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001 俺、転生!?

初作品、初投稿になります。

ラノベに慣れていない方でも読みやすいように、ルビを多めに振っていますことをご了承ください。

 太陽が彼方の地平線へ沈み行く頃。

 雲を貫く緑の山の中腹で、一人の翁が西の空を見つめていた。

 細めたその目には何が映っているのかは定かではない。ただただ遠くの空を見ている。


 やがて空が紫色に染まり、その残照が消え行くと、空には大小二つの月が浮かび上がる。


 翁はそれまで白髭(しらひげ)を撫でていた手を杖にのせ、目を閉じて大きく息を吸い込む。


 少しの間をおいて目を見開き、「ハァッ!」と闘気を発すると、周囲の草木が大きく揺れる。その揺れは、翁を中心として放射状に広がって行く。


 固く握り締めた右拳を胸元に寄せ、そこから真っ直ぐ天に向けて突き上げ、力強く手を開いた。


「星々よ。その叡智(えいち)の輝きで我らが未来を知らせ給え」


 足元の魔法陣から(まぶ)しい光が立ち上がり、やがてそれは(きら)めく粒子となって空に昇って行く。


 それが星々で彩られた夜空に届くと、一際輝く星がいくつか現れた。


 大きな月――明月――を囲むように星々が輝き、それは、ほうき星を頂きとした六芒星を形成している。


「おお、この配置は……。なんということじゃ、近い将来、大きな災いが発生するというのか……」


 無意識に手放した杖を拾うこともなく、じっと星空を見入る。


「今年、天命を持った子が六人、生を受ける。いや、暗月の方もじゃな……。こっちは二人じゃな。合わせて八人、世界の命運を左右する子らが誕生するとは……」


 小さな月――暗月――にも、寄り添うように二つの星が輝いていた。


 しばらく星空を映していた瞳は、遠く山の下に広がる人々の営みに向けられ、翁は両手を大きく広げてつぶやいた。


「運命の子らよ。(なんじ)は世界を安寧に導く救世主か。それとも、世界を混沌に(おとしい)れる悪魔の子か……」


 それから十年の年月が流れた――


  ★  ★  ★


「サーチ!」


 昨日覚えたばかりの魔法を使う。


「ガッド、あっちだ!」


 俺は薬草を見つけた方向を右手で指し示し、山中を先導して走って行く。その後ろをガッドとミリアムがついてくる。俺たち三人はいつも連れ立って行動している。


「おう、すげえな、魔法って」


 ガッドは、筋肉質な体つきをしていて、刈り上げた金髪は頭頂部でツンツンに立っている。けど、意外とサラサラヘアだ。

 フルネームはガッド・マウトリ。この世界では、ファミリーネームがあるのが一般的で、ガッドが貴族という訳ではない。近所に住む、同い年の幼馴染だ。


「待ってー。はぁはぁはぁ」


 ミリアム・ライトヒル。

 彼女は、薄い水色の髪をショートカットにし、少しおっとりした感じのかわいらしい子だ。笑うと目が垂れた感じになる。普段は垂れていない。

 宿屋の娘で、いつも姉と一緒に宿の手伝いをしている。でも、ずっと働いている訳じゃないから、よく俺たちと一緒に遊んでいる。ミリアムも同い年の幼馴染だ。愛称はミリィ。


「ごめん、ミリィ。もう少しゆっくり行くよ」


 俺はパンダ・クロウデ、十歳。名前が「パンダ」だ。


 三日前の朝。

 目覚めたときに突然、明らかにこの世界の物ではない情景がたくさん頭の中に浮かんできた。それはまるで実際に体験しているかのような鮮明さを持ち、あるいは、ぼんやり霞んでいたリ。その中には考えつかないような高度な知識まであった。


 そのときは、まだ夢を見ているのではないか、と思った。でも、完全に目覚めているし、夢とは違って「あのことはどうだった?」と考えると、その情景や知識を頭の中に思い浮かべることができた。

 そして、そのすべてが俺が体験した記憶だという気持ちを否定できなかった。


 今ここにいるのも俺で、記憶の中にいるのも俺。


 しばらく混乱していたけれど、その記憶の中に答えがあった。

 今の状況に近い「転生」という現象が記憶の中にあったことから、結局「前世の記憶が(よみがえ)ったらしい」という結論でまとまった。

 そう、前世の俺は卒業間近の高専五年生、十九歳だった。家で突然胸が苦しくなり、そこで記憶は途切れている。


 その、前世の記憶から、「パンダ」って名前はおかしいと思い、両親に尋ねたんだけど、


「あなたを身ごもったときに、天の声が聞こえたのよ。『子の名前はパンダにするのじゃ』って」


 と、いうことだった。声の主は神様だったのだろうか? でも、前世の物語でよくあるように、転生前に神様に会った、という記憶は俺にはない。

 名前を指定するくらいだから、俺の転生には何らかの意図が込められているのかもしれない。でも、俺にはそれが分からない。

 自由にしろってことかな?

