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032 エルバートとユーゼ~旅立ち(地図)

前半は第三者視点、

後半はエルバート視点です。

挿絵(By みてみん)


 ラウニール王国。

 その中央北端には白く美しい城がある。周囲を高い山々に囲まれ、難攻不落と(うた)われるこの城はラウニール王の居城で、正式名称をランハード城と言うが、白鳥が羽を広げたような外観から国民は親しみを込めて白鳥城と呼んでいる。

 年中温暖なこの国では、白鳥が見られるのはごく一部の地域だけなのだが、その珍しい鳥を城のモチーフにすることで、内外にラウニール王の威厳を見せつけることに成功している。


 白鳥城の大ホールでは、ラウニール王国の隅々(すみずみ)から招かれた貴族たちが、透明度の低いグラスを手に歓談している。

 城下町である王都ヴィーノからは豪商も招かれており、こちらは貴族たちとよしみを通じようと手をすり合わせて貴族に群がっている。


 ここでは、第一王子の成人を祝っての、盛大なパーティが開かれていた。


 一段高くなっているメインテーブルには、国王と王妃の他、青と白を基調とした騎士服を着た、整った顔の青年が席についている。

 次から次へとひっきりなしに祝辞を述べに来る貴族やその子女たちに、ややカールしたブロンドヘアを揺らして笑みを見せ続けている。

 この青年、第一王子エルバートは、顔には出さないが、内心、辟易(へきえき)としていた。


 そんな押し寄せる祝辞の波が一段落し、前方の人垣が幾分か緩和された頃。エルバートは会場の中央を見据え、腰の辺りに添えていた手をテーブルの上へと持って行く。


 ――そろそろ、決意を述べる頃合いか。


「皆の者。歓談中ではあるが、僕の決意を聞いて欲しい」


 エルバートが立ち上がって声を発すると、会場は静まり返って行く。


 皆の視線を十分に集めたとき、右腰の携帯袋から青く輝くオーブを取り出し、高く掲げる。

 すると、会場中の目がそれに集まる。


「オーブ輝く時、厄災(やくさい)の兆しあり!」


 そして、オーブを胸元に寄せて続ける。


「勇者の証が、僕を選んだ!」


 すぐに会場中がざわめき出す。

 会場に集まっている者のほとんどが、オーブが輝くということは単なる伝承だと思っていて、実際に輝くとは夢にも思ってもいなかったからだ。


「おお、オーブが輝いているぞ!」

「伝説の勇者の再臨だ……」


「アマンフォード卿。厄災とは一体?」


「ニコル将軍。それは魔王の復活のことであろうな」


 アマンフォード伯爵はこげ茶色の髪を肩の辺りでカールさせていて、口髭の先端もカールしている、色白で腕力のなさそうな文官だ。

 それに対して、ニコル将軍は茶色の短毛で、肉付きの良い(たくま)しい武官だ。


「魔王ですと? それは不吉ですな。伝説の勇者の時代にここラウニール王国が一度滅んだのは、魔王の仕業でしたかな?」


「そうであるな。そして王都に蔓延(はびこ)る魔王軍を駆逐し、ラウニール王国を再興したのが、伝説の勇者ブリカン・サンモニグ殿であるな」


 エルバートは伝説の勇者ブリカン・サンモニグの子孫だ。

 勇者ブリカンは、滅亡したラウニール王国を再興し、国王となった。その際、途絶えた王家の名を継いで、ブリカン・サンモニグ・ラウニールと名乗るようになった。


 魔王軍の侵略によって王都が陥落するということが二度と起きないよう、現在のように周囲を高い山々に囲われる場所へと遷都し、難攻不落の白鳥城と言われるようになったのだった。


 しばらく待って、エルバートは続ける。


「僕は言い伝えに従い、魔王を倒す旅に出る」


「おおぉ!」


 会場中からどよめきが起こる。中には「そんな! エルバート様、行かないで!」と叫ぶ女性の姿も。

 かつて国を滅ぼしたと言われる魔王軍。それに立ち向かうことが困難であるということは、誰もが思うところだ。


 エルバートは力を込めて叫ぶ。


「必ず、魔王を倒してくると誓おう!」


「勇者様、万歳!」


 誰かが叫び、それにつられるように「勇者様、万歳!」と会場中が熱狂する。

 エルバートは強い決意の目で来場者を見渡すと、拍手喝采に包まれながら、退室して行った。


 数日後。精鋭三人を連れて、エルバートは旅立った。


  ★  ★  ★


 魔王を倒すとは言ったものの、海の向こう、遥か西の彼方(かなた)にあると言われる魔大陸に上陸する手段はない。


 海上では大型の魔物が出没し、安全が確認されている海域しか船は運行されていない。そもそも船の上で大型の魔物と戦ったとしても、船が破壊されてしまい、航行できなくなることが予想される。


