違う側の人間
クミとは何でも話し合える仲だったが、その事だけは、ずっと言えなかった。
私の胸の奥に、ずっと潜めていた恋心……。
本当は、クミの彼氏が憎らしかった。
私だけのクミでいて欲しかった。
だから、二人だけで駆け落ちした時は、しばらく立ち直れなかった……。
物心ついた頃から、私はスカートを穿くのがなんだか嫌だった。
でも小学生の時、出会った少女クミは、スカートが良く似合う少女だった。
可愛いと思った。
私もこんな風になれたら、と思った。
そして友達になった。
中学生になっても制服のスカートがずっと嫌だった。
校則にのっとり、強制的にスカートなのだ。
どこかの異国では、男でもスカートを穿くらしい。
民族衣装だ。
ある日、同級生の男子が、
「女はスカートもズボンも両方穿けて得だよな」
と言った。
だけど私は、私服の時はスカートは穿かなかった。
クミは制服でも私服でも、いつもスカート姿で、可愛かった。
どうしていつもスカートなのか聞いたら、
「だって可愛いじゃん!」
と言われた。
クミらしい返事だと思った。
中学、高校へと進学するにつれ、薄々、私は他の女子たちとは『違う側の人間』だと悟った。
男子に恋をできなかったのである。
幼い頃から感づいてはいたが、私はどうやらレズビアンらしかった。
いつも一緒に居てくれる、女の子らしくて可愛いクミに惹かれていった。
高校は女子校だった。
私は身長が170cm近くあり、いつもショートカットでボーイッシュな姿だったからなのか、かなり女子にモテた。
高校での部活動はバレー部に所属。
そんなにバレー・ボールの才能はなかったが、身長が高かったからスカウトされた。
女子校内でのあだ名は『ヅカ』。
宝塚からの由来らしい。
靴箱に女生徒たちからのラブレターが沢山入っていたり、後輩の女生徒から告白された事もある。
満更でもなかった。
でも、私はクミ一筋だった。
クミは昔から可愛くて、女の子らしくて、多少ワガママなところはあるが、ほっておけなくて、男にモテるタイプだった。
私とは正反対の女の子だった。
クミ以上に可愛い女の子には出会った事がなかったし、いつからか親友になってから、ずっとクミの事が好きだった。
クミへの想いはつのるばかりだったが、クミはちゃんと中学時代から彼氏がいたし、高校でも他校の男子と付き合っていたし、クミは『普通の女の子』なのだと知っていた。
だから女として好きだとは言えなかった。
親友だけど、言えなかった。
もし、言ってしまったら、クミが私から離れて行ってしまうんじゃないか……もう親友でもなくなってしまうかもしれない……
そう思い、ずっと心にしまっておいていた。
ただ、クミの幸せを見届けたい。
だから彼女のそばでずっと『親友』としていたい。
そう思っていた。
そして今、クミが私を頼ってきてくれている。
……もしかしたら、これから先、クミの子供を私が父親として、クミが母親として育てていける、ずっとクミと一緒に居られるんじゃないか、という淡い期待が私の脳裏をよぎった。
※※※※※※※※※※※※
私たちは、カラオケBOXを出た。
私はその足で、クミの口座に出産費用を振り込んだ。
150万円近く振り込んだ。
クミは申し訳なさそうに泣いて、それでも喜んでくれた。
「こんな私のために……ありがとう、マミ……」
「いいのよ、私たち親友でしょ? 困った時は、お互い助け合わないとね!」
その夜は、両親に内緒で私の家にクミを泊めた。
クミは小ぶりなバッグひとつで私に会いに来てくれたので、私は彼女に寝間着として上下のスウェットを貸してあげた。
私より体格の小さいクミには少々サイズが大きすぎたが、クミは、
「ありがとう。マミのあったかい匂いがする」
と言って、文句を言わずに着てくれた。
私のクミへの想いは、この先、口にする事はないかもしれない。
それでも、ずっとそばに居てあげられたら……
いつか、もしかしたら、何かのタイミングで打ち明ける事ができるかもしれない。
クミの子供、その両脇に私とクミ。
血は繋がってはいないけれど、『家族』になれるかもしれない。
こんな家族のカタチがあってもいいのかもしれない、と淡い期待をよぎらせながら、その夜、私とクミは同じベッドで眠りについた。