彼女の行方
その夜から私の頭の中は、クミの事でいっぱいになった……。
真夜中になっても眠れず、ずっとクミの事ばかり考えていた。
アサカの事は、正直、もう頭になかった。
翌日の夜。
私はどうしても真相が知りたくて、また新宿二丁目に足を運んだ。
私はまず、馴染みのレズビアンバーに行き、昨夜のクラブイベントについて、マスター(女)や店にやって来る客たちから話を聞き出そうとしていた。
すると、よくこの店で会う一人のレズビアンの知り合いが、昨夜のクラブイベントのスタッフと友達だと言う。
その友達は、別のレズビアンバーで店子(店で働くスタッフ)をしていると聞き、私は、その店子の働くレズビアンバーに行ってみた。
日曜日の夜という事もあり、店は空いていた。
私はその紹介された女性から、昨晩開催されたクラブイベントについて聞き出そうとしていた。
ステージに登場したストリップ嬢たちの事を。
クミの事を……。
その夜、アサカからメールがあった。
──昨日は酷い事を言ってごめんね。仲直りしたい──
私は返事を返せずにいた。
アサカの事は好きだが、それよりも今はクミの事で頭がいっぱいだった。
※※※※※※※※※※※※
やがて私は、クラブイベントのスタッフたちと繋がりを持つ事ができ、関係者たちから、クミの事を少しずつ聞き出せた。
クミがレズビアンイベントに参加したのは、あの夜が初めてだという事。
新宿二丁目に集うレズビアンたちは、彼女の事をほとんどと言っていいほど知らないという事。
「可愛い子だけど、この辺じゃ見ない子よね」
毎晩、新宿二丁目に繰り出し、関係者たちから話を聞いて回るうちに、私はあの夜のレズビアン・クラブイベントのオーガナイザー(主催者)である女性、通称『マユコ』さんを紹介してもらった。
オーガナイザーのマユコさんの話によると、クミは五反田にある男性向けストリップ劇場でストリップ嬢として働いていて、そのクミを見たマユコさんが、自分のクラブイベントに出てみないか、とスカウトしたという。
「あんなに素直で人懐っこい子、初めて会ったわよ! 東京じゃあ珍しいタイプよねぇ」
マユコさんは言った。
クミはマユコさんにとても懐いており、彼女を姉のように慕っているという。
……少し、ジェラシーを感じた。
昔からクミは、誰にでもすぐ心を開く女の子だった。
今は私ではなく、このマユコさんという女性を頼っているのか……。
忙しい毎日の中の合間を縫って、私はマユコさんと何度も会い、少しずつクミの近状を聞き出してゆく。
昼は仕事、夜は新宿二丁目でマユコさんと会う。
睡眠時間も削って、私はクミの行方を追った。
そんな毎日となった。
「クミちゃん、ワケありでねぇ……。次回のイベントにも出てもらおうと思ってるのよ。前回もカワイイ子だって好評だったしね!」
どうやらクミには借金があるそうで、それでホステスとして働いたり、ストリップ嬢をやって生計を立てているとの事だった。
今は東京に住んでいるという。
そんな間に、私の携帯電話には、アサカから毎日のように電話がかかってきていた。
でもなんだか気持ちの整理がつかず、彼女からの着信には出ないようにしていた。
メールの返信もできないまま。
日に日に、一日に一回だった着信が、一日に何度もかかってくるようになった。
それでも私は、アサカからの電話には出られなかった。
……私は酷い女かもしれない。
私とアサカは、お互いに好きあっていた。
恋人同士だった。
私には勿体ないほど美人のアサカ。
人気女性ファッション誌に登場する、モデルの彼女。
読者から人気もある。
だけど、そんなステータスよりも、私は、私を裏切った元親友で、恋人同士にもなっていない、一方通行の想いしか寄せていなかった、実らなかった恋の相手、クミに会いたくてたまらなかった……。
そしてついに私は、マユコさんから、クミの連絡先と住所を聞き出した。
マユコさんは、クミの連絡先と住所を私に伝える事を躊躇っていた。
──新宿二丁目という街。
連絡先の交換はあるにしても、そうやすやすと本名や住所を明かさない。
深い関係になっていない場合、みんな通称で呼び合っているし、住んでいる場所もだいたいの場所しか言わない。
本名や住所を明かすのは、深い関係になってから。
それを人づてに明かしてしまうのは、本来ならばタブー視されている行為だ。
だけど私はクミの幼馴染みだったから本名を知っている事、彼女とは元々親友だった事、裏切られた事、それでも今はもう許している事、今の彼女の身を心配している事、そして何より、もう一度クミに会いたい事を熱心にマユコさんに伝えた。
マユコさんもとうとう根負けし、やっと教えてくれたのだ。
※※※※※※※※※※※※
私は緊張しながらも、マユコさんから教えてもらったクミの電話番号に電話をしてみた。
アサカからの電話には出られないというのに、クミとどうしても話したかった。
しかし、何度か電話をかけてみたが繋がらなかった。
知らない番号からだから出ないのだろうか?
そう思い、私はおもいきって教えてもらったクミの住所に足を運んでいた。
クミの住んでる場所は、ギリギリ東京23区内にある場末な町のボロボロなアパートだった。
部屋を訪ねてみたが、留守だった。
私はクミの部屋の扉の前で、彼女が帰宅するのを待つ事にした。
何時間か待った。
空が夕陽色に染まる頃、クミが帰って来た。
クミは、何故か幼い子供を連れていた。




