010 フルッコの森~浅い層(地図)
乗客全員が馬車に乗り、改めて出発する。助けに入ってくれた礼に、レイナの分も俺が乗車料金を払って一緒に馬車で行く。
馬車の中でレイナと少し話そうとしたんだけど、揺れが大きくてあまり話すことはできなかった。舌を噛むと危険だしね。
分かったことはレイナの細身の剣がレイピアで、丸い盾がラウンドシールドだってことぐらいか。
しばらくして、道が曲がりくねっている所で、道端に大怪我をして血まみれになって倒れている冒険者四人が発見された。彼らはとても歩けそうな状態ではない。
「誰か手助けできる人、いませんか?」
御者の問いに、俺は応じて馬車から降り、村を出るときに買った、なけなしのポーションを怪我のひどそうな者から順に飲ませる。
ポーションでは大怪我は治せない。それでも、ある程度の止血にはなる。
話せるくらいにまで回復した冒険者は、俺に感謝すると、続けて問いかけてきた。
「ディバージョンラットを見なかったか? もし近くにいたら……、急いで逃げてくれ。俺たちは奴らにやられたんだ」
周囲を見渡し、戦闘できそうな者が俺たち三人しかいないのを確認すると、逃げることを勧める冒険者。
「ディバージョンラットって、二足歩行する大きなネズミの魔物のこと?」
「ああ、そうだ。奴らは物理攻撃を巧みに逸らしやがる。だから、生半可な攻撃は通用しない。それに、魔法で倒そうにも、倒れるまで撃ち込むには、すばしっこすぎて間合いを保てねえ」
冒険者は傷口を手で押さえ「くっ」と痛みを堪えながら続ける。
「奴らの討伐推奨はCランク以上の冒険者さ。今、クレバーにはCランク以上の冒険者はいない。いや、先日までいたが、今はフルッコの森の奥へ行っているはずだ」
そして、ディバージョンラットは森の奥のほうに生息する魔物で、こんな平地に出てくることはなく、通常は、町近郊の魔物討伐は、Eランクパーティでもできるものだそうだ。
他の乗客も降りてきて、冒険者を布で手当てしてあげている。
その内の一人が、「ああ、あれか」と言って話し出す。
「あの魔物なら、この人たちが倒してくれたよ」
「それは本当か? 俺たちDランクが四人掛かりで倒せなかったんだぞ」
「ドカーン、ズバッって感じで、な。高名な冒険者らしいよ」
「ああ、そうだ。剣も魔法も一流だね、あれは」
いつの間にか、俺たちは高名な冒険者に祭り上げられている。
ははは……。もう「駆け出しのFランクです」って言えるような空気じゃない。
「そうか。助かった。俺はスムリ。堅実豪剣のリーダーだ。よければ、名前を教えてくれないか」
「俺はパンダ。そして、こいつはガッド」
「私はレイナよ」
「パンダ、ガッド、レイナ……。聞いたことがないな。遠くから来た高名な冒険者なのか? まあ、命の恩人だ。一生名前を忘れないと誓おう」
こんなことがあって少し時間を取られたけれど、俺たちは無事、クレバーの町に到着した。
この町はトトサンテと違い、魔物が入り込まないよう高い石壁で囲われていて、魔物の棲み処であるフルッコの森がすぐ傍にあるということを実感させられる。
怪我人を馬車に乗せ、その代わりに俺たちは歩いて移動したから、少し足が痛い。もう夕方だし、早く宿に行って休みたい。
クレバーの町は入町税を取るみたいで、門を前にして、皆並んでいる。ただ、冒険者の町と呼ばれるだけあって、冒険者は冒険者カードを提示すれば無料で通行できる。
乗合馬車は先に着いていて、乗客たちはもう町の中だ。
列に並び、順番を待つ。
やがて俺たちの番になると、冒険者カードを提示する。
門衛の兵士が、訝しそうに、冒険者カードと俺の顔を交互に見る。
