031 エルフの隠れ村
「侵入者よ。抵抗しなければ危害は加えない」
俺たちを囲んでいるエルフの中から、一人、美形の青年が前に進み出て声を上げる。
「侵入者って、俺たちのこと?」
「そうだ。我々は手荒なことは好まない。結界の中に現れたゴッドトレントを倒してもらった恩もある。それでも、掟は破れない」
「掟?」
「エルフの掟だ。許可なく結界を越えて侵入した者は、その記憶を消去する」
「そんなこと突然言われても……」
「私たちは、フルッコの森の北にあるメキド王国に行きたいだけ。結界だか掟だかは、関係ないわ」
レイナも加わって反論する。
ミリィは、オロオロしている。
「それは無理な話だ。メキド王国には結界を通過しないと行けない」
「じゃあ、通しなさい」
「駄目だ。掟は破れない」
なんで結界の中に入ると駄目なんだろう?
そんな疑問を頭に浮かべていると、ご年配のエルフが杖をついて現れた。
「フィズミよ、この者たちは掟に触れてはいない」
「長老!」
「お主にはわからぬかもしれぬが、この者たちは、真の勇者ぞ」
俺にも何のことだかよく分からないけれど、とにかく勇者レイナがいるから、結界内への侵入は冤罪だってことかな?
「この者たちが真の勇者……。長老、心得ました。我々は退きます。そして、取り急ぎ歓迎の準備をします。真の勇者よ、非礼な振る舞い、心から謝罪する。改めて村で会おう」
フィズミと呼ばれた青年は、謝罪すると俺たちを囲っていたエルフと共に、どこかへと消えて行った。
「それでは、改めて。ワシはフィオラル・エレ。お主ら真の勇者を歓迎する」
俺たちも順に名乗り、最後の「私はミリアム・ライトヒルです」の所で、長老は表情を変えてミリィを凝視していた。
「光属性魔法に優れる者……。いや、なんでもない。エルフの隠れ村で休んで行きなされ。お主たちにはいろいろ話さねばならぬようじゃ」
ぽつりと零すように呟いてから、それがなかったように続ける長老。
木々の間を通り抜けてしばらく行くと、木の上に家々が建ち並び、枝の上には板を渡してあって通路のようになっている。
「あれが隠れ村?」
「ほう、お主には見えるのか?」
「お主にはって……。みんなも、見えるよね?」
「何が?」
「なんにも見えないよー。木の他に、何かあるの?」
レイナとミリィには、家々が見えてない?
「ほら、あの木の上の方に家があるし、こっちの木には幹にドアがついてるよ」
いろいろ指差して伝えてみたけど、ミリィは首を傾げるし、レイナは腕を組んで左右を見渡している。
「最初にお主らが越えてきたのは第一の結界、進路妨害の結界。そして今、目の前にあるのは第二の結界、幻影の結界じゃ。通常の者には木々が立ち並んでいるようにしか見えぬ」
長老が腕を前に掲げると、空気の幕のような物が煌めいてカーテンのように開いた。
今のが結界だったのだろう。
「あ、見えたわ。家がたくさんあるわ」
「うん、いろんなお家があるね」
エルフの隠れ村に到着した途端、一瞬強い風が吹いたような感じがした。
「最後に越えたのが、第三の結界、進入阻害の結界じゃ。この結界は、これを持つ者しか村に入れぬようにしておる」
そう言って、長老は四角い石を見せてくれた。
「誰か一人が持っておれば、同行者が持っておる必要はないがの」
木の根の上を歩いて斜めになった木に登り、そのまま木々の枝や、木々の間に渡されている板の上を歩いて行く。
