14話 悩み
結果から言って、私の冒険者としての初仕事は大成功を収めました。最初に遭遇したウォーウルフを倒した以降も、出会う魔物は全て狩っていったのです。ルーラさんからストップがかかるまで私は無心で狩っていました。
そして今は受付嬢さんからオススメをしていただいた宿の部屋にいます。依頼の報酬や採集物を換金したりとして稼いだので、私の懐は非常にあたたかくなりました。
こげ茶のマントを脱いでベットに腰掛けました。すると溜まっていた疲れがどんよりと押し寄せて来て、少しだけ眠気がやってきました。仮眠を取ろうと後ろに倒れ天井をぼんやりと眺めみますが、眠いのに眠れません。
いえ、原因はわかっています。そのことについて考えてしまうのです。
「たくさん殺してしまいました……」
私は今日、初めて明確な敵意を以って魔物ーー生き物を殺しました。やらなくてはこちらがやられるとわかっていて、魔物だと高を括り私は殺しました。
これが当たり前。頭では理解はしています。だからその通りに私は行動しました。
ですが、理解と納得は別問題。私は魔物を殺すことにどうにもなれることができませんでした。
綺麗事ではありますが、私はそう感じていたのです。心がうまく処理し切れなかったのです。
後悔をしているわけではありません。私は正しいことをしたとは思いませんが、間違っていなかったとは思っています。
それでやっぱりつっかかるものがあるのも確かで、
「お風呂行きますか」
負のスパイラルに囚われそうだった私は大衆浴場へと向かいました。
***
この世界に来てからも毎日風呂には入っていました、城には大きな浴場がありましたし。私はまあ少し時間ズラしてはいましたが。
しかしこうして大衆浴場があるというのは驚きました。立派な造りをしている大衆浴場は混んでいて、その喧騒が今はちょうどいいと湯船に浸かりながらそう感じました。
「ツキヨじゃない」
「ルーラさんですか」
私が瞑想とも取れない微妙な心情でいるとルーラさんが仁王立ちで立っていました。……こうして見ると、改めてそのスタイルの良さに嫉妬します。というか何ですかその胸は。どうしたらそんなたわわなことになるのですか。
「な、何より人の体をジロジロと」
「はあ……」
「ため息!?」
「いえ、今のにルーラさんは関係ありません」
私としたことが、思わずため息をついていました。そんな様子にルーラさんが私の隣で浸かりながら寄って来ました。
「どうかしたの?」
「いえ、私の問題ですから」
「いいからいいから。折角出来た縁なんだから相談してみなさい」
そう言ってルーラさんは快活な笑顔を見せ、言葉を続けました。
「まあもし、ツキヨ自身で解決しなくちゃいけないことならいいけどね。周りの意見を参考にしてみるのもいいと思うわよ。特に冒険者はさ」
やはり姐さんです。見た目と性格にギャップがあります。ですがそれが妙に様になっていて、だからか私は自然と言葉を零していました。
「私、初めて魔物を殺したんです」
「そうなの? 初心者にしてはと凄すぎるから、冒険者になる前から何かやっていたのかと思ってたわ。あ、ごめん。続けて続けて」
「……だから少し怖くて」
「怖い?」
「私は自分が正しいと思って魔物を殺しました。けど、同時に人も殺すことが出来るということです。もし私が間違ってしまったら、力を誤ってしまったら。そう考える怖いんです」
話すうちに自分の中でも整理がつきました。が、答えはありません。
「……」
ゆらゆらと揺れる水面が光を反射させて、天井にゆらゆらとした光を作ります。オーロラのようにも見えます。彩色綺麗なわけではありませんが。
喧騒に包まれているからこそ私とルーラさんの間にあった沈黙は、僅かであっても体感では実際以上の時間をもたらしました。そしてより深い静謐も。
しかしそれを打ち破るのはやはり当事者で、それは先輩冒険者であるルーラさんでした。
「いいんじゃない別に」
「何が、ですか?」
私にはルーラさんの答えの意味がわかりませんでした。
「死ぬのが怖いっていうのは冒険者にとっては大事。これは口酸っぱく言われることなのよ。
けど、ツキヨが言っていた殺す力に対する恐怖っていうのも大事だと思うの。力って言うのはまあ人が生み出したものよね。人が生み出したものって言うのは便利だけど、使い方を誤れば自分や誰かが傷つく。
聡明な王も権力を誤解すれば圧政をもたらすし、優れた武具は自分を傷つける事もある」
「はい」
「だから、ツキヨのその悩みは持っていていいと思う。それさえあれば間違えはしないから」
ルーラさんの答えは尤もなものでした。ですが私はそれでも怖いのです。それが顔に出ていたのか、ルーラさんは笑いました。
「難しく考えなくていいんだよ。ツキヨは何で戦う力を得ようと思ったの? ここら辺は王都近くだからよっぽどのことがなければ危険はないのに」
「それは、その安心が絶対ではないから。他人に命を預けるのは嫌だったんです。だから魔物から、危険から身を守るために頑張ったんです」
「だね。そういうことだよ」
「……?」
「ツキヨは傷つけるために強くなるんじゃない。守るために強くなるんでしょう。守る過程で敵を殺してしまうというのは仕方ないわよ。だって向こうも殺す気でいるんだから。殺意には殺意をってわけにはいかないけどさ、戦うっていうのはそういうことよ」
「そう、ですか……」
傷つけるためにではなく守るため。私はそう決心した時、魔物を殺すということを片隅にも置いていませんでした。
けど、そうですね。守るたまに戦うのなら、そういうことなのでしょう。何も犠牲にせず、それこそ敵まで救うことなんて出来ません。そんなの甘えです。覚悟の失墜です。
殺すこと慣れてはいけません。でも、殺すことを躊躇ってといけません。守りたいのなら戦う。戦って殺す。
私が選んだ道はそういうものでした。
「それにしても」
沈痛な空気感の中、ルーラさんがふと呟きました。
「ツキヨ、ちゃんとご飯食べてる? 細過ぎない?」
「ひゃっ!?」
「腰なんて折れちゃいそうだよ」
「や、やめてください」
むにゅむにゅっとルーラさんの指が私の体を弄ります。脇腹を主に色々触られるのでくすぐったく、思わず恥ずかしい声が漏れてしまいます。
「あ、でも胸は思ったよりもあるね。細いから大きく見える」
「その浮いてるモノ二つを押し付けながら言っても嫌味にしか聞こえませんよ」
胸って浮くんですね。私女性ですけど初めて知りました。
「いい加減、揉む、のをやめて、ください……んっ」
「うーん。はい」
「はぁはぁ」
「あーなんかごめんね。私の揉む?」
「くっ」
胸の大きさなんて気にしたことありませんでしたが、ここまで露骨にやられると多少苛立ちますね。
すっかり空気感は消散されていて、私とルーラさんはその後夕飯も一緒に摂ることにしました。
こうして旅も1日目。濃厚な時間は過ごした私は宿で気持ちよく眠りについたのでした。
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