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9話 お姉様

 パレードも翌日、その熱気が未だ燻っているのか王都はいつにもまして賑やかで、自室で寛ぐ私の耳にもその喧騒は届きます。

 今は昼過ぎで、この後はカレインさんに稽古をつけてもらう予定です。今日もクラスメイトは外に出払っているのでやりやすいです。


「あなたは……?」

「ツキヨと言います。アリシア王女殿下」


 訓練場に向かう廊下で王女殿下と遭遇しました。訓練にも殆ど出ていない私はある意味で使用人には知られているのですが、王女殿下のお耳には入っていなかったようですね。王女殿下はクラスメイト達の訓練を見学していると聞きましたし、知られていないのは私だけでしょう。


「そう。あなたは何をしているですか? 訓練ではお見かけいたしませんが」

「私はみんな程強くなかったので、書物庫で勉強をさせていただいています。文官長のお手伝いもたまに」

「そうだったのですか。申し訳ありません、こちらの都合でーー」

「謝られてはいけません。王女殿下は間違った事をしたわけではないのですよね? であるなら、それが正しいと胸を張ればいいのです。正しかったと思わせて欲しいです」


 む、少々生意気な発言でしたね。護衛の騎士の方も険しい顔をされてしまいました。


「ツキヨは勇者様方と同い年なのですよね?」

「え、はい。16歳ですが」

「お姉様、ツキヨお姉様とお呼びしてもいいですか?」

「……え?」


 今、アリシア王女殿下はなんと仰ったのでしょうか。私の聞き間違いでなければ「ツキヨお姉様」と呼ばれた気がするのですが……。あ、間違いではなさそうです。護衛の騎士の表情も間の抜けたものになっていますから。


「ア、アリシア王女殿下にはご姉妹がおられるのでは?」

「います。けど腹違いの姉ですし、あまり喋ったことがありません。そんなことよりもツキヨお姉様、私のことはシアとお呼びください」

「そ、そんな畏れ多いことをしたあかつきには、私の首が刈られそうですが」

「ダメ、ですか? 」


 うぐっと、らしくない反応をしてしまいました。これは、どう対応したらいいのでしょうか? 断れば不敬ですし、承っても不敬です。どちらを選んでも私の処遇に何かありそうなのですが。

 しかし思いも寄らず、王女殿下の後ろに仕えていた護衛の騎士が渋々といった様子で首肯をし、口パクで「早くしろ」と伝えてきました。


「わかりました、シア。あまり人が多い時には流石に遠慮させていただきますが」

「ありがとうございますっ」


 かわいい。綺麗系だと思っていたシアは、まだ幼さも残るからか、かわいい系と呼ばれような笑顔を浮かべました。もちろん、上品さを損なうことはありません。

 庇護欲を掻き立てるお姫様、がよく似合います。きっと後ろの護衛もこの笑顔に幾度となくやられているでしょう。同性の私ですらかわいいと思うほどですから。


「しかし、何故急にお姉様呼びを」

「先程のお言葉を言われていたツキヨお姉様はとても素敵でした。私よく叱られてしまうのですけど、あんなに優しい叱られか方は初めてで」

「それで何故……」


 まったくもって理屈はわからないのですが、シアの何やら成り立っているようなのでそっとしておきます。無闇に突っ込んでも、こちらが痛い目に合いそうな気がしますし。


「ところでツキヨお姉様はどちらへ? 書物庫はこちらではないですが」

「す、少し気分転換でもしようかと思いまして」

「では、一緒にお茶でもしながらお話をしませんか?」


 ぐいっと寄ってきてシア越しに見える護衛の騎士に目線を送ると、今度はしっかりとした首肯をいただけました。割り切ったのですね。


「わかりました」

「では早速行きましょう! とっておきの茶葉があるんです」


 カレインさん、ごめんなさい。少し。いえ、かなり訓練に遅れてしまいそうです。



 廊下をシアと歩きます。もちろん後ろには護衛が控えていて、妙な圧を若干感じます。普段は降りるだけの階段を上っていきます。さすがは王女殿下の自室ということで、他の者よりも上階にあるようです。


