20話 おしゃれ
私とルーラさんはホクホク顔をしているでしょう。何せ、盗賊達を捕縛した報酬金は100万ゲルト。全く弱かった彼らですが、掛けられていた報奨金は高かったのです。
ということで、一人当たり50万ゲルトを手に入れたので、非常にるんるんとしていました。
「ルーラさん、どこに向かっているのですか?」
「魔術師装備店よ。ツキヨは強いわ。それこそ多分、一級冒険者にも直ぐ追いつけるくらいには。けどそれとこれとは別よ。専門じゃないからなんとも言えないけど、もう少し装備を整えた方がいいわ」
「私、杖はいらないのですが」
「それだけが装備じゃないの」
と、ルーラさんは私の装備、もとい服装を指しました。
私の格好は至って普通、そこら辺にいるただの街娘と変わりありません。スリットネックのシャツ、膝下丈のフレアスカート、まだ新しさを残すワークブーツ。これらの上にこげ茶のマントを羽織っているだけです。
どの服にも冒険者の装備として役に立つ効果を持ったものはありません。ワークブーツだけは動きやすいですが。
「おしゃれなものもあるし、ステータスに効果のあるものもあるはずよ。少しくらい奮発しておいて問題ないでしょう」
「確かに」
「これから戦線方面に向かうんだから、尚更ね」
「はい」
いつのまにか協会で、魔術師の装備を取り扱っている良い店を聞き出していたルーラさんの先導のもと、私達はどうにも怪しげな建物が立ち並ぶ区域へとやってきました。
行き交う人は魔術師と一目でわかるような格好をしている方がほとんどです。
「えっと、こっちね」
少し幅のある横道に入っていきます。ルーラさんはメモ書きを見ていますが、チラリも見ると書かれていた店の名前は『ミミ』。手書きの地図が正しければ、そろそろ着くはずです。
「ここね」
着いたのは周囲から明らかに浮いている店構えをした、そう、ここが『ミミ』でした。浮いているというのも、魔術の道具かはわかりませんがごった返している店がほとんどの中、パステル調のペンキで統一されたかわいらしいお店だからです。
ただ、窓はないので店内の様子を伺うことは出来ません。ですがパステルグリーンの扉にかかる札は営業中となっていましたので、早速入ってみることにしました。
「……すごい、ですね」
私は思わず言葉を漏らしてしまいました。というのも入店して直ぐに服、それも女性ものが大量あったのです。
あまりの光景に圧倒されていると、その向こうから眼鏡を掛けた女性が出てきました。
「いらっしゃいませ。……ありゃ、初めての見る顔っすね」
「女性魔術師にここをお勧めされたのだけど、あってるかしら」
「あってると思うっすよ。もっとも、ここは魔術師専門の店ではなくて、女性冒険者専門店っすけど。もちろん魔術師の方の装備も取り扱ってるっすから、そちらのかわいいあなたにも満足してもらえっすよ」
「あ、ありがとうございます」
唐突に褒められたものですから驚いてしまいました。ですが疑問も同時に。
「何故、私が魔術師だと?」
「見てれば雰囲気とかでわかるっすよ。それよりも、今日は何をお求めで?」
「私の装備を一式」
「それはそれは。腕によりをかけてコーデネートさせて貰うっすよ」
「……え?」
「店主。戦線近くに向かう予定があるから、見た目よりも性能を重視したいの」
「それは駄目っす!!」
店主さんは声を張り上げて拒否しました。
「女性冒険者、それもこんなにかわいいのにそんなの勿体ないっすよ!」
「それはそうだけどね、命あってのものよ」
「性能面は安心してくださいっす。ほかにはない、独自の製法で見た目と性能を両立させたっすから」
「なら、いいのだけど。ツキヨは?」
「私も大丈夫です。その辺には疎いので、おススメをお願いします」
「了解っすよ。少し待つっす」
そう言って店主は店の奥へと消えて行きました。その後ろ姿は嬉々としていましたからよかったのですが、私自身に命あっての物種だと考えていますから、性能に妥協するつもりはありません。
「見てみてツキヨ、これも冒険者の装備なのかしら」
「女性冒険者専門店と言っていましたからね。そうなのかもしれません」
「でも魔術師とかならまだしも、剣士とか近接系には厳しいのが多いわね。かわいいとは思うのだけれど」
「そうですね……」
