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081 聖王の救出~前編

 戦いの末、デューエン宰相を捕縛した俺たちは、城の屋上へ行き、空へ向かって火球を撃ちあげる。

 それを合図として、聖都コプンカ奪還軍が続々と入城してくる。


「反乱軍兵士を捕らえろ!」


「城内を隈なく探せ!」


 鬼人族に憑りつかれた兵士が次々と捕らえられ、シャルローゼの護符で順番に正気に戻されていく。順番に、というのは、護符の在庫がなく、一枚当たり十分ぐらいかけて作成しているからだ。

 どの兵士も憑りつかれ方は浅く、そのため、捕縛するのもそう難しいことではなかった。


 聖クワムソンサーン城の制圧が完了し、このまま行けば、聖都の解放もすぐに終わるだろう。


「ここは奪還軍に任せて、私たちは聖王の救出に向かいましょう」


 捕縛したデューエン宰相が、聖王ノーイの監禁先を吐いた。

 聖都の北にある、クルア洞窟の奥に閉じ込めているらしい。

 魔物が多く、逃げ出せないという理由でそこを選んだみたいだ。


 俺たちは聖王ノーイの救出へと向かうことにした。


 聖都を離れ、北にある原生林のような場所に踏み入る。

 色鮮やかな鳥が舞い、オラウータンのような霊長類が木々を渡って行く。


(いや)っ! 虫!」


 レイナが俺にしがみつく。

 大きな昆虫型の魔物は平気だけど、小さな昆虫は苦手なレイナ。


 進行方向にいる、手の平大のキリギリスのような虫を追い払って「もう大丈夫だよ」と声をかける。

 少し赤い顔で取り繕うように「あ、ありがと」と言い、また歩き出す。


「きゃー! カエルですぅ!」

「ヘ、ヘビ!」


 今度はユーゼとミリィが左右同時に俺に抱き着いてきた。


 俺、モテ期到来? そんな訳ないよねー。


 両腕が塞がっているので、エルバートに処理を任せ、事なきを得る。


 カエルや昆虫はたくさんいるし、キリがない。

 俺とエルバートが先頭を歩き、女性陣が嫌いなものを追い払って行く。


「シャルローゼは嫌いな物はないのかい?」


「ヘビという生物は、嫌悪感を感じました。でも、隠れ家で見かけた黒い虫ほどではありません」


 エルバートが優しく問いかける。

 あまり町から出ることのない王女様は、昆虫やヘビなどを見ることもないのだろう。

 黒い虫というのは、恐らくカサカサ走るアイツに違いない。この辺でも倒木の下とかにいるんだろうな。わざわざ掘り起こすことはしないけどね。


 原生林の奥に、表面を草木で覆われた岩山があり、その山肌にクルア洞窟があった。


 洞窟に入ると、ヒカリゴケのような物が壁面を広く覆うように生えていて、それなりに明るい。当然のことだけど、外と比べると大分暗い。だから、ミリィが「ライト」で周囲を明るくする。


「この奥に聖王が!」


 シャルローゼが先を急ぐ。


「待って。魔物がいるから、隊列を組んで行こう」


 この洞窟は、二人が余裕で並んで進める広さがあり、エルバートとレイナが先頭に、その後ろにユーゼと俺、ミリィとシャルローゼ、最後尾がチャムリといった隊列で進む。

 無理すれば三人並べそうだけど、剣を振り回すから空間に余裕がある方がいいし、ユーゼはまだ本調子じゃないから二列目でセカンドアタッカ的立ち回りをしてもらう。


 早速魔物が現れた。


「チェインタイガー、レベル26と、クロコダイルモンキー、レベル29がいるの」


 ミリィが魔物を発見し、戦闘態勢に入る。


「あれ? 魔物同士で争ってない?」


「この洞窟の魔物は獰猛(どうもう)で、互いに殺し合っていると聞いたことがあります」


 接近せずに、しばらく様子を見ていると、チェインタイガーが勝利したようで、ワニの顔をした猿の魔物を(むさぼ)るように喰らいつくした。

 このまま戦わずに済めばいいのに、と思い静観していたんだけど、チェインタイガーが俺たちに気づき、真っ直ぐこちらに向かって駆け出した。


「来るぞ! イージス!」


 エルバートの掛け声で、全員一斉に武器を構え直す。

 ミリィの補助魔法も皆に届き、万全の態勢で迎え撃つ。


 チェインタイガーの体の周囲には、土星の輪のように鎖が浮いて回っている。その鎖が一本の武器となって魔物よりも速く飛んでくる。


 あれは鎖分銅だろうか?


