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016 エセルナ公国エグレイド(地図)

「あら、灼熱大地の皆様ではありませんか。指名依頼の報告でしょうか?」


 王都トトサンテに戻ってきた「灼熱大地」一行と俺たち。

 冒険者ギルドに入るなり、受付のサテラさんが声をかけてきた。日中ということもあってギルド内は閑散としていて、結構暇そうにしている。

 改めて見ると、クレバーの町で受付をしているステラさんとそっくりだ。髪の結ぶ位置が違うだけに見える。利き腕も違うんだけどね。


「ザッツライト! その通りだ」と、メルラドが答えた。


「では、こちらへどうぞ。ギルドマスターを呼んで参りますので、少々お待ちください」


 応接室に案内され、クレバーの町でもそうだったように、ギルドマスターに直接報告することになった。


 やや待っているとギルドマスターが入室した。

 白髪白髭の美丈夫で、顔にある傷跡が凄みを加えている。


 魔物のボスの説明や、アサシンマッシュの幻惑の影響、毒の呪いのこと、村人たちは快方に向かったことなど、体験してきたことを報告し、報酬をもらう。

 道中に倒した魔物の魔石も含めて報酬は金貨千四百枚となり、一人当たり金貨二百枚となった。指名依頼ということもあり、人数で割りやすいように報酬金額には若干色がつけられている。


 俺とガッドは、今回の依頼で冒険者ランクがDに上がった。レベルも一つ上がって11になっていた。おかしいな、レイナはもうランクDになっていたのかな? ランクが上がったとは言われなかった。それとも、言い忘れたのかな?


 報告が終わり応接室を出ると、サテラさんにまた声を掛けられる。


「皆様、明日は休暇の予定でしょうか?」


「イエス。そうだ」


「では、こちらなどいかがでしょうか?」


 見せられた紙は、なんと、ヤムダ村の「くつろぎ亭」を評価する報告書だった。

 宿屋として高い評価が記されていることもさることながら、食事については最高評価となっている。


 くつろぎ亭は、幼馴染のミリィとその姉のリブの生家だ。少し年上の姉がもう一人いて、三人姉妹はそこで働いている。

 宿屋の部分は、俺が魔法で大理石風の建物として増築し、さらに大きなテラスも魔法で作った。

 宿屋としての評価欄に、大理石で作られた増築部分が美しくお勧めだと書いてある。俺が褒められている訳ではないけれど、なんだかむず(がゆ)い。

 提供される料理は、俺の教えた「前世の記憶の料理」をリブがアレンジした物で、俺がヤムダ村にいる頃から既に、周辺の町から料理目当てに客が来るほど大人気だった。


「グッドタイミング! ちょうど行こうと思ってたところだ」


 今ではトトサンテに取り扱い代理店ができるほどの人気店で、予約がなかなか取れないそうだ。

 ウシター山の依頼の道中で、「灼熱大地」の四人がヤムダ村出身の俺とガッドから情報を得て、必ずくつろぎ亭に行くはずだと確信を持ち、既に予約を入れてあるそうだ。サテラさん、出来る受付だ。


「あ、俺たちは行かないよ」


「村に帰るより、エセルナ公国を冒険するほうが有意義だよな」


 予約には俺とガッド、それとレイナも含まれていたけど、丁重にお断りした。

 俺はヤムダ村から旅立ってまだ三カ月くらいしか経っていない。いくら冒険者ランクがDになったからといっても凱旋するには早すぎる。

 依頼などで行く用事があれば行ってもいいけどね……。村の周辺には魔物はいないから、出来る受付でも依頼は作れないだろうけど。


 俺とガッドは、ウシター山からの帰路に、レイナや「灼熱大地」から聞いた、隣国のエセルナ公国に興味があり、これからそこに行こうということになっていた。元々世界をいろいろ見て回りたかったからね。


「それは残念です。できればヤムダ村を案内してもらいたかったのですが」


 ユカミが本当に残念そうな顔をする。


「シーユウ。またな」


「エセルナ公国で見聞を広めて来るよ」


 冒険者ギルドを出ると、メルラドと固い握手を交わして「灼熱大地」の四人と別れる。


 ヤムダ村に行くには大通りを南に行くことになる。「灼熱大地」の四人は南へと向かった。今から出発すれば夕食の時間までに着くだろう。レベルが上がると不思議なことに体力も上がるから、走っても息切れまでの距離が長くなる。レベルの高いメルラドたちなら馬車に乗らず走って行くのかもしれない。


