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無題  作者: るなるく
1/1

プロローグ


【明智の場合】


私立櫻葉中央高等学校に放課後が訪れて少しした時の事だった。ついこの間入ってきたばかりの新一年生が新しい部活で励んでいる中、その新一年生の一人である明智と言う女は、どの部活に入るかを考える人のように悩んでいた。

『またそんなに悩んで…早く決めないと私が帰れないのよ明智。』

呆れ顔から溜息を零したのは明智と同じ新一年生でありながら学級委員長を務めている(つつみ)だった。本人曰く学級委員長を務める気は更々無かったらしいが、試しに学級委員長を立候補してみたら不戦勝のような形で勝ち取ってしまったとの事。明智とは小学校からの腐れ縁らしい。

『すまんね…良いと思った部活がなかなか見つからなくてね。新一年生の時は何かしらの部活に入部しないといけないのっておかしくない?』

『おかしいのも分かるけど学校の決まりだからしょうがないの。ほら、早く決めないとあなたも帰る時間が遅くなるよ。』

『分かってるけど…良いと思った部活が本ッッッッッ当にないんだよね。』

明智は再び頭を抱え始めた。この学校の部活は確かに種類は多くない。あっても十二種類と言った所か。選択肢が多くて選べないのなら分からなくもないが、選択肢が少な過ぎて自分の入りたい部活が見つからないのは正直いかがなものなんだろうか。と明智は愚痴を零しかける

『明智は中学の時女子バドミントン部だったよね。運動出来るんだし高校でも運動部とか入ってみる気はないの?』

『んー…あれは超大型羽根突きみたいな感じだし…正月のイベントをわざわざ部活動に持っていく奴の気が知れないくらいだ。』

『多方面からシバかれそうな発言だねぇまた』

無粋なやりとりをしていると突然、未だに部活動無所属の明智は、頭から電球が生えたような顔を堤に見せた。

『そう言えばなんだけど、部活動を一から作るって出来なかったっけ?』

入る部活がないなら、自分で入りたい部活を作ってしまえばいいと言う考えのようだ。

『うーん…どうしてもって言うなら出来なくもないけど…特例だからすぐには作れないと思うよ』

『特例かぁ…条件付きならその条件はなのか教えて欲しいね』

明智は少し興味ありげに訊いた。部活動を作れるんだったら、他の在り来りな部活動に入って魅力のない部活動生活を送る必要が無いとでも思ったのだろう。脳味噌の少ない人間だ。

『まず前提条件として、新規で部活動を発足する際、その部活動で活動を行う部員が必ず三名以上存在する事。これはまぁ絶対かな。あとはその部活動に対して必ず一人以上、顧問となる先生が存在する事…これは後で色んな先生に頼めばいいって感じだね。それと…新規で発足する部活動の活動内容が明白である事…例えばサッカー部なら試合に出場するとか他校の合同練習に参加するとか』

堤は淡々と生徒手帳内に記されている長ったらしい校則を読み上げた。その後には校長先生への申請などの方法が記載されている。

『ほーん…つまり人数集めが最優先って所だねぇ…』

明智はそう言ってフレミングの左手の法則に顎を乗せて考えたフリをすると、何を閃いたのか、その左手は刹那のような早さで堤の顔を指差した。


『あのさ

『お断りします。』


『まだ本題を言うてなかろうもん!』

『どうせ新しい部活に私も誘う予定だったんでしょ。入りたい気持ちもあるんだけどこの一年の内は学級委員で忙しいんだから、部活動で汗を流してる時間は無いの。』

無慈悲な一言を喰らってスタン状態になる明智。その様子は宛ら、駄々をこねた努力も虚しくおもちゃを買ってもらえなかった子供のようだった。

『むぅ…堤の鬼…ディメンダーめ…』

『何で入部を断っただけでそこまで言われなきゃならないのよ』

『堤に“消しゴムが意思を持ってすぐどっかに行ってしまう”呪いかけたからね…』

『無駄に出費がかさむ呪いやめてくれないかね』

堤はそう言い残すと、学校指定の鞄を肩にかけて帰る準備を数秒間で済ませた

『じゃ、入りたい部活が決まったら私の机の下に入部希望の紙を置いといてね。ずっと待ってたけど流石に遅いから私は帰るね。』

『うーん…了解した…』

悩み倦ねる明智を横目に堤は教室を後にした。その後一人で五分くらい考えたがやはり新しい部活も入りたい部活も見つからなかったので、続きは家で考えることに決めたようだ。堤には悪いと思いつつも白紙のままの入部届を自分の机の引き出しにしまい、堤の後を追うように教室を後にした。教室には数時間ぶりの静寂が訪れたが、校庭から聴こえる野球部の声が誰もいない教室に谺した。


