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013 フルッコの森~帰還

「ブラボー! やるねえ!」


 声のする方へ振り向くと、入り口の向こう側に冒険者風の者が四人、感心しているような表情でこちらを見て拍手している姿が見えた。


「俺は灼熱大地のリーダー、メルラド。とりあえず通してくれないか?」


 剣を鞘に収めてあること、敵意がないことをアピールし、ボス部屋の中に入れてくれと言ってきている。


「えっと、どうすれば?」


「扉の横にある四角いボタンをプッシュするんだ」


 言われたように押し込むと、透明な膜が消え、冒険者パーティ「灼熱大地」の四人が中に入ってきた。


 あの膜は、ボスとの戦闘が始まるまでは一方通行で進入可能だけど、戦闘が始まると、誰も入ることができなくなるということだ。

 これのおかげで、ボス戦に他者が突然乱入して、魔石を横取りするようなことができなくなっている。

 デメリットとしては、戦闘メンバーを部屋の外から追加することができないことが挙げられている。

 また、扉の横のボタンを押せば、この部屋から逃げ出すこともできる。

 これは異次元迷宮共通の仕組みで、冒険者ギルドの資料にも書いてあるとのことだった。


「ハートを焦がす、熱い戦いだったぜ」


 メルラドと名乗る男は、ウインクするような仕草を見せる。


 焦げたのはヘルスパイダーの方だけどね……。あ、ガッドも少し焦げたかも。


「たった三人でやったと言うのが、アンビリーバボーだぜ!」


 彼らは戦闘開始直後から見守っていたようだ。

 どうしてここに来たかというと、フルッコの森の深層を調査する依頼の帰り道に、中層でたまたま異次元迷宮を発見して立ち寄ったのだとか。


 フルッコの森の中層を探検する冒険者はせいぜいCランクが最上位で、しかもCランクになって間もない者がほとんどだから、他冒険者による異次元迷宮の攻略は難しいと考え、Bランクの「灼熱大地」が攻略に乗り出したのだ。


 彼らとしても、こんな新しい異次元迷宮にボスがいるとは思っていなかったようで、驚いている。そして、駆け出しの新人が迷宮のボスを倒したことに、賞賛の嵐だ。


「回復します。ヒール」


 紅一点、ユカミと名乗る女性が傷を癒してくれる。ミリィの「ヒール」よりも傷の消え方が遅いけど、傷は綺麗に治っていく。


「ありがとうございます」


「あなたたち、回復魔法を使える人を入れないで戦っていたなんて、度胸があると言うか、無謀と言うか……。まあ、倒せたから良かったのでしょうけど」


 頭を()きながら、「ははは、何とかなりました。運が良かったんでしょうね」と答える。


 ここで、リーダーの男から「そんな丁寧な話し方しなくっていいぜ。冒険者同士、皆対等だ。俺たちは別に尊敬されるような立場でもないからな」と断りが入る。

 冒険者同士は、基本、敬称もつけなくっていいそうだ。だから、「メルラドさん」ではなく「メルラド」でいいらしい。


 続けて、メルラドからも異次元迷宮には回復係がいないと危険だという意見があがった。だけど、パーティ編成は冒険者の自由でもあるので強くは言わなかった。フルッコの森の中層に挑むにも、回復係がいるほうがいいとのことだった。


