26話 月夜の誘い
600ポイントありがとうございます! じわじわと伸びますね、この作品は。
それでは十分前に完成したばかりの出来立てをどうぞ!
半月が経ちました。この間様々な妖精への儀式が催されました。月の妖精、水の妖精、土の妖精、風の妖精、光の妖精、農業の妖精など。実に豊富な妖精がいます。
取り上げられているものはどれも身近な物の妖精ばかりです。太陽はいつもありますし、月もそう。水もなくてはいけません。そういう、自然に妖精は宿っているのだと、そして恩恵を受けているのだと知りました。
そして感謝祭も中盤、15日目の終わり、16日目の始め。月が天を頂き、星が煌めく頃不気味な軋みがありました。念のためにと張ってある感知魔術にも反応はあり、見えない精の仕業ではなさそうです。妖精は私の感知魔術では妖精を捉えることは出来ませんから。
隣のベッドで寝ていたルーラさんも目が覚めたようで、小声で話しかけました。
「誰か来たようです」
「乙女の寝床に忍び入る不届き者は誰かしら」
ルーラさんは枕元に置いていた愛剣をそっと手に取りました。警戒をしていつでも抜剣出来るように、この部屋唯一の扉に向けて構えました。
しかしその時点で私は、花園の侵入者が危険人物ではないことを把握していました。この家の狭い範囲だけに感知魔術を集中させていることもあり、より高精度な感知を可能としています。細かい容姿まで把握出来るほどに。
そしてそれによれば、侵入者は随分とかわいらしい女の子です。
「ルーラさん大丈夫ですよ」
私はそう言って、呆気に取られるルーラさんを尻目に扉に手をかけました。侵入者さんはビクビクとして、扉の前で開けるか否かを迷っていたからです。
突然開かれた扉に侵入者さんは硬直し、そしてあわあわとしながら後ずさりました。どうやらいけないことだとはわかっていたようですから、優しい声音でその名を呼びました。
「エルミダちゃん、こんばんは」
「こ、こんばんはツキヨお姉さん」
かわいい侵入者もといエルミダちゃんは、行儀よく挨拶を返してくれました。
「どうしたのこんな夜中に」
「あの、そのね。妖精さんがツキヨお姉さんのところに行きなさいって」
「妖精が?」
これはまた、随分と直接的な指示ですね。
「あの、ツキヨお姉さん。かってに入ったこと怒らないの」
「構いません。妖精の指示なのでしょう。仕方ありません」
「そうよ。それに、ちょっとしたイタズラ程度でしょう。それくらいやんちゃでも叱らないわ」
「でも、ごめんなさい」
しっかりと謝れていますし、よしとしましょう。取り返しのつかないほど悪い事をしたのではありませんから。
それよりも解決するべきは、なぜ妖精がエルミダちゃんを私の元に寄越したのかです。こんな夜中もいい時間にわざわざ寄越すということは、それ相応の用件があるということでしょう。
……もしかしたら、ただの気まぐれかもしれませんが。
考え込んでいるとエルミダちゃんが、ちょんちょんとしてきました。
「あの、ツキヨお姉さん」
「どうしかしましたか」
「妖精さんが付いて来てって、飛び回ってるわ」
「そうですか」
私は剣を納めていたらルーラさんに振り返りどうするか話します。
「危険、ですかね」
「危険かもね」
ですよね。未知の危険があるかもしれないことに、なんの下調べもなく挑むのは、ましてやルーラさんを巻き込むのは駄目です。
「ではーー」
お断りしましょう、と口にしかければルーラさんがそれに被せて「でも」と一息置きました。
「ツキヨは行きたいんでしょう」
「……はい」
それは、確かにその通りです。何も考えずにただ自分の欲求に従うなら、私はエルミダちゃんのお誘いを受けることを冀求しています。この世界に来て初めての念願ですから。
「なら行きましょう。こんな辺境まで来て躊躇うこともないわよ」
「ルーラさん……」
「それに、私たちは冒険者でしょう。危険はいつだって付き物よ」
実力で守らなくちゃね、と柄頭に手をかけるルーラさんは、
「というわけだからエルミダちゃん、準備するから少し待っててもらえる」
