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21話 アリカンテ

遅れてしまいすいませんでした!


新章の開始です。

 ヤトさんの店を後にして、その他諸々の必要な物を買い揃えた私達が、直ぐに目的地であるオルボア地方に足を向けたかというと、それは叶いませんでした。というのも、私達が向かう為の手段として考えていたオルボア地方行きの商人の馬車は、早くても一週間後に発つ予定らしいからです。


 タイミングが良かったのか悪かったのかと聞かれれば、そこそこ良かったのではないでしょうか。オルボア地方はど田舎ですから、商人達も頻繁に向かうわけではないそうなのです。

 ですがそれが一週間後なのですから、やはりタイミングはそこそこ良かったようなのです。


 では、その間に何をしていたのかと言いますと、もちろん迷宮探索でした。さらに正解に言えば、私のレベル上げとそのついでの資金稼ぎです。


 私はそこそこのスキルレベルと独自の方法で戦えてはいますが、そもそも基本的なレベルは低く、ステータスも軒並み低いです。魔力がかろうじてやや高いくらい。

 これから戦線に近づくというのにこれでは装備を揃えても危険すぎますし、強くなって困ることはないのでレベル上げに勤しむことにしたのです。


 その成果として、装備もステータスも十分に余裕、もちろん油断や慢心は禁物ですが、今できる可能な限りの準備はすることができました。あとは迷宮都市の魔術店で見つけた魔術式を、そう、ちょっとだけ見せていただき、新しい魔術スキルも。

 そして私達は目的地であるオルボア地方へと来たのでした。


「疲れたわ」

「はい。流石にお尻が痛くなりました」


 検問を通り護衛依頼を受けている商人から報酬を受け取った私達は、ひとまず取った宿の部屋で凝り固まった体を伸ばして解していました。


 一面の草原に走る街道を行き、着いたのはオルボア地方の街アリカンテ。緑の大海に浮かぶ島のようで、周囲には一切何もありません。見晴らしも良すぎますので、外郭の見張り台に立つ兵士さんは少し眠たげでした。


 私達が着いたのは夕方で、今はもう日が完全に暮れて夜です。今は松明のオレンジがところどころゆ染めているだけで、あとは月や星々の光が照らしていました。


 アリカンテは迷宮都市からオルボア地方に行くと最初に着く街です。玄関口ともいえますから、そこそこの規模を誇っています。流石に迷宮都市とは比べものになりはしませんが。


「しかし、くぁああ……。眠いわよね。魔物も全然いなかったし、楽だったわ」

「妖精さんが守っているらしいですよ」

「そういえばそうだったわね」

「オルボア地方は妖精信仰が盛んらしいですから」


 私は鞄から大切にしまってある絵本を取り出しました。


「この絵本、読んでみればわかるんですが、かなり具体的なんですよね」

「どういうこと?」

「固有名詞が現実に即しているんです。例えばアリカンテもしっかりと出てきますし、他にも地図で確認でます。おとぎ話にしては、なんというか、物語との距離が近すぎるんです」


 オルボア地方の地図を指して言いました。


「なるほどね。言いたい事は分かるわ。それで?」


 続きを促されました。


「だとしたら、もしかしたら妖精は本当にいるんじゃないかと思ったんです。それで一番の候補として上げているのがーー迷いの森」

「戦線の境目にある森ね……。私も行ったことはないわ」

「危険かもしれませんが、その手前にある村に行こうと思います。ただ、戻ってしまいますが、聞くところによると妖精が守っているらしいんです」

「妖精が云々は置いておいて、戦線付近に村が存在できるのも不思議ね」


 ルーラさんが頬杖をつくと様になります。今見せている興味の表情も、大人の女性という面が強くでていますから。

 私はルーラさんの反応に満足して頷きました。


「はい。行ってみる価値はあります」

「じゃあ行ってみましょう。とりあえず今日は早く休んで、明日出発ね。歩いて行くのでしょう?」

「馬車も出るかわかりませんしね」


 そう、ここからは歩いて行かないとならないでしょう。幸い上昇したステータスは、荷物の重さが苦にならない程度に成長してくれましたので、道中で情けない姿を晒すこともないと思います。

 ただ疲れないというわけではありませんから、マイナス要素を取り除くことは当然です。それに夜更かしはお肌にも悪いですし。


 私達は汗を流すだけにとどめて、女性だけですから下着姿でベットに倒れ込みました。長旅に慣れたわけでもない私は、あっという間に眠りの波に攫われて、気がつけば朝を迎えたいました。



 ***



 翌朝、私達を目覚めさせてくれたのは心地よい朝日と、人々の楽しげな声でした。


「凄いですね」

「お祭りかしら?」


 身支度を済ませ宿を出ると、緑の装飾があちらこちらにされていました。それに行き交う街の人は何かしらも緑を身に着けていました。昨日は暗がりでよく見えてはいませんでしたが、それでも雰囲気がまるで違うことはわかります。


 私達は朝食を摂るために食事処に入りました。緑の装飾がやっぱり施されていて、驚くことに酒を呷る客もちらほらといます。

 適当な席に着くと緑のスカーフで頭を覆った店員さんがやって来ました。朝ではありますがこれからの旅路を考えてしっかりとしたものを注文しました。


 私は隣の席に座っていた人達に声をかけました。


「あの、すいません」

「なんだ嬢ちゃん。おじさんに惚れちゃったかい?」

「やめろってお前。その髭面に惚れるわけねぇだ」


 それだけでガハハッと気分良く笑うあたり、わかりづらいですけど酔ってますね。声をかける相手間違えました。……とりあえず適当な態度で乗り切りましょう。


「おじ様も素敵ですが、そうではなくてですね。今日って何かあるんですか?」

「ははありがとよ嬢ちゃん。今日から一か月間、妖精様への感謝祭が始まるのさ。オルボア地方中の街や村が祭り一色なんだよ!

 それを見に来たんじゃないのかい?」

「いえ、知りませんでした」

「そうか。街や村によって差もあるから、楽しんで行きなよ! ここはおじさんの奢りにしておいてあげるから!」

「ありがとうございます。男前ですよ」

「おうよ」


 話し終えるとおじ様は、わははとやっぱり機嫌よく笑い、元のグループに戻って行きました。

 丁度私が注文したものが届きお先にいただきます、とルーラさんを見やりました。そのルーラさんは瞠目していました。


「どうかしましたか?」

「いや、ねえ。ツキヨがあんな対応をするとは思わなかったから。おじ様って」

「失礼しますね。それ相応に接することは私にだってできます」

「いや、そうじゃなくてね。そう、女の子っぽさを出すと思わなかったから。というか出来たのね」

「……それ、遠回しに私が女の子っぽくないって言ってます?」


 ルーラさんは眉を開きながら笑いました。


「ツキヨは大人びてるけど、女を少し捨ててるきらいがあるから。安心したのよ」

「そんなつもりまったくないのですが」

「いつも無表情のくせして何言ってるの」

「結構表情変わってたと思うのですが」

「……」


 白けた気まずい沈黙で空気が澱みました。そこに空気を流し込んだのは、忙しそうに働く事情の知らない店員さん。ルーラさんの頼んだ物が運ばれてきました。


「食べたら行きましょう」

「はい」


 あ、このスープ美味しい。


お読みいただきありがとうございます!

新章が始まりました。物語が急加速していくと思いますが、多分、お楽しみいただけたら嬉しいです!


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