072 ワックスの戦い
ナルル博士に依頼した動力源も無事完成し、リブの宿屋の新館に無限軌道式エスカレータが設置された。
問題なく稼働しているし、ナルル博士がパンダタウンに引っ越してきたから、問題が発生しても対処してくれるだろう。
世界樹が復活したことも、エルフの隠れ村に転移して長老に伝えておいた。
長老は感動し、ぜひ見に行きたいと言うから、転移石を設置し、いつでもパンダタウンに来れるようにしておいた。ただし、行き先は勇者の館の敷地内で、一般人には非公開の転移石となる。
住居の拡充や商店の新築など、やれることはすべてやった。これからは俺がいなくても、メジー商会が手配する魔法工事士がやってくれることだろう。
サフィから移り住んだアカリアも、ガッドの補佐をしっかりとこなしている。
時々町内を視察している所に出くわすけど、ガッドも大助かりだと言っていたから問題ないだろう。
片道が有料であっても転移石のおかげで予想以上に旅人が訪れ、パンダタウンは多くの人で賑わっている。
これで、心残りなく魔王を倒す旅に出発できる、と思いきや、ジドニア獣国で行われる武闘大会が迫っていて、その開催日に合わせて俺たち勇者パーティはジドニア獣国に向かった。
「さあ、優勝するわよ!」
まだ予選すら始まっていないうちから、レイナは優勝する気でいる。
俺がパンダタウン関係で飛び回っている間、残りのメンバーは、ワックスとポップを交えて訓練を行っていた。俺だけ訓練をさぼっていた形だ。
武闘大会は、異次元空間で行われるため、獣都フデンのどこにもスタジアムが見当たらない。会場入り口とされている建物から、スタジアムまで転送される仕組みだ。
武闘大会の公式用語だと、スタジアムのことを闘技場と呼んでいるので、これからは俺もそれに従う。
白い円環に触れて闘技場に移動する。
ここでは、間もなく武闘大会の開会式が行われようとしていた。
見慣れた虎獣人が、舞台の上の特設ステージに上がって行く。
「俺は昨年優勝のパメイドだ! 多くの猛者が集まってくれたことに感謝する! ここに武闘大会の開催を宣言する! 皆、存分に戦え! 文句ある奴は掛かってきやがれ!」
「「「ウオー!」」」
なんか滅茶苦茶な開会宣言で武闘大会が開会した。
「今年は参加者が、めっちゃ多いのニャ」
武闘大会には子供の部門と大人の部門がある。
今年の大人部門の参加者はおよそ五百人で、ここ数年は、参加者は二百人前後だったという。
メジー商会が武闘大会のスポンサーとなり、パンダタウンを始めとして、転移石で繋がっている各町に盛大な看板を設置したため、一気に認知度が高まって参加者が増えた。
もちろん、転移石で移動が簡単になったこと自体が大きな要因なのは間違いない。実際、遠くから来たと思える人族の参加者がたくさんいる。
獣都フデンで宿をとれなかった参加者は、こぞってパンダタウンで宿をとる。パンダタウンではリブの宿以外にも、メジー商会が低価格帯の宿を展開しているから、メジー商会としては十分元が取れるのだろう。
今までパンダタウンや転移石の存在を知らなかった者にも、武闘大会の看板でずいぶん周知することができた。だから、パンダタウンにとっても、この武闘大会はありがたい大会なのだ。
開会式が行われたこの闘技場は本会場で、今日は組み合わせ抽選会と子供部門が開催される。
大人部門の予選は明日、こことは別の二つの闘技場で行われる。A会場とB会場だ。それぞれの予選会場に分かれた選手は、本会場で行われる本戦まで互いに当たることはない。
大人部門の予選一回戦は、なんと鎧割り競争で、九~十人が鎧を破壊する速さを競い合う。上位の二人が二回戦へと進出となる。
二回戦からは、一対一での、武を競う戦いとなる。各ブロック内で鎧割り上位の二人が戦って勝った者が三回戦に進む。
三回戦では、隣のブロックの勝者との戦いになり、それを勝ち抜けば、明後日行われる本会場での本戦に進むことができる。
ちなみに、昨年入賞の四人は本戦からの出場となっている。
