懐かしいメロディ
桜満開の春。
僕は妻と供に、母とマミさんの墓参りに来ていた。
……あれは僕がまだ幼い頃、起きた事件。
当時、住んでいたアパートの部屋に女が押し入り、僕は人質にとられ、殺されそうになった。
その時、一緒に居たマミさんは、必死になって僕を守り、逃がしてくれた。
そして、マミさんはその女に殺害され、女も部屋で自殺を図った。
その事件後、僕の母はショックから頭がおかしくなってしまい、精神病院に入院した。
僕は一時的に『みその園』という児童養護施設に預けられたが、そのすぐ後、母の両親(祖父と祖母)に引き取られて育った。
僕が高校生になった頃、入院中の母が、マミさんとの思い出話をしてくれた。
母が実は同性愛者だったという事に最初は戸惑ったが、母とマミさんとの恋はプラトニックなもので、実際には恋人という関係には至らなかったようだ。
その時の母は、精神の状態が良かったのか、正気を取り戻しているかのように見えた。
実に饒舌にマミさんとの思い出話を、懐かしみながらも話してくれた。
しかし、その一週間後。
母は随分前から悪かった肝臓を患い、死んでしまった……。
母の最期の言葉は、
「マミに会いたい」
だった。
母とマミさんは、本当に愛し合っていたのだろう……。
情熱的な愛の裏で繰り広げられた、女と女の愛憎劇。
母の墓、マミさんの墓、両方の墓参りをした。
墓参りの帰りの車の中で、カー・ラジオから懐かしいメロディーが流れた。
それは、Cyber Babeの『Reincarnation』という曲だった。
僕が子供の頃、母から教えてもらい、よく一緒に歌っていた曲だ……。
「誰の曲?」
曲を口ずさむ僕に、妻は問い掛けた。
妻はこの曲を知らないようだ。
かなり昔の曲だ……無理もない。
※※※※※※※※※※※※
それから一年後。
桜が咲き誇る春。
僕と妻の間に、双子の女の子が産まれた。
僕は双子に『マミ』と『クミ』と名付けた。
母とマミさんの冥福を祈って……。
今度こそ、二人がずっと一緒に居られますように……。
【 完 】