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051 ジドニア獣国~獣都フデン(地図)

挿絵(By みてみん)


 以前よりも調子の上がっているレイナと共に、俺たちはルブランの村を発って、ジドニア獣国の獣都フデンにやってきた。

 門の前で、まず、入都税が銀貨五枚なのに驚かされる。

 他の町だと、せいぜい高くても銀貨三枚だったから、強気の設定だ。よっぽど治安に力を入れているのか、それとも、それを払ってでも手に入れたい交易品があるのか。


 五メートル以上ある高さの壁に備えられた門をくぐると、すぐに広場が広がっていた。

 中央には、水を蓄えた池のような施設があり、その周辺のベンチにはくたびれた服を着た獣人が両手で頭を抱えるように座っていたリ、仰向けで寝そべっていたりしている。


 広場に隣接する建物は皆、石造りなんだけどその造りは荒々しく、武骨な感じがする。

 その建物の周りにも、座り込んだり寝そべったりする獣人がいて、なんだか街中に活気がない。


「獣人って、もっと活発で街中でも力自慢とかしてそうなイメージなんだけどね……」


 ルブランの村の獣人は、皆元気だった。

 でも、見える範囲にいる獣人は、とにかくやる気がないようで、ただただ、だらけている。

 目の前をハエが飛び回っていても、気にもしない。

 牛だったら、尻尾でペシッってやるのにね。猫尻尾でペシッとやらないのかなあ。


「これだと、宿屋が営業しているか、微妙だな」


「エル様ぁ、野宿は嫌ですよー」


 俺たちの他に旅人や商人といった感じの人はいない。

 外から来る人がいなければ、確かに宿屋は営業していないかもしれない。

 宿屋を探して彷徨(さまよ)っていると、


 どんっ!