「ここがワシの家じゃ。中で話をしよう」
木々に支えられるように建つ、大きな木造の家。その隣には、大樹と呼べるくらいに大きな木が聳えている。
中に入ると、質素なテーブルと、麦わらを編んだような座布団が用意されていた。
俺たちは、勧められるまま、席に着く。
「真の勇者よ。代々エルフに伝わる伝承を話そう――」
遥か昔、先史文明時代。
この世界には世界樹という神聖な大樹が存在していて、先史文明が滅びるのと時を同じくして、世界樹も消え去った。
どうして先史文明が滅んだのか、どのようにして世界樹が消え去ったのかは分からない。エルフの伝承では、その原因は伝えられていない。
そもそも、エルフ族には先史文明の記録が残されておらず、伝承自体が先史文明が滅びた直後から始まっているのだ。エルフ族は先史時代にも存在したはずなのだが……。
エルフ族の悲願は世界樹を甦らせること。世界樹は邪気を払い、マナを生み出す源で、この世界にはなくてはならない存在。
長老の家の隣にある大樹は、世界樹を模倣してエルフ族が作ったレプリカで、本物の世界樹は、とある場所で眠りについていて、まだ復活の時ではない。
伝承にはなかったが、長年の研究で、世界樹を甦らせることができるのは、その封印を解除できる者しか当てはまらないという結論に至った。その者こそ、エルフ族にとって真の勇者である、と。
「レイナ・スターファスト、お主は勇者に違いない。しかし、パンダ・クロウデ。お主こそが、真の勇者じゃ」
「え? 俺も勇者!?」
「そうじゃ」
「俺って、ただの村人だよ?」
俺は、地球での前世の記憶があるだけの、ただの村人だ。勇者は世襲制だし、俺の家は勇者の血筋ではない。
「お主は、世界樹の封印を解いた」
「俺が封印を?」
「ヘイウッド・アングラスから聞いておる。聖地を整地したと」
聖地を整地した……。こ、この場面でオヤジギャグ?
ヘイウッドさんが、時々ヤムダ村からいなくなっていたのは、ここに報告に来ていたからなのか。
「お主らの言う荒野は、眠る世界樹を守るために施された封印じゃった」
誰にも整地できない荒野。それを俺が整地したから。そして、それが封印だったから、俺が封印を解いたことになると。
「未だ、世界樹は眠っておる。お主の解いた封印はごく一部分だけであり、まだ完全に解いた訳ではない。よって、やがて時が来たりて眠りから覚めた世界樹を甦らせるに必要な魔法を、今、お主に伝授する」
長老は「伝授!」と唱えると、俺はいくつかの魔法を習得した。
「こ、これは、エルフしか使えないと言われている木属性魔法!?」
「そう。お主には、エルフでもないのに木属性魔法の適性がある。木属性魔法グロウスは、植物の成長を促す魔法じゃ。世界樹を甦らせるときに必要となるじゃろう」
俺は、木属性魔法「グロウス」と「ハーベスト」、無属性魔法「伝授」が使えるようになった。
「それと、お主には特別な勇者の加護がついておる」
長老は俺たちを見据えて加護を調べる特技を発動した。
俺にはレベルが上がりやすい加護がついていて、それは勇者特有の加護なんだとか。俺の場合、同行者の経験値がおよそ三倍になるらしい。レイナの加護は経験値二倍なので、そういう所からも真の勇者に相応しい、と。
ちなみに、長老は「経験値」とは言わず、「徳」と言っていたけどね。
レベルの上がるのが早かったのは、加護のおかげだったんだ……。
俺が勇者?