 俺たちの目的地、エセルナ公国の国都エグレイドへ一瞬で飛んで行ける転移石があるのは、大通りを東へ真っ直ぐ進んだ先だ。

 まだ見ぬ国に期待を膨らませ、俺たちは東に向かう。


「リックだっけ。今日はいねーみたいだな」


 途中、裏路地を覗いてみたけど、孤児のリックに会うことはなかった。「また今度来たときに探そうか」ということにして、東門までやってきた。


 東門を抜けると、そこには円柱状の石柱が地面に刺さるように立っていた。抱きつけば余裕で両手で囲えるくらいの大きさで、高さは腰くらいだ。天板には魔法陣が彫ってある。

 ちょうど今、その魔法陣が光った。

 すると、石柱の隣に光に包まれた商人らしき人物が現れた。どうやらエセルナ公国のエグレイドから転移してきた人らしい。


「おおぅ! すげぇなあ」と、驚くガッド。


 転移石があるのは世界で二か所だけで、ここトトサンテとエグレイドだ。使用すると両者間を行き来できる。

 転移石は先史文明の時代に設置された物と言われていて、(いま)だに稼働していることに驚きを隠しえない。


 ここリリク王国は北をフルッコの森、西と南を絶壁の海岸線を持つ海に覆われており、東にはスタンギル山脈という高い山々が壁のように(そび)えている。

 だから通常は、隣国に行くといえば、転移石で移動できるエセルナ公国のことを指す。腕に自信があればフルッコの森を縦断すれば良いのかもしれないけど、その前例がない。


 俺たちは、早速、転移石に触れる。


「!!」


 眩しい光に包まれ、一瞬で国境のスタンギル山脈を越えてエセルナ公国へとやってきた。

 さっきまであったトトサンテの東門が消え、ガラリと風景が変わった。

 俺のすぐ隣には転移石がある。これは、リリク王国へ戻る転移石だ。

 そして、東に少し進んだ所に国都エグレイドが見えている。

 全周を高い石壁で囲われていて、町並みまでは見えないが、その周長から大きな都市だということが分かる。


「おおおおお! ここがエセルナ公国か!?」


 少し遅れて、ガッドとレイナが光を(まと)って現れた。

 レイナはエセルナ公国の出身だから、転移石の使用は二度目で、とくに驚いている様子はなかった。


「あれが国都エグレイドだね」


「どんな所か、早く見てぇぜ!」


挿絵(By みてみん)


 ガッドにせかされ、足早にエグレイドへと向かう。

 途中、商人らしき人と何回かすれ違う。馬車は転移できないので、皆使用人らしき者を従えて、手荷物を抱えている。


 後ろを振り向くと、いつもヤムダ村では東に(そび)えていたスタンギル山脈が、今は西にあることが分かる。あの山脈を一瞬で越えたんだなと思うと、感慨深くなる。


 大きな鉄製の扉を備えたエグレイドの入り口では、入都税として銀貨二枚を支払った。


 門をくぐると、石畳で整備された道が幾重にも連なるように通っている。本通り以外は狭く弧を描くように曲がりくねっていて、それに沿うように石造りやレンガ造りの家々が建ち並ぶ。記憶の中では、ヨーロッパの風景に似たような所があったような気がする。


「本当に外国って感じだぜ。ここには木でできた家が、全然ねぇしなあ」


「私にしてみれば、木造の建物が多いリリク王国のほうが珍しく感じたわ」


 リリク王国ではほとんどの家屋が木造だったのに対し、ここではほとんどが石造りの家だ。


 歩いていると、所々に大きな敷地の豪邸を見かける。

 レイナが言うには、これは貴族か豪商の邸宅で、エグレイドが国都になってから移住してきた者が大半だそうだ。

 昔は国都は東にあるアベンチュリンという都市だったんだけど、議会で遷都が決まり、今ではここエグレイドが国都となっている。エセルナ公国は王制ではないため、評議員の発言力のバランス次第で遷都になることは昔から何回かあったらしい。