 俺はそう解釈した。


 この世界には、白と黒の体毛のパンダという動物はいないらしく、俺の名前のパンダは、ただ珍しい名前というだけだ。この世界におけるキラキラネームみたいなものか。



 歩速を落とし、ゆっくり歩いて行くと谷間が見えてきて、やがて薬草の群生地に着いた。


「おう、たくさん生えてるぜ!」


 ガッドが飛び上がって喜んでいる。

 今までは薬草を探して山野を駆け巡っていたけど、今日は俺の魔法「サーチ」で見つけることができる。


 この世界には魔法が存在する。

 魔法には生まれつき使えるものと、魔法の魔石から習得するものがある。

 俺は生まれつき魔法収納を使えた。それ以外は魔法の魔石から、昨日習得した。


 俺の両親は今はヤムダ村で農業をしている。でも、結婚するまでは王都トトサンテで魔法研究所の職員をしていた。

 そういうこともあって、父は趣味で魔法の魔石をいくつか持っていて、子供が十歳になったら魔法を習得させようと考えていた。


 ただし、魔法の習得には制限があった。

 この世界の人々には「レベル」とういう概念があって、魔物をたくさん倒していくとレベルが上がる。

 それぞれの魔法には、定められたレベルにならないと習得できないという、レベル制限があって、誰でもすぐに魔法を習得できる訳ではない。


 ガッドとミリィが薬草を摘んでいる姿を横目で見ながら、俺は昨日のことを思い出す――


「パンダ、この魔石はどうだ?」


 父キデンが木箱から魔石を取り出して、俺に差し出す。

 俺はそれを受け取り、「習得」と念じる。


 すると、魔石から赤く輝く魔法陣が現れて消えて行く。


「……ファイアを使えるようになった」


 魔法は魔石から習得した瞬間に、使い方やどんな魔法なのかという知識も得られる。「ファイア」は火の玉を飛ばす魔法だ。一般的には「ファイア・ボール」という名称らしい。


「じゃあ、この魔石はどうだ?」


 今度は緑色の魔法陣が現れて消えて行った。


「……エア・スラッシュを使えるようになった」


 このようなやり取りを繰り返し、いくつかの魔法を習得したとき、父は少し大きな魔石を渡してきた。俺は、今までと同じように「習得」と念じた。


 すると、先ほどまでよりも大きな、茶色ともオレンジ色ともいえるような色の魔法陣が現れ、消えて行く。


「……クリエイトを使えるようになった」


 俺の言葉を聞いて、父は驚愕(きょうがく)の表情のまま固まってしまった。

 そしてしばらくして我に返り、俺の両肩を掴む。


「ク、クリエイトと言ったな! 本当に習得できたんだな!」


 俺は黙ってうなずいた。「クリエイト」は習得レベル制限20の魔法で、実は、父は冗談のつもりで俺にその魔石を手渡したのだった。

 俺の生まれ育ったヤムダ村近傍には魔物はいないため、俺は魔物を倒したことがなく、俺のレベルは1のはずだ。それなのに、俺は、レベル20の魔法を習得できた。


「凄いじゃないか! パンダ、お前は魔法の天才かもしれないぞ!」


 魔法研究所の記録では、レベル制限に関係なく魔法を習得できた人は世界中で過去に数人いて、いずれもが、魔法の大家と言われるような人物だったらしい。


 その後、上機嫌になった父が次々と魔石を渡してきて、いくつかのレベル15までの魔法を習得できた。

 魔法には属性という区分があって、結局、光属性と闇属性以外の魔法を、父のコレクションにある魔石限定で、習得できた。


 ただし、習得した中で、攻撃に使えそうなのはレベル1の魔法だけなので、高レベルの魔法による無双とか、そんなことは期待できそうになかった。



 意識を現在に戻す。

 ここはヤムダ村の南に位置するマール山とナーガ山の間にあるフッカ谷。

 ガッドとミリィがせっせと薬草を摘んでいる。

 俺は手を差し出して「収納」と念じ、薬草を魔法収納へと収納して行く。魔法収納は、物を入れるときに、その物の下に白い魔法陣が現れる。物を出すときには魔法陣は現れない。


