16話 変異鬼頭人
題名の募集したいです。なんかいい案がありましたら、感想にて教えていただけると嬉しいです。
人型に分類される鬼頭人は豚頭人の強化種です。見た目の違いと言えばその大きさのみとなりますが、ウルクの危険度はオークを遥かに上回ります。
オークは一般的に四級冒険者、あるいは五級冒険者でも討伐可能と言われています。多少腕力が強く攻撃も通りにくいのですが、動きも鈍く脅威にはなり得ません。
そんなオークの強化種であるウルクは、文字通りの強化種です。オークの二倍はする巨躯に、豪腕から繰り出す攻撃は破壊的。何よりも厄介なのはより攻撃が通りにくくなる肌です。鱗も何もないのに皮下脂肪で守っているのか、打撃も斬撃も刺突も魔法も、全てに対して一段と耐性が高まっているのです。
そして私は今は、少し開けた場所でそのウルクと対峙していましたが、
「あれ?」
私の放つ【シュピッツ・ヴァッサー】も豪腕で振り回す石棒に寄って弾かれます。こんなこと今まではなかったのですが、流石は強化種と言われるだけはあり、真正面からのこの階梯の攻撃では通じませんか。
ただ、ウルクの攻撃も【ブラーゼ】を突破できていませんから、負けることはないはずです。それに真正面からが駄目なのならば、少しばかりの小細工をするまでです。
土属性第三階梯魔術【ボーデン・フェッセルン】。
第五階梯までスキルが達している水属性以外、残りの三属性は全て第三階梯までスキルレベルは上げてあります。
この魔術は地面から生やした土の鎖で対象を拘束するものですが、ここは洞窟。今回は上下左右、四方八方から生やして雁字搦めにしました。
それでもみしみしとする土の鎖は、振り切ろうと暴れるウルクの剛力にギリギリ耐えています。時間をかけると破られてしまいそうですから、早急に倒してしまいましょう。
私は威力を上げるためにウルクへと近づきます。そして三メートルほどの距離。この至近距離から先程は弾かれてしまった【シュピッツ・ヴァッサー】を放ちます。
水の槍はウルクの胸部を的にして飛翔しました。
刺し、貫き、穿つ。合わせて三連。
そう、なる筈でした。
「なっ!?」
「いやいや!?」
思わず私は叫んでしまいますが、それは少し離れてこの戦いを見ていたルーラさんも同様でした。
三つの水の槍はウルクに刺さることも、貫くことも、穿つこともありませんでした。流石に傷がつき魔素が僅かに漏れでていますが、致命傷にはなり得ません。
それどころかウルクは三メートルはある巨躯から私を見下し、遭遇した時と同じようにニタリと嗤いました。その瞬間、私に悪寒が走りました。
ミシミシと鳴らしていた土の鎖は、いともたやすく破られ、そして、その豪腕で躊躇いもなく私を殴りつけてきました。私は咄嗟に【ブラーゼ】で身を守りますが、水の盾ごと壁に吹き飛ばされます。
「ツキヨ!!」
ルーラさんが駆け寄って来ました。
「……大丈夫です」
とは言うもの、とても痛い。本当に痛い。これが、戦い。
正直ステータスで補正されている耐久力がなければ、私は今ので即死でした。それを思うとどこか大丈夫だと思っていた死という現実が私を襲います。ですが、ここで何もせずにいたらそれこそ死ぬということを、私は教わりました。
「今のは、もしかして」
「変異豚頭鬼ね。あの至近距離の魔術が通じないとなると、そうなる」
ハイウルクはウルクの変異種です。ただでさえ硬いウルクが、なんらかの要因で魔術耐性を向上させた、魔術師殺しと言われる魔物。ただ、魔術耐性しか上がっていないために、剣士を代表する非魔術師などには普通のウルクと変わりがないそう。
私は、純魔術師ですが。
「ルーラさん。次の一撃で仕留めます。帰りの分の魔力量を考えると多分、それが限界ですから。仮に私が仕留めきれなかったら、あとはお願いします。私にはまだ早かったのだと、諦めますので」
「倒しなよ」
「はい」
もちろん、負けるつもりはありません。
私は再びルーラさんに離れてもらい、余裕綽々としている、ウルク改めハイウルクに対います。追撃がないところを見ると痛ぶる趣味でもあるのでしょうか? だとしたら最低の魔物ですね。
「後悔させます」
そう決心しました。
どんなに複雑な魔術式も一度書き写したことがあるのなら、私は一瞬で組み立てられます。それが私の武器で、唯一無二なのです。
【フェアズィンケン】
私が発動すると水の玉がハイウルクを包みました。外から見るには変哲もない、ただの水の玉。一見すると水属性の拘束用魔術と思われるこの魔術は、間違いなく攻撃用魔術。
ハイウルクが苦しみの呻きから空気を吐き出しました。しかし音はありません。水の玉は音すら遮断します。
この至って簡素で単純、精々第二階梯程度に見える魔術。
ここでもう一度言いましょう。どんなに複雑な魔術式でも知っていれば、私は一瞬で組み立てられる、と。それはたとえスキルレベルが使いたい魔術の階梯に届かなくても、です。
水属性第七階梯魔術【フェアズィンケン】。スキルレベル7まで上げる必要がありますが、私は現在水属性のスキルレベルは5。通常なら使えません。
ですが、私は詠唱による構築ではなく、魔術式を直接構築します。ですから、スキルによる補助効果の有無を関係なしに発動が出来るのです。
もちろん補助効果がないので魔力の消費量は跳ね上がりますし、その威力も十全とは言えません。しかし、ハイウルクを倒す分には事足り程度には、【フェアズィンケン】の威力はあります。
【フェアズィンケン】は威力が落ちていますから流石に時間がかかります。ですが、今も確実にそして徐々にハイウルクの命を奪いにかかっています。
「ヴァォォッ!!」
残りの時間も少ないからか、ハイウルクは最後の咆哮をあげました。水の玉にも波紋が広り私の肌もビリビリと振動させましたが、それだけ。
「ヴァォォ……ァォォオ……」
咆哮も抜けるように弱くなり、やがて途絶えました。それはつまりハイウルクの抵抗の終わり、同時に抗う力もなくなったハイウルクの体がぐしゃりと潰れました。
これで正真正銘討伐完了。流石にここから蘇生してくるなんてこと、ハイウルクではありえないでしょう。
「お疲れ様、ツキヨ。凄かった」
「ありがとうございます」
近寄ってきたルーラさんは労いの言葉をかけてくれました。
流石にスキルの補助をなしに魔術を使うと、どっと疲れが溜まりますね。
「ツキヨ、聞いてもいい?」
そう、控え目にルーラさんが言いました。私がそれに首肯で返すと、ルーラさんは似合わないおずおずとした様子で口を開きます。
「さっきの魔術、あれはなに?」
「【フェアズィンケン】。対象を水の玉に捉えて、その水圧で対象を圧殺する水属性第七階梯魔術です」
「……え?」
その時のルーラさんの表情ときたら、写真に収めたいほど呆けたものでした。
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