「失礼だが、お前たちは道中、ディバージョンラットを退治した冒険者か?」
「ネズミの魔物のことか? だったら、俺たちが倒したぜ」
誇らしげにガッドが答える。
「そうか。スムリから聞いていた特徴と名前は一致するが、冒険者ランクが、な。疑って悪かった」
「はははは。隠してた訳じゃないんだ。言い出せる雰囲気じゃなかっただけで……」
「報告では『高名な冒険者』だったな。まあ、今日から高名な冒険者の仲間入りじゃないか。胸を張って行けばいいぞ」
そう言って、門衛は俺の肩をポンポンと叩く。
「そうそう。この件について、冒険者ギルドが報酬を出すから来るように、とのことだ」
冒険者ギルドの場所を聞いて、門衛と別れた。
本当は宿屋へ直行したい。でも、呼び出しなので、俺たちは冒険者ギルドへ向かうことにした。
町中を歩いて行くと、程なくして冒険者ギルドに到着した。
「ここでも、冒険者ギルドは大きな石造りの建物なんだな」
「そうね。エセルナ公国でも同じような建物だったわ」
「レイナはエセルナ公国からここに来たんだ?」
「そうよ。ここも向こうも、同じ建物に見えるわ」
「冒険者ギルドだけが石造りで、周囲の建物が皆木造だから、目立っているよね」
フルッコの森の木は、切っても数か月で元の成木の大きさまで育つという特徴を持っていて、その恩恵によって、リリク王国は林業が盛んで、木造住宅が大半を占めている。
カラン。
扉を開けて、冒険者ギルドへと入る。外観のみならず、扉を開けるとベルのような物が鳴る仕組みもトトサンテと同じだ。
日が暮れてきたからか、冒険者ギルド内に併設されている酒場は、多くの冒険者で賑わっている。
三つある受付カウンターの方に目をやると、
「あれ? ここも同じ?」
「おう、ここにもサテラさんがいるのか?」
そこが空いているので、そのまま近づいて行くと。
「あらあら、サテラのことをご存知の様子。私は受付のステラと申します。サテラは双子の姉ですね」
確かによく見ると、目の前のステラさんは左手にペンを持ち、左手側に髪を束ねている。
トトサンテのサテラさんは、右手でペンを持ち、向かって左側、つまり右手側に髪を束ねていた。
二人は、それぞれ利き手側に髪を束ねているということになる。
冒険者カードを提示し、要件を伝えると、「まあ」と一言漏らしてから、「そのときの魔石はお持ちでしょうか?」と続けた。
「これかな」
魔法収納から魔石を三つ取り出してステラさんに手渡す。
「詳細を確認しますので、しばらくお待ちください」
ステラさんの右側の脇机には、お椀のような窪みのある魔道具があり、その窪みに魔石を載せる。
すると、空中に文字と地図のような図形が浮かび上がる。
「ディバージョンラット。クレバーの南、街道上。今からおよそ六時間前……」
あの魔道具は魔石から情報を読み取る装置のようだ。
魔物の名前の他に、魔物を倒した位置や、時間がわかるらしい。他にも情報があるかもしれないけど、ここからだと文字が小さくて読めない。
「あらあら、レベル4でディバージョンラットに挑まれるとは、さぞかし勇気のいることだったでしょう……」
カウンターの上の冒険者カードと魔道具の上に浮かび上がった文字を交互に見つめ、思いに耽るようにしばらく間をあける。
よく見ると、冒険者カードにはレベル4と表示されている。俺はディバージョンラットに挑む前はレベル3だったから、レベルが一つ上がっていたようだ。
今回、魔物を三体倒したのに一つしか上がっていないのは、手負いの魔物だったからなんだろうか? それとも、いわゆる経験値の少ない魔物だったんだろうか?