 後ろから走ってきた犬獣人の子供が俺の背中にぶつかって、一瞬抱きつくようにして、そのまま走り去って行った。


「なんなんだ? 元気がない人ばかりかと思えば、走ってぶつかってくる子供がいるし……」


「おい、パンダ。今のはスリじゃないのか? 財布は大丈夫であるか?」


 獣人の町ということで、チャムリは姿を現している。

 チャムリが心配するように、通常はポケットや携帯袋に財布を入れるものだけど、魔法収納があまりにも便利なので、俺はポケットに財布を入れることはない。

 だから、ポケットには、何も盗られるような物は入れていない。


「盗られるような物はないから、大丈夫だよ。全部、魔法収納の中に入れてあるんだ」


 そんな会話をして歩いていると、鎧を着こんだ犬の獣人がやってきて、俺たちを(いぶか)し気な目で見る。


「私はフデン治安隊の者だ。君たち、詰め所まで来てもらおうか」


「俺たち?」


 俺たちは町に入ったばかりで、何も悪いことはしてない……。

 けれど、逆らっても何もいいことはない。

 衛兵に連れられて、詰め所に足を運んだ。


 中に入ると、木の机の向こう側には、両手を組んで偉そうにやや(あご)を上げて座っている猫の獣人がいた。


「よそ者は、最初っから怪しいんだニャ。まったく」


 猫の獣人は椅子から立ち上がると、顔を斜めに寄せ「さあ、出せニャ。盗んだ物を出すのニャ。ああ?」と脅しにかかる。


「私たち、何も盗んでなんていないわ」


「お嬢さん、嘘を言うのはお止めなさいニャ。(あらた)めさせてもらうニャ」


 猫の獣人がそう言うと、犬の獣人が俺たちの服をまさぐり始めた。


「隊長、ありました!」


 大きな声と共に、俺のポケットの中から、ピンク色の宝石のついたネックレスを取り出す。


「それは?」


「何をとぼけているのニャ。ブツが見つかった以上、お前らは窃盗の犯人だニャ」


 今日、犬獣人の夫人から盗難の連絡があって、衛兵が犯人を捜していた所に、珍しく人族を見つけてしょっ引いてきたというのが今回の経緯らしい。


「俺、さっきこの町に来たばっかりだし、何も盗んでなんかないよ。門衛に聞いてみたら?」


「ニャーっ! この期に及んでまだ言うかニャ。ここにブツがあるのニャ、ブツが」


「だって、本当に俺知らないもん」


「おいパンダ。さっきぶつかってきた子供が、それをポケットに入れたのである」


 チャムリの言葉に、先ほどの出来事を思い起こす……。

 確かに、あのぶつかり方は不自然だった。


「チャムリの言う通りだ! さっきぶつかってきた子供が入れたに違いないよ!」


 犬の獣人が顎に手を当てて首を(かし)げる。


「隊長、この者たちの言い分に気になる部分があります。門衛に尋ねてきますので、それまでは牢屋に入れておきます」


 俺たちは結局牢屋行きとなった。


「なんで私たちが牢屋に入らないといけないんですか! チャムリ、言ってきてくださいよ!」


「ユーゼ。今、衛兵が門衛の所に聞き込みに行っているのである。盗難の知らせよりも吾輩たちの方が後に町に入ったと証明されれば、すぐに解放なのである」


「いや、チャムリ。そうは簡単には行かないかもしれない。実際に盗品を所持していたんだ。後から町に入っても、受け渡し役の窃盗団の一味だと疑われても仕方がないさ」


 しばらくして衛兵が戻ってきた。しかし、すぐには解放されなかった。

 エルバートの推測が当たったのだ。


 犬の獣人が俺を牢から出して、俺の背中やポケットの匂いを嗅ぐ。


「確かに、ここにも盗品と同じ第三者の匂いが残っている。他に実行犯がいるな……。おい、お前。自分が白だと言うのなら、実行犯を捕まえてこい。顔を見たんだろ?」


 そう言うと、俺の首に首輪のような物を取りつけ、背中を押す。


「仲間は人質として預かっておく。もし、お前だけ逃げようとしても、その首輪があれば、すぐに居場所を特定できる。つまり、逃げることはできない。おとなしく実行犯を連れてくるんだな」


 衛兵って、犯人を捕まえる職業じゃないのか?

 犯人が他の犯人を連れてくるなんて、普通考えられないけどね。

 それとも、以前エルバートが言っていた、この国の獣人は人族と仲が悪いことに起因しているのか? 人族を(かば)う目的で獣人を捕まえる気はない、とかね。


 俺は一人で詰め所を出て、俺にぶつかってきた子供を探す。

 魔法で探せないかな?


「サーチ」


 対象を犬獣人の子供にして魔法を発動した。

 ミリィの魔法だと魔物しか探せないけど、俺の場合、探索の対象を細かく切り替えることができる。


「結構いるね……」


 表通りを一通り探し、裏路地に差し掛かる。

 あいつだ! あの背丈にあの服。間違いない!