 薬草摘みに精を出すことしばらく。

 周囲にいた鳥が一斉に飛び立った。


「なんだ?」


 ガッドが周囲を確認する。

 右方向の茂る草を揺らして、そこから、ツノの生えたウサギのような生物が二体現れた。口元にはキラリと光るキバも見える。


「お、おい、魔物だ!」


 ガッドは腰に下げた鉄の剣を手に取り、さらに、薬草採取の邪魔になるため傍らに置いていた木の盾を拾い上げた。

 ミリィはおびえて後ずさる。直後、魔物はガッド目掛けて突進した。

 それをなんとか盾で受け、ガッドは剣で反撃しようと試みる。しかし、魔物は素早く、剣は空を切る。


 魔物の意識は、二体ともガッドに向いているようで、こちらには向かってこない。そうと分かっていても、初めての魔物との戦闘で、恐怖でうまく体が動かない。

 俺がもたもたしているうちにも、ガッドは足や手に何カ所も傷を負っている。「なんとかしなければ」そう奮い立ち、俺は魔法を発動した。


「ファイア!」


 拳ほどの大きさの火の玉が魔物に向かって飛んで行く。

 魔物は火の玉を視界に捉えたときには回避が間に合わず、火の玉の直撃を受けて横倒しになった。これを好機とみてガッドが剣でとどめを刺す。


「やった!」


 やっつけた方に気をとられた一瞬の油断だった。気づいたときには、もう一体のウサギの魔物が、俺の目の前にいた。


「ぐわっ」


 突進してきた魔物は俺の腕に噛みつき、左腕が真っ赤に染まる。

 腕を大きく振ることでなんとか魔物を払い除け、バックステップで距離をとる。


 俺は魔法で撃退しようと試みる。しかし、ここまで接近されると攻撃を避けるのに精いっぱいで、魔法を撃つための集中ができない。

 今の俺の技能では、魔法は発動までに数秒の時間が必要だ。それは単に最弱な状態で発動するのに要する時間であって、魔法を強力にするためにはもっと集中する時間が必要になる。


「パンダ!」


 ガッドが駆け寄って魔物を剣で薙ぎ払う。そしてそのまま果敢に攻め続ける。

 その間に俺は魔法に集中する。この魔法は発動までに結構時間がかかるな……。


「……ライトニング!」


 集中さえできれば、魔法を撃てる。

 魔法の雷撃はウサギの魔物の頭部を突き刺すように当たり、魔物は動かなくなった。


 やがて、魔物は黒っぽい紫色の霧の渦となって消え、そこには親指ほどの大きさの魔石が残された。最初に倒したものも含め二つの魔石を手に入れた。魔石を魔法収納にしまう。


 あれ? なんだか少し強くなった気がする。これがレベルアップなんだろうか?

 父は「魔物をたくさん倒さないとレベルは上がらない」と言っていたけど、一回の戦闘で上がることもあるんだ?

 まあ、ヤムダ村に帰ってもレベルを確認する術はないけどね。


「大丈夫? ヒール」


 ミリィが、俺とガッドの傷を回復魔法で癒して行く。

 この魔法は光属性で、ミリィが生まれつき使える魔法だ。


 両親に聞いた話だと、生まれつき魔法を使える人は、魔石を使わなくても、レベルが上がるとその属性の魔法をどんどん習得して行くそうだ。将来、ミリィはいろいろ魔法を使えるようになるのだろう。


