新宿二丁目
一ヶ月半後。
私は、なんとか大学に復帰した。
そして、過去の出来事を上書きするかのように、がむしゃらに勉強と新しく始めたアルバイトに打ち込んだ。
東京に就職を決め、大学もきちんと卒業し、上京し、新生活が始まった。
東京での一人暮らし。
東京にはクミと何度か遊びに行った事があったが、実際に住んでみると大変だった。
馴れない一人暮らし。
家事はいつも実家の母親にまかせっきりで、私は炊事や掃除の大変さを思い知った。
新居となるアパートの敷金礼金、毎月の家賃の振り込み手続き、電気やガスや水道の開通手続き、近所にあるスーパーマーケットやコンビニの位置の確認など、バタバタと進める事になった。
どちらかと言うと、私は一人で何でもそつなくこなすタイプだと思っていた。
自分の部屋は自分で掃除していたし、それなりにできていた。
だけど実際に家事すべてを自分一人でこなすとなると大変だった。
掃除はまずまずできていたが、特に料理は難しくて、私は簡単な料理しか作れず、もっと母親から学んでおくべきだった、と反省した。
ちょっとした野菜の煮物でも、味付けのさじ加減でこんなにも不味くなるとは知らなかった。
たびたび母親に料理について電話をしたりした。
就職先はデザイン会社で、私はカメラマンのアシスタントとして働いた。
仕事のほうは順調で、忙しくもあったが、なんとか同期の社員たちに遅れを取る事なく頑張った。
努力は実り、私は先輩たちからも信頼を得る事ができるようになっていった。
先輩がパーティーなどに誘ってくれて、私はそこで色んな筋のコネクションを作る事ができた。
東京の慌ただしい生活は、クミを忘れるには好都合だった……。
東京には、同性愛者たちが集う街、新宿二丁目がある。
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、様々な人たちがいた。
いつしか私は、その街でハメを外すようになり、一軒のレズビアンバーに入り浸った。
酒と煙草。
女と女。
実に居心地が良かった。
何も隠す事はない。
ありのままの私。
そのバーで知り合った女の子、アサカと意気投合し、私たちは付き合う事になった。
アサカは私より5つ年下の20歳の女の子で、学生時代から読者モデルをしており、今は某女性ファッション誌の専属モデルをしている。
日本人とスペイン人とブラジル人の血が混じったクウォーターで、スタイル抜群の美人。
見た目は鋭く、冷たい感じのする美人なのだが、私の事を献身的に愛してくれる。
お互いに料理は少々苦手だったが、アサカは私の部屋に来ては料理を作ってくれた。
私には勿体無い女だ。
こんなに美人でスタイルも良く、モデルをしている女の子が、どうして私の事を気に入ってくれたのか不思議だった。
付き合おうと言ってくれたのは、アサカからだった。
……幸せだった。
アサカと一緒にいる時は、クミの事を忘れられた。