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006 旅立ち~王都トトサンテ(地図)

挿絵(By みてみん)


 成人の祝いから数日経ち、旅立ちの準備が整った。

 事前に申し合わせた通り、ガッドも冒険者になるということで、今日一緒に村を出る。

 残念なことに、ミリィはくつろぎ亭で働くことになり、一緒には来ない。一緒に行きたそうにしていたけど、宿屋の人手が足りないから仕方がない。


 俺とガッドは、冒険者となって旅立つため、村の出口にやってきた。いつもの東の荒野方面とは違う、北の王都トトサンテ方面への出口だ。


 両親との別れの挨拶は家で済ませてきたので、今は共に遊んだ幼馴染たちに別れの挨拶をしている。


「俺は有名な冒険者になって村に凱旋するからな! そのうち魔王も倒してやるぜ!」


「うふふ。ガッド、楽しみにしてるわ」


 二歳年上のリブの微笑みに、ガッドは照れて頭を()いている。


 ガッドは見た目も発言も脳筋みたいな印象があるけど、意外と賢い一面もある。

 例えば、教会で神父さんに読み、書き、足し算、引き算、世界地図や世界の歴史などを習う際、いずれも苦もなくこなしていた。

 さらに俺が前世の知識を元に幼馴染たちに教えている掛け算、割り算、面積の計算などもさらりとできるようになった。


「ははは、ガッドは頼もしいな。そうだ、俺からみんなへプレゼントがあるんだ」


 俺は、上面が平らな岩を魔法で生成し、その上にアクセサリを魔法収納から出して並べて行く。


「えー、なに? 可愛い!」


「うん、可愛いねー。でもなんだろうね」


 ナナミは、オーバーアクション気味に興奮し、(せわ)しなくアクセサリを見まわしている。ミリィは頬に人差し指を当ててじっと見つめている。


「これは髪飾り。ほら、こうして髪につけるんだ」


 そう言って、ナナミの頭の左やや前方に翼の形をした髪飾りを取りつける。もちろん、これは魔法で生成した物だ。


 ナナミは髪飾りに手を当て、その存在を確かめた後、くるりと回ってキラッとポーズを決める。

 髪飾りは表面を研磨した薄いステンレス板で作ってあるので、ナナミが回ると、時々太陽光を反射してキラリと輝く。


 左手を腰に当て、右手は人差し指と小指、親指を立てて目の横に位置させている。

 まるで、どこかの銀河的アイドルのようなポーズだ。思わず「デカ〇チャー!」って言いそうになった。


 ナナミ、どこで覚えたんだ、そのポーズ……。

 あ、数年前に俺が教えたんだった……。てへぺろ。


「いろいろあるから、好きなのを選んで」


 皆がどういうのが好みか分からなかったから、星形、うさぎ形、三日月形等、いろいろな形の髪飾りを用意した。


「これがいいわ」


 リブは桜の花をイメージした髪飾りを手にし、早速髪に取りつけた。


「私はこれがいいと思うの」


 ミリィはハート形の髪飾りを選んで、大事そうに胸元で押さえている。


「ナナミは?」


「お兄ちゃんに選んでもらった、これがいい!」


 ナナミは、先ほど俺がつけてあげた翼の髪飾りを撫でて、少し上目遣いになる。


 俺が選んだというより、適当に手にしただけなんだけどね。許しておくれ、マイ妹よ。本当のことは怖くて言えない。


 選ばれなかった髪飾りを魔法収納に仕舞い、テーブルとして生成した岩を道端に寄せる。


「じゃあ、出発するから。みんな、元気で!」


 幼馴染たちの見送りの言葉を受けながら、俺とガッドは王都トトサンテへと旅立った。


  ★  ★  ★