「なあ。ここにも孤児って、いるんだな」


 裏路地のような所に、薄汚い格好の子供が座っているのを見かける。


「そうみたいだね。食べ物を分けてあげようか」


 孤児に近づいて行くと、孤児は逃げるように走り去っていった。


「なんだ? 俺たちが怖いのか?」


「かもしれないね。次からは先に食べ物を手に持ってから近づこうか」


 気を取り直して進んで行くと、町の東寄りの位置でようやく冒険者ギルドに辿り着いた。西門から町に入ったので、結構歩いたと思う。


「よっしゃ、覗いてみるか」


 カラン。


 扉を開けて中に入る。

 昼下がりで閑散としているけど、併設している酒場では、数名、赤ら顔の冒険者が酒を(あお)っている。


 そんな酒場の隣で、掲示板を確認する。


「街道周辺の魔物の駆除ってのが多いな」


「大きな都市だから、接続している街道も多いんだろうね」


「私たち三人なら、街道周辺の魔物の駆除なんてすぐに達成できそうね」


 依頼料もいい額面がついているので受けてみることにする。冒険者ランク制限もEだから、俺たちでもこなせるだろう。


 受付で冒険者カードを提示し、依頼およびこの周辺のことについて尋ねる。冒険者カードを提示すれば依頼のことだけではなく、近隣の情報も無料で教えてくれる。


「初めてエセルナ公国へお越しの方ですね。では、私、フローライトが説明しますね」


 水色の瞳とエメラルドグリーンの長髪が特徴的な綺麗な女性だ。


 ここエグレイドは、東西に長いエセルナ公国を横断する街道の西の終点で、東の終点は漁業が盛んな都市サフィ。その中間地点に第二の都市アベンチュリンが立地する。

 そのため街道の往来が多く、街道付近の魔物の駆除や治安の維持を国の兵士が担っているんだけど、対象範囲が広大なこともあって、実情は、多くを冒険者に頼ることになっている。

 とくに、エグレイドの南北から地方都市へと続く街道は、所々林や山々に面していて、魔物の駆除のほぼすべてを冒険者に任せている。


 冒険者に依頼する街道周辺の魔物の駆除は、ある程度担当するエリアを区切る方式となっている。

 俺たちに割り当てられたのは、町を出て北に二キロメートル程度の所を流れる川の周辺のエリアだ。討伐する魔物の種類の指定はなく、この範囲内で八体の魔物を狩れば良い。いつどこで倒したかは、魔石を鑑定すれば判別できるから、その辺はチョンボできない。


 担当エリア付近に出現する魔物の名前と特徴を教えてもらい、三人で話し合う。そして、聞いた内容だと俺たち三人でも大丈夫だということになった。


「今から早速行ってみようか」


「そうね。しばらく馬車移動が続いたから、いい運動になると思うわ」


 魔法「サーチ」で魔物を探せる俺がいるから、今から行っても間に合いそうな感じがする。だから、とりあえず行ってみることにした。通常は十六体を狩って二回分の報告にするのだろうけど、もう午後になっているし、様子見の一回分をこなしに行く。


「ここ最近、魔物が活発になっています。くれぐれも注意してくださいね」


 通行証をもらい、ギルドを出る。通行証がないと、討伐が終わって町に戻るときに入都税を払わないといけなくなる。なお、依頼の討伐の期間を今日一日に設定したから、通行証も今日限り有効な物だ。


