28話 アルテミシア
遅れて申し訳ないです。あとがきに理由は書きます。
今、私の前には異様な光景が繰り広げられています。
突如現れ、私達を試すと言って襲いかかって来たフェンリル。その力は圧倒的で、とても敵う気がしませんでした。実際魔力を纏った爪の斬撃は私の最大防御魔術【クヴェル・シルト】を、いとも容易く切り裂いた。そして私はそのまま死ぬはずでした。切り裂かれるか、それとも塵も残さず消滅するか。
ですが、
「聞いているのか馬鹿者」
恐ろしいフェンリルがひれ伏し、その頭を女性が軽く右手で小突いています。その際に聞こえるのは鈍い音で、とても軽く小突くだけで出る音ではありませんでした。
「ぐぬぬ……」
「なんだ、文句があるのか馬鹿?」
見下す女性を唸りながら睨むフェンリルは何故か反撃に出ません。いえ、反撃をしようとしているからかピクピクとしてはいるのですが、そこからまるで動けていないのです。
女性がこちらを向きました。黒に近い紫の髪は靡き、燃える赤の瞳は私を射抜きました。フェンリルを罵倒した口を開きました。
「よく来た異世界の小娘。幻想郷の王たる私がもてなそう」
戦闘の余波で荒れた花畑を歩いて来ます。いえ、それよりも私が気になるのは、
「私が異世界から来たことを何故ご存知なのですか?」
ルーラさん達にも聞こえていたようで、その表情には疑問の色が浮かんでいました。
私の質問に、王を名乗る女性は不遜に笑いました。
「お前のことなら視ていたからな。随分と面白い方法で魔術を使うじゃないか」
「それは、ありがとうございます……」
どうやら視ていたというのは本当のようです。私の魔術行使は独特ですから、それを知っているということは正真正銘視ていたからでしょう。その方法は不明ですが。
「とりあえず移動するとしよう。こんな場所にいつまでもいたくないのでな」
パンパン。女性が手を叩きました。そして一変。甘い香りが漂っていた暖かい花畑から、色とりどりの宝石が照る石造りの部屋へ。その時に訪れていたのは異世界に来たとき、迷いの森を抜けたときと似た浮遊感でした。
「な、何が……」
「何をしている、早く席に着け」
「は、はい」
着席を促され慌てましたが、そこでルーラさん達に思い至りました。振り返って見るとルーラさん達もいました。どうやら私以上に驚いていたらしく、口を開けて固まっていました。
ルーラさん達と木製の椅子に着きました。静謐に満ちた部屋の調度品の数々は、装飾はありませんが上品で落ち着き払っていました。
しかしその雰囲気と戦闘後の異様な光景を作り出した女性への警戒心で、私達はそわそわとしていました。当然それは見抜かれ、
「ふむ、何もとって喰ったりしない。せっかく招いた客人なのだからな」
上座に座る女性が笑いました。
「あの、それはいいのですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「ああ、そういえばそうだな。私はこの幻想郷の王アルテミシアだ」
その名前を聞きまず思ったのはフェンリルがその名前を口にしていたこと。それと、
「どこかで聞いたことが……」
そう、私はどこかで聞いたことがありました。正確には見たことが。おそらく王城の書物庫ででしょうが。
その解はルーラさんがもたらしました。
「ア、アルテミシアですって!? なんで神話の英雄が」
「ほう、私のことを知っているか」
「アルテミシア……思い出しました。いくつある神話に共通して出て来る名前。そんな、まさか……」
「いや、間違ってなどおらぬさ。私がお前達の思うアルテミシアで合っている」
驚きです。まさかフェンリルだけではなく、神話に名高き最高峰の英雄に会えるとは。私は妖精を求めて旅をして来ましたが、しかしこうもビッグネーム出会うと興奮してしまいます。
「まあそんなことはどうでもいい。それよりも小娘」
「ツキヨです」
