31話 ルーラの修行
700ポイント達成してました! ……気がつかなかった。
そして今回は9時過ぎに投稿出来ました。一応9時を目安にしているのですがね、毎回ね。
修行を開始して六日目のことだ。ただひたすらに本を読み、魔術式から魔術言語を会得し続けるなんともインドアな月夜の修行に対し、ルーラのそれはまさに地獄の代物だった。
修行という名の害獣(幻獣)駆除を言いつけられたルーラだが、扱う装備は準一級、殆どの魔物ならば十分通じる名剣の類いだ。しかし相手にしているのは、通常の魔物とは比較出来ないほど濃密な神秘を纏う幻獣だ。
ルーラの振るう剣で、ルーラの技量では神秘の量は到底届き得ない。つまりルーラでは幻獣に勝てないのだ。もっとも神秘などというものはルーラも知らず、しかし自分の剣では切れないことは悟っていた。
それならば何故六日目までルーラが生き残ることが出来たのか。答えは単純。元々持っていた剣以外の得物を使ったからだ。
「なんか凹むわね……」
今は夜。どこがもわからない場所に放り出され安寧の地などないルーラだが、焚き火で温まるこの時間だけは多少は気も抜けていた。その傍らには一本の錆びれた短剣。揺らめく炎に鈍い光を返すその短剣がルーラの命を守り、幻獣の神秘を貫いたものだった。
「そろそろかしら」
ルーラはそう言って焚き火で焼いていた肉を手に取る。溢れる肉汁は焼くために刺した落ちていた枝を滴る。肉厚のそれを頬張るルーラは、味付けはないが悪くないと肉を飲み込む。五日ぶりにありつけたのだから美味しいに決まっていた。
「ふむ、お前はなかなか馬鹿なのだな」
「ア、アルテミシア様! ごふごふぁっ!」
焚き火を挟んで対面に突然現れたアルテミシアにルーラは肉を喉に詰まらせた。アルテミシアはルーラを手で制し、
「いい、食っていろ。それにしても本当に幻獣の肉を食べているとは……」
ルーラが手に持つ肉からその奥に横たわるモノに目を移した。それは分厚い茶色の毛皮に身を包み、反り返る巨大な牙を天に向ける猪のような、幻獣ヴィルトシュヴァインだった。
神秘も幻獣の中では少ない最低位だが、発達した後ろ足による突撃力と凶悪な牙での一点突破の破壊力は侮れるものではない。ルーラも何度か吹き飛ばされていた。それでも牙は避けた為に致命傷は免れていたが。
ヴィルトシュヴァインは激闘の末にルーラの食料となったのだ。
呆れた表情を浮かべているアルテミシアに、ルーラも不安になったのか食べていた手を止めた。
「あ、あの、やっぱり幻獣って食べたらいけないものだったのですか?」
「いや……。何か体に異変はないのか?」
「はい……。いや、なんか力が漲ってきます!」
「まあ、ならいいのだがな」
そうですか? と再び肉に齧り付くルーラ。食べられる時に食べておかなくては、今後の修行で体が保たないのだ。
しかし、アルテミシアはなんとも奇妙なものを見る目でルーラを見ていた。何せ幻獣の肉を食べるなど、アルテミシアが知る限りルーラだけだったからだ。
幻獣はその身に多くの神秘を宿している。その神秘を宿した肉を人間が食べれば普通は発狂するほどの痛みに苛まれる。常人の器は幻獣の神秘量に耐えらるほど容量も強度も足りないからだ。過ぎたるものは毒になる。それは神秘といえど同様のことだったのだ。
しかしルーラは何事もなく幻獣の肉を食べている。それは奇跡や偶然というわけではなく、単なる慣れだ。
ルーラは幻想郷で修行を始めてからの食事はそこらになる果物を食べ、水分補給には近場の川を利用していた。幻想郷は神秘に満ちている為に、あるものは全てが神秘を宿す。それらを少しずつ食べたことでルーラの器が大きくなり、強度も増したのだ。それも幻獣の肉を食べられるほどに。もちろん素質もあったであろうことは間違いない。
アルテミシアだってもちろん食べられる。彼女の神秘保有量はそこらの幻獣と比較できないほどに膨大なものだ。もっと言えば神代に生きた者も幻獣の肉を食べることはできた。現代よりも濃密な神秘の中で生きていたのだから当然だ。が、それでも食べない理由があった。それも二つ。
神代最強格である大英雄アルテミシアが恐れをなして問う。
「それ美味しいのか?」
「はい! アルテミシア様もお食べになられますか?」
「え、遠慮しておく……」
「そうですか」
一つ、幻獣の肉はゲロ不味い。幻獣の食生活は酷いものだ。なんでも食うのだ。文字通りなんでも。そんなわけで臭みがとんでもないことになっている幻獣の肉は、神代の時代でさえも食べられていない。そもそも幻獣を狩ることが出来ない現代では言うべくもないだろう。
しかしそれを嬉々として食べるルーラ。アルテミシアでさえ恐怖を覚えるほどだ。
「忌避感はないのか?」
「いえ特には」
二つ目に、これはアルテミシアにら関係ないのだが、一般的に幻獣は神が下界に現れる姿だと考えられていることだ。地域によってなんの幻獣を崇めているかは異なる。例えば王国では神龍を特別視している。しかし同格の幻獣を食べようなどとは普通考えない。
それをルーラは気にせず食べているのだ。
「……」
アルテミシアは珍しく己が言動を愚行と反省していた。何せ「食料はどうすれば!?」と訊いてきたルーラに対し、冗談半分で「そこらのものを食べればいいだろう。幻獣なんかいいんじゃないのか」と幻獣肉を推奨したのは、他でもないアルテミシアだったからだ。
しかし、とアルテミシアはルーラを見る。存外に面白いことになったと言わんばかりの目だ。自身と同系統の魔眼を持つ少女と異世界の勇者の端くれの少女、そのおまけがルーラだったのだから。思わぬ拾い物だ。
「おい、一旦食事は終わりだ。お前にいい物をくれてやろう」
「え、はい!」
ルーラが慌てて肉を飲み込むと、そこは焚き火が暖かい休憩場所ではなかった。代わりにあるのはゴミ溜めのように積まれた無数の武具達のある部屋だった。
「その山から好きな物を選べ。あんな短剣ではこれからの幻獣には通用しないからな」
「あ、ありがとうございます!」
「帰りはそこの扉を出ろ。私はもう行く」
「お疲れ様でした!!」
ふっと消えたアルテミシアが居た場所に全力の礼をしたルーラは、早速武具防具の山で捜索に当たった。ゴミのように積まれているものはどれも一級装備と言われるに足るもばかりだ。特殊な効果を持つものすらあり、普通はこんな雑に管理されたりしない。
しかしルーラにとってお宝に過ぎないそれらも、アルテミシアにとってはいらないゴミばかりだった。故に好きに選べという言葉だ。
ルーラはその後も直感を頼りに装備の探索を続け、見繕った後は幻獣の跋扈する森へと帰還した。
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