 鎖の先端の(おもり)が、エルバートの盾を打ちつける。

 さらにしなって後退し、もう一度勢いをつけて錘を打ちつけてくる。


 そこにチェインタイガーの爪が、続けて間髪を入れずに牙が盾に干渉する。


 盾に固執するチェインタイガーの横腹を狙って、レイナがレイピアを突き出す。でもそこに鎖分銅が割り込み、レイナは止む無く後退する。反対側からユーゼが飛び出すものの、棍が爪で払われる。


「正面だ! ブルー・インパクト!」


「俺も合わせる! エクスプロージョン!」


 左右に散らした攻撃により、正面が空いたとみて、エルバートが闘気を爆発させる。

 俺もそれに合わせ、準備していた爆炎を見舞わせる。


「倒せたようだ」


 爆炎が収まると、大きな魔石が地面に転がっていた。


「ここの魔物は、想像以上に強いようですね。次からは私も護符で協力します」


 シャルローゼは、護符で邪を(はら)うだけでなく、魔物を弱体化したり足止めすることができるそうだ。

 魔物が弱くなれば、俺たちの負担が大きく軽減されるだろう。だから、喜んでその提案を受け入れた。


 その後、シャルローゼが護符を使って参戦し、魔物を弱体化してくれた。

 邪を祓うときと違って、直接魔物に護符を突き付けることはしない。

 護符を地面に置き、杖でそれを突くと、魔物が弱体化するフィールドが形成されるみたいだ。


「あそこに見えるのが二層へ下りる通路ね。早く下りましょう」


 レイナが発見した通路を通って二層に下り、ここでは一層と違って、すべての分岐を隈なく捜索する。

 捕らえたデューエンから、聖王は二層に(かくま)っている、と聞いているからだ。二層のどこかまでは分からない。


「スコルドゴリラ、レベル34、左の角から来るよ」


 頭に鹿の骸骨をかぶったゴリラの魔物。手にはロングソードと盾を持っている。


「ウボボボボー」


 俺たちを視界に入れるや否や、ゴリラの魔物は雄叫びを上げて走り出す。


「力を削ぎます。剛力相殺!」

 

 シャルローゼが地面に置いた護符を杖で突く。

 すると、杖を中心に光の輪が広がって行き、それがゴリラの魔物に到達すると、ゴリラの魔物は走りながら転びかけてバランスを崩す。

 急激な力の減退が、勢いよく走ることを阻害したみたいだ。


「今よ! シャイニング・セーバー!」

「行きます! 爆裂連撃!」

「ファイア!」


 Z字状に切り裂かれ、棍の連打を浴び、最後に火球を三発喰らって、ゴリラの魔物は大きな魔石へと変わる。


 その後も、いろいろな魔物との戦闘を繰り返し、洞窟内を進む、進む、進む。


「スリルシュライク、LV30。二つ目の角から来るの」


 ミリィの発見報告から即座に戦闘態勢を整え、魔物が現れるのを待つ。

 出てきたのは、モズのような配色の、大きなペンギン型の寸胴(ずんどう)な魔物。

 ペンギンとどう違うって? ペンギンは白黒だけど、モズは白、灰、黒の三色で、くちばしから目の辺りと羽の先端部分が黒いのが特徴だ。この魔物は、形は大きなペンギンだけど、モズの色をしている。