「バイザウェイ、(とど)めの魔法はなんだ? ピカッと光ったが、雷属性の魔法だったのか?」


 長年冒険者をやっていても、雷属性の魔法を発動できる人に出会ったことはなく、初めて目にしたとのことだ。

 魔法使いで、細身のニキシもしきりにうなずいている。

 大きな盾を持つ大仏顔のデンガルは、細い目をさらに細めてゆっくり首を縦に振る。


「あれは、雷属性のレベル1魔法だけど」


「「「「ええええー!」」」」


 一同、腰を抜かしそうなくらいに驚いている。


 ニキシが、恐る恐るというていで尋ねてきた。


「あ、あれがレベル1魔法だって言うのか……。もしかして火球も、か?」


「火属性、レベル1の魔法だよ」


「嘘だろ? ありゃあ、レベル30のエクスプロージョン並みの威力に見えたぜ。しかも剣から発動していなかったか?」


「はははは……」


 笑って誤魔化す俺。冒険者は自分の特技を秘匿することができる。もちろん、広く公開して高名な冒険者になることもできる。

 これを特技の秘匿だろうと認識したメルラドは、話題を変えてきた。


「手当ても済んだし、外に出るとするか」


「って、あなたたち、出口はこっちよ!」


 入ってきた扉から、もと来た道を戻ろうとする俺たちをユカミが制止する。


「そこの白い光にタッチすると、外に出られるぜ」


 メルラドたちも、白い光の環を使って外に出るために、この部屋に入れてもらったみたいだ。


 白い光の環に触れると、フワッとした感覚に包まれ、視界が森の中に変わる。辺りはもう暗くなっている。


「今日はここで休みましょう」


「オーケー。そうだな、休もうぜ」


「だぶだぶ!」


 ユカミの主張に、メルラドとデンガルが賛成する。


 異次元迷宮を攻略すると、数日間、その周辺に魔物が寄りつかなくなる。そのため、攻略後はその場で休むことが一般的のようだ。

 ここが安全だってことだから、俺たちもここで休むことにする。


 メルラドたちは、いつの間にか取り出した鍋に火をかけて湯を沸かし始めた。


 俺はすぐ隣にテーブルと椅子を出し、料理を並べて行く。


 大仏顔のデンガルは、ぎこちなく顔をこちらに向けると、念仏を唱えるように言った。


「なーにーあーのーめーしーはー?」 


 それにつられて他のメンバーもこっちを見る。


「リアリー? テーブルに椅子だと?」


「料理から湯気が上がってるぞ」 


 Bランク冒険者というだけあって、彼らも魔道具の「収納カバン」を持っている。しかし高価な割にそれほど物が入らず、鍋などの調理道具や着替え、それと金貨などを入れているに過ぎない。

 せいぜい追加で入れるとしても魔物からのドロップ品ぐらいで、「収納カバン」に完成した料理を入れるという発想がない。

 そして、組み立て式のテーブル一つ入れれば「収納カバン」は、ほぼ満杯になる。だから森の中にテーブルを持ち込むこと自体、ナンセンスらしい。


「良かったら、どうぞ」


「いいのか? 森から出るまでに食料が尽きたら死んじまうぞ?」


「大丈夫だよ。まだたくさんあるから」


 ついこの間も似たようなことがあったため、柔軟に対応する。実際、魔法収納にはまだたくさんの料理が残っている。でも、いつまたこのようなことがあるか分からないから、町に戻ったら補充しておこう。


 皿ごと料理を受け取ると、やはり以前の出来事と同じように感激して涙を流しながら料理を食べる「灼熱大地」の四人。


「うめえ」


「デリシャス! 高級料理店でもこんな味はなかったな」


 Bランクは儲かるようで、高級料理店にも出入りしているみたいだ。

 話を聞くと、高級料理店は素材が高級なだけであって、味付けが良い訳ではなさそうだ。安い素材でも味付け次第でおいしくできる、ということはこの世界ではあまり知られていないみたいだ。


「うんまいだぶ、うんまいだぶ……」


 念仏のような感想を漏らすデンガル。

 俺たちを癒してくれたユカミは、黙々と料理を食べている。よく見ると、その目からは涙が流れている。


 料理だけでなく、柔らかいパンについても大絶賛で、彼らは世界をいろいろ旅してきているが、やはり食べたことがないとのことだった。


 食事を終え、武器の手入れや、就寝準備を始める。


「俺たちで不寝(ねず)の番をするから、ボスと戦ったお前たちはゆっくり休んでくれ。まあ、ここには魔物は近寄ってこないけど、一応な」


「魔物が近寄ってくることがないのなら、俺のエア・カーテンで大丈夫だと思うよ」


 ここはフルッコの森の中層だ。

 万が一、魔物が群れて襲ってきたら、俺が先に目覚めてガッドを起こしても間に合わないかもしれない。かといって、すぐ起こせるように「灼熱大地」のメンバーと背中を合わせて寝るような仲でもない。

 でも、魔物が来る確率がほぼゼロだというのに、不寝の番を用意するのも気が引ける。こんなときこそ、「エア・カーテン」を活用したい。


「まさかとは思うが、一晩持続できるのか?」


「明日の昼頃まで持続できるよ」


「「「どんだけ~」」」


 Bランクのニキシでも六時間程度しか持続できず、いつも不寝の番を立てているとのことだ。森の中は暗くなるのが早く、明るくなるのも遅い。だから、六時間以上の持続時間がないと、不寝の番が必要になる。


