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023 ヤムダ村炎上~魔物の襲来?

 冒険者ギルドを出て、エグレイドの西門に向かう。

 その先には、隣国リリク王国へ飛べる転移石がある。


 遥か前方では、リリク王国とエセルナ公国の国境となっているスタンギル山脈に、太陽が沈み行こうとしている。

 この辺りはすぐに暗くなるだろう。

 ただ、転移石でスタンギル山脈を越えるから、山脈よりも西にあるリリク王国側はまだ明るい時間が続くはずだ。


 急ぎ足で門をくぐり、転移石のある広場へとやってきた。

 この時間帯に転移石を利用する人はあまりいないようで、門を出てからここまで誰ともすれ違うことはなかった。


「早く、リリク王国に行きましょう」


 地面から伸びる円柱状の石柱を指差し、レイナが行動をせかす。

 よっぽど古代神殿のことが気になっているみたいだ。


「うん。行こう」


 転移石に触れると、体中が眩しい光に包まれて視界が真っ白になり(まぶた)を閉じる。

 すぐに光が収まって瞼を開くと、目にはトトサンテの東門が映っていた。


 大きな木製の門を通り抜け、トトサンテに踏み入る。トトサンテは入都税をとっていないから、門番は怪しい者がいないか見ているだけだ。


 ついさっきまでは石造りの家しかなかったのに、ここに並んでいるのは木造の住宅ばかりだ。

 リリク王国には広大なフルッコの森があって、木材の調達が容易だから、木造の建築物が多い。


 建物を見ているようで、実はレイナは、ここでも時々道行く人たちを見ている。

 金髪の人に注目しているように見えるけど、昨日、その理由を言いたくないようだったので、今日も敢えて触れないでおく。


 東西の大通りを西へと抜けて行き、南北の大通りと交差する中央広場からは南に向かう。


「もう少し行くと南門に着くから、今日はそこにある宿屋に泊ろう」


 やがて、木造三階建ての宿屋が見えてきた。


 宿屋の中に入ると、恰幅の良いおかみさんが「いらっしゃい」と声を上げる。

 カウンターに行き、宿泊の手続きを進めると、


「夕食は外でとったかい? まだなら、夕食はうちで食べなよ」


 ウドとチンゲンサイのような野菜を盛った木製のザルをカウンターの上に載せ、俺たちに見せる。


「今日、季節の野菜が入荷したんだよ」


 おかみさんに勧められるまでもなく、元々夕食をここでとる予定だったので快諾し、手続きを済ませる。


 季節の野菜が入荷したってことは、ヤムダ村からトトサンテに運ばれてきたのかな。そうだとすると、父と母もトトサンテに来ているに違いない。

 そういうときは両親はトトサンテで泊って帰ることが常で、俺は家に留守番でナナミの面倒をみていた。


 食堂に入り、おかみさんの「お勧めの料理」を堪能する。


 ウドは、やっぱり味噌がないといまいちだな。

 ウドの皮もごぼうと炒めているまではいいけれど、やっぱ塩味だと物足りない。

 チンゲンサイと豚肉の炒め物のほうも、塩と豚脂を使っているようだけど、醤油味が欲しいところだ。


