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2話 書物庫にて

よろしくお願いします!

 私達が異世界に召喚されて3日が経ちました。元の世界に戻る兆候はなく、やはりこの世界で生きるしか道はないようです。この先への不安はやはり拭えませんでした。


 クラスメイト達は少なからず前向きな姿勢を見せ始めていました。リーダーであり精神的支柱でもある明智くんがみんなを鼓舞し、積極的に訓練に取り組んでいるからでしょう。


 クラスメイト達は魔王と配下である魔物達と戦うための訓練に励んでいます。戦いのプロである騎士団の方々の指導の下、異世界人特有の強力なステータスを成長させているのです。その力は騎士団の方々も認めるほど資質に溢れているものでした。


 ステータスと呼ばれる能力指標にはいくつかの項目があります。

 レベル、筋力、敏捷性、耐久力、魔力の数値化された五つ。

 技術スキルと呼ばれる様々な効果を発揮するもの。特定人物固有のものから普遍的なものものまであるこれは、スキルレベルというものがあります。

 そして称号がありますが、これはさして影響はしないとのこと。


 訓練を始めるにあたって騎士団からこれらの説明を受け、そして適した訓練を受けるためにステータスを開示しました。


 クラスメイト達はもちろんレベル1ではありますが、全ての数値が平均を大きく上回るもの。何よりも強力な技術(スキル)を持つ人が多く、固有技術(スキル)と称されるものも多くありました。


 特に勇者の称号を持つ明智君は凄まじいものでした。

 勇者固有の技能と言い伝えられている【聖剣術】と【聖鎧】。

【聖剣術】は敵意を持つものに対して絶大な効果を持ち、聖剣エクスカリバーを自由自在操ることが出来ます。

【聖鎧】は自身の周りに光の鎧を発生させ、ほぼ全ての攻撃を防ぎます。さらには自分の傷を癒す力もあります。


 クラスメイト達が強力な力を手に入れるなか、私には何もありませんでした。

 ステータスは軒並み一般女性と同等の数値。魔力だけは多少の色はついていましたが、技術スキルにいたってはクラス全員が持つ【言語理解】だけでした。


 戦う力がないということで私は、訓練を受けないことになりました。力もないのに無理に戦わせては、かえって他人が危険だからです。

 さすがに負い目を感じましたし、クラスメイト達は私を励ましてくれましたが、中には嘲笑や憐れみもありました。


 では、訓練をしていない私は何をしているのか。


「今日もいらしたのですかツキヨ様」

「こんにちはアリサさん。様付けはやめてください」

「いえいえ、異世界より招いた国賓ですから。それに、それを言うならツキヨ様も呼び捨てでと言っています」


 この少し真面目でお淑やかな若い女性(と言っても当然私よりは年上ですが)は城の書物庫の司書さんであるアリサ・エールンスさんです。

 私は昨日も来ましたが、苗字である月見里(ヤマナシ)だと男子に普通の漢字の山梨君がいるなで、月夜ツキヨと呼んでもらえるようにお願いしました。

 結果は様付けでしたが。

 私も基本はさん付けや君付けをしていますし、諦めましょう。


「今日もお願いしていいですか?」

「もちろんです」


 了承を得た私はアリサさんの正面に座りました。ここで文字を教わっています。


 私は昨日、本を読もうと思いここを訪れました。幸い、城内では本を持っている人が行き通りしているところを見ていたので、使用人に尋ねたのです。

 そこで行き着いたこの書物庫で、好きな読書でもして気を紛らわそうと思った矢先でした。私は本のタイトルさえ読めないことに気がつきました。


【言語理解】の技能(スキル)は話す上では問題なく作用するみたいでしたが、残念ながら読み書きとなるとそうはいかないみたいなのです。

 そこで私は文字の勉強をすることにしました。本を読むためには必要なことなのですから。


「では、今日はこちらの文字をーー」



 ***



「集中すると周りが見なくなるのが私の悪い癖ですね」


 朝食の後すぐ書物庫に来て勉強を始めましたが、書物庫には既に夕日が差し込んでいました。本を読み始めるとしょっちゅうこうなることがありましたから、どうってことはないのですが。


「お疲れ様ですツキヨ様。ものすごい集中でしたよ」

「恥ずかしいです……」

「今日はもう終わりにしましょう」

「はい。あの、一つお願いが」

「どうされましたか?」

「本を一冊借りてもいいですか? まだ読めないんですけど、部屋で眺めたいので」

「どうぞ持っていってください。埃を被った本達ですので、本達も喜びます」

「ありがとうございます」


 アリサさんから了解も得たところで、書物庫にある本を物色します。と言っても何がどんな本かすらもわからないので、まだまだ覚え始めの異世界語ーーアルカンティ語を眺めるように適当に探しました。


 そしてふと、妙に古めかしい緑の背表紙に目が止まり、少し高いところにあるそれに手を伸ばしました。決して高くない私の身長で届くか届かないかという微妙な高さにある本に苦戦していると、横からアリサさんに止められました。


「そこにあるのは魔術書なので、やめておいた方がいいですよ」

「どうしてですか?」

「使われている言語が違うからです。魔術言語と言って、今ではほんとんど読める人がいないんです。解説くらいはあるかもしれませんが、ほんの少しだと思いますよ」

「そうなのですか……」


 どうやら私にはまだまだ読めない代物らしいですね。いつかは読んでみたいですが、今はアルカンティ語の勉強を優先しましょう。


「ではこれで」


 結局アリサさんから今の私にオススメの本をいくつか見繕ってもらい、書物庫をあとにしました。

 夕飯の時間までまだ時間もありますし、何よりも大切な本を部屋に置かなければならなかったので自室に戻りました。


 一人一部屋が割り当てられている部屋は少し広すぎるくらいです。特に置くものも私達にはまだありませんから、質素な景観がより一層寂しさを感じさせます。

 だからでしょうか。クラスメイト達はしょっちゅうそれぞれの部屋を行ったり来たりしていて、女子はいくつかのグループに分かれて寝ている人もいるみたいです。

 もちろん私は一人で寝ています。見知らぬ土地というか世界で心細くないわけではありませんが、一人には慣れているので。


「少し読んでみましょう」


 今日勉強した分を復習するためにも。もちろん文字がいくらかわかったところで、文法はまるでわからないのでとても読めはしないのですが。


 しかし、夢中になってしまうのはやはり悪癖でした。夕飯に来ない私を様子見に宮古先生が来るまで、私は書き取りをしていたのですから。

お読みいただきありがとうございます!

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