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021 グレン洞窟

 翌日。

 スレフィの町の冒険者ギルドで道順を教えてもらい、グレン洞窟へとやってきた。


 道中、何度も魔物に襲われたけど、難なく撃退している。

 グレン洞窟から(あふ)れた魔物がこの辺りを徘徊しているのだ。スレフィの町にも押し寄せてくるので、冒険者ギルドには、それを討伐するための依頼も出ている。

 洞窟にボスがいると、普段よりも多くの魔物が湧く。ボスを倒さない限り多くの魔物が湧き続けるので、俺たちが早急にボスを倒す必要がある。


 魔物と何戦かしたところで、俺は、今までよりも剣の扱いが冴えていることを実感している。レイナによる特訓の成果が表れているのだろう。

 体中のあちこちが筋肉痛だけど、身のこなしも大分良くなっている。


 昨日の特訓は、今までにないくらい、ハードだった。ガッドがいなくなった分、俺が集中的にしごかれた。


 ――盗賊にやられそうで、心配だったんだから……。


 そういうことらしい。

 剣の特訓は、レイナ自身の訓練にもなるようだし、今後も時間があれば続けていくことになっている。


「前方、キラーモール二体。俺が剣で仕留めるよ」


 グレン洞窟に入って早々に魔物を発見した。

 洞窟の中は外より暗いけど、十分探検できる明るさだ。洞窟を構成している岩盤や土が(ほの)かに光を放っている。

 それでも遠くを見渡せる訳ではないので、魔物などを探知できる魔法「サーチ」で周囲を警戒しながら進んでいる。それで、魔物を発見したのだ。


 モグラがスコップを持ったような風貌の魔物。洞窟に来るまでにも戦っていたので、魔物の手の内は分かっている。


「ええ、任せるわ」


 素早く接近し、一撃離脱。これがレイナに仕込まれた戦い方。

 ただ、レイナは盾で相手の攻撃を受け流すこともできるけど、俺は盾を使わないので、攻撃を避けるか剣で受けることになる。

 俺は盾を持つとスピードが犠牲になるので使わない。レイナの見立てでは、俺には盾の才能がないらしい。


 剣を一閃。そしてバックステップで距離をとる。その際、剣先から魔法を発動する。

 魔物は反撃しようとスコップを振り上げ、そこに火球が直撃して、魔石に変わる。


 魔法を「エア・スラッシュ」に替えただけの同様な戦法で、もう一体も倒し、魔石を拾う。


 その後、キラーモールの他、閃光で目くらましをしてくるフラッシュバット、岩のように固く変質するロックスライム、ゴブリンなどに遭遇したが、すべてレイナとの共闘で倒していった。


「それにしても、魔物が多いね」


「おかげで、あなたとの連携の練習になったわ」


「ははは、そうだね。俺もレイナの動きがよく分かったよ」


 今はガッドがいなくなって二人だけだ。戦い方も変えて行かないといけない。


「さあ、進みましょう」


 目の前には二層へと下りる下り坂。

 ボスは洞窟の最下層にいるはずだ。

 だから、ここを下って進まないといけない。


「ボスは何層にいるんだっけ?」


「三層のはずよ」


「よし。じゃあ、急いで次の層を突破しよう」


 坂を下りきって二層に足を踏み入れる。

 一層と同様、岩盤と土でできた洞窟だけど、漂う(にお)いが違う。

 そして、奥へ進めば進むほど、匂いが強くなっていく。


「なんだか、カビのような匂いがするよね?」


「そう? よくわからないけど、確かにさっきまでと違う匂いね」


 そっか、レイナは公爵令嬢様だった。お嬢様はカビの匂いなんて知らないのかも。


 歩きながら壁や天井を観察すると、白、黒、緑の斑点があることが分かる。


「壁にカビが生えてるよ。ほら、あそこ」


 指差した先の白い斑点が、突然もこっと盛り上がって、タンポポの種子のように、白くて丸いフサフサした球体がついた茎が伸びだす。

 あっけにとられていると、他の斑点からも、次々と黒や緑の球状の物が生え出した。


「え?」


 球状の物体を意識して見つめる。すると――


「あれは魔物! 名前はソイルモールド」


 魔物を調べる魔法「チェック」が発動し、魔物の名前が脳裏に現れる。戦ったことのある魔物なら特徴も情報として得られるんだけど、初見なので名前しか分からない。「チェック」の熟練度が上がれば、初見でもレベルが分かるようになるらしい。でも今はまだだ。