冒険者カードのレベル表示は何もしなくても自動的に更新されるみたいで、魔法世界の不思議技術発見だね。
「皆様は三人いらっしゃいますので、パーティ登録されたらいかがですか?」
パーティ登録すると、パーティリーダーが冒険者カードを提示するだけで、メンバー全員の処理を完了できるそうだ。冒険者ギルドとしても、手間が省けるらしい。
「ええ、登録しましょう」
「それでは、パーティ名をお伝えください」
「えっと……。そうね。ローズ・ペガサスにするわ」
今、俺しか冒険者カードを提示していなかったから、俺が形式上のパーティリーダーとなった。俺とガッドはレイナに勧誘されたのだから、実質のリーダーはレイナなんだけどね。
「スムリさんからの報告の通り、あなた方が乗合馬車の乗客を魔物から守ったことを確認できました。これは、町からの報奨金です」
カウンターに金貨が六枚並べられた。
乗合馬車は町営で、その危機を救うと町から報奨金が出るとのこと。魔物の種類によって報奨金が上下するので、鑑定と支払いは冒険者ギルドが請け負っている。
「それと、こちらが魔石の買い取り金額です」と言って、さらに銀貨九枚が並べられた。
木皿の上に載った金貨と銀貨を受け取り、三人で分ける。そして、俺とガッドの分を魔法収納に仕舞う。その際、白い魔法陣が金貨と銀貨の下に現れる。金貨にだって重さがあるから、ガッドの分は俺がまとめて預かることにした。
それを見て、「まあ! 魔法収納をお持ちですのね」と、驚きの表情のステラさん。さっき、魔石を取り出したときは気づかなかったのだろうか? 入れるときにだけ魔法陣が現れるから、それで気づいたのだろうか?
「あははは。生まれつき持ってたんだよ」
先ほどの乗合馬車の乗客の話だと収納の魔道具は高価と言うことだった。つまり、魔法収納の魔石が存在すれば、それも高価だと予想できる。こんな駆け出しで買える訳がないので正直に答えてみた。
結局、収納の魔道具と魔法収納とでは、物を入れるときに現れる魔法陣の色が違うから気づいたとのことだった。
その後、魔石について教えてもらった。魔石は魔石屋に売ることもできるけど、依頼の達成報告に必要なので、冒険者の人は、必ず冒険者ギルドに提出してくれとのことだった。どちらに売っても値段は変わらないらしい。
なお、魔法入りの魔石の場合、魔法を習得する前に冒険者ギルドに提出し、依頼の達成報告だけして魔石の買い取りを拒否すれば、魔石を自分の物にすることもできる。
ただし、提出前に魔法を習得して魔石のマナを使い切ってしまうと、依頼達成報告ができなくなる場合があるので注意が必要だ。
ステラさんにいろいろ聞いた後、最後に宿屋を紹介してもらって、冒険者ギルドから出る。
宿屋はそれほど遠くなく、すぐに着いた。
受付を済ませて、そのまま食堂で食事をとる。
「明日は、少しクレバーの町で冒険の準備をしたいんだけど、いいかな?」
「ええ、いいわ」
「おっしゃ! 明日は武器屋な!」
食後、レイナとは別室だから、それぞれ別の部屋へと向かう。
部屋に入ると、疲れていた俺たちは簡単に体を拭いて、すぐに就寝した。
翌朝。
最初に魔石屋へと向かった。乗合馬車の乗客に教えてもらった「クリンアップ」の魔法を得るためだ。
クレバーの町は比較的新しい町だと聞いていたけど、魔石屋は木造の古めかしい感じのする佇まいだった。雰囲気を重視して、わざわざそういうふうな建物にしたのだろうか。
中に入ると、手元に品書きがあり、奥に魔石が並べて置いてある。