未だに信じられない顔をしていると、長老が口を開いた。
「真の勇者としての自覚を持つのじゃ。ワシには詳しいことは分からんが、お主が将来、世界を救うために活躍せねばならんのじゃ」
ヤムダ村やトトサンテでは、皆、俺も勇者の一員のように呼んでいたけど、俺には勇者としての自覚はなかった。
「大丈夫よ。私が認めるわ。あなたは勇者に違いないわ」
レイナにしてみれば、出会ったときから、勇者パーティの一員として俺のことを見ていた訳だし、長老がそれに太鼓判を押したということなんだろう。
レイナの期待に応えられるよう、自覚を持つように心掛けよう。
でも、今後訪れる町では、あくまでも勇者の血を引く者が勇者であって、俺のことを勇者として扱ってはくれないかもしれないけどね。
だから、認められるよう活躍しないといけない。
「では、これより歓迎の宴じゃ。隣の集会場へ向かいますぞ」
隣にある集会場には、既に十人のエルフがいて、外で会ったフィズミって人もいる。
席に着くと、とくに開会の挨拶とかもなく、自然と宴会が始まった。
「こいつは、孫のフィズミ・エレじゃ。突然、次期長老候補になって、少し意気込み過ぎておるがの」
「雷光の魔法使い、そして真の勇者パンダ殿。先ほどは無礼を働き申し訳ない。心からお詫びする」
どうしてその二つ名がこんな所にまで広まっているんだよ~。
犯人はヘイウッドさんか。サラマンダー襲撃事件の調査のため、多くの冒険者がヤムダ村に来ていたことだし、知る機会はどれだけでもあったはずだ。くぅ~。
「本来であれば、姉のフィルマが候補だったのじゃが、先日の戦いで右腕を失ってのぉ」
ここで長老は、一献傾ける。
醤油もそうだけど、エルフの料理って、日本風だなあ。
「姉は勇敢に戦った。ゴッドトレントは我々の手に負えない強力な魔物だった。だから、命があるだけでも十分だ」
先ほど俺たちが倒したゴッドトレントは、数か月前にフルッコの森の深層に現れた。
当初は、ゴッドトレントに怯えた深層の魔物が次々と中層に逃げ出すだけで、エルフ族には特別影響はなかった。
多分「灼熱大地」が調査していた、中層に深層の魔物が現れる原因はこのことだったんだろう。
やがて、ゴッドトレントは第一の結界を越え、エルフの領域に居座るようになった。結界内に侵入した魔物を倒すべく、エルフの戦士たちが勇敢に戦ったが、多くの者が命を失った。
「雷光の魔法使い殿が、ゴッドトレントを倒してくれたのじゃ。有り難や、有り難や」
長老まで雷光の魔法使いとか言ってるし……。止めは確かに雷属性魔法の「ライトニング」だったけど。
「おお、そうじゃ。無理な願いかもしれぬがの。腕を失ったフィルマが、高熱を出して寝込んでおるのじゃ。光属性魔法に優れる者、いや聖女じゃったかな。ミリアム殿、後で少しフィルマを診てくれぬかの」
「うん。私でよければ、診てみるの」
宴会が終わったら、ミリィがフィルマさんの状態を確認しに行くことになった。
真の勇者を歓迎する宴会ということで、皆やたらと俺に話しかけてくる。
ヘイウッドさん以外にも、俺たちの情報をこの村にもたらす人がいるみたいで、皆、いろいろなことを知っていた。
俺、エルフの知り合いは、ヘイウッドさんしかいないんだけどなあ。
宴会も締めとなり、ミリィがフィルマさんの所に案内された。俺とレイナもついて行って良いということだったので一緒に行った。
長老の家の一室。ベッドの上でフィルマさんはうなされていた。
「エルフの秘薬を使っても一時的にしか効果がなくてのぉ」
エルフの秘薬は、万病に効くと言われる万能薬だ。
「これは、失った腕の所から細菌が入り込んで、それで熱が出ているんだね」
「ほぉ、細菌とは?」
やべ。この世界には顕微鏡がないから、細菌という存在が知られていなかったのか。