 周囲を木の柵で囲まれた都市、トトサンテ。町並みは東西に長く伸び、西の端には石の壁に囲まれた王城が(そび)える。


 今、俺たちの目の前には、大きな木製の門があり、その隣に門衛の詰め所がある。


「なあ、ガッド。黙って通ってもいいんだよな?」


「ああ。神父さんに習っただろ? トトサンテは入都税を取っていないって。だから素通りできるはずだぜ」


 一応、両親からは成人祝いと旅立ちの資金として金貨を十枚もらったし、元々二枚持っていたから全部で十二枚ある。だから、お金がない訳ではない。

 なお、ガッドがもらったのは金貨五枚だったらしい。

 俺、いろいろ稼いだからね。その分多めにもらえたんだろう。


 俺たちは堂々と門をくぐる。途中、門衛はちらりとこちらを一瞥(いちべつ)し、すぐに興味なさそうに門の外へと向き直った。


 門を通ると、すぐの所に木造三階建ての宿屋が建っている。

 そして、真っ直ぐ伸びた大通りを北に向かって進んで行くと、服屋や雑貨屋、それに薬屋などいろいろな商店が並んでいる。


 ガッドは興味深そうに町並みを観察しながら歩いている。いかにもおのぼりさんといった感じだ。


「なあ、この真っ直ぐ続く大通りは、北門まで続いているのか?」


「俺も初めて来たからよく分からないけど、そんな感じだね」


「細い路地に入り込んで迷子になっても、大通りに出れば安心だな!」


 その後も、ガッドは商店の配置とか人の流れについてなど、いろいろなことに興味を持ち、持論を展開していった。


 露店が並ぶ中央広場は、東西南北の大通りが交差する場所で、たくさんの人で(にぎ)わっている。

 東門には隣国エセルナ公国の国都エグレイドへと移動できる転移石があり、東方向に伸びる大通りが一番人通りが多い。

 ここリリク王国とエセルナ公国との境には雲より高い山脈が連なっていて、事実上、転移石を使わないと国境を越えられない。


 中央広場を北方向へ通り抜けると、周囲の建物が木造なのに対して、ひときわ大きな石造りの建物の前に辿り着いた。ここが冒険者ギルドと呼ばれる建物だ。


 カラン。


 木製の扉を開けると、ベルのような物が鳴る。


 ホールの正面には受付があり、その隣に掲示板のような物がある。ホールの右側は酒場のようになっていて、ちょうど昼時ということもあり、食事をしている冒険者らしき者が数人いる。


 俺たちは冒険者になるためにここに来たので、受付らしいカウンターに行く。

 そこには、銀色の髪を向かって左側に束ねた女性が座っている。


「あら、初めてのご利用ですか? 私、受付のサテラです。なんなりとご用件をお申し付けください」


「俺たち、冒険者になりたいんだ」


「まあ、冒険者登録ですね。分かりました。では、こちらに名前と出身地を記入してくださいね。もしよろしければ代筆もしますので、お気軽にお申し付けください」


 そう言うと、記入用紙を差し出してきた。

 少し目の粗いザラザラした紙だ。備えつけてある万年筆のようなペンで必要事項を記入して行く。


「記入が終わりましたら、こちらに手をかざしてください」


 用紙をサテラさんに渡し、いつの間にかカウンターの上に置かれた水晶玉のような球体に手をかざす。


 すると、その球体から色とりどりの光が発せられる。


「うわっ」


 思わず声を上げてしまった。


「あら、魔法の素質がありますね。えっと……。赤、青、緑、黄、茶」


 サテラさんは一つ一つ、指折り数えている。


「まあ! 驚きました。パンダさんは、火、水、風、雷、土の五つの属性の魔法が使えます。私、五つも使える人は初めて見ました! 他に、この魔道具で判定できない無属性魔法も使えるでしょうし、凄いことですわ!」