 ここアルカディア大陸と魔大陸との間にある砂漠大陸までなら、船は運行されている。しかし、そこに行くには、北のベイム帝国の港へ行く必要がある。

 ベイム帝国はラウニール王国と長年敵対関係にあり、ラウニール王国の王子である僕が名前を偽って国境を越えたとしても、いつそれが発覚するかもしれず、終始身の危険を案じていないといけなくなる。


「エルバートよ。旅立つにあたって、まずは、賢者リョウメイ殿を訪ねるがよかろう」


 旅立つ前に、王から賢者リョウメイに会いに行くことを勧められていた。


 賢者は代々、その記憶と知識を引き継いでいるという。

 きっと、賢者の知識があれば、魔大陸に行く手段が何か見つかるはずだ。

 その際、王の勧めの通り、賢者リョウメイ殿に宛てて手紙を送った。賢者の(いおり)は遠い所にあるが、マジカルレターを使えば、一日もあれば届く。


 王都ヴィーノを出て、一カ月のことだった。

 ようやくダイダム山脈の(ふもと)にある、賢者の庵に辿り着いた。


 精鋭たちには外で待ってもらい、僕だけが庵を訪ねる。


 扉をノックし、訪問理由を告げる。


「賢者リョウメイ殿。エルバートが夫子(ふうし)の知恵を授かりたく、参上しました」


「王子、ようこそおいでくださった。リョウメイじゃ。大きくなったのう」


「突然の訪問、失礼します」 


 マジカルレターの魔道具は王城に置いてあるから、旅立ってからは、連絡を入れていない。この辺りは魔物が多いため、先触れを出すこともしていない。だから、訪問そのものは突然という形になる。


 リョウメイ殿に最後に会ったのは、僕が小さい頃で、王と懇意なリョウメイ殿は何度か王城へと足を運んでいた。近年は老齢のため、遠くにある王城に顔を出すこともなくなり、僕の成人の儀には出席されなかった。

 改めてリョウメイ殿の顔を見ると、記憶の物よりずいぶん老けたように見える。


 ラウニール王国において、賢者はその膨大な知識ゆえに人々から敬われる存在で、王族と同等の地位にある。それでも、ご年配を敬う気持ちで接することが肝要だと僕は思っている。


「こちらへどうぞ。人里離れた庵ゆえ、たいしたおもてなしはできませんがな」


 案内された部屋には、板を繋いだだけの簡素なテーブルと、その周囲に切り株が四つあった。

 勧められるまま、切り株に腰かける。


「数年前、賢者の大役を息子に引き継いだゆえ、ワシはただの隠居爺、と言いたいところじゃが、息子は修行の旅に出ておらんのじゃ。よって、隠居賢者がお話を伺いまする」


 お茶を入れながらではあるが、話が始まる。


「それでは改めまして、リョウメイ夫子(ふうし)。先日、勇者の証が輝きました」


「うむ。厄災の兆しあり、じゃな」


 ここで、「よっこらせ」と、リョウメイ殿が切り株に腰かける。


「それで、魔王の討伐に向かいたいのですが、魔大陸へ行く方法を教えて頂きたいのです」


「うむ……」


 リョウメイ殿は、顎髭(あごひげ)(さす)りながら、賢者の知恵を紐解いている。


「分かっておることは、勇者が集うことで何処(いずこ)かにある転送石が作動し、魔大陸へと移動できたということぐらいじゃな」


「勇者が集う?」


「そうじゃ。今も昔も勇者は一人ではない。勇者が力を合わせることで、乗り越えられる困難もある」


 窓の外を見やり、こちらに視線を戻す。


「外で待っておる彼らでは、勇者の代わりにはならんじゃろう」


「それでは、僕はどうすればいいのでしょうか?」


 リョウメイ殿はお茶を口に含み、ゆっくりと目を閉じて再び見開く。


「代々伝わる星占いの儀式で分かっておることは、世界の命運を握る者が八人、この世に生を受けておるということじゃ。もちろん、そのうちの四人は伝説の勇者の末裔(まつえい)であろう」