この世界は衛生環境があまり良くないから、深手を負うと細菌によって命が危険に晒されることもあるのだろう。
「まあ、腕を元通りに治せば、高熱も治まると思うよ。ミリィ、お願い」
ミリィはロッドを異空間から取り出して左手に持ち、右手をフィルマさんに向けて目を閉じる。
「うん。……ミラクル・ヒール!」
すると、フィルマさんの右腕が光に包まれ、徐々に腕の形になって行く。
ミリィは、まだ右手を向けたままだ。
数分して、フィルマさんの右腕が完全に再生した。腕を失ってから大分時間が経っているから、復元するのにも時間がかかるみたいだ。
「おおぉ。なんということじゃ。魔法で腕が治るとは! まさに聖女の再来。有り難や、有り難や」
うなされていたフィルマさんの息も落ち着いてきて、今まで閉じていた瞼がゆっくりと開く。
「わ、私は今まで……。え? 腕が? 腕が治っている!? 風の精霊もそう言っている!? ゆ、夢なのか?」
左手で右腕を摩る。
「信じられない……。夢ではない……。これは、そこのあなたが治したと、風の精霊が言っている」
「聖女ミリアム殿じゃ」
長老はミリィの方を向いて頷く。
「聖女ミリアム様。ありがとう。私に生きる希望を再び与えてくれたこの恩は、一生忘れない。風の精霊も感謝している」
「えっと、聖女ミリアム様なんて呼ばないでー。みんなミリィって呼んでるの。だから、ミリィで」
ミリィは少し赤い顔で頬に手を当てる。
「分かった。恩人に気安く語りかけるのも気が引けるが、ミリィと呼ぼう。私のこともフィルマと呼んでくれ」
「そうじゃ! この御仁たちは、真の勇者の一行での。森を抜けてメキド王国に行くそうじゃ。フィルマよ、リハビリも兼ねてメキド王国の王都レダスまで道案内致せ」
「長老の命であれば、従うと、風の精霊も言っている」
「俺はパンダ。フィルマさん、よろしく」
「私はレイナ。よろしく」
「私はフィルマ。ミリィと同じように、あなたたちをパンダ、レイナと呼ぶ。だから、あなたたちも私のことをフィルマと呼んでくれ。恩人だけが呼び捨てなのはおかしいだろう、と、風の精霊が言っている」
「よし、それでは真の勇者殿。出発は二日後で良いかの? フィルマの腕を治してもらった礼と、ゴッドトレントを倒してもらった礼も、その間にしたいのじゃ」
「いや、礼なんてそんな……」
「ヘイウッドから聞いておる。珍しい野菜を好むとか」
野菜の種をもらえるってことなんだろうか? これは、断らずに乗っておこう。エルフは、何故か地球に存在するいろいろな野菜の種と同じ物を用意できるから、料理のレパートリーを増やすチャンスだ。
次の日。
フィルマは腰にショートソード、手には大きめの弓を持ち、昨日までの状態が嘘のように元気になっていた。
「パンダ、風の精霊があなたにエア・ウォークの魔法を習得するよう、勧めている。長老に伝授してもらうと良い」
「エア・ウォーク……、分かったよ、長老に頼んでみるよ」
長老の所に行くと。
「どんな野菜を希望しとるかのう?」と、先に野菜のことを尋ねられた。
前世の記憶の名称で答えても通じないので、植物の特徴を伝え、種子をもらう。
結局、にんにく、小松菜、バニラ等、少し匂いのある植物の種子を中心に、いろいろな物をもらった。さつまいもも、種イモではなく、種子でもらった。種子はエルフの祝福を受けているから、植えればすぐに大きくなる。
「それと、エア・ウォークって魔法を伝授してもらいたいんだけど……」
「うむ、お主に適性があれば、伝授致そう……。伝授!」
すると、不思議な力が俺に沸いてきて、風属性魔法「エア・ウォーク」を習得した。
「この魔法はレベル20制限なのじゃが、お主は習得できたんじゃな?」
