5話 魔術言語
この世界に来て2ヶ月も間近となった頃、クラスメイト達は遂に実戦訓練に移るようで、数名の騎士団員先導の下、魔物が出没する付近まで遠征に向かいました。
時折聞こえてきたクラスメイト達の声がまったくなくなったことで少しは静かになりました。
そんな折、私は新たな壁にぶつかっていました。
私が今まで読んでいたのは歴史書だったり、娯楽ととれる小説だったり、大方がこの世界の事情を知るためのものばかりでした。
歴史なんて勝者の日記みたいなものなので信憑性に疑いは残りますがそれは地球のものも同じなので、ここでは気にしません。ある程度の大筋を捉えられれば十分だと言えます。
小説は作られたその時代の様子を比喩として表しています。さらには文化的なことが載っている事も珍しくないので、この世界を知るにはうってつけと言えるでしょう。
特にこの書物庫にあるのは選りすぐりのものばかりですから、本当にいい勉強になりました。
そういった情報を得るための読書はほどほどに、私は自分を守るための手段を得たいと思っていました。
今でこそ、こうして城の中で平和に暮らしていますが、実際には魔王軍との戦争をしているようなものです。いつ奇襲がかけられるのかも、戦線が後退して王都が陥落するのかもわかりません。不謹慎な話、クラスメイト達が必ず勝てる保証などないのです。
それに、敵が外にいるだけとは限りませんし。
そういった諸々の事から私は、この世界でもやはり強力な力として認識されている魔術について勉強することに決めたのです。自分の身は自分で守る。文化水準が高くても低くてもそこに変わりはありません。あるのは、手段の違いだけでした。
この世界にはいくつもの魔術があります。練習を積めば誰にでも出来る可能性のある魔術ですが、その結果に大きく作用するのはやはり技術なのです。
技術があるのとないのとでは同じ魔術を使っても効果に大きく差が出ます。さらに、難度の高い魔術や大規模な魔術になるほど技術のアシストが必須になります。
クラスメイト達には魔術関連の技術を持っている人達もいて、それは固有のものであったりそうでなかったり。とにかく彼らは技術の習得プロセスを省くことが出来たのです。
通常は勉強をして身につけるために一つの魔術しか使えない魔術師も多いのですが、前述の理由からクラスメイト達には複数の魔術を使える人もいます。
対して私はもちろん持っていないので、技術の習得から始めなくてはいけません。ただ、クラスメイトと違って好きな魔術を選べるという点だけはいい点でしょうか。
書物庫には魔術書が何冊も収められていて、いくつもの系統がありました。しかしそこで私が目の当たりにしたのは、今の私では理解が出来ない、そして現代魔術師のほとんどが理解していない、アリサが前に言っていた『魔術言語』でした。
魔術は魔法と呼ばれる完全に属人的な力を体系化し、ある程度の素質に左右はされるものも誰でも扱える術にしたものだそうです。
そして、現代魔術は魔術の祖と呼ばれる偉人が編み出した一なる魔術に使われていた魔術言語を、簡略化していったもらしいのです。
しかしその魔術言語の本質までは理解がされておらず、現代魔術はあくまで劣化番と言われています。
ですから、魔術はその根源を突き詰めるほどに難しく、強力なものになるのです。
「勉強するしかないですね」
とは言うものも、別にそこまで理解せずとも魔術は使えます。手段自体は確率されているのです。現に日常生活でも使われていますし、クラスメイト達も普通に使えています。
しかし未知なる力を扱うのに不明瞭な部分があるというのは怖いもので、私はとても使う気にはなれません。
なので、私が魔術言語を研究し理解すればいいのです。
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