品書きを見ると、属性別に並べて書いてあって、目的の「クリンアップ」の他に、いくつか興味を引く魔法があった。
「おじさん、このエア・カーテンってどんな魔法?」
「ああ、それか。それは、一時間くらいの間、幕を張って近くに魔物が侵入したことを感知できる魔法さ」
「うーん、休む時にでも使うのかな?」
「まあ、そうだな。Bランク冒険者くらいの人たちだと、数時間持続するらしいから、寝るときにも使っているらしいぞ」
「寝る時に見張りを立てなくってもいいんだ?」
「Bランクくらいだったら、可能かもな。そもそもこいつはレベル15魔法だから、買って行くのも大抵はCランク以上だがな」
不寝の番が要らないかもしれない……。俺の頭の中では、「エア・カーテン」は使える魔法ベスト5にランクインした。
ぜひ購入したい! でも所持金が足りない。俺の手持ちの金貨は十二枚。目的の「クリンアップ」は金貨五枚、「エア・カーテン」は金貨十枚。
三人で相談する。その結果、今は「クリンアップ」だけを購入することにし、後日お金を稼いでから、また来ることにした。
無属性魔法「クリンアップ」の魔石を購入し、早速習得する。魔石からは灰色の魔法陣が現れて消えて行った。
習得により得た知識だと、食器も服も、頭も体も綺麗になる、冒険者必須の魔法だった。使いこなせば、ヒゲも剃れるらしい。
次に武器屋に向かう。ガッドが行きたがっていた場所だ。
武器屋に近づいて行くと、周辺には、カーン、カーンと鍛冶の音が響いている。販売しているだけでなく、実際に製造もしているようだ。
店の扉を開けて中に入ると、剣や槍、斧などたくさんの武器が並べてあることに圧倒される。
「いらっしゃい」
その武器に囲まれるように椅子に腰掛けた、少し年配のおばさんが不愛想なオーラを全身から醸し出している。
筋骨隆々で肩幅が広い。そのままでも威圧感たっぷりなおばさんが、ぶっきらぼうに話しかけてきた。
「坊や、剣を見せてみな」
店に入るなり、剣を片っ端から見まくっているガッドに声がかかった。
言われるがままに、ガッドは剣を差し出す。ちなみに俺の剣は魔法収納に仕舞ってある。
「ふーん……。均質な良い剣じゃないか」
おばさんは、剣に自分の姿を映し込むようにして、その紋様を見極める。
「なんだい、魔法で作った剣かい。てっきりどこぞの匠の剣かと思ったよ」
「それより良い剣は、どれなんだ?」
目の前に並べられている剣に目移りさせながら、ガッドが質問する。
「ははは。そこに並べてある剣は、坊やの剣より劣るものさ。お前さんの剣みたいに均質に焼き入れされた物は一品物で、そこには並べちゃあないさ」
「つまり、値が張ると?」
「そうさな。ちょっと待っとれよ」
おばさんは奥から数本、剣を持ってきた。
「鉄の剣だと、この辺りがお前さんの物より良い剣だな」
値札には金貨百枚と書いてある。
「こっちの銀の剣だと切れ味は上がるが、扱いが難しいから勧めはしない。腕に自信のある奴が買って行くのさ」
銀で作られた剣。切れ味的に、鉄の剣より上位の剣という位置づけだ。死霊系の魔物に効果を発揮するけど、この辺にはそんな魔物はいない。
銀の剣が鉄の剣の上位になるということは、この世界には銀を鉄以上に硬くする技術があることになる。前世では聞いたことがない。ちなみに値札には金貨二百枚と書いてある。
「そして、ミスリルの剣だと出来が少々劣っていても、お前さんの剣より遥かに切れるだろうよ」
そう言うと、いきなり片手で剣を構え、壁側に立てかけてある鎧目掛けて切り込んだ。
おばさん流、鎧斬!