【友永の場合】


ここ三、四日くらい、私の前の席の人の生死が判断できない状態が続いていた。入学式の時は顔を出していたはずなのにその翌日から今日に至るまで、その人はずっと欠席しているのだ。インフルエンザが流行っていたから…とも考えたが、私の身の回りでそのような伝染病を患っている人は誰も居なかった。私の席は一番後ろだったので睡眠学習には最適の場所だったが、前の席に誰も座っていないので先生方からはとても目に付きやすくなってしまったので、睡眠学習するにはとても不都合な場所になってしまった。

『はい、じゃあ次は教科書の八ページ、友永さん、読んでくれ。』

呼ばれたようなので友永は大人しく起立し、教科書を持って指定された文章を読み始めた。その教科書が二、三行目に差し掛かった時、斜め前の教室の扉がゴロゴロと慎重に開いた。何故か周りがザワザワしていたが、友永はそれでも動じずに教科書を読み進めた。少しするとその教室の扉を開けた本人は足音を立てて移動を始める。それでも気にする事なかれと思って朗読を続けていると、その足音は友永の目の前で止まり…次に椅子を引き摺る音が聞こえた。その時たまたま丁度教科書を読み終えたのでホッとしながら座ると、友永の目の前には見た事も無い人が座っていた。それが友永と同じ一般生徒なら良かったが、そこにいる人間はどうも普通の人間ではないようだった。制服までは一般生徒なのだが、頭部の方は何故か剣道の時に使う面を装着している。なるほど、どおりで教室の扉が開いた瞬間に皆が困惑するわけだ。

『あの…教室では剣道の面を装着する事は辞めて欲しいんだが……』

先生が恐る恐るその前の人に問い掛けると思っていたより少し低いくらいの声で

『すいません、頭部に凄い傷が出来てしまいまして、包帯だけだと少し頼りないような気がしたので剣道のお面を着けてきました。プロテクターみたいなものなのであまりお気になさらず』

いや、めっちゃ気になるんですけど。

先生はそれに対し、あぁ…そうか。と適当な返事を交わして授業を進め始める。前の人もそれを察して鞄から教科書とノート、シャープペンシルなどの道具一式を鞄から取り出した。

(しかし先生も先生で凄いな…如何にも怪しい剣道のお面の人をよくそんな簡単にスルー出来るなぁ…先生めっちゃ修羅の道歩んできたんだろうな…)とか思ってたら、突然その剣道のお面の人はゆっくりと後ろを振り向いてきた。

『すまない、教科書と筆記具は持ってきたんだがノートを忘れてしまった。ルーズリーフ…もしくは使い所のない余ってるノートを持ってはおらぬか』

癖の強い武士のような声で話しかけてきたので少し焦りはしたが、念の為に持ってきたルーズリーフの束から一枚、白紙のままのルーズリーフをその剣道のお面の人に渡した

『忝ない、この恩はいつか返させて頂き、御座候』

『あ、返さなくていいからね。たまたま持ってただけだし』

こうやって話してみて分かった事だが、私は武士と言葉を交わすことに対して少し苦手意識を持っているのかもしれない。友永は遠慮を表す簡易的なハンドサインを見せながらそう思ったのだった。


授業が佳境に入り、先生の授業を進めるスピードにもスパートが見えてきた頃、友永は眠気に耐えながらも必死にノートを取っていた。そして残り二十秒くらいの頃、先生は人差し指が先端に刺さっている指示棒をカタリと教壇に置いた。

『はい、今日の授業はここまで、宿題は出さないが各自で自習してくるように』

そう言い放ったと同時に学校のチャイムがキンコンと鳴り響いた。ここの教室に居た生徒は皆授業に集中していたせいでぐったりと疲れた様子だった。すると先生はこちらの方面を見て続けた。

『今日の日直は外崎(とのさき)と友永だったな。黒板は綺麗に消しておくように。』

先生がそう言い残して教室を出ていくと次第に雑多な私語が周りから湧き始めた。その間に剣道のお面の人…外崎は既に席を立って黒板の方に向かっていたので友永も母親について行く雛鳥のように慌てて黒板の方に向かった。

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