 俺が「エア・カーテン」を使うことで、話はまとまった。


 ベッドを取り出し、虫よけを()く。


「今更だから、もう驚かないぞ……」


「ベッド……」


「私たちが時代遅れってこと? いいえ。きっと、あなたたちが非常識なのよ……」


 毛布に(くる)まり、寝入る「灼熱大地」の四人。それをベッドの上から見降ろす俺たち。就寝用の靴を履いてはいるけど、もう、ガッツリ寝る気満々だ。


 横になると、戦いの疲れもあって、すぐに寝ついた。



 気がつくと、もう夜が明けていた。


「もう朝か……」


 ガッドを起こして、ベッドを片づける。

 レイナはもう起きていて、剣の素振りをしている。


 森の中では、周囲が暗いうちは移動はしない。

 焚火で暖を取りながら、硬いパンと干し肉をかじる四人。

 その隣でテーブルの上に温かいスープや柔らかいパンを並べて優雅に食事をとる俺たち。


「なあ、分けてあげなくって良かったのか?」


 ガッドが小さな声で遠慮がちに尋ねる。


 これ以上駆け出し冒険者から恵んでもらうことは、Bランク冒険者の矜持(きょうじ)が許さないらしく、時折こちらをチラ見しながらも欲しそうな顔はしていない。顔に出さないように努めているのかもしれないけど。


 そんな、少し殺伐とした朝食を終えると、手早く出立の準備を終えたメルラドが話しかけてきた。


「異次元迷宮のこと、ギルドにレポートしなきゃいけないだろう? 俺たちが先に戻って概要を説明しとくから、後で来るんだぞ」


 そう言い残して「灼熱大地」の四人はクレバーの町の方角へと進んで行った。一緒に行っても良かったけど、あの移動速度にはついていけそうにないから、足手まといになるだろう。

 彼らは長期の調査依頼をこなした後だから、帰還したら休みを取ると言ってたし、早く帰りたいはずだ。


「私たちも町に戻りましょう」


「ああ、町に戻ろうぜ」


「そうだね。今回は、十分な修行ができたよ」



 四日後。


 俺たちはフルッコの森から帰還し、冒険者ギルドに報告にやってきた。


「あら、ローズ・ペガサスの皆さんですね。奥の応接室でお待ちいただけますか? ギルドマスターが話を聞きたいそうです」


 カウンターに並ぶ前に、ステラさんの方から声をかけてきた。

 指示の通り応接室へ行くと、職員がお茶を用意してくれる。


 ソファに腰かけ、しばらく待っていると、筋肉質な男が入ってきた。


「俺がギルドマスターのローラン・ボウデンだ。君たちの話はメルラドや、スムリから聞いている」


 職員がギルドマスターのお茶も用意する。

 スムリとは、トトサンテとクレバーの町を結ぶ街道で負傷していた冒険者のことだ。


「まずは、異次元迷宮で入手した魔石を見せてくれないか。迷宮の魔物全部のをな」


 迷宮の物とそれ以外の物を取り立てて区分して仕舞っていた訳ではないけど、迷宮の魔石は少し大きいので、すぐに分かった。


「これだね」


 職員が手際よくカゴをテーブルの上に配置し、俺は魔石をその中に置いていく。


「ほぅ」


 ギルドマスターは、魔石を三本の指でつまむと、片目で透かすように見つめる。


「確かに異次元迷宮の魔石だな」


 そして、一番大きな魔石を手に取ると、両目でしかっと睨むように見定める。


「間違いない。迷宮ボスの魔石だ」


 その言葉を合図としてか、職員はカゴをもう一つ用意し、テーブルの上に置く。


「迷宮以外の魔石と、冒険者カードをそっちに入れてくれ」


「迷宮以外のを?」


「そうだ。まとめて清算してやる。色をつけといてやるから、楽しみにしてるんだな」


 ガハハハと大きな声で笑い、職員に指と小声で指示を出すギルドマスター。

 職員は二つのカゴを重ねて抱えると、部屋から出て行った。


「そうそう。メルラドから聞いた話だが、雷属性の魔法を使いこなせるって本当か?」


「うん、一応使えるよ」


 また、ガハハと笑い、


「さっきの魔石の中に、魔法を記録した魔石が二つあったな。あの大きさなら、火属性レベル20クラスと雷属性レベル10クラスだったはずだ。俺の目じゃあ魔法名までは分からんが、どうだ、ギルドで引き取らずに、持ち帰るか? なくすと大損になるから、ギルドが引き取るほうが無難だがな」