 子供も俺の接近に気づいて走り出す。

 すばしっこくて、なかなか追いつけない。

 レベルが上がって体力は上がったけど、走る速度はそれほど上がっていない。


 路地を右へ、左へ。

 このままだと逃げ切られてしまう。


「ウインド・ブラスト!」


 仕方なく、怪我しない程度に弱めた魔法で転ばせて、子供を捕まえる。


「はなせよ! 人族が俺に触んな!」


 周囲の冷たい目が気になるが、暴れる子供をロープで縛って詰め所に連れて行く。


「連れてきたよ」


 犬獣人の衛兵に子供を差し出すと、


「お、お前はヌッフンさんの所の子じゃないか!」


 そして、子供の匂いを確かめ、「隊長、この匂いは間違いありません!」と猫獣人に報告する。


「こ、これは困ったニャ。ヌッフンの息子よ……」


「俺はムースだ」


 この後、取り調べの結果、ムースが母親のネックレスを売って金にしようと目論んでいた所、たまたま通りかかった人族が目について、犯行を思いついたそうだ。

 大嫌いな人族を盗人にすれば、牢屋行きだ。これで町をうろつかなくなる。

 本当に行き当たりばったりの、計画性もない犯行だった。


 どうしてそこまでして人族を嫌うのか。

 それは――

 数年前に旅の人族がダイダム山脈に入り込み、何かを調査していた。それは銀やミスリル鉱を産出する鉱山内にもおよんだ。

 その調査が終わってすぐに、鉱山に魔物が現れるようになった。

 獣人たちは何度も魔物に挑んだが駆逐することはできず、鉱山は閉山に追い込まれた。

 獣都フデンに住む者の多くは、鉱山で働き、または鉱石の運搬、銀やミスリルの武具を目当てで来る商人への商売で生計を立てていた。

 突然の鉱山の閉鎖により仕事がなくなり、獣人たちは貧困にあえぐこととなる。

 すべては、鉱山に立ち入った人族が原因だ、人族は敵だ――獣人たちの心に深く刻み込まれることとなった。

 そして、領土問題などで元々人族と険悪な仲だったことに輪をかけて、人族を嫌うようになる。


「人族が大嫌いなムースが、人族と組んで窃盗をするとは思えないニャ」


「隊長、それでは……」


「嫌疑不十分だニャ。釈放ニャ」


 レイナたちが牢屋から解放され、連れてこられる。


「まったくもう、失礼なんだから」


「パンダ君が犯人を捕まえてくれたんだよ。もう、私たち大丈夫だよ」


 ご立腹のレイナにミリィが(なだ)めるように話しかける。


 そういえば、ルブランの村で何かもらわなかったっけ?