そんなエフェクトが現れたような錯覚がしたけど、実際には出てない。多分。
鎧は斜めに割けて崩れ落ちた。
「お、お、お、すげぇ」
光を反射してエメラルドグリーンに輝く剣。やや、色が濁っているようにも見える。
剣から目が離せず放心状態のガッドに、値札を見せて正気に戻す。値札には金貨六百枚と書いてある。
「あたしが言うのもなんだけど、これでもうちで扱っているミスリルの剣は三級品さね。二級品、一級品になると、もう、いとも簡単にスパッと切れるさね。その分値段も一桁も二桁も高くなるがね」
この店では三級品のミスリルの剣を製造している。でも、在庫のミスリル鉱石限りで製造を中止するそうだ。
ここ近年、ミスリル鉱石の流通量が極端に減り、今ではほとんど流通していない。
数年前に仕入れた鉱石で作った剣だからこの値段で売っているけど、今なら、この十倍してもおかしくない、と気丈に説明してくれた。
俺たちにとっては高い販売価格だけど、なんて良心的な価格設定なんだ。
「いろいろ見せてくれてありがとう。また、お金を貯めて出直すよ」
「ははは、期待して待ってるよ」
武器屋を出た所で、ガッドに胸元を掴まれて揺すられる。
「パンダ、魔法でミスリルの剣を作ってくれ!」
「ミスリルの成分が分かれば、できるかもしれないけど、今は無理だね」
「そんなこと言わねーで、な、お願いだ、作ってくれよ」
「うーん……。そうだ、ミスリル鉱石の破片を分けてもらえないか交渉してみようか。今分からなくても、いずれ分かる時が来るかもしれないしね」
もう一度武器屋に入ると、まだおばさんがそこに居た。
「なんだい、もうお金が溜まったのかい?」
「いいえ。俺たちミスリルの剣に憧れたから、ミスリル鉱石の破片でいいから譲って欲しいなと思ったんだ。ミスリルの剣に手が届くまでの間、目標として肌身離さず破片を持っていたいんだ。だから、破片を分けてくれないかな?」
「いい話だねえ」と、涙を流しながら奥へ行くと、人差し指の先ぐらいの鉱石の破片を三つ持ってきてくれた。
「ほらよ。持って行きな。無理して死ぬんじゃないよ」
礼を言って武器屋を出る。
「よっしゃあ! お金を貯めるぜ!」
「ミスリルの剣は、金貨六百枚だったわ。そんなに溜まるかしら?」
魔法で作れるようになるのが早いか、金貨を貯めるのが早いか。
ガッドは金貨を貯める方が早いと考えたようだ。うん、正解だと思う。だけど……。
「ミスリルの剣を買ったら、トトサンテの孤児のことはどうするのさ?」
「う……。両方できるように、魔物を倒して貯めればいいさ!」
「そうね。魔物をたくさん退治すれば、そのうち貯まるかもしれないわね。強い魔物の魔石は高く買い取ってくれるはずよ。だから、私たちも、強くなればいいんだわ」
そういう流れで、早速魔物退治に行くことになった。
昨日、冒険者ギルドに寄った時に掲示板を確認しておいたので、このままフルッコの森へと向かう。
掲示板にあったのは、ほとんどが常設依頼で、わざわざ依頼を受けなくても良い物が多かった。各魔物ごとに既定の数だけ魔石を集めて納めればいい。
フルッコの森は広大で、リリク王国の北半分を占めている。奥に行けば行くほど強い魔物がいるので、実力に合わせて森のどこまで入り込むのかを判断しないといけない。
「今日は様子見ってとこだな」
肩に剣を載せて、森の奥を見渡すガッドの姿は、少し緊張しているようにも見える。
「サーチ! あっちに魔物がいる」
足元の木の根に注意して、魔物のいる方へと走って向かう。
木々の間隔は両手を広げても届かないくらい広く、また、下枝は剣を振るのに邪魔になるような低い位置には生えていない。冒険者に人気の森だとは聞いていたけど、戦い易い場所のようだ。