 どうやら、球状の物は、魔法の素質を調べる魔道具のようだ。

 興奮気味に魔法関係の説明が続けられ、それを聞き終えると、待っていたガッドがその魔道具に手をかざす。


「うー……」


 ヤムダ村で魔法を習得できなかったことから予想できたことだけど、やはりガッドが手をかざしても魔道具は光らなかった。


「あら、ガッドさんは魔法を使えませんね。剣や弓などでがんばってくださいね。体が資本ですから無理をなされずに」


 サテラさんは、球状の魔道具を大事そうに奥に仕舞うと、銀色のカードのような物を差し出してきた。


「これで登録は完了です。これは冒険者カードと言って、皆様が冒険者であることを証明する大事な物です。常に身に着け、なくさないようにしてください。再発行には金貨一枚の費用がかかります」


 よく見ると、カードの表面には「パンダ・クロウデ LV3 ランクF」と書いてあった。


 ん? レベル3? あの球状の魔道具は、魔法の素質を調べるだけでなく、レベルなどの個人情報も吸い出していたのか……。

 そして、レベルが3なのは意外だった。まだ一回、三体の魔物としか戦った経験がなく、そんなに早く上がるものなのか、と。


「今日初めて登録されましたので、お二人の冒険者ランクはFということになります」


 冒険者ランクはS、A、B、C、D、E、Fの七段階あり、依頼を達成するなどして冒険者ギルドへの貢献度を上げていくと、冒険者ランクが上がると言う仕組みだそうだ。

 依頼にはランク指定があって、受けられるのは、指定の冒険者ランクの者か、それより二段階上の者までということになっている。


 ただ、これには抜け道があって、パーティを組んでいれば、そのリーダーが指定のランクであれば、それ以外の者は低ランクでも依頼を受けられる。それで死亡しても、あくまでも、自己責任ということだ。


「あらあら。早速依頼をご紹介したい所なのですが、お二人のご出身がヤムダ村ということであればお分かりのように、ここトトサンテ周辺では魔物はほとんど発生しません。ですから、ここでは、近隣の町や村からの依頼を皆様に紹介するのが基本となります」


 王都トトサンテの冒険者ギルドには、冒険者に成りたての、ほぼ村人と言っていい状態の俺達に受けられるような依頼はほとんどないそうだ。


「初めての皆様には、北に二日ほどの所にある、クレバーの町を紹介しています」


 ここリリク王国の北側は、フルッコの森と呼ばれる広大な森に覆われていて、そこでは奥まで入らなければ、低級な魔物しかいないため、安全にレベルを上げられるとのことだ。


 クレバーの町は、フルッコの森に出向く冒険者たちのために、わざわざ森のすぐ隣に建設された比較的新しい町で、商業都市であるトトサンテよりも、冒険者に必要な武器・道具などが揃い易いと言う。


「えーっとですね、十分な経験を積まれましたら、またここトトサンテに戻って頂いて、依頼を受けて頂けると助かります」


 フルッコの森ではレベルは上げやすいが、得られる貢献度は小さく、冒険者ランクは上がりにくい。それに対して、トトサンテの依頼は貢献度が大きい物が多く、冒険者ランクを上げ易いとのことだった。


 ガッドと相談した結果、俺たちは勧められた通りクレバーの町へ行くことにした。ただ、ガッドの強い要望で、今日はここトトサンテを見て回り、明日の朝の乗合馬車で移動することになった。


