22話 付与魔術
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朝食を食べ終えた私達は、宿を引き払いアリカンテの街を発つことにしました。祭りの様子は気になりますが、オルボア地方全体でそれぞれ催されているらしいので、他の場所で楽しむことにしましょう。
迷いの森。鬱蒼とした木々は広大で、また、晴れることない霧が森のみにかかっていることからそう呼ばれる、不思議な森です。その不思議さから、妖精の仕業ではないかとされてます。それが妖精信仰にも結びついているのだとか。
ですが、あながち否定出来ないことも確かです。なぜなら、迷宮となるには格好の場所である迷いの森は、迷宮化することもなく、さらには魔物が一匹もいないからです。
そのためオルボア地方に魔物が侵入してくることはなく、あるのは他の場所から稀に逃げてくる魔物か、迷宮から進出した魔物のみ。
つまり、オルボア地方には魔物がいないと言っても過言ではないのです。
危険もほとんどありませんし、魔物に土地を荒らされることもないので、王国随一の農業地帯としても栄えているそうなのです。
私達の目的地は、迷いの森の手前に位置するルーレオ村です。昨夜ルーラさんにも話していた通り、妖精を確認できるかもしれない場所として有力視している場所です。
アリカンテからは少々遠いですが、ここからは自分の足で向かいます。馬車が出ていないのと、訓練の為です。
迷宮都市は多くの冒険者が集まるとだけあって、やっぱり大きな魔術師専門店があり、そこには当然のように色々な魔術書がありました。王都の書物庫にはなかったようなものがたくさんあり、私は新しい魔術を覚える事にしたのでした。
が、魔術書というのはかなり高額なもので、買えないことはないのですがあまりにも痛い出費になってしまいそうでした。なので少し狡いのですが、というか犯罪すれすれな気もしますが、魔力でこっそりと空中に魔術式を書き、転写のストックに取り入れました。
罪悪感が今でも残っています。ルーラさんには私独自の方法を説明してありますから相談したところ、曰く「ツキヨみたいな方法の対策をしてないのが悪いのよ。冒険者は良いも悪いも自己責任なんだから」だそうです。
……やはり、いつかお金を置きに来ましょう。
私達は今アリカンテの城壁の外、十数メートルにいました。怠惰に守衛をする門番や物見櫓に立つ監視の視線を背中に感じました。早く行けとでも思っているのでしょうか。
「では」
「いつでもいいわよ」
まだスキルを習得したばかりですのでスキルレベルは1ですが、今回使いたい魔術を行使するのに問題はありません。
付与魔術第一階梯【エアヘーエン】。主に身体へと付与する事によって一時的にステータスを高める、付与魔術初歩中の初歩。低位の魔術のために特定のステータスを指定しなければ効果が薄いです。
「軽い」
思わず言葉を漏らしてしまいました。
今回の指定したステータスはもちろん俊敏なのですが、自分にこれを掛けた途端にいつもとは身体の感覚が違ったのです。
スキルを会得するのにルーラさんに何度も使ってはいましたが、自分に使うのは初めてでした。
「これは、早くスキルレベルを上げた方がいいですね」
使ってみて分かる付与魔術の便利さ。私はまだこれと数種の付与魔術しか、スキルレベルの補助を受けられる圏内で使えませんが、ということはより高位になればさらに効果が高いということです。現スキルレベルでこれならば、私の総体的なステータスの低さを賄えるかもしれません。
「準備出来ました」
「ツキヨに合わせるから先行して」
「はい」
一歩を踏み出し、徐々に速度を上げていきます。決して運動が得意というわけではない私ですが、なるほど、足が速い人というのはこんな景色なのですね。
少しして振り返ればアリカンテはもう彼方にありました。隣には素のステータスだけで私に並走しているルーラさんが、余裕のある表情をしていました。
「へぇ、結構速くなるものね」
「私もびっくりですよ。……余裕はありませんがッ」
「魔術を維持するが難しいのかしら」
「いえ魔術自体は大丈夫です。ただ、走る事がそもそも得意ではないので」
「ああ、だよね。走り方が変だものツキヨ」
「じ、自覚はあります……」
移動用に何か新しい魔術作ろうかなぁ……。
***
いくつかの丘を越えた頃、日は沈もうと空をオレンジと濃紺に染めつつありました。それまで魔物と遭遇することはやはりなく、見かけた生き物と言えば放飼されている牛たちばかり。オルボア地方に入る前には見かけなかった光景です。
何回か休憩を挟んで無理のないペースでやってきましたが、もうそろそろルーレオ村が見えてもいいはずです。
と、そんなことを思っていれば丘の向こう側から人声が聞こえてきました。それに太鼓の空気を揺らす響きや、弦楽器の澄み渡る音色も。
ルーラさんと顔を見合わせて、丘の上に一目散に駆け上がりました。
「やっと着いたわね」
「はい。流石に疲れました」
「祭りをしてるみたいだわ。行ってみましょう」
暗い森の手前で爛々とした火で照る村に、アリカンテの城壁のようなものはなく、また、柵も何もありませんでした。魔物の跋扈する世界でこれはあまりにも無防備だと思うのですが、ここオルボア地方に魔物はいませんでした。
それでも用心の為の柵くらいはあるものです。魔物が居なくても盗賊はいるのですから。
不思議に思いながらも、目的地に着いたことへの安堵から私の気は抜けていました。未だに慣れない長距離移動、それも走ってです。
だからでしょうか、近寄っていたものに気がつかなかったのは。
「姉ちゃん誰っ!?」
「きゃっ!」
村まで30メートルほどにした時、照る草の陰から飛び出してきたのは、目の周りに特徴的な模様を描いている男の子でした。私はそれに腰を抜かして尻餅を突いてしまいました。
「あ!! もうヒルったら、お客様に何をしてるの!」
ヒルというらしい男の子を見つけ駆け寄ってきたのは、プンスカという擬音が似合う女の子です。彼女も目の周りには男の子とは違いますが、なんらかの模様を描いていました。
女の子は一通りヒルくんに怒ると私に向き直り、これでもかというくらいに頭を下げました。
「ヒルが失礼なことしてごめんなさい! でもね、村の結界に反応してたから物珍しくて」
「結界?」
「うん」
そんなものありましたか?
念のためにルーラさんにも目を向けましたが、首は横に振られました。私やルーラさんでは感知できないほどの高位の結界魔術なのか、それともただ何もないだけなのか。
「そうでしたか。それはすいません。私達は旅の者で、この村に興味があって来ました」
「だから、だれか大人を連れてきてもらってもいいかしら。すこしお話がしたいの」
「わかった、いま呼んで来るね! ほら行くよヒル」
女の子はヒルくんの首根っこを掴んで引きずって行きました。離れたのを確認して、ルーラさんと警戒を高めます。
「どう思いますか?」
「嘘を吐いているようには見えなかったわね。でも、結界は感じなかった」
「はい。今も痕跡がないか探っていますが、そのようなものは特には」
「なら、これから聞いてみるしかないないわね」
しばらくして女の子は戻ってきました。
「村長連れて来たよ!」
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