 なお、擬態している魔物を「サーチ」で見破るには、こちらのレベルが魔物よりも高い必要がある。ソイルモールドの方が俺たちよりレベルが高く、発見できなかったことになる。


 油断していたこともあり、魔物の群れに先手を許してしまい、白や黒のブリザードが俺たちに浴びせられる。


「きゃっ」


 咄嗟(とっさ)にレイナの口を塞ぎ、地面に伏せる。

 ブリザードに混ざって飛んでくる白や黒い浮遊物は、カビのようなもので、恐らく、吸い込むと毒やマヒなどの状態異常を引き起こすだろうと予想した。

 あらかじめ魔物の特徴などを調べてあれば、予想で行動しなくても良かったんだけど、スレフィの町の冒険者ギルドには魔物の特徴を記した「魔物の書」がなく、調べることはできなかった。「魔物の書」があるのは、各国の冒険者ギルド本部や、多くの冒険者が集う大きめな支部だけだ。スレフィの冒険者ギルドは小規模だから、設置してなかった。


 レイナに覆いかぶさる形で、俺の背中をブリザードが通り過ぎて行く。


 すべてのブリザードが通り過ぎたのを確認したところで、地面に伏せたまま「エア・ブラスト」を発動し、周囲に漂う浮遊物を吹き飛ばす。


 浮遊物がなくなり、立ち上がると、「コホンッ」と咳払いしてレイナも起き上がった。

 レイナは、服についた土埃を払いながら、少し赤みを帯びた顔でこちらをちらっと見てすぐ目線を逸らし、


「その……。ありがと」


 と、(つぶや)いた。

 レイナも、あの浮遊物が危険だと理解したようだ。


「うん、でもまだ戦闘中だ。気を抜かないでいこう」


 俺たちがそんなやりとりをしている間にも、ソイルモールドは球体をゆらゆらと揺らしたり、茎をしならせたりと(せわ)しなく動いている。


「降りてきた!」


 白や黒、緑の球体を支える茎に足が生え、ゆらり、ゆらりと壁や天井から地面に降り立つソイルモールドの群れ。それぞれの背丈は俺の腰ぐらいで小振りだけど、数が多い。


 球体の部分が、キバのついた大きな口のような形に変形し、レイナにかじりつこうとする個体。

 跳び上がって頭突きのように球体をぶつけてこようとする個体。

 ソイルモールドは様々な攻撃を仕掛けてくる。それに合わせるように、レイナは一つ一つを的確に切り裂いて行く。球体を狙わず、足の生えた茎の部分を狙って。


 俺もレイナに見習って茎を狙い切りつける。


「どんだけいるんだよ。きりがない」


 倒しても倒しても次々と押し寄せるソイルモールドに、やや押され気味な俺たち。


「私がここを抑えるわ。パンダはあの壁の斑点に向かって魔法を飛ばして。あなたにしかできないことよ」


 レイナが指し示す先には、ソイルモールドを量産し続ける斑点模様が三つある。

 俺にしかできないなんて、俺もレイナに頼られることがあるんだなと、ちょっとだけ嬉しくなる。


「分かった。十秒、耐えて」


 俺はレイナの後ろに下がって集中を始める。

 集中している俺に邪魔が入らないよう、レイナは迫りくるソイルモールドたちを押し返すように、斬撃のペースを上げる。


 しばらくして、俺の周囲に大きな火球が三つ浮かび上がり、


「ファイア!」 


 それぞれ壁と天井の斑点模様に向かって飛び立った。


 俺の魔法では、火球を同時に発動できるのは三発までが限界で、ちょうど斑点模様が三つだったから都合が良かった。

 もしも斑点模様が四つ以上あった場合、一度の魔法だけでは対処できず、火属性魔法をもう一度撃てるようになるまでの間、またレイナに耐えてもらう必要があった。


 火属性魔法に(こだわ)るのは、ソイルモールドが土や岩の壁から生えだしたことから、土属性に耐性がありそうと考えられたことと、水属性と思われるブリザードを発動したことから、水属性も相性が悪そうだと予想したためだ。


