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17話 ツキヨエル

 昨日、私はハイウルクを満身創痍ながら倒し、カローナの協会支部へと討伐証明の部位を提出しました。すると受付嬢さんが何やら驚いて、本当に私が倒したのかと訊ねてきました。

 もちろん嘘偽りのない事実です。が、どこにでも難癖をつけたがる人はいるもので、私は数人の酔っ払い冒険者に絡まれました。


「おいおいおい。嬢ちゃんみたいにちんまいのが、ハイウルクを倒しただってぇ? 嘘はいけねぇよお嬢ちゃん」

「いえ、事実ですが」


 と、まあそんな感じで、一人の文句を口火に燃え広がった嘲笑あるいは侮辱の渦に、正論武装で全て返り討ちにしたのですが、


「なら証明してみろよ。出来んだろう?」


 脳筋おまけに酔っ払いの冒険者に通じる筈もなく、決闘と呼ぶには烏滸がまし暴力的解決手段を取ることを提案されました。


 正直なところ、魔力も回復してきたとはいえ疲れていますし、ぶっちゃけめんどくさかったのですが、これ以上絡まれても仕方ないので、不本意ながら提案を受諾しました。

 もちろん受付嬢さんには確認を取り、ルーラさんにも大丈夫か相談しました。受付嬢さんからはいつものことなのでと涙目に承諾され、ルーラさんにはほどほどにしなよと言われました。


 受付嬢さんには申し訳ないと思いました。ですが、ルーラさんの言葉には少し疑問を抱きました。まだ新人である私が圧倒するかのような物言いだったのが気になったからです。


 が、ルーラさんの言う通りでした。結果は私の圧勝。なんならそのあとさらに難癖付けてる人全員を返り討ちにしました。

 あまりの呆気なさに私は何の茶番劇かと困惑しました。私、水属性第二階梯魔術しか使ってなかったので。


「ル、ルーラさん……」

「ああ、こんな時間から呑んだくれてる冒険者なんて、迷宮に入れない四級以下くらいのものなの。まあツキヨは二級くらいなら余裕そうだけど」


 なるほど。と、納得した私はとりあえず返り討ちにした冒険者に治癒魔術を施しました。あくまで行ったのは決闘擬きですし、これくらいのサービスはして然るべきでしょう。

 このことが原因で冒険者稼業を続けられなくなられては、たまったものではありませんから。


 私が一通り治癒魔術をかけ終えると、のっぺりとひっくり返っていた冒険者達は私の方をまじまじと見ていました。そこに酔いはなくしっかりとしている目だったのですが、だからこそこれまた困惑。

 私は再び助けを求めて後ろにいたルーラさんを見ると、ルーラさんも驚いたように目を見開いていました。


「ツキヨ、治癒魔術まで使えたの?」

「そうですけど、何か?」

「そ、そうですけどって……。いいツキヨ、治癒魔術って使い手が少ないの。それを属性魔術を使っていたツキヨが使えるって、凄いことなのよ」

「は、はあ」


 意外な事実でした。え、回復手段を持つのって基本だと思っていたんですが。痛いのは嫌ですし、何か大怪我をしたらどうするのですか?

 カレインさんとの訓練はよく怪我をしていましたし、だから治癒魔術は水属性魔術の次にスキルレベルが高いです。もっとも、それに伴って訓練も過激さを増していきましたが。


「て、天使だ……」

「天使がいるぞ!」

「なんてお優しい方なんだ……!」


 ……。ちょっと、怖いです。あ、近寄ってこないで。そんな目を向けないで。さっきまでの空回りした威勢はどこにいったのですか。あ、酔いが覚めたからですか。


「天使様バンザーイ!」

『バンザーイ!!』

「ツキヨエル様にバンザーイ!」

『バンザーイ!!』


 突如巻き起こる天使喝采の掛け声。ツキヨエルなる呼び名は、おそらく私のことでしょうから、この合唱は私に向けたものなのですね……。


 あまりの迫力に、というか若干の気持ち悪さに私は「ひぃっ!!」とらしくない悲鳴をあげてしまいました。むさ苦しい男達がこう迫れば、か弱い女の子な私が悲鳴をあげても仕方ないことだと思います。

 ルーラさんが私を庇い、馬鹿騒ぎをする冒険者達に怒鳴ります。


「あんた達うるさいわよ! ツキヨが怖がってるじゃない!」

「うっせぇ!」

「そうだそうだ!」

「ツキヨエル様から離れろ!」


 が、ルーラさんの言葉に数倍返しの文句がありました。そんな冒険者達にルーラさんは青筋を立て、腰に携えている愛剣に手をかけました。


「仕方ないわね。少し血みどろになるけど、去勢するしかないわ」

『……』


 冒険者達はピタリと喧騒を収め、股間を抑えながらすーっと散って行きました。

 私がルーラさんの見事な覇気に感服していると、少し顔を青くしていた受付嬢さんが仕返しとばかりに悪い顔をします。


「流石は『剣爛姫けんらんひめ』。畏れられていますね」

「やめて」


 ルーラさんは恥ずかしいのか顔を赤くしてばつが悪そうにそっぽ向きました。なんのことかわからない私が受付嬢さんに視線を向けると、


「そちら様の二つ名ですよ。魔物の血飛沫すら舞の演出のように綺麗に剣を振るうことからの」

「ち、ちょっと!?」


 珍しく慌てるルーラさん。こんな風に仲良く出来るなんて、カローナでもアイゼンでも、ルーラさんはよく知られているらしいですね。


 と、こんな一連の出来事があったのが昨日のことです。忘れているとは思いますが、あくまでも昨日の話をしていただけなのです。

 では翌日、つまり今何をしているのかと言うと、もちろん馬車の上で揺られていました。私はオルボア地方を目的としている冒険者。一つの街に長く止まるつもりは無いのです。


「でねえ、その時にーー」


 報告。仲間が出来ました。名前はルーラさん。二級冒険者の剣士さんです。


 ルーラさんは昨晩私の泊まる部屋を訪ねてきました。その時に「私も一緒に行かせて欲しい」と言われ、私はすぐに承諾。むしろ私が頼みたいくらいでした。

 しかし、何故ルーラさんが私に同行したいのか、その理由がわかりませんでした。なので私は思い切って聞きました。「何故同行したいのですか」と。

 するとルーラさんは至極当然のように、明瞭な答えを聞かせてくれました。


「冒険が出来そうだからね」


 そう戯けた口調で私に言いました。その後は恥ずかしくなったのか、女の子同士だしやツキヨは強いしなどと、明らかな照れ隠しの言葉を並べました。


 二つ名持ちの同性冒険者がこうも序盤から仲間になるとは思っていませんでしたが、私はオルボア地方を目指すのに十分な戦闘力を手に入れました。


 あ、私、無事に三級へと昇級しました。

お読みいただきありがとうございます!

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