 レイナの方はウドが初めてだったようで、苦みがするので怪訝(けげん)そうに食べていた。



 食事も終わり、個々の部屋に分かれる。


 俺の部屋は三階の南側の部屋で、昼であれば、窓からは遠くの景色が見える。もう日が沈んだので、今は満天の星空を見ることができる。


 窓辺の椅子に座り、今までの冒険を思い出して、物思いに(ふけ)る。


 ガッドと共にヤムダ村を旅立ち、道中でレイナという心強い仲間を得ることができた。

 フルッコの森で冒険者としての腕前を上げ、B級冒険者のメルラドたちと知り合う。


 ウシター山では全滅の危機に瀕しながら、なんとかボスを倒した。


 エグレイドでは旅の芸人たちと知り合い、盗賊ネコ・サギ団と対峙する。盗賊団には逃げられたけど、格上と戦うと言う貴重な経験ができた。


 グレン洞窟に向かう道中でマゼンタと言う、元B級冒険者の商人と知り合った。


 多くの人に巡り合い、助けてもらったり教えてもらったりした。


 俺自身も成長したのかな。

 明日、ヤムダ村に戻るけど、凱旋なのかな――


 漠然と眺めていた夜空から、ふと、ヤムダ村の方角に視先を移すと、赤い揺らめきと黒い煙のような物が見える。


 何だろう? 火事? 火事にしては広範囲じゃないかな?

 なんだか嫌な予感がし、だんだんと胸騒ぎが強くなっていく。


 すぐにヤムダ村に行かないと!!


 部屋を飛び出して、レイナの部屋の扉をノックする。


「レイナ、ごめん。今いいかな」


 扉を開けてレイナが姿を現す。


「いいわ。どうしたの、慌てて」


「ヤムダ村の方向に赤い炎が上がっていて、なんだか嫌な予感がするんだ。今すぐヤムダ村に行こう」


「そう、わかったわ。宿の外で待ってて」


「ありがとう」


 途中まで行って戻ってくるかもしれないし、宿のキャンセルの手続きはせず、鍵だけ返して宿の外に出る。

 前払いだし、問題ないよね。


 すぐにレイナも出てきた。


「行こう」


 レベルの上がった俺たちは、ヤムダ村までの駆け足ぐらい、苦ではない。

 俺たちは急ぎ足でヤムダ村に向かった。


  ★  ★  ★


 コン、コン。


 部屋の扉をノックする音で、目が覚めたの。


 ……。ん? 誰?


 数日前から寝込んでいて、まだ体がだるくて、思うように動かない。


 ドン、ドン、ドン。


「おい、ミリィ。入るぞ」


 扉を開けて誰かが入ってきた。


 重たい(まぶた)を開けると、目に入ったのはガッド君。

 そして、ベッドの脇までやってきて、


「まだ熱は下がってねえのか」


 と言って、額に手をのせたの。

 声を出すのがまだ(つら)いから、ゆっくりと(うなず)いて返す。


「すまねえ。無理なの分かってんだけどさ、助けてくれねえか」


 なんのことか分からないから、首を(かし)げると、


「村の西に魔物が現れたんだ。もう、魔物は村の中に入ってきていて、さっき騎士団の人たちが駆けつけたんだけどさ、魔物が手に負えないくらい強くって、回復が追いついていないんだ」