 魔石の大きさや中の紋様で、習得できる魔法のレベル制限がわかるらしい。


 俺が習得済みなのは、火属性魔法ではレベル1の「ファイア」とレベル10の「フレイム・ウォール」だけだ。雷属性に至ってはレベル1の「ライトニング」しか習得していない。

 一つの属性でも同じレベル制限の魔法が複数存在する場合があって、魔法名が分からないと重複することがある。しかしながら、そもそも俺はそのレベルの魔法を習得していないので重複することはない。


 そして、ギルドマスターは、俺がレベル制限を無視して魔法を取得できることを知らないから、重複を懸念したのではなく、まだ覚えられない魔法の魔石を持ち歩くことを心配して発言したのだった。


「レイナ。魔法入りの魔石、もらってもいいかな?」


「もちろんいいわ。パンダの魔法が増えるのなら、それを拒む理由なんてないでしょう?」


「ありがとう。ギルドマスター、魔石を持ち帰ることにするよ」


「……そうか。分かった」


 そう言って、チラリとこちらを(うかが)ってから、テーブルの上のベルを三回鳴らす。

 とくに職員が入ってくることもなく、このベルが持ち帰りの合図になっていたようだ。


 職員が魔石の鑑定をしている間、ギルドマスターの武勇伝を聞いて時間を潰していると、やがて扉をノックして職員が戻ってきた。


「鑑定の結果は、以上のようになります」


 紙には綺麗な字で鑑定結果が書かれている。

 魔石それぞれの値段、常設依頼の達成料、異次元迷宮発見報告料、ボス討伐報酬、特別手当。

 合計、金貨六百六十枚。


 ボス討伐報酬だけで金貨六百枚になっていた。特別手当は金貨十二枚で、ギルドマスターの裁量で支給された物だ。ボスと俺たちのレベル差を考慮しての特別な手当てという位置づけになる。帰り道はほとんど狩りをしなかったこともあり、ほぼすべてがボス討伐報酬となった。


 ボス討伐は通常五人程度のパーティで行うため、多額の報酬が支払われることが多い。じゃあ、今回の報酬が多額かと言われれば、少額の部類に入る。


 ボスの脅威は迷宮の大きさに比例する。できたばかりの迷宮は規模が小さいため、ボスもそれほど強くないと考えられ、また、ボスの魔石からも脅威が推測できるため、今回の討伐報酬は他の迷宮ボスよりも安く設定されたそうだ。他のボスって、いくらなんだ? 凄くない?


「まずは、昇格おめでとう」


 俺とガッドの冒険者ランクがFからEに上がった。

 本当はボス討伐の功績から、Dまで上げても良かったのだけど、二段階昇格は前例がなく支部だけで決済できる内容でないため、一段階だけとしたそうだ。これにはまだ理由があるそうで、それは、後で話すそうだ。

 レイナは冒険者ランクが上がらなかったけど、もうランクEになっていたのかな?


「聞いているとは思うが、君たちの踏破した迷宮は、発生して間もない物だ。だから、普通ならボスはいないはずだ」


 ここで、パイプの煙草に火をつけ、一息入れる。


「だが、ボスはいた……。非常に興味深い結果だ。過去の資料からは、特定の条件でそういうことがあり得たそうだが、はてさて……」


 もう一度大きく煙草を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。受動喫煙に配慮、なんて政策はこの世界にはない……、多分。


「あるいは、君たちが……」


 思案に(ふけ)るように、遠くを見る目で俺たちを見るギルドマスター。


「お、そういえば、メルラドが君たちに討伐依頼を合同で受けて欲しいと言っておったな」


 昨日のことだった。先にクレバーの町に戻った「灼熱大地」の四人は、異次元迷宮の概要をギルドに報告しにやってきた。

 応接室でギルドマスターと面会中に、王都トトサンテから「灼熱大地」を指名した討伐依頼が発行され、その場でメルラドたちは依頼を受け、その際、俺たちを合同メンバーとして指名したそうだ。