目的地には、呑気にエサをついばむニワトリがいた。俺たちは木で身を隠して様子を窺う。
「こいつか?」ガッドが訝しむ。
「えーっと、そのはずなんだけど……」
その瞬間、俺たちの声が聞こえたのか、ニワトリのような魔物はダッシュで木の裏側にいる俺たちの前まで間合いを詰め、羽を広げて襲い掛かってきた。
「うわっ」
咄嗟に顔面を庇う。
「こいつ、跳び上がるぞ。上から押さえ込めねえか?」
「こんな感じかな。ウインド・ブラスト!」
魔物の上から風の塊を押し付ける。
「切り裂くぜ! ソニック・ブレイド!」
ガッドの剣が風の塊の下を切り裂く。同時にレイナもレイピアで切りつける。
魔物はあっけなく黒い霧となって消え去った。
「よっしゃ! この調子でバンバン行こうぜ!」
「大したことがなかったわ。これならたくさん倒せそうね」
「そうだね。たくさん倒そう!」
数時間狩りをした結果、ニワトリのような魔物、大きなハチのような魔物、歩く果実のような魔物をそれぞれ五体以上倒した。様子見は十分できたので、常設依頼の達成報告をするため町に戻る。
冒険者ギルドに入ると、まだ日が沈む前ということもあってか、昨日よりも冒険者の数が少ない。
受付カウンターに行くと、ステラさんの方から声をかけてきた。
「あら、ローズ・ペガサスの皆様ですね」
「常設依頼の達成報告に来たんだ」
手早く、魔物を倒して手に入れた魔石をカウンターの上に並べる。依頼は魔物五体で一回の報告になるので、三種類の魔石をそれぞれ五個ずつ出した。それと、俺の冒険者カードも一緒に渡す。
「まあ、ワイルドクックとコンバットビー……、それとマッドベリーですね。確かに依頼達成です」
例の魔道具に載せて鑑定するのかと思っていたら、見ただけで鑑定されてしまった。
「浅い層の魔石は、毎日たくさん見てますので、鑑定器を使わなくても分かるんですよ」
そう言いながら、報酬をカウンターに置いた。
「魔石の買い取り額が金貨四枚で、依頼達成報酬が銀貨九枚になります」
えーっと。各魔物の魔石一個あたりの銀貨の枚数は、ワイルドクックとコンバットビーが三枚で、マッドベリーが二枚。それを五倍すると銀貨四十枚。金貨にすると四枚。それと、それぞれの魔物ごとの達成報酬が銀貨三枚ずつで合計九枚。だから、カウンターの上の金額は合っている。
三人で分けると、銀貨十六枚ずつとなり、余りは次回に持ち越しとなる。
金額に間違いのないことを確認して受け取ると、気になっていたことを聞いてみた。
「フルッコの森って、他にどんな魔物がいるんだろう?」
歩く果実とか、ちょっとびっくりしたしね。依頼の紙だと名前しか書いてないから、どんな魔物かサッパリ分からない。
「あちらに魔物のことが書いてある書物がありますよ。魔物の書と言って、魔物のイラストや特徴が書いてあります。持ち出しはできませんが、閲覧は自由ですから、ぜひご覧になってください」
ステラさんに礼を言って、「魔物の書」のある場所に行く。
そこには閲覧専用の机があり、書物が鎖で机に固定されている。タイトルは「フルッコの森の魔物」だ。
書物の中を見ると、インクで書かれたイラストと、名前、特徴が書かれている。それが、フルッコの森の浅い層、中層、深層に区分してまとめてある。
「ふむふむ。浅い層だと、犬みたいな顔のコボルトが強敵なんだね。噛みつきや剣での切りつけに注意しろと」
「おう、分かった。これにゃあ書いてないけど、あっちの依頼書だと、浅い層の魔物の中で報酬が一番高かったしな」
「コボルトは集団で襲ってくると書いてあるわ。囲まれないように注意しましょう」
「そうだね」
三人で魔物の特徴をよく確認し、冒険者ギルドを後にした。