 北の門から町を出て、街道を歩く。やや高低差のある丸みを帯びた草原を()ぐように優しい風が吹く。ガッドのつんつんな髪や、レイナのサラサラな髪も風に揺れる。


「あれがジョルガン川っぽいな」


 目的の川が遠巻きに視界に入ってきた頃。

 道端に馬車を停め、若い女性を横に寝かせて介抱するように(たたず)む集団とすれ違う。


「すまない、あなたがたは冒険者とお見受けするのぉ。どうか、頼みを聞いてくれないだろうかのぉ?」


 突然声を掛けられ、俺たち三人は顔を見合わせる。すると、レイナが頷き、答える。


「ええ。私たちは冒険者よ。だけど頼みごとを受けられるかどうかは、内容を聞いてみないと答えられないわ」


「おお、ありがたいのぉ。我々は旅の芸人団の一行でのぉ――」


 彼は旅の芸人団の団長ポンザクックで、エグレイドへ向かう途中、ジョルガン川をこちら側へ渡った辺りで魔物の集団に襲われ、命からがら逃げてきた。

 通常の魔物程度なら団員だけでも対処できるはずなのに、中に凶変化した魔物が混じっていたようで、手に負えなかった。


 踊り子のライニーが魔物の攻撃を受けて動けなくなり、解毒薬などを試したけれど一向に良くなる気配がない。それどころか、魔物と離れるほどに深刻となって行く。

 これは恐らく魔物の呪いのようなもので、魔物を倒さないと治らないと悟ったポンザクックは、このままだとエグレイドでの公演ができないため、たまたますれ違った俺たちに声をかけた。


「どうかこの通りです。魔物を倒してくださいませんかのぉ?」


 深々と礼をし、さらに前払いだと言って報酬を差し出す。


「そこは、これから俺たちが魔物を駆除することになっている場所だ。報酬はギルドが出すからいらねえよ。だから俺たちが倒してきてやるぜ!」


「困っている人は見過ごせないわ」


 正義感に燃えるガッドは、拳を握り締め走り出そうとする。そしてレイナもそれに続こうとする。


「ガッド、レイナ、待てって。まだ魔物の特徴聞いてないからさあ」


 二人を落ち着かせ、団長から魔物の特徴を聞いて、頭の中でギルドで教わった魔物と照合する。腰くらいの背丈の、大根のような魔物とニンジンのような魔物……。


「恐らく、カースラディッシュとバイトキャロットだ。確か、種子を飛ばして増殖するはずだ」


「よし、パンダ探せ! 早速サーチだ!」


 ガッド、気が早いって。

 まあ、ここが安全かどうか確認しないといけないから、「サーチ」を発動するには違いないけど。


「サーチ!」


 近くに魔物の気配はなく、ここが安全だということをポンザクックに伝え、俺たちは急ぎ足で目的の魔物がいるであろう場所を目指す。


 ジョルガン川の傍までやってきた。

 改めて「サーチ」で目的の魔物を探す。

 もっと西だ。

 川沿いを草をかき分けながら進んで行く。

 体中が蜘蛛の巣に覆われる。それを手で払い除けながら進む。

 レイナは最後尾を歩いている。蜘蛛の巣と一緒にくっついてくる蜘蛛が嫌なんだろう。


「魔物の反応は、この辺りだ」


「草だらけじゃねえか。どこにいるんだ?」


「見当たらないわね」


 ガッドとレイナが剣で草を薙ぐ。


「うーん……。確かにここなんだけどなあ」


 魔法で探した位置は、本当にここだ。

 実際の位置と魔法で探索した位置には誤差が生じるのかな?

 これまでは魔法で探した魔物は見える所にいたから、位置の誤差は気にしていなかった。


「なあ、ちょっと草を燃やしてみようや」


 川沿いということもあってか、地面は湿っている。少々手荒なことをしても大丈夫だろうとガッドが言う。


「しょーがないな……。ファイア!」


 目の前の草むら目掛けて三つの火球を撃ち出す。威力を抑えているので、それぞれのサイズは小さめだ、といってもガッドの頭より大きい。

 火球は草を焼いて近くの地面に衝突し、小石が飛散する。


「ひゃあ!」


 小石を避けようとガッドが変なポーズをする。

 それと同時に、ガッドを真似したかのようなポーズで、地面から大根とニンジンの魔物が飛び出した。


「はぁはぁ……。出てきやがったな!」


「魔物よ!」


 剣を構え直すガッド。小石で結構ビビったようで少し息が荒い。レイナは冷静に盾とレイピアを構える。俺も剣を手にして臨戦態勢になる。


 魔物の本体と思える白い大根の部分は俺の腰の辺りの高さで、その上に葉が伸びている。


 ――明らかに大根の葉っぱだよね。何故分からなかったのだろう。


 大根の魔物もニンジンの魔物も、その特徴的な葉の形状は植物そのままの姿であって、畑の植物を大きくしただけという見た目だ。手や足のような形になる大根やニンジンもよくみかけるから形状に違和感はない。植物と大きく違うのは、顔があるというところだろうか。