 冒険者ギルドを出て、まず、中央広場へと向かう。


 そこにはいろいろな露店があり、多くの人で賑わっている。

 俺たちは、肉の串焼きと固いパン、それと果物を幾つか買い込み、食べながら町を歩く。


「やっぱり、塩味だけの肉だね。少し懐かしい感じがするよ」


 俺が料理を始めるまでの間、ヤムダ村でお世話になっていた味だ。


 ちなみに、俺の優しい口調は転生前の記憶のものではなく、元々パンダが使っていた口調だ。

 転生前の記憶があることがばれないよう、前世の口調ではなくパンダの優しい口調を意識して続けていたから、今でも優しい口調で話すことが多い。


「ああ、この硬いパンもな……。アゴが疲れるぜ」


 噛みついてアゴを押さえながらパンを引き千切るガッド。噛むのも一苦労だ。


 愚痴をこぼしながら、大通りから外れた細い路地を歩いて行く。リリク王国で一番の大都市なだけあって、細い路地にも商店があるけど、人通りは極端に少なくなった。


 隠れた名店とかがあるのだろうか。

 そんなことを思いながら歩いていると、少し先の家の軒下に座り込んでいる、汚れた服を着た子供がこちらをじっと見ていることに気づいた。


 よく見ると、視線の先は……ガッドが手にする肉の串焼きのようだ。愚痴をこぼすくせに三本も買ったから、まだ二本を手で持っている。


「あの子、お腹がすいているのかな?」


「そ、そうだな……」


「そこの君、これ食べるかい?」


 俺は、魔法収納から果物を取り出すと、しゃがんで子供に声をかけた。


「……!」


 子供は、恐る恐る近寄ってきて、俺の顔と果物を交互に見る。


「どうぞ」


「も、もらってもいいの?」


 俺は(うなず)いて見せる。


「し、仕方ねーな、これ食えよ」


 ガッドはしぶしぶ、手に持った肉の串焼きを差し出した。


「お兄ちゃんたち、ありがとう! 僕、リックって言うんだ。お兄ちゃんたちは?」


「俺はパンダ」


「ガッドだ。よろしくな」


「パンダさんとガッドさん。僕、一生忘れないよ」


 そう言うと、汚れた服を着たリックは食べずに歩きだした。


「お? 食べないのか?」


「お姉ちゃんにも分けてあげるんだ」


「そうか、じゃあ、姉ちゃんと仲良く分け合うんだぞ」


「うん」


 肉が冷めないうちにと、リックは急いで裏路地へと駆けて行く。

 ガッドは微笑みながら、手を振ってその姿を見送る。


 恐らくリックは孤児だ。そして、俺の魔法収納にはたくさんの食料が入っている。もっと恵んであげたいけど、それじゃあ根本的な解決にはならない。今日お腹がいっぱいになっても、いずれまた、同じようになるだろう。


 だからといって、俺たちが連れて行く訳にもいかない。まだ冒険者として登録しただけで収入すらないのだから。


 ガッドはその辺を理解していて、深入りしないようここで見送ったのだろう。世知辛い世の中だけれども、今の俺たちではどうしようもない。


「俺さ、冒険者で稼いだら、ああいうお腹を空かした子供たちを、たらふく食えるようにしてやりたいんだ」


「そうだね。きっと、俺たちでなんとかしよう」


 やるせない気持ちを胸にしまい込み、将来の目標として置き換える。


 それから少し町を見て回り、ヤムダ村にはない茶葉専門店やこじゃれた衣料店、やたら品揃えのある雑貨店など、少々の散財を交えて、王都巡りを満喫した。


 あっという間に時間が経ち、日が沈んできたので大通りに戻り、宿屋へ向かった。冒険者ギルドのサテラさんに教えてもらった、普通クラスの宿屋だ。駆け出しなのに安宿じゃなくっていいのかと念を押されたけどね。

 そこは普通の木造の宿で、今さらながら、くつろぎ亭の大理石風の増築はちょっとやり過ぎたかも、と思った。


 今夜はここに泊り、明日の早朝に乗合馬車に乗ってクレバーの町へと向かう。


 チェックインして、早速部屋に入る。


「なあ、クレバーの町って、冒険者がいっぱいいるんだよな。じゃあ、いろんな武器を売ってたりするんだよな? な?」


 ガッドは、まだ見ぬクレバーの町についていろいろ想像して、楽しそうだ。


「あははは、ガッドは気が早いなあ。到着までに二日かかるんだよ。そっちの心配もしようよ」


 馬車に長時間乗ると、お尻とか痛そうだしね。


「そうだな……。途中、魔物が現れても、俺がぶった切るぜ!」


 おいおい、へんなフラグ立てないでくれよ。


 他愛もない話をしつつ、夜は更けていく――

お読み頂き、ありがとうございます。

設定に使用した地図に手を加えて、掲載してみました。

今後も、主人公の行動に合わせて、ときどき掲載する予定です。

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