 友好の証とか言ってたような……。


「これだ! これをかぶれば、少しは風当たりが良くならないかな?」


 魔法収納から、ルブランの村でもらった「ケモミミ帽」を皆に渡す。

 それぞれ名前が入っているので、間違えないように注意だ。


 皆で「ケモミミ帽」をかぶると、隊長と呼ばれる猫獣人が、雷に打たれたように目を大きく開いて固まった。


「そ、それは、ケモミミ帽ニャ? ニレーチャ殿の?」


「隊長、間違いありません。これはニレーチャ殿の作品です!」


「これは失礼したニャ! ほら、お前も謝るのニャ!」


 犬獣人が帽子の匂いを嗅ぎ、ニレーチャが作った物だと言うと、隊長の猫獣人はいきなり土下座を始めた。

 突然の展開についていけない俺たちに、隊長の猫獣人が説明してくれる。


「ケモミミ帽はニャ、獣人が最上級の感謝を込めて贈る品ニャ。多大な功績を認める物だからニャ、獣人にはそれをかぶる者を敬う義務があるのニャ」


 なんか「ケモミミ帽」のトンデモ効果がカミングアウトし、果たしてこれをこのままかぶり続けても良い物かという疑問が頭をよぎる。

 でも、かぶっていないとまた犯罪に巻き込まれるかもしれない。

 嫌われて損するより、敬われる方がいい。

 この町では「ケモミミ帽」をかぶったままでいよう、という結論に至る。


 俺たちはこのまま詰め所から解放となった。

 真犯人のムースって子供は、この後両親が呼び出されて、しこたま怒られることになる。 

 そして、子供のいたずらということで、この件は落着となる。


 詰め所を出て、改めて宿屋を探すべく町中を歩いていると、ミリィが何かを発見した。


「あそこに子供が座り込んでいるの」


 周りより大きめの建物の入り口の階段で、虎柄耳の子供がぐったりとした様子で(うつむ)いている。

 ミリィは気になって傍まで行き、声をかける。


「坊やは、どこか調子が悪いの? よかったら、回復魔法かけてあげるよ?」


 ミリィの優しい声に、虎獣人の子供がその疲れたような顔を上げ……、はっとしたように表情を変える。


「そ、その帽子!」


 帽子に目が行き、それと同時に「ぐぅ~」という音がお腹の方から鳴って会話を邪魔する。

 顔を赤らめた子供は、お腹を押さえる。


「お腹がすいているんだね。これをあげるよ」


 俺は魔法収納からチーズケーキを取り出し、子供に差し出す。


「いいの?」


 輝く目で俺を見つめ、俺が(うなず)くより先に、かっさらうように掴んで食べる。


「う、うめぇ! こんなうまいもん食ったの初めてだ!」


 ミリィが回復魔法をかけるまでもなく、元気になった子供は立ち上がり、


「なあ、兄ちゃん。こんなうめぇもん父ちゃんにも食わせてやりたい。いいだろ?」


 有無を言わさず、俺の手を引いて家の中に引き入れようとする。

 大きめの扉を開くと、絨毯(じゅうたん)が敷いてある廊下になり、ここは貴族の邸宅ではないかと詮索しながら歩く。

 ただし、花瓶とか絵画などはない。質素な廊下だ。


「父ちゃん! いるか!?」


 突き当りの扉が開け放たれると、ホールのような大きな部屋が目に入り込む。

 左右に親衛隊とかが立っていれば、お城の謁見室にも見える広い空間。

 そこにいるのは、ただ一人。

 中央奥に玉座のような椅子があり、そこに(いか)つい顔の虎の獣人が座っている。肩幅が広く、体中の筋肉がモリモリと盛り上がっている。力持ちなんだろう。


「おう、ワックス。客人か?」


 俺を(にら)むような眼で見て、それから視線が帽子に行き、優しい目に変わる。

 こんな所でも「ケモミミ帽」の効果が発揮される。


「これはお客人、何か御用かな?」


「違うよ父ちゃん! 兄ちゃんがうまいもん持ってるんだ。兄ちゃん、出してくれよ!」


 俺は魔法収納からチーズケーキを取り出して父親に渡す。

 父親は皿を鼻先に近づけて匂いを嗅ぎ、一瞬、眉を上げたかと思うと、一口で平らげた。


「う、うめぇ! こんなうめぇもん、生まれて初めて食ったぜ!」


 似た反応をするのは親子だからか。


「さっきまで空腹で目が回りそうだったけどよ、元気が湧いてきたぜ!」


「父ちゃん、すげえだろ? な?」


 親子ではしゃぎだす。

 獣人は全般的に無邪気なのか、それともこの親子だけの特徴なのか……。

 治安隊の衛兵はしっかりしていたことを思い出し、無邪気なのはこの親子だけのことだと思い直す。


「客人、礼を言う。俺たち貧乏でな、一日一回しか飯が食えんのだ。息子のワックスには腹いっぱい食わせてやりたいが、先立つ物がなくてそれもできん」


「よければ、一食、提供するよ」


 テーブルと料理を出し、親子に勧める。

 親子は遠慮もなく飛びつくように食事に手を出し、「うめぇ」とか「ありがてぇ」とか言いながら、あっという間に完食する。


「俺はパメイド・ギリングス。この国の王だ。王と言っても城を売り払い、最小限の人員でやり繰りするのがやっとな腐れ王だがな。ガハハハ。実のところ、一日一回の飯だと、腹が減ってどうしようもないのだ。主要な産業が廃れて――」


 この人、王様だったのか。

 確かに、詰め所の向こうに城があったから、普通、こんな邸宅に王様がいるなんて想像できない。

 しかも、ここには王様以外、誰もいないしね。

 貧乏な理由は、詰め所で聞いた話と同じだった。鉱山が閉鎖され、収入が途絶えたこと。


 最後に強調するように、「王城なぞ、チャーリンの奴に売っぱらってやったわ! ガハハハ!」と、もう一度王城について付け加えたことが印象に残る。よほど悔しかったのだろうね。


「王陛下とは知らず、とんだご無礼を致しましたこと、謝罪致します」


「よいよい、(かしこ)まるな! この国じゃあ、身分なんて関係ねえ。実力がすべてだ。お前は俺が感服するような素晴らしい料理を提供してくれた。そう、お前には実力があるのだ。だからお前は俺と対等だ。分かったな!」


 よく分からない獣人の理論を語る王様だけど、村育ちの俺は敬語とか苦手だし、これは助かる。


「分かったよ。俺は冒険者パーティ、ローズ・ペガサスのパンダ・クロウデ。俺たち、明日ダイダム山脈に向かうんだけど、鉱山の方も見てこようか?」


「おお! 客人は料理人ではなかったのか! 冒険者だったのか! 鉱山を調査してくれることに否はない。是非、頼みたい」


 鉱山に蔓延(はびこ)る魔物はゴーレムで、剣の攻撃が効かない。

 ゴーレムには魔法はある程度効果がある。しかし、数が多いため最奥部までマナが持たない。

 そのため、何組かの冒険者が挑んだんだけど、いずれも失敗に終わっている。


 当初用意できた鉱山調査の報奨金も、支出だけで収入のない今となっては用意できない。

 交渉の結果、報奨は今回の調査においての、自由に鉱石を採掘する権利となった。

 冒険者ギルドを通しての依頼となる。


 パメイド王が書類を書き、ワックス王子が冒険者ギルドに走って行った。

 俺も謁見の間から出て、レイナたちと合流する。

 俺の独断で依頼を受けることにしたけど、困っている人を助けるのが趣味のレイナとエルバートのことだから、快く受け入れてくれるはずだ。

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