「うん、問題なく。エア・ウォーク!」
俺はその場で浮いて見せた。流石に、部屋の中で空中移動までは見せることはできなかった。
「うむ、大丈夫じゃな。あとは、この二つの石を譲ろう」
長老は手の平大の石を二個、俺に渡した。
「一つは、『看破の石』といって、手にすると、見ている対象の名前やレベルが分かる魔道具じゃ。これがあれば、エルフの結界も見通すことができる。お主はこれがなくても結界を見破ることができておるようじゃが、連れの仲間はそうはいかぬじゃろ。一人が手にすれば、同行者皆に効果がある」
早速、「看破の石」を手にして長老を調べる。
――フィオラル・エレ、レベル30。
なんと言うか、「チェック」の魔法の熟練度が上がったら、同じことができそうだ。だから、わざわざ魔道具を手にして使用するほどの物ではないと思う。どちらかというと、結界を見破ることの方が重要かな。レイナとミリィは結界を見破れなかったし。
「もう一つは『越境の石』といって、結界を通過できるようになる魔道具じゃ。再びここに来ることもあろう。そのとき、忘れぬようにな」
「ありがとう。大事にするよ。最後に、知恵を授かりたいんだけど、いいかな?」
「いいじゃろう。ワシらは人族に比べて長生きしておる。だから、人族が知らない知識もあるじゃろう」
「じゃあ、これの組成を教えて欲しいんだ」
魔法収納から、ミスリルの鉱石の破片を取り出す。これは、以前、クレバーの鍛冶屋でもらった物だ。
「なんじゃ? 鉱石か? ふむ……。伝授!」
長老から、「アナライズ」という無属性魔法を伝授してもらった。
「うまく伝授できたようじゃの。普通の者には習得できぬ、エルフに伝わる特別な魔法じゃ。これで物質の詳細を知ることができよう」
「ありがとう。アナライズ!」
ミスリル鉱石を手にして魔法を唱える。すると、ミスリル鉱石の組成が頭の中に入ってきた。
「これでミスリルの剣が生成できるはず。クリエイト!」
魔法でミスリルの剣を生成した。
「なんじゃ、剣を作りたかったのか。鉱石の情報で作った剣は、鉱石がそのまま剣の形になっただけじゃぞ。鍛冶師が打った剣を調べんと、無理じゃ」
魔法収納から訓練用の鉄の剣を取り出し、少し力を入れてミスリルの剣と交錯させる。
すると、ミスリルの剣はぽっきりと折れてしまった。鉄の剣は若干傷ついただけだ。
今まで鉄の剣がうまくできていたのは、前世の高専で習った、焼き入れ、焼き戻し後の鉄の組成、マルテンサイトの知識があったからだ。もちろん、炭素などの添加成分についても知っていて含有させてある。
「今度、鍛冶屋でミスリルの剣を見つけたら、調べてみるよ」
「店先で調べるのかの? ミスリル鉱石を鍛錬できる鍛冶師は限られておる。誠意を込めて行うことじゃな」
「そうだね。ちゃんと購入して調べるよ」
この後、レイナの銀のレイピアを「アナライズ」し、銀にコリーユという物質が配合されていることが分かった。コリーユは地球で発見されていない物質で、銀を鉄より硬くできる要因はここにあった。
純銀は「クリエイト」で生成できないけど、コリーユを配合した銀合金なら生成できる。
これで、レイピアを補修できるようになったし、さらに、俺用の銀の片手剣を生成した。
銀の剣を魔法剣にするため、これから毎日、剣に魔法を通すことにする。
エルフの隠れ村では、魔法を伝授してもらったり、野菜の種をもらったりと、なんだかいろいろお世話になった。
今日、いよいよメキド王国に向けて出発だ。
道案内として同行してくれることになったフィルマは、明るい緑色のショートカットの髪で、口数は少ないが、元気そうな印象のある女性だ。
「フィルマって、ゴッドトレントと戦ったんだよね?」