先史文明の技術を使用しているから、闘技場内で死亡しても時間が巻き戻って実際は死なないし、怪我や疲れも次の試合に持ち越さない。だから皆、本気で戦うことができる。
俺たちは今、予選組み合わせ抽選会を行うため、闘技場の舞台に立っている。周辺は見渡す限り参加者でごった返している。なお、大会に参加しないミリィとチャムリは観客席にいる。
この本会場では、今日は抽選会の後は子供の部門の戦いしか行われないけど、観客席はほぼ満員だ。空いているのは、俺たちのように抽選の後に観客席に行って子供部門を観覧する者の分だけだろう。
抽選会の今も、会場中、大きな盛り上がりを見せている。対戦の組み合わせを見るのも楽しみの一つだし、目当ての選手がどちらの予選会場に割り当てられるのか自分の目でいち早く確認したいというのもあるのだろう。
予選の抽選は受付番号順なので、俺たちは連続して抽選をする。
箱の中から小さな魔石を一個取り、魔石判定装置の上に乗せる。
「俺、Aの二十四番だったよ」
「私はAの一番よ」
「一番って、明日の第一試合だね。俺は、結構最後の方だし」
「ははは。僕はBの十八番だ。君たちとは予選では当たらなくて良かったよ」
「私はBの九番でーす」
抽選番号のAとBは予選会場を示している。次の一から二十八までの番号が、予選ブロック番号で、同じブロックに九から十人の選手がいる。
予選三回戦まで進んだとしても、隣のブロックの選手としか当たらないので、俺とレイナは同じA会場だけど番号が離れているから、勝ち抜いても予選では当たらない。三回戦を勝てば予選通過なのだ。
「あら、勇者の皆さんも出場されますの?」
「はっはっは! そりゃあとんでもないぜ! 頼む、予選で当たんなよ!」
水色マントのシアンと黄色マントのレグホーンが俺たちを見つけて近づいてきた。
スポンサーのメジー商会からも参加するんだね。
「もし当たっても、容赦しませんわ。お互い思いっきり戦いましょう」
「そんなフラグみたいなこと言わないでよ。俺、槍使い苦手なんだから」
俺、槍使いのシアンに勝てる気がしないよ。というか、リーチの長い槍は魔法使いの俺の天敵だ。
まあそれでも、第一回戦の鎧割りを通過しないと、直接戦うことはないんだけどね。
二人はまだ抽選をしていないようで、そのまま人ごみの中に消えて行った。
「皆さん、私を忘れているのニャ。私はAの二十八番だったのニャ」
「俺はAの三十番だったんだ! 子供部門だけどさ」
すっかりポップとワックスのことを忘れていた。ポップの番号は俺と近いけど、予選の間は当たらない。
皆、上手にばらけることができた。
「今日は、このままワックスの試合を見て行こう」
抽選会を終え、俺たちが観客席に着くと、ちょうど子供部門の第一試合が開始となった。
子供部門には予選はなく、最初からトーナメント形式での試合となっている。
舞台上に二つの四角い枠があって、それぞれでAブロック、Bブロックに分かれて試合を行っている。
「ライバルのベッコーはBブロックだったから、決勝戦まで当たらないよ! それまで、俺、負けないから! ベッコーを倒して優勝するんだ!」
トーナメント表がAブロックとBブロックで完全に分かれていて、最後に両方の勝ち残り同士が戦って優勝者が決まる仕組みになっている。それぞれのブロックでは六十四試合が予定されている。人数調整の結果だろうけど、所々不戦勝もある。
ワックスがライバルと呼んでいるベッコーは、以前俺たちを捕らえた治安隊の隊長の息子だ。
「そこニャ! 行け! 避けるのニャ!」
ポップは、子供たちの試合を見て、ゴーだかバックだか分からない言葉を叫んでいる。観客席が階段状になっていなければ、ポップの拳は前の観客を殴っていただろう。
子供の試合は剣技というより、ちゃんばらで、空振りや剣同士の当てあいっこが多い。
そんな中で、何人か、綺麗な太刀筋で相手を翻弄する選手が混じっている。
それでも今のワックスには敵わないだろう。この年齢でレベル26なんて、反則のような強さだ。そのうえで魔法剣士のスキルを習得し、レイナたちと訓練までしているのだ。負けるはずがない。