「この階は……?」


 人の気配がまるでない、ですが見覚えのある階がありました。シアの部屋はもう一つ上にあるらしいですが、私はそこで足が止まりました。


「ここは儀式用の階ですね。お姉様方を召喚したのもこの階の部屋ですよ」

「だから見覚えがあったのですか。見せてもらうことは出来ますか?」

「構いませんが、でも、口調は崩してください。他人行儀で悲しいですから」

「それは……」

「でなければ案内しません」

「案内をしてくれる、シア」

「こちらですっ!」


 シアは子犬っぽいですね。ふりふりっとした尻尾と、ぴこぴこした耳が見えます。……あ、この世界だとリアルにいたのでした。この表現はイマイチ使い辛いですね。


 るんるん気分のシアは、しかし上品で、ゆったりとした歩きで案内をしてくれました。

 今更ながらこんなに簡単に見てもいいものなのでしょうか。『勇者召喚』の魔術は王家のみに伝わって来たものですし、その魔術式を解する人はほぼいないでしょうし。


「どうぞお姉様」

「う、うん」


 ここが、私達が召喚された部屋。今はだれもいないからか灯りはなく、扉から差し込む魔術の光が薄っすらと照らしているだけです。一歩を踏み込むと魔術式が反応して明るく照らしました。

 感応式刻印魔術です。特定条件に満ちると反応するタイプ。やはりこの部屋も城中にあるそれとは変わらないようですね。


 部屋が明るくなったことで明らかになる『勇者召喚』の魔術式。儀式用の魔術式だけはあり、ぱっと見でもその複雑さは今まで見たものの中でずば抜けています。

 魔術式は床に白の塗料で描かれています。詠唱をして起動するのでしょう。一種の魔術具みたいなものですね。


「好きなだけどうぞ」


 シアの言葉も貰いましたし、隅々まで見てしまいましょう。

 儀式用に魔法陣の形をとっていますが、それを形成しているのは無数の魔術式です。【言語理解】のある私ですが、流石に見たことのないものはわかりかねます。読めても知らない言葉なのです。なんとなく予想はつきますが。


 魔法陣外周部にあるのはおそらく空気中の魔力を吸引する魔術式です。これを一番初めに起動して、『エクリプセ』で増える空気中の魔力を利用するようです。

 その内側が召喚魔術のもの、ですかね。これはあまり触れなかったので覚えていないのですが、パターンは似ています。でも、それにしては少し大仰過ぎる気もしますが……。

 そして中心部。そこは各種魔術式が齟齬を起こさないように調整するものでした。これだけ大規模なものになると、この部分に割く量も増えるみたいです。


 と、分析をしながら持ち歩いているメモ帳(アリサに貰った)に必要な部分だけを記しました。


「お姉様は魔術言語がわかるのですか?」

「ううん。けど、今少しずつ勉強してるから参考にね。……まあ、これかなり難しいものみたいだけど」

「勤勉ですのね!」


 眩しい笑顔が誤魔化したことを責めてくるようです。もちろんそのつもりはないと思いますが。

 今、私が魔術言語を理解していること、魔術を支えることはあまり周知されたくありません。特に王族貴族に騎士様達には。最低限の相手にしか漏らせません。


「とても勉強になったわ」

「ではお茶にいきましょうお姉様」

「ええ」


 手を引くシアに愛想を浮かべながら、私は『勇者召喚』の魔術式の疑問に耽ります。


 ーー送還に関する魔術式が一切見当たらなかったのは、私が勉強不足だったからでしょうか。



 ***



 シアとのお茶をし、カレインさんとの訓練を早めに切り上げ、私は書物庫に来ていました。そこで召喚魔術に関する魔術書を粗方引っ張り出し読み直しました。


 召喚魔術はこの世界の別次元から武具や精霊などを呼び寄せる魔術です。そのプロセスには座標特定・固定、門の解錠などがあります。


 では、召喚されたモノはいつまでこの世界に残るのか。これに関しては記されている文献はありませんでしたが、おおよその予想はつきます。

 おそらく“召喚に使用した魔力が尽きるまで”、あるいは“魔力供給を止めるまで”でしょう。魔力がなくなればこの世界に結びつけておく力がなくなるのですから。


 多くの場合は当然術者の魔力がそれに当たります。そのため任意で供給を止めることが可能で、召喚送還を成立させているのでしょう。


 もしこれが正しい仮説なら、私達はどうなのでしょうか? 召喚に使用された魔力はほぼ無尽蔵にある空気中の魔力。術者が任意に止めることも出来ません。


 この事実をこの国の人は知っているのでしょうか。そして、私達は魔王を倒すことで、本当に地球に帰ることが出来るのでしょうか。


 クラスメイト達が魔王討伐に進む以上、私が可能性を模索するしかありません。

 この夜私は不安を払うためか思案に駆られ、寝不足で次の朝を迎えることになりました。


お読みいただきありがとうございます!

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