「は、はい。妖精さんもしっかりと準備をして欲しいって」
「あら、やっぱり物騒なの。ツキヨ、どうする?」
今度はルーラさんが私に問いました。それに対する私の答えはもちろん一つです。
「妖精のお招きに預りましょう」
***
月光が鬱蒼と茂る木々の隙間から漏れてはいましたが、夜の迷いの森は不気味で、それこそ人ならざる妖が出て来てもおかしくはありません。
私は水属性第三階梯魔術【水蒸気式感知魔術】と火属性第一階梯魔術【ケルツェ】を併用し、索敵を行いながら進みました。
【ケルツェ】の鬼火は主に先頭を進むルーラさんの周辺を照らしています。剣士であるルーラさんの攻撃範囲を広げたところまで照らしており、その斬撃が木々に邪魔されないための配慮です。
ルーラさんの後ろにはエルミダちゃんが怯えながら歩いています。流石にこの暗闇は怖かったらしく森に入る前も怯えてはいましたが、気丈にも涙を見せることはありませんでした。……ただ、へっぴり腰でビクビクとしていますが。
そして最後尾を私が。全距離対応できる私は支援に重きを置いていますし、エルミダちゃんを守るためでもあります。何かあれば【ブラーゼ】をエルミダちゃんに施す用意はしてあります。
「エルミダちゃん」
「ひゃいっ!? ……ツ、ツキヨお姉さん、どうかしましたか?」
「……いえ。この方向であっていますか?」
「あ、はい。妖精もルーラお姉ちゃんの前でひらひら飛んでますから」
「それはおちょくってるのかしら」
どうやらルーラさんにも聞こていたようで、げんなりとした様子を見せました。もちろん警戒は怠らずに。
「ツキヨ周囲には何もいないかしら?」
「はい。相変わらず木しか感知出来ません。魔物はもちろんいませんよ」
「それもおかしいのだけどね。それにしても、なんで迷いの森って名前が付いてるのかしら。気をつけていれば迷うことはないわよ」
「わ、わかりません……。その、村の子ともたまにちょっぴりだけ入るけど、何も、ないです」
「そうよね……うん? 何かしらあれ」
ルーラさんが止まり、それに伴い私とエルミダちゃんも止まりました。ルーラさんの前方を見ると、いくつもの幹の間から僅かな光が闇の森に差し込んでいます。
私はそちらのほうに感知魔術を集中させましたが、特に何もありません。そう鬱蒼としているはずの木々すらも。
「あの先は開けているいるみたいですね。反応がありません」
「そう」
「妖精さんがあっちに飛んで行ってるよ。早く早くって」
「そうですか。ルーラさん、進んでみましょう。危険はなさそうです」
「わかったわ」
進行を再開しました。徐々に木が少なくなるにつれて光も強くなっていきます。
「お花の甘い香りがするわ、ツキヨお姉さん」
エルミダちゃんは先程までの怯えもすっかり消え失せ、足取りも軽やかなものになっています。
だからでしょうか。私がその異変に気がつけなかったのは。……いえ、どうしたところで私では気がつけなかったのでしょう。
森の先、光のある方へと進んで行くと着きました。
「これは……」
ルーラさんが光に消えてエルミダちゃんが森を抜けました。それに続いて私も森を出ようとした時懐かしい感覚が訪れました。
ーーほんの一瞬の浮遊感でした。
それに気がついた私は森を抜けた光景を見るよりも先に、感知魔術で感知するまでもなく反射的に後ろを振り返っていました。
ルーラさんがやや興奮気味の声をあげました。
「ツキヨ凄いわよここ! ……ツキヨ?」
「ルーラさん、やられました」
「やられたってなにが」
「どうやら転移させられたみたいです」
私が振り返りった先、それまでの行程にはあったはずの木々がありませんでした。一面の花畑に眠気を誘う陽気、肌を暖める陽光。
夜を置き去りに私たちは、どこか知らぬ場所へと誘われてしまいました。
お読みいただきありがとうございます!
最近ソシャゲのガチャ運がいいヒイラギです。感想などはお気軽に。
次週もよろしくお願いします!
P.S.レビューが欲しいです(切実)