ワックスの一回戦の相手は、斧を持った犬獣人の子供だった。いわゆるパワーファイターだ。
ワックスはレイナに鍛えられた身のこなしで相手を翻弄し、斧が体に掠る事さえなく、試合は終了した。
一回戦の全試合を終えると、二時間の休憩時間となった。
何故二時間なのかというと、この闘技場は外よりも時間が二倍速く進む。だから、外では一時間の休憩となるように調整してあるのだ。
開会から一回戦が終わるまでの時間は闘技場内で約四時間。でも、外では二時間の経過なので、一般的な昼食タイムではない。周辺の料理屋は、通常閑散とする時間帯に客が大勢来て大慌て状態になっている。
そういうこともあって、俺たちはパンダタウンに行って昼食をとることにした。
パンダタウンでは、アカリアの施策で、武闘大会終了までにパンダタウンに移住手続きを完了した者に、住民税半額、住居費用半額というキャンペーンを行っている。おかげで町民が激増している。細かなことまで聞いていないけど、アカリアは他にもいろいろ施策を打ち出しているらしい。
店舗の拡張が完了した「カフェ・ナナミ」に入り、軽食を注文する。今は昼時ではないから、普段なら混雑する時間帯ではないけど、既に席は満席に近い状態になっている。
周りを見れば、筋肉自慢の男共がたくさん目に入る。闘技場からも客が結構やってきているのだろう。銀貨二枚分食事すれば、帰りの転移石使用料が無料になるから、気負うことなく、転移石で飛んできているのだ。
普段は女子や貴婦人が多めの客層なんだけど、今日は異質な感じだ。初めて来た客が、マッスルな店と勘違いしなければいいけど。
「お兄ちゃんたち、こんな時間に昼食? 珍しいね」
「向こうじゃ昼食の時間なんだ」
この大陸内は共通時間だから時差はない。それでも闘技場では時間の進み方が早いから、俺たちにとっては今が昼食の時間帯だ。
「それよりも、この時間帯にこんな大勢お客が来るなんて、どうなってるの? 大忙しだよー」
「また二時間ぐらい経ったら、客が大勢来るよ」
「そうなんだ! 大変! 仕込みを増やさないと!」
ナナミは注文を聞き取って奥へと消えて行った。
そういえば、闘技場から来ている他の客は、この店には焼肉とかがないけど大丈夫だったのかな? 戻ってから露店で補充するのかもしれない。
パンケーキやサンドイッチなどの料理が、いつものようにほぼ待ち時間なく運ばれてきて、皆で食事をとり、フデンに戻った。
「ワックスは親父さんの所に行かなくっていいの? パメイド王は主催者なんだよね?」
王族って、専用の観覧席で優雅に試合を見ているイメージがあるんだけどね。
「子供部門だと、父ちゃんは場外で審判をやってるから、俺、別に一緒にいなくっても大丈夫なんだ」
場外の審判は、舞台上のレフェリーが見逃すような反則行為やノックアウトの判定を見極めるために試合を監視する第二の審判だ。
王様自らが審判までやるなんて、まだ緊縮財政が続いているんだね。
予定通りにワックスが子供部門で優勝すれば、王位継承権が正式に認められるから、明日の大人部門の観戦は貴賓席で行うことになる。負ければ、別の優勝者がそこに座ることになる。
闘技場に入ると、子供部門の第二試合以降が開始となり、ワックスは順当に勝ち進んで行った。
遂にAブロックの最終戦となり、やはり危なげなく、ワックスが勝利した。
「私はBブロックにいるライバルが、ベッコーだって聞いていたんだけど、勝ち残った選手の名前が違うわ」
「ああ、本当だ。Bブロックで勝ち残ったのはボン・チャーリンと言う子のようだ。ベッコーはボンと戦って負けている。ワックがあれだけ警戒していた子が負けたんだ。そのボンって子は要注意だ!」
ワックスのライバル、ベッコーは家庭教師をつけてまでこの大会に臨んでいた。
結構有名な家庭教師らしく、野外での魔物との実戦も行っていたと噂されている。
そんなベッコーが負けたんだ。ボンはさらなる魔物との戦闘経験があるのかもしれない。
ボン・チャーリン。どこかで聞いた名前だな……。
思い出した!