「そう。村にいるエルフの戦士が総出で戦った」
「みんな、弓で?」
「エルフの戦士は弓が基本で、他に風属性魔法も使う」
弓に魔法の矢をつがえて、前方に放つ。魔法の矢は木々をすり抜けて飛んで行った。
ここからは見えないけど、三十メートルほどの距離にいたディバージョンラットが消え去ったことを、俺の「サーチ」が捉えた。気配察知能力と弓の腕前、そのどちらも一流だ。
「そうかぁ。ゴッドトレントは突き刺し系に耐性があったから、弓だと分が悪かったよね」
「魔物が撃ち出した葉が、矢をことごとく消し去った。耐性以前の問題だ、と、風の精霊が言っている」
魔法の矢は、飛び交うゴッドトレントの葉で相殺された。
仕方なく接近戦に切り替えたけど、結果は惨敗だった、と言うことだ。
「そういえば、時々風の精霊って言うけど、近くにいたりするの?」
「いる。エルフには、風の精霊が見える者が多い。私にも見える。ほら、ここ」
フィルマは何かを撫でるような仕草をしている。あれくらいの高さだと、風の精霊は子供ぐらいの背丈かな? 俺にはまったく見えないし、声も聞えない。
エルフの隠れ村を出て北東に数日間進むと、大きな川が俺たちの行く手を阻んでいた。
「パンダ、ここはエア・ウォークで渡る。あなたがミリィとレイナに掛けるといい、と、風の精霊が言っている」
フィルマの言うように、ミリィとレイナに「エア・ウォーク」を掛けた。
「きゃっ!?」
「あ!?」
地面から五十センチメートルくらい浮かび、空中でバランスを崩してよろける二人。
「駄目だな。慣れるまで、パンダが手を引いてやれ、と、風の精霊が言っている」
自分自身にも「エア・ウォーク」をかけ、宙に浮かんで二人の手を握る。ミリィの手は柔らかく、レイナの手は少し硬い。レイナは剣を使うから、手の平が硬くなっているのだろう。
ミリィは俺にしがみつくように寄ってきて、レイナは握った手で、上手にバランスを取り始めた。
「両手を広げて、真っ直ぐに立ってみようか」
俺は、魔法を習得した時点で、この魔法の使用方法を完全に理解している。
でも、二人にはそんな知識は一切ないので、教えてあげないといけない。
二人が、手を繋いだまま両手を広げて真っ直ぐに立ったところで、前進する。足を使うのではなく、風を切って進むように。そう、俺は飛行機をイメージしている。
「パンダ、速い。それでは私が追いつけない、と風の精霊が言っている」
魔法名が「エア・ウォーク」ということもあり、やはり、通常は空中を歩くような速度で進むのが一般的らしい。慣れているフィルマでも、早歩きぐらいの速度しか出せてない。
「川の上を飛んで渡る。いいわね」
「お魚さんが、驚いて逃げて行くの」
魚は、影に敏感だからしょうがない。動く影を見て逃げるのは、捕食者から身を守る自然な反応だ。
川幅は五十メートルくらいあっただろうか。つかの間の空中散歩に、二人はときめいている。
「もう一回、飛びましょう。川面の輝きがキラキラしていて、まるで宝石のようだったわ」
「あのね、あの辺りにね、おっきなお魚さん、いたんだよ」
少し遅れてフィルマが到着した。
「川を渡ったこちら側が、メキド王国だ。まだ森が続くが、ここから北東に行くと王都レダスがある」
直接、古代神殿を目指すことも考えられたんだけど、長老が、フィルマを王都レダスまで案内してくれるように手配してくれたから、とりあえず、王都レダスに向かうことにする。
タイトルにまつわる話が登場しました。
エルフ族から真の勇者と呼ばれるようになったパンダ。
また、ヤムダ村の東の荒野の秘密についても知らされました。
時機を見て世界樹を甦らせる……。
旅の目的が一つ増えました。
でも、パンダの中での優先順位は「魔王を倒すこと」が一番上です。