 そう言われて、外が騒がしいって気づいたの。


「だから、頼む。ちょっとだけでいい、来てくれないか」


 ぼーっとしてて考えがまとまらないよ……。

 でも、私が行かなくっちゃダメみたいなのは分かるの。


 頷いて起き上がろうとしたら、うまく体を起こせない。

 それで、ガッド君が頭と背中に手を当てて起き上がるのを手伝ってくれて、ようやく起き上がれたの。


 上体を起こしているとフラフラとふらつく。


 何か支える物を――


 そう思ったとき、右手に杖のような物が現れたの。


 いいえ、これは杖ではなく、ロッド。

 初めて見るけど、私はこれを知っている。でも、名前まで思い出せない。

 見つめていると、なんだか懐かしい気分になるの。

 おかしいね。


 目を見開いて驚いているガッド君の前で、ロッドを床について、ベッドから出る。

 不思議なことに、ロッドを手にしていると、失われていた体力が少しずつ回復していく感じがするの。


 そう、私は知っている。このロッドには疲れなどを癒してくれる効果がある。


 熱は下がらないけれど、ロッドを支えに立ち上がることができた。


「お、おう、大丈夫か?」


 ガッド君がオロオロとしながら気遣ってくれる。

 洋服タンスに手を掛けたところで、


「あ、部屋の外で待ってるから」


 ガッド君は急ぎ足で部屋から出て行っちゃった。


 ふらつきながら、なんとか着替えて部屋から出ると、ガッド君が背を向けてしゃがんでいたの。


「背負って行くから、乗ってくれ」


「……ありがとー」


 弱々しい声だったけど、声を出せるまでに体力が回復している。でも、フラフラするよ。


 ガッド君に背負ってもらうと、その背中はとても大きいって気づいたの。

 子供の頃に一緒に探検した頃よりも随分(たくま)しくなったんだね。


 くつろぎ亭の裏口から外に出ると、荒野の方へ逃げて行く村人や、その辺りに座り込んでいる老人もいて、いつもと違う村の光景に少し戸惑う。


 寝込む前までは、宿の馬車置き場には連泊しているお客さんの豪華な馬車があったのに、今はなくなっている。お客さん、帰っちゃったのかな。


「そこに立派な馬車があっただろ? あれ、やっぱり王子のだったんだ」


 この国の王子が最小限の護衛を連れてお忍びでヤムダ村に来ていたんだって。

 噂にはなっていたけど、本当に王子様だったんだね。


「魔物が現れてすぐに、村長に救援を頼まれて、急いで王都に戻ったんだぜ」


 最小人数の護衛しかいないから、戦う人は置いていけなかったそうで。でも、王都からは本当にすぐに騎士団の人たちが救援に来てくれて、今、魔物と戦っているらしいの。


 ガッド君に背負われたまま村の中央付近まで行くと、そこでは騎士団の人たちが腕の生えた鳥のような石像と戦っていて、さらにその奥では火の手が上がっていて家々が燃えている……。


 騎士団の人たちがそこら中に倒れていて、立っている人も傷だらけ。


「はぁ、はぁ。着いたぜ。ミリィ、回復を頼む」


 そう言って背中から降ろしてくれたの。

 ロッドに(すが)るように両手で持って、魔法を唱える。

 人数が多いから、少し長めに集中して。


「……ヒール!」


「な、治った! やれる、まだやれるぞ!」

「おお! 折れた手が元通りだ!」

「ヒールって聞こえたけど、一回の魔法でみんな治ったよな?」

「エリア・ヒールじゃなくって?」


 倒れていた人たちが復活して、騎士団の人たちに少し余裕ができたみたいで、戦いながら雑談している。


 私は知っている。このロッドには、回復魔法の範囲を広げる効果があることを。


「馬鹿言え、骨折が治ったんだぜ。ハイ・ヒールだろ?」


「ぐわっ」


 余裕があるように見えたけど、騎士団の人たちは、一方的にやられているの。

 じりじりと押されていて、倒れるたびに「ヒール」を掛けてあげる。


 今、脇腹を石像の槍に突かれて倒れた人は、他の人より少し立派な兜を被っている。


「おおお! 刺された傷が一瞬で治った! もしかしてあの()は、聖女様?」


「これだけ回復してもマナが尽きないし、聖女様に違いない!」


 そして、騎士団の方々が私の方を見て、「聖女様!」とか「聖女様を守るんだ!」とか言いだし始めたの。聖女様だなんて、私、そんな大層(たいそう)な人じゃないよ。


 意識が朦朧(もうろう)とするよ……。でも、私が回復しないと、全滅しちゃう。


 一生懸命、回復する。


 騎士団の人は、すぐに倒されて、また、起き上がって。


 騎士団の皆さんにも回復する人がいたようだけど、後ろの民家の軒下で座り込んでいるの。マナが尽きたんだって。


 騎士団の人の剣や槍は、石像にダメージを与えているのかな?

 弾かれているように見えるんだけど。


 ガッド君の剣だけは、石像に傷をつけているってわかる。


 あ、また倒れた。


「せ、聖女様を……守れ……」


 ずっと騎士団の人たちの回復を続けていると、少しずつ、立てなくなる人が出始めているの。

 傷は治せても、体力は治せないよ。


 残された騎士団の人たちが気力だけで戦っていた、そのとき――

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