パメイド王に初めて会ったときに、王城を売り払った相手がチャーリンだとぼやいていた。
つまり、ボンは、王城を買うことができるくらいの金持ちの息子の可能性が高い。
ベッコーを倒すくらいだから、ボンも相当の金をかけて訓練してきたに違いない。
果たして、子供部門の決勝戦の時間となり、舞台に向けてワックスとボンがそれぞれ対角の通路から入場してきた。
観客席から歓声が上がる。それは「がんばれー」等、中立的でどちらを応援しているのかまでは分からない。
虎獣人ワックスは片手剣に盾のいつもの装備。子供部門は鉄製ではなく木製だ。
狐獣人ボンはチェインウイップと盾を装備している。もちろん木製だ。
木で実戦に耐えるチェインを作るとなると、木工が盛んなクレバーの町の職人ぐらいしか作れないはず。
この世界では、銀を鉄以上に固くできる素材とスキルが存在するように、木材を鉄並みに固くする素材とスキルがある。クレバーの町の職人のうちでも、ごく一部の名工と呼ばれる人しかできない貴重なスキルだ。
そういうことか。
転移石を設置したことで、チャーリン家はクレバーに武器の作成を依頼しに行けるようになった。職人に大金をはたいて、短納期で強力なチェインウイップを作成してもらったのだろう。運営側で用意できない武器は、参加者が用意しても良いことになっているから。
レフェリーにより、高々と両者の名前が告げられ、すぐに戦いが始まった。
開始早々、ワックスが駆け出し、ボンがチェインウイップを振るってそれを妨害する。
蛇行して迫るウイップの軌道は、慣れないとなかなか躱しにくいものだ。それを飛び越えたかのように見えたワックスは、振り戻されたウイップを足に受けた。
「当たった! ボン選手がワックス選手の足に攻撃を当てた!」
観客席まで届く実況者の声は、この会場に備えつけられている先史文明の魔道具で拡散している。
単に音量を大きくするのではなく、会場内のどこで聞いてもほぼ一定の音量になっているらしい。
試合の様子も、舞台の上空にある巨大な円筒状のディスプレイで放映されている。三百六十度、どの観客席から見ても、その角度からの映像が見える巨大なスクリーンだ。いくつものカメラの映像をリアルタイムに繋げているのだろうか。この辺り、先史文明は地球の技術よりも進んでいるように思える。
転倒は免れたものの、体勢を崩したワックスは、ボンの執拗な攻めにあう。盾で防いでいるけど、やはりその軌道を完全には把握できず、時々腕や足にウイップが当たっている。
「これは容赦ない攻めだ! ワックス選手、大丈夫でしょうか」
通常の子供戦士なら、これだけ喰らえばノックアウトだろう。しかし、ワックスの体力はまだまだ十分残っている。レベル26は伊達じゃない。
一向にダウンしないワックスに焦りを見せ始めるボン。
その焦りが、振るうウイップの軌道を単調な物に変えていた。
ワックスが突如ウイップを右に躱して躍り出て、ボンに横なぎを浴びせる。
「決まった! ワックス選手の木剣がボン選手の脇腹にクリーンヒット! これは勝負あったか!?」
ひと際大きくなった実況者の声が場内に響く。それにつられるように場内が沸く。
それでもボンは耐えきった。苦痛の表情をしてはいるが、割って入ったレフェリーに試合続行を告げる。
転移石によってワックスはパンダタウンで訓練する機会を得た。もしかすると、同じようにボンもどこかで修行してきたのかもしれない。そうでもしないと、あれを耐える体力の説明がつかない。
今度はワックスが攻め続ける展開となり、ボンが盾で受け続けている。
一方的な展開かと思われた。が、突然、そのワックスの剣めがけて、チェインウイップが伸びる。
「おっと! ボン選手のウイップがワックス選手の木剣に巻きついた!」
ボンがニヤリと口端を上げ、手に力を込めて一気に木剣を寄せようとする。これは木剣を奪い取る作戦のようだ。