私も女性ですから、まあそれなりに服飾には興味もあります。ただこの世界に来てからはそういった余裕もありませんでしたから、こうして服を見るのは久しぶりです。
「あれ?」
服を見ていると違和感というか、妙な感じがしました。デザインが嫌いだとか、布地が嫌だとかではなくて、何か根本的に違う何か。
気になり手に取っていた服を注視しようとした時、
「おまたせしたっすよねー」
店主さんが戻ってきました。両手に沢山の服を抱えて。
「さあさあ、試着の時間っすよ」
「あ、りがとうございます……」
着せ替え人形になりました。
***
目に入る物を全てを着てみて、組み合わせて、とりあえず見た目重視で選んだ装備が決まりました。
袖の部分を、首の付け根から脇の下までカットした白いアメリカンスリーブ。腕が大胆に晒されています。
下は前方が短く開け、後ろは長くなっている紺のテールスカート。少し丈が短い気がします。
その他、靴や小物は適当に見繕われました。
「似合ってるっすよ」
「そうね。ツキヨっぽいんじゃない?」
「そうですか? 腕も脚も出すぎでは」
「何言ってるっすか。せっかく綺麗なのにもったいないっすよ」
店主さん、もといヤトさんは私の脚を褒めてくれますが、それを言うならルーラさんのほうが健康的で綺麗な脚と腕をしています。さすがは二級冒険者の剣士というだけあって、脚は締まっていますし、それは全身に言えることです。なのに豊かな胸持っているのですから、なんというか、です……。
「でも、これやっぱり出すぎね。さすがに危ないわ」
「問題ないっすよ。何せ刻印魔術そのものを織り込んだ生地で作った服に、さらに刻印魔術を施した特製品っすから」
「刻印魔術、ですか?」
聞いたことのない言葉でした。刻印という名前が付くくらいですから、刻み印す魔術なのでしょうが。
私の疑問にヤトさんが答えました。
「刻印魔術って言うのは、職人達とかが使う魔術っすね。名前から想像できるとは思うっすけど、特定の効果を持つように魔術言語を対象に刻み印す魔術っす」
「え、ではヤトさんは魔術言語について理解を?」
「いやいや、そんなことはないっすよ。あんなの理解出来るほど優秀な頭は持ち合わせてないっすよ」
「では、何故刻印魔術が使えるのですか?」
「そりゃ、親から教わったんすよ。刻印魔術は昔から代々伝えられてきたものなんす。だから刻印魔術を扱う職人一族、あるいは一派にはそれぞれが扱える刻印魔術に違いがあるんす」
「そう、なのですか」
どうやら刻印魔術はその効果の扱い方のみが伝えられ、その仕組みまでは伝えられていないらしいですね。となると、私が刻印魔術を学ぶことは難しそうですね。
「まあとにかく、自分が編み出した特殊な方法を用いる刻印魔術で防御力は問題ないっすよ。魔力を込めれば強度も増しますから」
「そう、なら私からは何もないわ」
「あの、やっぱり脚が露出し過ぎて落ち着きません。腕は、マントを着るので我慢しますが」
とは言え、私も女子高生でしたからこれくらいの丈のスカートは慣れています。ですが冒険をするのにこれは色々と心許ないですし、そもそも地球ではタイツを必ず着用していたからなんとか大丈夫だったのです。
「なら仕方ないっすね。次点案ではあるっすけど、そっちもなかなかいいっすから。ツキヨさん、これをスカートの下に履いたらどうっすか?」
「え、それは……タイツ、ですか?」
「たいつ? が何かはわからないっすけど、迷宮に自生している植物を加工して作った糸を使ったものっす。試作段階っすから、格安でお譲りするっすよ 」
ヤトさん、私の心を読むようにタイツを出してきましたね。特に不利になることもありませんし、ありがたく履かせていただきますが。
「おお、生脚よりも艶めかしいっすね」
「……」
ヤトさんの変態おじさん的感想はさておき、試作品というこのタイツ、なかなかに履き心地がいいです。というより、地球で履いていたものに極近いのではないでしょうか。
「どうツキヨ、買う?」
「はい、これなら買わせていただきたいです」
「それはよかったっす」
そうして店主ヤトさんの趣味全開の装備を買ったのでした。
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