 他の属性だと雷属性と風属性が有効かもしれないけれど、俺が習得しているのは、「ライトニング」、「エア・スラッシュ」、「エア・ブラスト」など、射程が短い、または近くの広範囲を対象とする魔法なので、今回のように遠くをピンポイントで狙えるものではない。


 三発の火球が、それぞれ斑点模様に到達し、爆裂する。


「やった?」


 爆炎が収まるまでじっくり確認する余裕もなく、すぐにレイナの加勢に入る。


「大丈夫。斑点は燃え尽きたわ」


 レイピアを縦横無尽に振り抜きながら、レイナが答えた。

 俺も一体でも多く仕留めようと、剣を振るう。

 剣を振るたびに、だんだんソイルモールドの数は減っていき、遂にはすべてを倒しきった。


「ふう。なんとかなったね」


 剣を地面に立て、それを支えにして、ひと呼吸入れる。


「そうね。少し休みましょう」


 血のりを振り払うような所作でレイピアを腰に仕舞う。実際についているのは血のりではなく、土埃(つちぼこり)や、ソイルモールドの胞子のような物だろうけど。


 急所を狙い、的確に倒し続けたレイナであっても、あれだけの数の魔物を相手にして、無傷という訳にはいかなかった。

 レイナは携帯袋から薬草を取り出して口に含む。


 魔物が浮遊物を混ぜたブリザードを発動したのは一度だけで、今は浮遊物は漂っていない。辺りに漂っていたカビの匂いも消えている。


「ちょっと休もうか」


 洞窟の中で(くつろ)ぐのもなんだけど、魔法収納からテーブルと椅子を取り出し、レイナに勧める。


「ありがと」


 一応、「サーチ」で周囲に魔物がいないことを確認してあるので、俺も座って休む。今ここで戦ったばかりだから、ここには擬態の魔物もいないだろうし。


 続けて、木製のコップと、ステンレス製のティーポットを取り出す。

 ティーポットは、ウシター山の麓の村で作成した物と同じ形の物だ。ただし、あの村で作成した物は水を入れたまま村長にプレゼントしたから、これは、後で作り直した物だ。


 ティーポットにトトサンテで購入した茶葉を入れ、水属性魔法「ウォーター」でお湯を満たす。お湯は水の分子の運動が大きくなった状態を意識すれば、「ウォーター」で生成できる。


 レイナは驚いた顔を一瞬見せ、すぐにポーカーフェイスに戻る。

 貴族は感情を顔に出さないように教育されていると、前世の文献で読んだことがあるけど、この世界でも似たような風習があるのかもしれない。そうだとすると、レイナは相当驚いたということになるけど……。


「お、お湯を生成できるのね」


 案の定、驚いていたようだ。動揺が隠しきれていない。


「水属性の魔法だけど、飲めるから大丈夫だよ」


「それはわかってるわ。そうじゃなくって――」


 レイナの話では、水属性の魔法で生成できるのは、せいぜい水であって、お湯を生成するなんて聞いたこともない。攻撃に使うときも氷の槍や吹雪など、温度が下がったものしかないとのことだった。