 観察している隙を突いて、大根の魔物が跳び上がり、きりもみしながら突っ込んできた。同時にニンジンの魔物は器用に石を掴んで投げる。


 ガッドは盾で大根の魔物を受け、俺とレイナは石を横に飛んで避ける。

 着地した大根の魔物は、葉をヘリコプターのように回転させて再び浮き上がる。外側の葉と内側の葉が反対方向に回転し、大根部分が回らない仕組みになっている。


「なんだ、こいつ飛ぶのか?」


 盾から顔を(のぞ)かせて魔物の予想しない動きを確認するガッド。


 浮かび上がるその下から、ガラ空きに見える本体部分へ、レイナが切り込みを入れる。一撃目だけ当たり、二撃目は空を切る。そしてそのままレイナは下がって間合いを取る。

 ガッドも遅れて剣を振った。するとそれに呼応するかのように、回転する葉が急に伸びてガッドの手元を襲う。間一髪で剣と手を引き戻したガッドは大きく後ろに下がる。


「エア・スラッシュ!」


 俺は魔物の葉を狙い、魔法を放つ。

 空気の(やいば)が魔物の葉を切り落とした。

 揚力を失った魔物はくるくる回って落下し、それを追いかけてガッドとレイナが剣を振り下ろす。


 俺たちが大根の魔物に意識を向けている間に、ニンジンの魔物は地面に刺さり、花を咲かせていた。白く小さな花が半球状に密集し、それが複数集まってまた半球を成すかのように広がる。


 その一見綺麗に見える花は、一瞬で大きな種に変化して飛び出し、近くの地面に吸い込まれていった。


 地面に横たわる大根の魔物は、新しい葉を生やして起き上がり、再び襲い掛かってくる。


「甘いわ!」


 伸びる大根の葉をレイナは盾で受け流し、踏み込んで反撃を入れる。

 それにより、勢いよく伸びた葉が切り落とされ、大根の魔物はバランスを崩して転倒した。


「ストーン・バレット!」


 俺は石の弾を数発飛ばす。

 大根の魔物は地面を転がってそれを(かわ)したが、ガッドが追いかけて剣で切りつけ、魔物の転がりを止める。


「パンダ、今だ!」


「わかった! ファイア!」


 撃ち出した火球が、大根の魔物を遠くへと吹き飛ばした。


「よっしゃ、次!」


 右を向くと、そこには八体の小さなニンジンに囲まれたニンジンの魔物の本体が、根を手足のように使って地面から這いだそうとしていた。

 小さなニンジンと表現するのは、あくまでも本体よりも小さいということであって、植物のニンジンと比較すれば十分に巨大だ。


「ちょ、増えすぎじゃ……」


 ギルドから増殖するとは聞いていたけど、それは一体ずつだった。でも、目の前の魔物は一度に八体の魔物を生み出した。情報が間違っているのか、似ているだけの違う魔物なのか。


 レイナが小さなニンジンを突き刺したり切り刻んだりして何体か倒した。以降は、本体の大きな葉がそれを阻んで、なかなか思うようには攻撃できていない。


 ガッドも加勢して切り掛かる。

 二人がかりの攻撃は葉では防ぎきれないようで、小さなニンジンが一体ずつ、二つに折れて地面に倒れて行く。

 俺も石弾を撃ち込んで殲滅に協力したんだけど、はらりと避けられた。


「ちょこまかと、すばしっこいな」


 突然、本体の葉が地面へとしなり、泥や砂利を巻き上げる。


「うわっ!」


 それが目くらましとなり、攻撃の止まった俺たちに向けて、小さなニンジンが一斉に飛びかかってきた。

 盾を前に出し、左膝を曲げて右足を後ろに下げるガッド。レイナは二歩下がって盾を構える。

 俺はガッドの前に魔法で風の壁を作る。


「巻き上がれ! ウインド・ブラスト!」


 吹き乱れる風の壁に揉まれて折れたり削れたりしていく小さなニンジンたち。この魔法そのものの殺傷力は低い。それでも、小さなニンジンは風に揉まれて地面に叩きつけられ、数を減らしている。

