奴らがやられた以上、できるだけ傷つけずにとは言ってられんな」
ローブの男は一人でつぶやくと、こちらを向いた。
そして、ローブの懐から二十センチメートル程度の棒状の何かを取り出した。
その棒状のものはおそらく木でできていて、中ほどには淡く輝きを放つ緑色の宝石が埋め込まれている。
魔法の杖か何かだろうか。
(……?精霊さんの気配?)
私はその杖の宝石から、かすかに精霊さんの気配のようなものを感じた。
が、男がしゃべりだしたことで深くその感覚を追うことはできなかった。
「おい、白色種の娘よ。大人しく我の言うことに従うのなら我は手を出さないでおいてやる。お前も無駄にけがはしたくないだろう。だが、もし従わないならば」
男はセリフの途中で言葉を切ると、大仰なしぐさとともに杖を構えた。
「我の魔法で痛めつけてから連れていくことになる。さあ、どうする?」
男は自分が負けるとは考えていないのか、にやにやとした表情のまま私を見ている。
一方で、私はこの世界に来て初めて出会った魔法使いの存在に、少し興奮していた。
この世界の魔法はどの程度のものなのか。
私は複数の属性を扱えているが、他の人はどうか。
呪文や魔法陣といったものが存在するのか。
程度によっては勉強したり、扱い方を考えなければならないだろう。
それを知れるいい機会だと、私は思っていた。
だから、抵抗の意思表示に、私は腰のナイフをゆっくりと抜いた。
「ふむ。あくまで従わぬか。ならばよい。風の精霊よ、我が命に従いて、」
男は私の様子を認めると、杖をかざして呪文を唱え始めた。
が、
「っ!?ダメ!!」
「風の刃をもって敵をぁがっ!?」
急接近した私による雷魔法を受け、魔法を放つ間もなく崩れ落ちた。
私が用いたのは地球のスタンガンをイメージした雷魔法。
森を女の子たちを連れて歩いているときに、敵の無効化の方法を考えていたら、思いついた使い方だ。
これなら、森で使っていた雷で体を無理やり動かすよりも、格段に体への負担が少ないし、触れれば衝撃を与えられるので非常に使い勝手がいい。
おそらく今後も重宝することになるだろうと思う。
が、今の私はそれを考えるどころではなかった。
慌てて魔法使いの取り落とした杖を拾い上げ、埋め込まれた宝石を確認する。
宝石の輝きはさっき見た時よりも弱っていたが、消えてはいなかった。
私はそれを確かめ、胸をなでおろした。
男が呪文を唱えた瞬間。
私には確かに、精霊さんが上げたとしか考えられない、悲鳴のような、苦しみの叫びのような、そんな声が聞こえた。
それと同時に、さっき感じた精霊さんの気配が薄まっていくのも感じられた。
その出来事に思わず、呪文を止めさせたい一心で飛び出してしまった。
「この宝石に精霊さんがとじこめられているのかな」
男が呪文を唱えると同時に、精霊さんの気配が薄れ、精霊さんが悲鳴を上げる。
どう考えても、宝石に精霊さんを閉じ込め、その力を吸い上げているようにしか思えなかった。
「こんなこと、許せるわけない」
私にとって精霊さんは、森に落ちた時からずっと傍にいてくれた、大切な存在。
姿が見えなかった時も、見えるようになった後も。
精霊さんは私の願いに応えて、いろいろな手助けをしてくれた。
もちろん、対価に魔力は使っているようだったけれど。
そういえば、この男や、マーガレットの記憶にある義母や義姉の唱える呪文は何だったか。
『精霊よ、わが命に従いて』
そう、いつも命令調だった。
対して、私の唱えるのは、いつもお願い。
最近はお願いの一言でイメージしていることを実現してくれるから、呪文らしい呪文は唱えていないけれど。
「あの人たちも、精霊さんを苦しめていたのかな」
だとしたら、マーガレットのことに加えて、恨み倍増しだ。
私は手元の宝石に目を落とす。
私には、この宝石から精霊さんを解き放つ方法がわからない。
もし思い付きでやったことが、精霊さんを害するようなことになったらと思うと、行動には移せなかった。
「これを作った人か、作れる人に聞こう」
それが間違いない。
今すぐにとは言えないけれど、できるだけ早く。
私は宝石にいる精霊さんに、ごめんね、少しだけ待っていて、と声をかけ、杖を荷物の中に大事にしまった。
精霊さんのことは気にかかるが、今は女の子たちを街に送り届けることに集中しないといけない。
幸い、この三人は問題なく突破できた。
後はこの街道を進み、フリウスの街に戻るだけだ。
私は気合を入れなおすと、女の子達を待たせている場所に歩き始めた。
第十五話いかがでしたでしょうか。
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これからも、どうぞお付き合いくださいませ。