 なお、俺の魔法収納のように特殊な魔法や、無属性魔法を生まれつき使える人は、残念ながらレベルが上がっても使える魔法が自動的に増えることはない。


 ガッドの方を見ると、木の盾がボロボロに砕けていた。魔物のツノで大分傷められたようだ。


 そうだ! 昨日覚えたレベル20の魔法でうまくいくかもしれない。


「クリエイト!」


 なんの問題もなく、レベル20の魔法を発動できた。習得だけできて、レベル20になるまで使えないというオチではなかった。


 前世の記憶に基づいた、五角形の鉄の盾が両手の上に生成された。この盾はズッシリと重い。次からは地面の上とかに生成しよう……。


「ガッド、これを使って!」


「すげえ! こんなこともできるのか! ありがてぇ!」


 ガッドは壊れた木の盾を地面に置き、鉄の盾を装備した。

 地面に置かれた木の盾を、俺は魔法収納の中へと入れる。やっぱり元日本人としてはゴミは持ち帰らないとね。


「木の盾より重いけど、大丈夫そう?」


「問題ねぇ! バッチリだぜ!」


 ガッドはブンブンと盾を振り回して見せる。俺だったら腕がもげそうだ。これでも一応、畑仕事で鍛えているんだけど。


「今日の採取はここまでにして、帰ろうか」


 ここフッカ谷に魔物がいるなんて聞いたことがない。もちろん、隣接するマール山とナーガ山にもだ。ガッドの傷も癒えたし、村に帰って報告しよう。


「ああ、そうだな」


「うん、怖かったの。帰りたい」


 魔石を収納し、念のため「サーチ」で周囲を調べると、なんと、魔物らしき存在を捉えた。結構近く、そして、真っ直ぐこちらに向かってきている。すぐにでも駆け出せるよう、少し腰を落とした体勢で魔物を捕捉した方向を指差し、


「魔物が近くにいる!」と声を上げた。


 すぐさまガッドが俺の前に来て身構えた。

 すると、手前の木々がガサリと揺れ、その間から魔物が現れた。

 巨大なカマキリのような容姿をした魔物は、こちらに顔を向けると駆けるように襲い掛かってきた。


 魔物の体高はガッドと同じくらいで、振り上げられたカマはガッドの頭より高い位置になる。そこからガッド目掛けて一気にカマが振り下ろされた。

 ガッドはそれを盾で受ける。

 しかしその反動は大きく、ガッドの足は地面を(えぐ)りながら後退する。

 魔物のほうは、カマが少し盾に刺さったようで片腕の動きが止まった。しかしすぐにもう片方のカマを振りかぶり、斜め上方からガッドめがけて振り下ろす。


「エア・スラッシュ!」


 間一髪のところで、真空の刃が魔物の振り下ろす腕に当たり、それを切り落とした。


 あのままだとガッドは防ぐことができなかったから、魔法が間に合って良かった――安堵と共に、視界が暗転し、俺は立っていられなくなって膝をつく。

 これが、マナの枯渇の状態だろうか。歯を食いしばり、片目を開けて状況を見守る。


 魔物には痛覚があるのか、あるいは魔法を受けて驚いたのか、少し(ひる)んだようなそぶりを見せた。そこを透かさず、ガッドが剣で切り込む。


 魔物を右上から斜めに切り裂いたその剣閃は、目にも留まらぬ早技だった。


 この一撃で、魔物は二つに引き裂かれ、崩れ落ちた。

 ガッドは、先ほどのウサギの魔物を倒したときに習得した剣技「ソニック・ブレイド」を発動したとのことだった。

 剣技などのスキルは、その系統の武器を使い続けて行くとやがて習得するそうだ。

 なお、人には得手不得手があり、どれだけ鍛錬してもスキルが身につかないこともある。そういう場合は、他の系統の武器に乗り換える方が良いのだろう。


 二つに裂かれた魔物は動かない。やがて黒に近い紫色の霧の渦となって消えて行った。

 魔物が消えたその場には、魔石が転がっている。

 なんとか俺たちは魔物に勝利した。


「ふぅ、なんとかなったね。ガッド、ミリィ、ありがとう。助かったよ」


 すべての攻撃を受け切ったガッドは、盾を持っていた左手や、地面を抉った右足をひねって傷めていた。それでも、戦闘中にミリィが回復魔法ですぐに治していたから、今は怪我はない。


「お前の魔法も凄かったぜ! もちろん、ミリィのもな!」


 俺はなんとか立ち上がり、ガッド、ミリィとハイタッチして喜び合った。でも、本当のことを言うと、俺の足は少しガクガクしている。マナの枯渇のせいではない。魔物が怖かったのだ。


 魔物と縁のないヤムダ村、そして平和な日本での経験上においても、命をかけた戦いなんてしたことがない。

 魔物の意識がガッドに向いていると分かっていても、恐怖で体が思うように動かなかった。

 これが魔物との戦闘なんだ――気を引き締めて村に戻ることにした。

はじめまして。なっしんぐ☆です。

第一話、お読み頂きまして、ありがとうございます。

この物語は弱い主人公が仲間と共に強くなっていく冒険譚になります。

強敵に立ち向かうことも多くあり、危険な場面もありますが、

主人公はそれを乗り越えて成長していきます。

どうか、よろしくお願いします!


補足:

主人公は「パンダ・クロウデ」と書いて「パンダ・クローデ」と発音します。


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