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012 フルッコの森~異次元迷宮

 扉に触れると、フッと体が浮いたような感覚になり、気がついたら異次元迷宮の内部と思われる場所に移動していた。扉は転送装置だったみたいだ。


 さっきまで森の中にいたのに、ここは洞窟の中のように見える。

 壁の所々には光る魔石のような物が埋まっていて、洞窟内を十分探検できる明るさとなっている。もちろん、外と比べれば暗くて遠くを見通せないことは否めない。

 洞窟の広さについては、俺とガッドが並んで両手を広げても壁に手が届かないくらいの幅があり、魔物と戦うには十分な広さだ。


「行きましょう」


「探検開始だ!」


 レイナとガッドが前列となり、辺りを警戒しながら少しずつ進む。

 時々数歩先の床に石ころを投げてみたり、壁をつついてみたり。罠とかあったら怖いし。


 迷宮の中では「サーチ」の有効範囲が狭くなるようで、あまり遠くのことは分からない。それでも、付近にいる魔物は発見できる。


「キラーアックス一体、十メートル先」


 魔物もこちらに気づいたようで、ゆらゆら揺れながら急接近する。

 斧の形をした魔物。こいつはフルッコの森の中層にも存在するけど、スピード、威力共にこちらの方が上だ。


 ガッドと数合打ち合ってから突如上昇し、振り下ろされた斧。ガッドは横っ飛びに避ける。


「速いな! でも地面に刺さってりゃあ、怖かねえな」


 斧はガッドのいた位置の地面に刺さっていて、身動きが取れない。


「おりゃあ!」


「シャイニング・セーバー!」


 ガッドとレイナが切り掛かり、Z字状に裂かれて、魔物は魔石へと姿を変えた。


 俺は黙ってポーションを渡す。それをガッドはやはり黙って受け取って飲み干す。

 魔物と打ち合ったガッドは無傷ではなかったからだ。


「よし! もっと行こうぜ!」


 まだまだ大丈夫そうだし、このまま進むことにした。


 しばらく歩いて、次に遭遇したのはブレードセンティピードで、大きなムカデのような魔物だ。


「ファイア!」


 ムカデの魔物の上面で火球が爆裂する。

 表面が少し焦げただけのようで、大きなダメージを与えた感じがしない。


 続けて風属性の「エア・スラッシュ」と土属性の「ストーン・バレット」を撃ったけど、やはり効いている感じがしない。

 それならと、雷属性の「ライトニング」を撃とうと試みたら、射程内まで近づいて発動までの数秒の集中をすることができなかった。


 接近すると、いきなり起き上がってクネクネと周囲をけん制し、頭上から覆いかぶさるように大きな(あご)を振りかざしてくる。あの刃物のような大きな顎は脅威だ。


 だからといって、この迷宮内で「ストーン・ウォール」などで壁を作ったら、道を(ふさ)ぐだけで、攻撃ができなくなる。

 俺たちは立ちはだかる敵を撃破して前に進みたいんだ。壁を作って逃げたい訳じゃない。


 顎を(かわ)しながら、ガッドはギリギリの間合いで剣を振るう。

 レイナは華麗なステップで突いたり、退いたりしている。

 接近すると起き上がって間合いが開くので、もっと接近したくなる。だけど、それだと顎を躱しきれなくなる。


「硬いな」


 森の中で遭遇した個体よりも明らかに硬い。

 切っても切っても全然ダメージが入っているような感じがしない。

 レイナは剣技を発動しようと魔物の隙を窺がっているようだけど、なかなかタイミングが合わない。

 俺が魔法剣で攻撃に参加しても、まだ使いこなせていないからか、それとも魔物に高い耐性があるのか、ダメージを与えている感じがしない。むしろ、俺が前に行くと、身のこなしの観点から、危なっかしい。


 じゃあ、どうすればいい?

 硬い殻の側ではなく、地面に接する面に攻撃できれば、少しはダメージを与えられるんじゃないだろうか。

 誰かが囮になって接近し、魔物が起き上がった状態を維持させる? いや、それだと魔物にやられるリスクが高い。レイナとガッドの二人で左右から同時に接近してもらうというのも、どちらかが危険な目に遭うから駄目だ。


 対策を考えているうちにも、ガッドが切り込んで、そして避けるように後退する。次にレイナが側面を狙って突き刺して、くねらせる体を避けて飛び退く。今の所、一進一退を繰り返すだけで、一向に倒せそうにない。


 このままでは勝てない。何か良い方法は!?