 それに、レイナの生まれた町アベンチュリンでは、武術魔術大会が毎年開催されていて、そこでは熱湯を生成する魔法使いはいなかったとも付け加えた。


 話をしているうちに茶葉の蒸らしが完了したので、二人のコップにお茶を注ぐ。

 続けて、魔法収納から木製の皿に載ったマドレーヌを取り出し、テーブルの中央に置く。


「どうぞ」 


「これは? 初めて見る物ね。小さなパン、かしら?」


「マドレーヌっていうお菓子だよ」


 今までの冒険では、食事以外でまともに休憩するようなこともなかったから、お菓子をレイナに提供するのは初めてだったかもしれない。

 レイナはマドレーヌを一つ手に取り、さりげなく観察してから少量を口に含む。


「……!!」


 口に手を当て、目を丸くしてこちらをみつめる。


「これがお菓子……。なんておいしいの! 今まで、お菓子って、甘いだけの物だと思っていたわ」


 そもそも砂糖は高価な贅沢品で、その砂糖をふんだんに使ったお菓子は、貴族にとっては見栄の象徴みたいな物。

 レイナの家は公爵家だから、貴族同士のお茶会などもあり、お菓子を口にする機会は多かった。

 そこで今までに味わってきたお菓子という物は、砂糖を固めて色をつけた物か、ドライフルーツに砂糖をまぶした物だった。


 俺は、コップに注いだお茶を飲んで深呼吸し、過去を振り返る。


 ヤムダ村での俺は、くつろぎ亭からの収入もあり、高価だとは思いながらも気軽に砂糖を買い込んでいて、そこまでの贅沢品だとは思っていなかった。確かに、注文しないと入荷しなかったし、今思えば庶民感覚からずれたことをしていたのかもしれない。


「これはあなたが焼いた物?」


「そうだよ」


「私の専属料理人は、お菓子の腕も一流ね」


 専属料理人って話、本気だったんだ? 受諾したつもりはなかったんだけどね。


 結構な時間休んだので、洞窟の中という風情のないお茶会をお開きにし、洞窟の探検に戻る。


「この洞窟は分岐が多いよね」


「ええ。この間の迷宮よりもずいぶん広く感じるわ」


 このグレン洞窟は、前にフルッコの森で探検した異次元迷宮より広大で、分岐点も多い。

 分岐点ごとに、曲がった方向を示す石板を「クリエイト」で生成して置いてきたんだけど、レイナが先導するままに進んで行くと、迷うことも戻ることもなく、最短の道のりで三層へと続く下り坂に到達した。


 一層目を踏破したときは偶然だと思っていたけど、二回続けて起きると、とても偶然とは思えなくなった。


「もしかすると、レイナはこの洞窟に来たことがあったりする?」


「いいえ、初めてよ」


「じゃあ、どうして迷路のような洞窟で迷わずに進めるの?」


「進みたい方に進んでいるだけよ。あなたも分岐点に行けば、なんとなくこっちに行けばいい、みたいな気がするでしょ?」


 つまり、(かん)で進んでいるってことなんだ……。俺だったら間違いなく迷子になる自信があるね。


 三層でも多くの魔物と遭遇した。

 二層までに遭遇した魔物に加え、毒針を飛ばしてくるデススパイダー、腕が四本のクマのようなマッスルベア、魔法を使うゴブリン・ソーサラーが混じった高いレベルのゴブリンの群れなど、たくさんの魔物がいた。


 もちろん、魔物はすべて撃退した。

 その際、一緒に戦っていると、魔物を倒すたびにレイナの動きが少しずつ速くかつ攻撃の威力も上がっているように感じられた。

 体力のあるマッスルベアは、最初に遭遇したときは五、六回切りつけてようやく倒せていたんだ。でも、遭遇するたびに四撃、三撃と倒すまでの切りつけ回数が減っている。そして最後に遭遇した個体は、一撃で両断していた。

 レベルが上がっていることもあるけど、レイナはそれよりも短い間隔で強くなっている。


「レイナ、なんだか物凄く強くなってない?」


「私も、一撃で倒せるとは思ってなかったわ」


 攻撃の威力が上がっていることは、本人も認めている。

 強くなったレイナ無双で、どんどん先に進む。

 レイナの勘に頼っていくつも分岐を曲がる。

 すると、ほどなくしてボス部屋と思われる大きく立派な扉の前に至った。


「よし、この調子でボスも倒そうか」


「ええ。早く仕留めましょう。そうすれば、町で困っている人たちの助けになるわ」


 ボス部屋の入り口となっている大きな扉を、力を込めて開く。


 中は巨大な空間になっていて、その奥に黒い巨大な狼のような魔物が、そこだけ時が止まっているかのように微動もせずに、突っ立っている。


「今のうちに、強力な魔法を放って」


「フルッコの森の異次元迷宮では、効果がなかったけど、もう一度試してみる?」


「ええ。試して」


「分かった。やってみる。…………ファイア!」


 最大限まで集中した巨大な火球がボス目掛けて飛んで行く。

 しかし、ボスまでの距離が十メートルを切った辺りで、火球は消え去った。


「やっぱり駄目みたいだね。異次元迷宮では、ボスが動き出すまで、魔法は無効になるみたいだ。仕方ない。ボスが動き出す位置まで、ゆっくり近づいて行こう」


 攻撃魔法が消されるだけではなく、「フォース」などの支援魔法も消されてしまう。魔法が有効になるのは、ボスとの戦闘が始まってからだ。だから、ボスが動き出すまで、俺たちは何もできない。