 ふわふわに膨れたその体型は、魔物じゃなければモフりたい愛らしさをかもし出している。


「キョエエエエエー!」


「きゃっ!」


 いきなり耳をつんざくような鳴き声をあげて、俺たちの戦意を削ぐ。

 さらに鋭利な刃物となった黒い羽が複数飛んでくる。

 皆、耳を塞いでいたから、少し反応が遅れて腕や足から血を流す。


「やったわね! ローズ・スプラッシュ!」


 レイナが突進して無数にレイピアを突き立てる。だけどそれは、白い羽毛に埋もれてダメージになっていない。そして、最後にはレイピアが羽毛の中から抜け出せなくなった。


「レイナさん、加勢します! 氷結撃(ひょうけつげき)竜胆(りんどう)! あれ!?」


 ユーゼも棍で一撃入れた。けど、まったく手応えがない。棍が膨れた羽毛に埋もれてしまっただけだ。


「キョエエエエエー!」


 レイピアと棍を捕らえられている二人は、耳を塞ぐ間もなく至近距離で叫び声を浴びてダウンする。


「パンダ、援護を頼む!」


 エルバートが前進し、盾で魔物を押さえ込む。

 ミリィが回復魔法を発動し、シャルローゼが気付けの護符を使う。


「これならどうだ! エクスプロージョン!」


 氷の槍や火球だと、あの羽毛で防がれるような気がした。だから、爆発系の魔法で攻める。


「ブルー・インパクト!」


 エルバートも合わせてくる。

 爆炎が収まると、目を回して頭にヒヨコが回っている状態の魔物がそこにいた。

 爆発系の魔法は効いたみたいだ。でも、連発はできないし、集中するのにも時間がかかる。


「畳み込もう! ブルー・ウエーブ!」


「エア・スラッシュ!」


 エルバートが放った鋭利な闘気も、俺が放った空気の刃も、あの羽毛に吸収されて消えていく。

 立ち上がったレイナやユーゼも攻撃に参加したが、やはり、ダメージになっているようには見えない。


「駄目だ! 効いてない!」


 正気に戻った寸胴な魔物が、突然宙に浮かんで円錐状になり、くるくる回転して突進してきた。

 まるでドリルのようだ。


「ストーン・ウォール!」


 前方に壁をつくり、ドリル形になった魔物を受け止める。

 そう、これは石ではなく、とびっきり粘度の高い粘土でできた壁だ。武闘大会の決勝戦で思いついた姑息(こそく)な戦法。


 ドリル形の魔物は壁に刺さって回転が止まる。


「今なら羽毛がないわ! シャイニング・セーバー!」


「チャムリ、行きますよ! 虎吼流星撃(こほうりゅうせいげき)!」


「相変らず、ユーゼは猫使いが荒いのである。とりゃあ!」


 棍による渾身の一撃に合わせて、チャムリが壁に刺さった魔物に向けて流星のように飛び込んで行く。そしてパンチ連打が決まったところで、ひらりと着地する。


「ふっ。お前はもう魔石である!」


 魔物はボンッと黒い霧となり、カラン、と大きな魔石が地面に転がる。

 ドタバタしたけど、全員による総力戦で、なんとかスリルシュライクを倒した。


 この後も、牙や鋭い爪を持つ鹿の魔物スラッシャーディア。魔法を撃っては離脱、撃っては離脱を繰り返すマジカルパンサーなど、動物型の魔物とたくさん遭遇した。

 多分だけど、スコルドゴリラがかぶっていた鹿の骨はスラッシャーディアの頭骸骨だろう。この層でも魔物同士が争っていたから。俺たち人間が魔物を倒すと魔石になるけど、魔物が魔物を倒してもそのまま死体が残る。だから、頭蓋骨が残っていてもなんら不思議はない。