「知っている。が、今はまだ小娘で十分だ」
「そうですか……」
「小娘、お前には私の弟子になってもらう」
「……は?」
「それとそっちの小娘もだ」
「わ、わたし?」
アルテミシアさんが指名したのはルーラさんではなく、私とエルミダちゃんでした。エルミダちゃんは驚きのあまりあわあわとして私に助けを求めて来ます。……ごめんなさいエルミダちゃん、私もどういう状況かわからないんです。
「あ、あの。理由を聞いても?」
「よかろう。そっちの小娘、お前は透視眼を持っているな。それも先祖返りか知らぬが、かなり高位のものだ」
「なんでそれを知っているの?」
「私を誰だと思っている。お前達の村の祖は私の弟だ。奴が透視眼を持っているのなら、私が持っていても不思議ではあるまい」
「な、なるほどです」
エルミダちゃんは全く理解が出来ていないようでしたが、アルテミシアさんの説明を前にそれ以上の質問は出来なかったようです。
「もっとも、私の眼はさらに高位の千里眼だがな。しかし透視眼の小娘、お前も千里眼に至れる可能性がある。私も数千年生きてきたがそろそろ暇でな、退屈凌ぎにはちょうどいい。それが私がお前を弟子にする理由だ」
なんともかってな理由でした。
「異世界の小娘は、何、お前には魔王を倒して貰おうと思ってな」
「それも退屈凌ぎですか?」
「ふ、そんなわけなかろう。害虫駆除の代行をしてもらうだけだ」
「もっと酷い理由でした!?」
魔王を害虫って……。その害虫に世界が危機的状況なのですが。
「あの、何故私が」
「言ったろう異世界の小娘。お前がこの世界に来た時から見ているが、お前が一番面白いからだ」
「あ、あの! ツキヨが異世界から来たってどういうこと?」
「ルーラさん……」
「そういえば小娘は言ってなかったのか。簡単だ。そこの小娘は魔王を倒すために勇者と共に召喚された、異世界人というやつなのさ」
「ツキヨが勇者様方……!?」
遂にバレてしまいました。余計なことにならないように言わないでおいたのですが、駄目でした。ルーラさんの瞳に誤魔化さず頷きました。
「黙っていてすいません。でも私、特別な力もなくて勇者達とはまるで違うんです。だからこうして旅に……」
「あ、いえ、いいのよツキヨ。なんとなく気がついてたから」
「え、そうなのですか?」
「そりゃね。勇者様方と似た顔立ちをしていたし、王都から来たって言っていたし、時期も同じ。それに加えて強いんだからね」
「そう、だったんですか」
「だから気にしないでいいのよ。ごめんなさいアルテミシア様、話を折って」
「よい。友は大切にしなくてはな」
アルテミシアさんは寛大にも許してくれました。
「とにかく異世界の小娘には魔王を倒してもらう。そのために私の弟子にする。以上だ」
それ以上語ることはないと言い切ったアルテミシアさんに、ルーラさんは言い放ちました。
「アルテミシア様。私も弟子にしていただけませんか。魔術だけではなく、武芸にも秀でたアルテミシア様に教わりたいのです」
「無理だ。剣士の小娘には面白み……資質がない。私はそのよな者をわざわざ弟子にはせんのでな」
「そんなッ」
「だがまあ、この幻想郷には幻獣が沢山いる。その中には鬱陶しい奴ものな。勝手にやる分には構わぬよ」
それはつまり、あの恐ろしフェンリルと同等の敵を倒して来いという意味でした。あまりにも酷い条件にルーラさんは、
「わかりました。必ず、倒してきます」
思いのほか乗り気でした。
「ふぁぁ。今日はもう寝る。私は疲れた。しばらくは好きにしていろ」
アルテミシアさんはそう言ってふっと消えてしまいました。
お読みくださりありがとうございます!
今回投稿が遅れたのはテスト勉強をしていたからです。すいません。そのため来週と再来週は投稿が難しいかもしれません。数学がやばいのです。投稿出来たらしますので、次話もよろしくお願いします!