 その風の壁の後ろで、ニンジンの魔物の本体に近寄る大根の魔物。


「大根の魔物、まだ倒せてなかったのね?」


「おい、アイツ、何かしようとしてるぜ!?」


「そうだけど、近づけないね……」


 前面に風の壁を作ることは、防御になる一方、自分たちが攻め込むこともできなくなる。


 ニンジンの魔物の頭に、手のような根を掛けておぶさるような恰好になった大根の魔物。


「まさか、合体する!?」


「おい、合体ってなんだ?」


 二体の魔物が合体してより強力な魔物になる――アニメとかでよく見かけたシチュエーション。ガッドには聞いたことのない言葉だったかもしれない。


「えええー!」


 そのまま頭の上に乗っかり、ニンジンの魔物の葉を掴むような恰好で上に立つ大根の魔物。

 合体なんてしていない。本当に乗っただけだ。

 そして、葉を大きく広げて威嚇している。


「乗っかっただけじゃねえか」


「上に乗って、何をしようというのかしら?」


 期待外れ感が漂う中、風の壁が消えたと同時に、俺は火球を撃ち出す。

 すると、大きく広がっていた葉が起き上がり、しなやかに反ることで火球を()ね返す。


「うお!」


 ガッドの顔を(かす)める火球。

 戸惑いを見せている間に、大根の魔物は花を咲かせる。菜の花を白くしたような、小さな桜の花のようにも見える可憐な花は、すぐに「ポン!」と鳴って大きな種子に変化し地面に散らばる。


「やばい、増える前に倒さないと!」


 俺が叫ぶよりも先にレイナが飛び出し、種子を潰して行く。

 俺も魔法剣を握り締め、周囲の種子を潰しにかかる。ガッドも同様だ。

 種子がたくさんばらまかれたから、手当たり次第に闇雲に切り散らす。


 それでも、生き残った種子から芽が生え、小さな大根の魔物が()い出し始めた。

 それを守るかのように、本体もこちらに向かってくる。


「小さいのは後よ! 今は本体を狙って!」


「おう!」


 ガッドが、乗っかった状態の本体に向かう。レイナも向かおうとしたけど、小さな大根に阻止されて、ガッドの方が先に接敵した。

 剣の間合いに入り、狙いを定めたガッドが大根の魔物の本体に向けて剣を振り抜く――その瞬間、大根の魔物はニンジンの魔物の頭を蹴って空高く舞い上がり剣を(かわ)す。そしてドリルのように急回転してガッドに向かって降りかかる。


 一瞬上を見たガッドに、地上のニンジンの魔物による強烈な体当たりが決まる。


「ぐはっ!」


 転がるガッドを左前方に避け、接近したレイナがニンジンの魔物を側面から両断し、さらに、空中から迫る大根の魔物を避ける。


 この結果、当初ガッドを狙っていた大根の魔物の急降下攻撃は()れ、何故か岩の上に着弾して自爆となった。

 それを、レイナがスパッと切って止めを刺し、大根の魔物は魔石に変わった。

 ニンジンの魔物が体当たりをかましたら、上空からの攻撃が逸れるに決まっているのに。変な連携攻撃をする魔物だなあ。もう一度頭に乗ろうとでも思っていたのかな?