 そのとき。初めてワイルドクックを倒した時の記憶が脳裏に浮かんだ。風の魔法を使えば魔物の動きを制限できる。これを応用すれば!


「ウインド・ブラスト! 頼む、うまく行け!」


 ムカデのような魔物の足元に風の塊を発生させ、浮かび上がらせる。そして、くるりとひっくり返す。元々、この魔法は殺傷能力はそれほど高くないので、魔法によるダメージは期待できない。


「これなら行けるわ!」


「おっしゃあ!」


 魔物は見事に腹を見せて地面に横たわった。その隙を逃さず、レイナとガッドが剣で切りつける。

 殻側には刃が立たなかったけど、腹側には深く切り込むことができた。昆虫系の魔物共通の弱点だ。


 弱点を隠そうと、頭の方から順にくるりと巻き上がるように向きを直す。それに合わせて、俺は容赦なくもう一度風魔法でひっくり返す。


 魔物は二人に再度切り刻まれ、やがて魔石となった。


「なんとかなったな」


「ええ、倒せたわね」


 やや疲れた感じがするけど、誰も怪我はしていない。


「まだ進む?」


「おう、もっと行こうぜ!」


「今ので倒し方がわかったから、次はもっとうまくやるわ」


 それから数体魔物を討伐しつつ先に進んで行くと、下へ降りる階段のような物があった。


「降りてみる?」


「ああ、今のところ群れている魔物はいなかったし、行けるんじゃねえか?」


 確かに単体の魔物ばかりだった。むしろ、あんなのが二体以上群れていたら、今頃撤退していたと思う。


「行きましょう」


 階段を降りると、やはりここも洞窟のような迷宮だった。

 上の階層は曲がりくねってはいたけど一本道だったのに、この階層では分岐があって迷いそうだ。


 迷わないように、分岐ごとに「クリエイト」で曲がった方向を記したプレートを置いて行く。


 何回分岐で曲がったか覚えてないくらいの長い間、まったく魔物に遭遇せず、上の階層を含めて一度も罠に遭遇しなかったから気を緩めて歩いていた。


「!!」


 突然壁から舌のような物が伸びてきて、ガッドを巻きつけて捕らえた。


 必死にもがくガッド。


「ガッド!」


 俺は飛び出して舌を切り落とす。

 それは、壁に擬態したゲッターカメレオンの舌だった。


 常に「サーチ」で監視していたにも関わらず、魔物を発見できなかった。

 擬態を見破るにはこちらのレベルが魔物よりも高い必要がある。そのため、そもそも背伸びしている俺たちでは、擬態を見破れなかった。

 また、森の中でまだゲッターカメレオンに遭遇したことがなかったということも、気が緩んだ要因の一つだろう。


 舌を失って最大の攻撃手段を失くしたゲッターカメレオンは、ただのサンドバックよろしく、ボコボコにされて魔石に変わる。


 通常の剣だと舌は簡単には切れないらしいけど、俺の魔法剣はよく切れるから。ムカデ以外なら……。


「ガッド。今、綺麗にするよ。クリンアップ」 


 レイナの、汚い物を見る目線が痛々しい。多分、ぬるぬるした物が苦手なんだろう。

 ベタベタになったガッドを魔法で綺麗にする。魔物に捕まるの俺じゃなくって良かった。


「お、おう、助かったぜ」


 この出来事以降、「サーチ」で周囲を確認しつつ、さらに「ストーン・バレット」を壁に撃ち込みながら慎重に進むことにした。


 魔物をなんとか倒しながら、レイナに先導されるままに迷宮内を進んで行くと、とうとう、装飾の施された大きな扉の前に到着した。


「恐らくここが迷宮のコアのある部屋だね……」


「ああ。ギルドの書類には、フルッコの森の中層の俺たちがいる辺りに異次元迷宮があるとは、どこにも書いてなかったからな。だから、ここは新しい迷宮で、コアがあるはずだ」