両手に全身の力を集めて力むワックス。
「くっそー! 盗られてたまるか! フレイム・ソード! 絡まったウイップを焼き切れ!」
「ああ! ワックス選手の木剣から火が噴きだした! 魔法でしょうか! なんと、ワックス選手は魔法を使うようです。解説のボクソンさん、今の魔法はなんでしょうか?」
「今のは魔法じゃねえ! あれは、スキルやな。古のスキルにな、剣に火や氷を纏わせるものがあったと言う。確か……、そう、魔法剣士や。魔法剣士のスキルや!」
「なんと、ワックス選手は魔法剣士ではないかとの情報が、解説のボクソンさんからありました! それが本当だとすると、とんでもないことです! 先史文明のスキルです!」
場内から割れんばかりの歓声が上がる。
ワックスの剣に絡まっていたチェインウイップは炎で焼き切られ、残ったのは剣に絡まっていなかった部分だけとなった。長さを失ったウイップで剣士に挑むのは無理がある。つまりボンには、もはやワックスを攻め立てる術がなくなったのだ。
これを好機と見たワックスが手数を増やして攻め立てる。
ボンは短くなったウィップを振るって必死に応戦する。
その体に、足に、肩に次々と炎を纏った木剣の攻撃が入る。
ちなみに、ワックスの木剣自体は燃えておらず、木剣の形を維持している。炭にはなっていない。
「ここでボン選手、ダウンだ!」
ワックスの攻撃を何回も喰らい、遂にボンが舞台上に倒れた。
レフェリーがカウントをとりに行く。十カウント経てばボンの負けになる。
「おっと! レフェリーが転んだ! 足をつったのでしょうか? 痛そうにしています」
え?
レフェリーのあからさまな転び方に、買収の疑いが浮上する。でも、観衆の誰もそんなことは疑っていないようでブーイングなどはない。
だいぶ遅れてレフェリーがカウントを始めた。
すると五カウントでボンが立ち上がった。
これはボンが負けを認めるまで、決着がつかない試合になりそうだ。長引きそうだな。
「レフェリーがボン選手の状態を確認します。ボン選手、まだ戦えます! 試合続行です!」
「……フレイム・ランス!」
「なんと! ワックス選手から火の槍が撃ち出されました!」
ワックスは、相手がダウンしている間に魔法の準備をしていたんだろう。ダウン中に魔法の集中をすることを禁じる規則はないから、反則ではない。
「今のは魔法やな。見事にボン選手を貫通してやがる。勝負あったな」
「魔法です! 解説のボクソンさんが魔法と判定しました。ワックス選手、魔法も使います! そしてボン選手、またもダウン!」
今度はレフェリーがカツラを落とすなどの遅延行為をしても、十カウントで立ち上がることはなく、レフェリーはしぶしぶといった感じにワックスの手を上げる。
「今、ワックス選手の手が掲げられました! ワックス選手のK.O.勝ちです! 子供部門の優勝はワックス選手です!」
大歓声の中、会場に紙吹雪が舞う。
「それにしても、素晴らしい試合でした。魔法を使って勝利した試合というのは、私の知る限り初めてですけど、ボクソンさん、いかがでしょうか?」
「魔法を使って勝利した奴は、俺も聞いたことがねえ。それに、今の試合は子供部門だぜ? フレイム・ランスってのはレベル20魔法や。つまりワックス選手はレベル20以上ということなんや。大人でもレベル20にまでなれる奴は一握りだけや。将来、どんな魔法戦士になるのか、楽しみやな」
「来年から、ワックス選手は大人部門です。ボクソンさんも現役復帰して出場されたらどうですか?」
「ワッハッハッハ。そうやな。俺も腕を振るいたくなってきたぜ」
この後すぐに表彰式が始まり、会場内が祝福の歓声に包まれる中、ワックスは男泣きでトロフィーを受け取っていた。
武闘大会子供の部門で優勝できたから、ワックスは晴れて王位継承者を名乗れるようになったのだ。