 ギルドマスターとしては、有望と目されている若手冒険者に経験を積ませる良い機会なので快く了承し、俺たちが来るのを待っていたのだった。


 胸のポケットから一枚の紙片を取り出す。


「どうだ、受けてみないか? これを達成すれば、晴れてDランクに昇格だ」


 依頼の内容は、王都トトサンテから西の方角にあるウシター山に現れた、大きなアライグマの容姿をした謎の魔物を討伐するということだ。

 ここから現地に移動するだけで十日ほど掛かるとのことなので、ギルドは馬車と御者を用意してくれる。また、準備金として俺たち三人それぞれに金貨二十枚ずつを支給してくれるそうだ。Bランクの指名依頼って、至れり尽くせりなんだね……。


 ちなみに、この魔物の討伐は、領主直属の兵士が挑んで惨敗したということだ。

 若手に経験を積ませるというのは本当だろうか?

 人柱になりに行くだけじゃないだろうか? 


 元々、領主の兵士は魔物の討伐には向いておらず、派閥間の闘争や盗賊団の取り締まりなどの対人戦で活躍している。街道に現れる程度の魔物ぐらいなら問題ないけど、魔物退治は専門家の冒険者が適している、ということだ。


 まあ、メルラドに何か考えがあるのかもしれない。上位の冒険者に折角誘われたのだから、受けてみるのがいいと思う。


「ええ、受けるわ」


 三人で相談し、受けることにした。


 ちょうど明後日、「灼熱大地」の四人は休暇を終えてギルドに顔を出すことになっている。

 その日程に合わせ、俺たちも一日休暇を取ることにした。

 出発のための待ち合わせの場所や時間も聞いたし、そろそろ宿に行って休みたいな。


 話も終わり、応接室から出ようとした所、


「おい、忘れ物だ」


 あ、魔法入りの魔石を持つのを忘れてた。それに報酬も……。


「大事な魔石だろ? 忘れるんじゃないぞ」


 まずは、冒険者カードを手に取りポケットに入れる。冒険者カードにはレベル10と記載されていて、いつの間にかレベルが上がっていた。

 パーティ登録をしているので、名目リーダーの俺だけが冒険者カードを提示するだけで、メンバー全員の処理が完了している。


「俺、魔法入りの魔石をもらったから、その分、報酬を減らそうか」


「いいえ。報酬は均等に分けるわ。魔石で魔法を覚えられるのなら、それは、パーティとしての戦力アップになるから問題ないはずよ」


「でも、その考えだと、今後装備を買ったり消耗品を揃えたりするのもパーティ共通財産ということになるよね? それなら、こうするのはどうかな――」


 報酬の半分をパーティ資金として保管する。残りをメンバーで分ける。

 つまり、メンバー個人の報酬は全体を半分にした額を三人で分けるから、全体の六分の一になる。

 端数が出る場合は、余りはパーティ資金に回す。

 そして、魔石、装備品、消耗品、宿屋の代金などの、パーティとして活動する際に発生する出費はパーティ資金から出す。


「それで構わないわ」


 金貨の詰まった皮袋をガッドが重そうに持ち上げた。どう見ても落としそうなのですぐに魔法収納へ仕舞った。皮袋とは別に置いてある準備金も仕舞う。

 金貨は冒険者ギルドに預けておくことも可能なんだけど、魔法収納のある俺たちには、あまり意味がないので全額受領することにした。


 俺の分はもちろん、ガッドの分も、俺の魔法収納に仕舞うことになる。レイナは、自分の収納の魔道具に仕舞っているから、俺の魔法収納には入れない。

 それと、パーティ資金も、俺の魔法収納に入れる。俺の魔法収納は容量が大きく、金貨の皮袋なんて、どれだけでも入りそうだから。


 最後に魔法入りの魔石を手に取り、改めて応接室を出る。


「早速習得してもいい?」


「好きにすればいいさ。ただ、ここだと目立たねえか?」


 そうだった。魔法を習得する時は、魔法陣が現れるんだった。

 宿に行って部屋の中で習得することにした。


「確か、ミスリルの剣って金貨六百枚だったと思うけど、買いに行く?」


「う……。い、いいや、今回の稼ぎから装備に回せるのは金貨三百三十枚だ。それだと足りねえからな」


 ガッドの顔には「剣が欲しい」と書いてある。俺とレイナから前借りすれば、買えないことはない。でも、思いとどまっている感じだ。


「剣を買うのも目標なんだがな、それよりもだ。いっぱい稼いで、孤児たちを救ってやろうぜ!」

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