「こいつら、頭(わり)いなあ」


 そういえば、頭なんてあったのかな? 野菜に顔を描いたような姿だったけど。


 本体は倒した。あとは、何の役にも立たず逃げ惑う小さな大根の魔物を追いかけて切って行く。


「全部倒したわね」


「おう。俺たちで全部倒したぜ!」


 周囲を確認するガッド。

 俺は魔石を拾い、地面を転がって泥だらけになったガッドに「クリンアップ」を掛けて綺麗にする。

 レイナにも掛けてあげる。すると「あっ」と小さく声を漏らして頬を赤らめるんだよね。フルッコの森で野営するとき、いつもそうだったから、俺はもう慣れたけど。


「小さな魔物も魔石になったから、依頼の八体は達成だね」


「よし、さっきのねーちゃんの所に戻ろうぜ」


「これで治っていれば、いいわね」


 旅の芸人団の馬車が停めてある道端へと戻る。


 魔物の呪いに侵されていた踊り子のライニー。

 そこに注がれるガッドの視線は、困っている人を助けたいという思い以上の感情が込められているように思える。


「ううぅ……」


「おお、気がついたのか!」


 (まぶた)を開いたライニーに、ポンザクックが居ても立ってもいられず、身を寄せる。

 ライニーは、ゆっくりと上体を起こし、ポンザクックを、それから俺たちを見る。


「この方たちは?」


「お前を助けてくれた冒険者だのぅ。えっと……」


「俺はガッド・マウトリ。こいつはパンダ、そっちはレイナだ」


 自分だけフルネームで自己紹介するガッド。その視線はライニーに熱く注がれている。


「マウトリ……。はて、どこかで聞いたことが……」


 頬に人差し指を当てて少々考え込むポンザクック。だけど、ライニーが立ち上がることで思考を止める。


「セシィ、エミィ。演奏を」


 ライニーに促され、竪琴を手にしたセシィは演奏を始める。それに続いてエミィは笛を吹く。馬車の中から打楽器の音も聞えてきた。


 羽織っていたローブを脱ぎ、優雅に踊りだすライニー。ピンクの髪がさらりと揺れる。演奏に合わせ可憐に舞うその姿は、魔物の呪いが完全に消え去ったことを体現している。


 右にステップを踏み、両手を広げ右足を前に大きく屈んだ姿に、白鳥がこれから羽ばたこうとしている映像が重なる。キラキラと光る水面(みなも)は夕日を受ける草花の影を優しく映す。


 白鳥が羽ばたくと、輝きは空中へと広がる。

 大きく力強く躍動する白い翼は、その陰で水面を蹴る黄色い足を隠す。

 遂に大空へ羽ばたき、夕日の中に溶け込むように消えて行く――演奏が終わり、現実に戻される俺たち。


 ガッドは口を開けたまま見惚れている。俺が拍手すると、ようやく意識がこちらに戻ったようで、懸命に拍手しだした。


「救って頂いて、ありがとうございます」


 深くお辞儀するライニー。


「素晴らしい踊りだったわ」


「助かってよかったぜ。俺の剣にかかれば、魔物なんて真っ二つさ」


「ふふふ、お強いんですね」


 デレデレなガッドは、今にも(とろ)けそうだ。なんか、馬車の中から「フガーッ」って叫び声が聞こえた気がするけど、気のせいだろうか。


「我々はこれからエグレイドへ向かうんだがの、馬車で一緒に行きますかのぉ?」


「乗せてってくれるの? ありがとう」


 ポンザクックに勧められるまま馬車に乗る。

 団員は七人いて、それぞれが二台の馬車に分かれて乗る。


 馬車の中でガッドがライニーと積極的に交流を深める隣で、俺はセシィとエミィを相手に世間話をしていた。何故か、レイナはむすっとしている。


 セシィとエミィは栗色の髪を後ろで結っていて、よく似た顔立ちをしている。大事に竪琴を抱えているのが姉のセシィで、カチューシャをしている方が妹のエミィだ。

 旅の芸人団ということもあって、二人とも楽器の演奏の他、魔物と戦うこともあるそうだ。そのときはセシィは弓を、エミィが魔法を使う。もう一台の馬車に乗っている、「フガーッ」って叫んでいた男が切り込み隊長だそうだ。

 そんな彼女らでも、ここ最近異常に発生している魔物に手を焼いているようだ。


 世間話をしているうちに、エグレイドに着いた。


 まだ日が高いので、旅の芸人団の皆はこのまま中央広場に行き、公演を始めるそうだ。前世のサーカス等と違って夜の公演はやらないようで、日が沈むまでに終えるようにしている。


 俺たちは冒険者ギルドに報告に行くからここでお別れだ。馬車を降りて東に向かう。


 ん?


 ガッドが俺の服を引っ張る。ガッドの視線は旅の芸人団の馬車に釘付けだ。


「分かったよ。見に行きたいんだろ? レイナも行く?」


「仕方ないわね」


 満面の笑みを返すガッドに引きずられるように、馬車の向かった方向に向きを変える。


 旅の芸人団って何をするのか俺も見てみたかったし、楽しんでこようか。

 冒険者ギルドに行くのは、その後だね。

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