「伝説の勇者の末裔の他にも、世界の命運を握る者が……。その人たちに会うには、一体どうすれば?」


「星占いでは、残る者たちは、王子と同じ年に生まれていることまでしか分かっておらなんだのじゃが、あまりにも身近な所で一人、判明したのじゃ……」


「そうですか。では、その分かっている一人にお会いすることはできるのでしょうか?」


「うむ、そうじゃな。ユーゼ、来なさい」


 奥の方から、女の子と、白い羽の生えた茶色の猫のような生物がやってきた。この生物は、先端に星を(かたど)った装飾のあるスティックを手にして、二本足で歩いている。


「この子は、不肖ながら大賢者の天命を持つ、我が孫での。数年前に、その才覚が現れおった」


「ユーゼ・エイトテイルです。エルバート様、よろしくお願いします」


 お辞儀に合わせ、栗色のポニーテールが揺れる。


「これはユーゼさん、ご丁寧に。僕はエルバート・サンモニグ・ラウニールです。よろしくお願いします」


「旅の仲間となるのです。私のこと、ユーゼとお呼びください」


「ユーゼ、そうするよ。僕のこともエルバートと呼んでくれるかい?」


「エル様」


「ははは、『様』は無しでお願いするよ……」


「おい、エルバート!」


 なんと、猫のような生物が人語を話すとは!


「ユーゼはな、ずいぶん前、手紙が来た日から夜な夜な、『エル様~』と呼……、ごぶっ」


 猫のような生物は、ユーゼの(こん)に殴られて飛んで行き、頭から壁にめり込んでしまった。


「エル様。チャムリは時々こういう冗談を言うんですよ。気にしないでくださいね」


 猫のような生物は冗談も言うのか。

 ユーゼは「うふふ」とほほ笑んでいる。


「まずは、伝説の勇者の末裔に会うため、西に向かうがよかろう。ムートリア聖国の王家は、伝説の勇者の末裔であるしな」


「分かりました。早速、ムートリア聖国へと向かいます。リョウメイ殿、ありがとうございました」


「エル様、行きましょう」


「まあ、待て待て。ユーゼ、ワシからの餞別(せんべつ)じゃ。受け取れ」


 リョウメイ殿は、背中に背負うカバンのような物をユーゼに渡した。

 それを背負うと、そのカバンは何故か見えなくなる。

 不可視の機能のついた収納カバンなのだろうか? それとも、先史文明遺産?

 いずれにせよ、珍しい物だ。


「収納の魔道具じゃ。当面の旅に必要な物は、粗方(あらかた)入れてある」


「爺様、ありがとう」


「ふぉっふぉっふぉ。ただし、その魔道具には、当然のことじゃが容量に限りがあっての、ユーゼが望むほどの食料は入っておらん。路銀もひと月ぐらいで尽きるじゃろう」


「そんな。爺様、嘘ですよね?」


「町で冒険者として登録し、人々の悩みや問題を解決して行けば、路銀を稼げるし飯も食える。それが勇者の通る道じゃ」


「路銀は食べられません……」


「足りなければ、いつものように、山でクマでも仕留めればよいじゃろう」


 今、クマを仕留めると聞こえた気がするけど、聞き違いだろうか?

 棍を使ってはいるが、このような可憐な少女がクマに挑むなんて信じられない。


「クマさん、いただきまーす」


「ユーゼ、必要以上に仕留めるんじゃないぞ。自然にはバランスというものがあってじゃな……」


 壁から頭を抜いて、(ほこり)をはたきながら先ほどの猫のような生物が戻ってきた。


吾輩(わがはい)は大精霊チャムリである。エルバート、よろしくなのだ……ふごっ」


「何が大精霊ですか。私が召喚した、ただの(・・・)召喚獣です!」


 棍で叩きはしたが、今のはそれほど力が入っていなくて軽く当てただけだ。

 チャムリは、羽をアピールするかのように後ろを向いて、キリッとした顔になる。


「この羽が大精霊の証である!」


「はいはい。白い羽は、チャムリだけじゃありませんよ。ポームにもあるんですからね。ほら、マタタビですよー」


「にゃーん!」


 大精霊かどうかは僕には分からないけれど、ユーゼとチャムリは仲が良いみたいだ。二人とも、これからの旅の頼もしい仲間になるだろう。

遂に主役級ユーゼが登場しました。

賢者の孫ですが棍使いです。武闘派賢者。

それほど賢くないのに賢者。

不思議な賢者です。一応、召喚士でもあります。

※エルバート、チャムリも主役級です……。

 今後ともよろしくお願いします。

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