「聖王様って、どこにいるのかな? もう大分歩いたよね?」


「そうですね。ミリィちゃん、疲れましたよね? 私も疲れました。ああ、お菓子が食べたいな~」


「ユーゼよ、何弱音を吐いておるのだ。菓子などなくても倒れたりはしないのである」


「休憩しようにも、適切な小部屋がないんだ。歩きながらでもいいなら、出すよ」


「わーい! パンダさん、分かってるう! チャムリの分は私がもらいますから!」


「なんだと! 吾輩のを取るな、なのである!」


 歩きながら、バタークッキーを頬張る。

 分岐点ごとにプレートを置いて、行ったり来たりして進んでいて、その先のすべての分岐を確認したら、確認済みのプレートを追加で置いている。

 そろそろすべての分岐点で、確認済みのプレートが設置済みになりそうだ。しかし、まだ聖王は見つかっていない。


 幾たびも分岐を曲がり、小部屋がないか探したけど、発見できない。


「そろそろすべての分岐を確認したことになるけど、どうする?」


「僕は、一旦城に戻って情報を再確認するほうがいいと思う」


「そうね。三層に下りるより、デューエンに二層のどの辺りか聞き出すほうが良さそうね」


 デューエンからの情報だと、二層に聖王が(とら)われているはずなんだけど、結局、聖王を見つけることができず、洞窟から出ることにした。

 二層までしか進んでいないから、洞窟から出るのにはそれほどの労力はかからなかった。


 ここにもう一度来ることになるから、洞窟の外に転移石を設置する。


「その石柱は何でしょうか?」と、シャルローゼが尋ねる。


「あ、これ? これは転移石だよ。これがあれば、ここに瞬時に戻って来ることができるんだ。また明日来ることになるから、移動の手間が省けるでしょ?」


「転移石……。そのような便利な物があるのですね」


 行ったことのある町へなら、転移石がなくても、俺の転移魔法があれば飛んで行くことができる。

 でも、洞窟は町や村ではないから転移魔法の目標地点にはならない。

 だから、目標となる双方向型の転移石を設置する。これがあれば、俺の転移魔法でここに飛んでくることができる。


「そうだ! 聖都コプンカとパンダタウンを繋ぐ転移石も設置してもいいかな?」


「と、言われますと?」


 シャルローゼにパンダタウンの説明や、転移石を設置すると人の流れがどうなるか、などを説明した。


「よろしいですよ。聖王に代わって、私が認めましょう」


「ありがとう。じゃあ、聖都まで飛ぶよ!」


 転移魔法で聖都コプンカの門前まで移動する。門衛は昨日とは違う人だ。昨日の人は鬼人族に憑りつかれていたから、城の中に連行されたのだろう。


「今のが転移なのですね。確かに、これがあれば、世界が変わります」


「早速、ここにパンダタウンへの転移石を設置するよ」


 転移石を生成する。


「これを使うと、リリク王国に行けるのですね」


「聖王の件が一段落したら、一緒に行こう」


「そのときは、私も歓迎するわ」


 金ピカの寺院の前を通り、ここにおけるセレスの言葉を思い出して感傷に(ふけ)る。


 ――いろいろ御利益があるから、人々はブツゾーを(おが)んでいるんだ。今は急いでいるから、明日にでも行ってみるといい。


 あのとき俺が拝まなかったから、ご利益が得られなかったのだろうか。拝んでいればセレスは不運な死を遂げなくても良かったのではないだろうか。


『今から行くといい』


 今、セレスの声が聞こえたような気がする。

 皆、同じようで、あたかもここにセレスがいるかの錯覚を覚える。


「ちょっと拝んで行こうか」


 全員でブツゾーを拝みに行き、それから何かが吹っ切れた気分で、聖クワムソンサーン城に入る。


 城の地下牢で、改めてデューエンに聖王が囚われている場所を聞く。


「クルア洞窟の第二層だ! ワシはミーク将軍に任せただけで、詳細は知らん!」


 有力な情報は得られなかった。


「困りました。ミーク将軍は天に召されました。もう一度クルア洞窟に戻って調べるしかないのでしょうか」


 シャルローゼが心底困ったような声で話す。第二層は、一通り調べたつもりだからだ。


 あ! (ひらめ)いた!


「少し博打(ばくち)みたいになるけど、こんなときの強力な助っ人を思い出したよ」


「見つかる可能性が上がるのであれば、どんな博打になっても良いのです。よろしくお願いします」


「じゃあ、出発は明日の朝で、この城のホールに集合でいいかな?」


 明日のことを確認し、今日は解散となる。

 シャルローゼは謁見室での戦後処理に追われることになるだろうから、今日はパンダタウンへは同行できない。

 俺たちはパンダタウンに戻り、勇者の館で一夜を過ごした。

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