「コアを破壊すれば、いいのね」


 数年間存在する異次元迷宮ならボスが発生しているだろうけど、そんなに長い間存在していたら冒険者ギルドに情報が上がっているはずだ。

 だから、ここにはボスはおらず、その代わりにコアがあると考えられる。若い異次元迷宮であれば、コアを破壊すれば、迷宮自体を消滅できる。


 軽い気持ちで扉を開ける。中は大きな空間になっていて、足を踏み入れると――


「ええええー!」


 空間の奥の方に、巨大なクモのような形の影が揺らめいている。そいつからは、誰かに言われなくても、見ただけでボスだって分かるような威厳を感じる。


 回れ右!


 俺たちは、急いで入ってきた所から出ようとする。しかし、何かに当たって外に出られない。扉は開いているのに、その空間に、どうやら透明な膜のような物が張ってあるようだ。

 剣で切っても、魔法を撃っても膜を除去できない。


 皆と顔を見合わせ、頷きあい、そして意を決してボスの方へ振り向く。

 ボスはまだ動いていない。


「や、やるしかなさそうだ!」


「おう、やばそうだが、やってやるぜ!」


「どんな魔物でも、倒して見せるわ」


 先手必勝!


「……ファイア!」


 扉の位置から魔法を撃つ。

 狙い通り、真っ直ぐボスに向かって飛んで行く火球。その大きさは俺の身長ぐらいだ。


 しかし、火球はボスに届く前に消えてなくなった。


「あれ?」


 微動だりしないボスの周辺にも、ここと同じような透明な膜があるようだ。


 仕方なく、盾を構えたガッドの後ろをゆっくり、そろりそろりと歩いてボスに近づいて行く。


 ボスまで、あと十メートルくらいの位置まで接近したとき。


 ――ヘルスパイダー。


 何者かの声が脳裏に響く。瞬時にそれがボスの名前だって理解できてしまう、今日いくつ目かもう分からなくなった不思議現象のお出ましだ。


 この位置から魔法を撃ってみると、すぐ近く、数歩先で霧散する。


 その付近まで近づいて行くと、遂にヘルスパイダーの目が赤く光り、動き出した。それまで影のようだった見た目も、全身の色が濃いグレーに変わり、はっきりとここに実在すると分かる。


 俺は距離を取ろうと後方に飛んだ。その時、膜のような物には干渉されなかった。後ろに下がることはできるみたいだ。

 もしかしたら膜がなくなったのかもしれないと思い、下がった位置から魔法を撃つ。


「ファイア!」


 ゴーっと音を立て、火球がヘルスパイダーに向かって飛んで行く。

 そして、霧散せずにヘルスパイダーの足に当たった。膜がなくなったみたいだ。


「魔法、いけるぞ!」


 続けざまに、威力を高めた「ストーン・バレット」を撃ち込む。

 今度は、距離があるからか、それとも警戒されていたからか、うまく避けられてしまった。

 避けた直後の体勢が整う前を狙い、走り込んていた前衛の二人。左からレイナが切り込み、続けて右からガッドが剣を振るう。


「ソニック・ブレイド!」


 ガッドの素早い剣閃がヘルスパイダーに刻まれる。


「うわ!」


 それほどダメージにならなかったのか、体勢を整えたヘルスパイダーの口から糸のような物が吐き出され、それを盾で受けたガッドを包み込む。


「ちょ、口から!?」


 どこにでもいる、魔物ではない節足動物のクモは、後ろにある腹部から糸を出すけど、魔物のこいつは口から出した。外見で(だま)されてはいけないということだ。

 ガッドを救出することより先に、そういう考えが頭をよぎる。


 ガッドめがけてキバを立てようと、低く構えたヘルスパイダーに、


「ファイア!」


 火球を二個同時に生成してぶつける。


 余計なことを考えていた分だけ発動が遅れたけれど、なんとか間に合いヘルスパイダーは跳ねるように大きく後退する。

 それに追い打ちをかけるべく、レイナはダッシュして「ローズ・スプラッシュ」と無数の突きを喰らわせる。


(あつ)っ!」


 その後ろでは、火球から燃え移った炎が、糸を伝ってガッドに迫る。なんとか剣で振り払って糸の網から抜け出したガッドは、少し焦げ臭くなっていたけど、大した怪我はしていないようだ。

 でも、粘着性の物質が絡みついていて、思うように動けないでいる。


「クリンアップ」


 ガッドの粘着物質を魔法で除去する。その瞬間、いつの間にか接近していたヘルスパイダーの足の爪が俺目掛けて振り下ろされる。


 ズバッ!


