目覚めたらそこは
初めまして。初の小説投稿です。
なにとぞお付き合いいただければ幸いでございます。
横たえた体に感じる違和感と、顔に感じた突然の冷たい衝撃に目が覚めた。
途端に、まるで身体が酸素を求めるように、激しく咳き込んでしまった。
咳はなかなか止まってくれない。
体は無意識に息を吸おうとしていて、それでも吸えなくて、せき込んで。
悪循環を止めるために口を抑えようとしても、なぜか両手にうまく力が入らない。
それでも何とか口を押えることができた。
しばらくそうしていると、ようやく落ち着いてきた。
(ここは、どこだろう?)
両手に力を込めて、体を起こして辺りを見回す。
薄暗い視界に見えるのは石材ででき三面の壁と床。
壁の一面には鉄格子が嵌められている。
記憶にある俺の部屋とは、かけ離れた場所。
(ううん、それはちがう。ここは、わたしのおへや。おやしきのちかろう)
見覚えのないはずなのに、見覚えのある場所。
むしろ、この屋敷にある部屋で、俺が唯一知っている場所。
(でも、俺の部屋はあのアパートの……)
大学に通うために借りた、それなりの相場のそれなりのアパート。
見栄えを良くするために、色々壁紙や床板を買ってきてアレンジした、学友には好評だったあの部屋。
俺はそこで、いつものように寝た筈だった。
それが目を覚ましてみれば、こんな風情も何もない石の牢屋にいる。
(ちがう。わたしはずっとここにいた。いままで、ずっと)
混乱する。
どちらが本当なのかわからない。
わたしは俺?俺はわたし?
お前は誰だ?
あなたは誰?
息がしづらい。
俺は、どうしてこんなところに。
わたしはずっとここにいた。
視界がぼやけてきた。
意識が朦朧としてくる。
やめろ。俺の思考の邪魔をするな。
あなたこそ、わたしの中に入ってこないで。
視界が横倒しになる。
体に力が入らない。
俺は俺だ!
ちがう!わたしはわたしよ!
目の前が、真っ暗になった。
---
再び目覚めた時、既に見た景色だったからか、取り乱すことはなかった。
それでもまた混乱しそうになる頭を落ち着かせつつ周りを見直しても、うまく力の入らない体も、石でできた牢屋も目が覚める前に見たものそのままで。
受け入れるのに時間はかかったけれど、どうにか頭の中も整理がついた。
俺は、いや、この身体を考えると、私は、の方が正しいか。
私ことマーガレットはこの屋敷に住む令嬢で、物心ついた頃からここにいた。
マーガレットをここに押し込めたのは義母と義姉。
父は仕事で王都というところにいて、ずっと帰ってこない。
実母は、マーガレットを産んですぐに亡くなったらしい。
マーガレットは義母と義姉の2人に気まぐれに虐待されていた。
2人曰く、マーガレットの容姿は醜く、流れる血は穢れていて、生きている価値はない。
それを生かしてやっているのだから感謝しろと。
ろくな食事を与えられず、服は辛うじて身体を覆うもの。
殴る、蹴るは当たり前、時には鞭で打たれて、火の魔法で炙られて。
泣いても謝ってもやめられることはなかった。
そんな状態にこの幼い身体が耐えられるはずもなく。
マーガレットは7歳のあの日に死んだ。
死んだ、筈だった。
それがどういうことか、マーガレットの身体に"俺"が入り込んだと同時に、息を吹き返したらしい。
目覚めと共に咳き込んだのはそのせいだったようだ。
そして、私の中に"マーガレット"はいなかった。
人格は"俺"のものだから、一人称は俺でもいいんだけれど、
女の子なのに俺というのもどうなんだろうとか、少し横道に逸れつつ。
"マーガレット"の記憶と"俺"の記憶が相反して混乱した結果、まるで2つの人格が鬩ぎ合うような感覚に陥ったのだと思う。
私の中には"マーガレット"の人格はないから、確かめようもないけれど。
なぜ俺が。
何のために。
なぜ女の子の体に。
日本の俺はどうなったのか。
家は?体は?家族は?学校は?
小説や漫画ならこういう時、神様やら何やらが教えてくれるのに。
何もかも分からないことだらけで叫び出したくなるくらいだけど。
マーガレットの記憶を頼りに、今分かっている数少ないことといえば。
ここがどうやら地球ではない異世界らしいことと、
近く私は殺される予定らしいこと。
それだけだった。
---
マーガレットはどうやら地球で言うアルビノ体質であったようだ。
冷たい床にできた水たまりに映る少女の髪は透き通るように白く、瞳は燃えるように紅かった。
ろくに食事をとれていない体は痩せこけていて、とても見れたものではない。
それでも顔立ちは整っていて、健康的な様子であったならさぞ美しい少女であったろうと思えるものであった。
地球でもそうであるように、その地や文化において異質なものは忌避されやすい。
マーガレットもその例にもれなかったらしい。
それに加えて、美しい容姿、義母の実母に対する僻み、義姉の妬みなども合わさって、酷い虐待を受けていたわけだ。
そして、二人がマーガレットを害することを決めたのには理由があった。
その理由は、マーガレットが聞いた、風に乗って運ばれてきた会話にあった。
『今年7歳になるマーガレットのもとに、ある国の機関が調査にやってくる』
二人はこの調査によってマーガレットの実態が国の下に明るみになるのを恐れたのだ。
そこで二人が出した結論は、
『領内の森深くに枷を付けて放り出し、獣に食わせてしまおう』
『表向きには病死にしてしまって、主人には葬儀を済ませてしまったと伝えればよい』
というものだった。
なぜ直接手を下さないのかわからなかったが、とにかくそういうことらしい。
とはいえ、二人の動きが分かったところで何ができるわけでもなかった。
体力がなさすぎて体を動かすこともままならない。
ご丁寧に足かせまでつけられていて、動ける範囲がそもそも狭い。
そして、空腹がひどすぎて、頭にもやがかかったように思考が遮られる。
これでは外に出ること以前に牢を破る事すらできない。
幸い、マーガレットは魔法の才には恵まれていたらしい。
今もはめられている足枷には魔封じの効果もあるようだが、その効果を受けてなお、ささやかなものだがマーガレットは魔法を使っていた。
それは音運びの風魔法であったり、飲み水を求める水魔法であったり。
それでも牢を破るには不十分の言葉ですら足りないほど。
だから、私は記憶に残った呪文を唱える。
「……精霊さん、水を、ください」
今の私にできるのは、明日森に放り出された先に一縷の望みをかけて、今この場を耐え忍ぶこと。
それだけだった。
第一話いかがでしたでしょうか?
ここでは少し暗い雰囲気ですが、作品全体の雰囲気としては明るいものになる予定です。
少しでも面白い、続きが気になると思っていただけましたら、ページ下部の評価をぽちっとしていただければ幸いにございます。
是非、よろしくお願いします。