 レイナは(うなず)き、盾を構えて徐々に近づいて行く。


 俺はレイナよりも少し下がった位置にいる。

 先頭の者がボスに近づけば戦闘開始で、ボス部屋にいるメンバー全員が戦闘の対象になる。だから、魔法を撃つ俺はもっともっと下がった位置でも良かったんだけど、レイナ一人だけが先行して集中攻撃を浴びると危険だから、ある程度フォローできる位置にいる。


 ボスまで、あと十メートルくらいの位置に近づいたとき。


 ――グレンバスターウルフ。


 何者かの声が脳裏に響く。それに合わせて黒い影のようだったボスの姿が明確な実体となる。


「グレンバスターウルフ……。ボスの名前のようね」


「あと二、三歩近づくと動き出すから、注意して」


「わかったわ」


 レイナがちょうど三歩進んだ所で、グレンバスターウルフの目が赤く光り、動き出した。


 俺は、瞬時に「シールド」と「フォース」を掛け、レイナの防御力、攻撃力を上げる。続けて俺自身の防御力も上げておく。


 この間に、レイナは一気に間合いを詰め、それを払い除けようとしたグレンバスターウルフの足に一撃入れていた。


 グレンバスターウルフは飛び退き、低い体勢で()えてレイナを威嚇(いかく)する。

 それはただの咆哮(ほうこう)ではなく、直線的に発射される衝撃波となってレイナに襲い掛かる。


 即座に俺は衝撃波の射線から離れるように斜め後ろへと飛び退く。素早い動きができるようになったのも、レイナによる特訓の成果だ。


 レイナは迫る衝撃波を盾で受け流すように、俺とは反対方向にステップして衝撃を緩和して行く。


 衝撃波を受け流したのも(つか)の間、今度は氷を(まと)った(ムチ)が次々とレイナに襲い掛かる。

 あれは、水属性魔法の「アイス・ウイップ」で、鞭による打撃後に冷気と氷のつぶてが襲ってくる二段攻撃だ。父の持ってた本で、魔法のことは結構勉強したから間違いない。


 レイナは敢えて俺から距離を取り、そこから手出しすることで、グレンバスターウルフの意識を一手に引きつけているように思えた。 


 グレンバスターウルフの注意がレイナに向き続けている今のうちに、俺は魔法の集中を始める。


 俺の集中を支援するかのように、レイナは激しく動いて攻め立て、グレンバスターウルフとの攻防を続けている。


「ローズ・スプラッシュ!」


 レイナは一旦間合いを離してから急接近し、素早く無数にレイピアで突き刺す。


 この攻撃により、グレンバスターウルフは前足を上げるように体を後ろに反らせた。しかしその体勢のまま、突然低い唸り声を上げて氷の槍を飛ばす。

 あの魔法は「アイス・ランス」だ。魔物は強力な魔法を集中なしで使ってくる。


 一直線に飛んでくる三本の氷の槍は、動きにキレのあるレイナにとって、避けることは容易なことだった。

 左右に巧みに(かわ)し、さらにカウンターで剣技を決める。


「がら空きよ! シャイニング・セーバー!」


「……エクスプロージョン!」


 レイピアの軌跡が、グレンバスターウルフの胴体に大きなZ字を刻む。

 そこに集中が完了した俺の特大の魔法が着弾する。

 ウシター山のボスの魔石で習得した、レベル30の火属性の魔法だ。魔物が水属性の魔法を使っていたから、火属性魔法が効くのではないかと思って使ってみた。


 大きな火炎の爆裂に、レイナは盾で顔を隠しながら後退する。


 危ね、巻き込むところだった?

 この魔法自体は味方と認識している者には直接的な影響はないはずだけど、ボスの表皮とかが飛んでくるのはその範疇(はんちゅう)の外だ。


 しばらくして爆炎が収まると、そこにボスの姿はなく、大きな魔石が残っていた。


「倒したみたいね」


 俺たち二人で、ボスを倒すことができた!

 ほとんどレイナが一人で戦っていたけどね。

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