 魔法剣で受け流すつもりだった。でも、タイミングが遅かったためか、ヘルスパイダーの爪に切り込むように当たり、そのまま爪を切り落とした。


 その足を引っ込め、続けざまにもう片方の足が襲い掛かってくる。魔法剣で切れると分かったから、今度は狙って爪を切断して難を逃れる。


 接近戦が不利とみたヘルスパイダーは再び後方へ飛び退くと、口から黒い霧のような物を吐きだした。

 その結果、周囲が暗くなり、視界がほぼゼロとなる。


「うわ! 真っ暗だぜ!」


「何も見えないわ!」


「みんな! 壁を作るから下がって!」


 霧を払うように剣を振りながら、後ずさるガッド。レイナは素早く後退する。

 それを目視で確認できた訳ではないけど、そろそろだろうと見切りをつけて壁を作る。もちろん、俺も後退している。


「ストーン・ウォール」


 ヘルスパイダーからもこちらが見えないと仮定すると、範囲攻撃がくる可能性が高い。もしも見えていても突進や狙い撃ちをしてくることが予想される。つまり、視界が晴れるまで壁を築いてやり過ごすのが安全だろうと考えた。


 壁の後ろに隠れて攻撃に備える。壁の後ろにいれば、直撃は受けないだろう。


 暗闇の中、ヘルスパイダーの目が光る。刹那、無数の石の槍がこちらに向かって飛んでくる。


 ドスッ! ガスッ! バキッ!


 壁に当たって砕ける無数の石の槍。


 しばらくして音が止んだと思った瞬間、壁の前にはヘルスパイダーが接近していて、足を壁に触れて爆裂させる。足から魔法を撃てるようだ。


 壁が爆裂した破片を多少喰らったが、まだ戦える。

 レイナが左へ、ガッドと俺が右へと飛び出る。

 左右に分かれてヘルスパイダーを攻撃する。既に霧が消えて周囲を見渡せるようになっているから、互いの位置を確認して確実に挟み撃ちにする。事前に申し合わせた訳ではないけれど、お互いにそれがベストだと思った結果だ。


 中央にいる俺は、ヘルスパイダーの意識がこちらに向くよう、闇雲に魔法剣で切り込んだり剣先から魔法を撃ち出したりする。

 すると、狙い通りヘルスパイダーの標的が俺に定まり、先ほどガッドに仕掛けた時と同じように口から粘着性の糸を吐き出した。

 俺の目に映っているガッドは、糸がトラウマになっているようで、めっちゃビビっている。


「糸を吐くのを待ってたんだ! ファイア!」


 この時を待っていた俺は、糸目掛けて火球を撃ち出す。

 火球は糸を飲み込むように次々と燃やして突進する。そして、ヘルスパイダーの開いている口に直撃した。傍から見ると、まるでヘルスパイダーが火球を吸い込んでいるように見えただろう。


 ヘルスパイダーは黒く焦げ、地面にへばりつくように倒れ伏して動きを止める。どうやら気絶したようだ。


「今だ! 超ダブル・スライス!」――「ダブル・スライス」を二回連続で発動するガッドの剣技だ。


「思い切り行くわ! シャイニング・セーバー!」


「……ライトニング!」


 ガッドの滅多切りに加え、レイナによるZ字状に輝く切り込み、そして、威力を高めて放った電撃の魔法。

 俺たちの連続した攻撃に、遂にヘルスパイダーは黒い霧となって消滅した。そこには大きな魔石と、普通サイズの魔石が一つずつ残されている。


「やった!」


「倒したわね」


「おう!」


 満面の笑みを見せるガッドとハイタッチし、魔石を拾う。

 そのとき、後ろの方から人の声が聞こえた――

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