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12話 旅立ち

 賛課の鐘が朝焼けの空に響く。

 私は朝も早い朝食の前に城を発つべく、城門の隅にいました。そこで見送りに来てくれた宮古先生、アリサ、エレナさん、カレインさんとそれぞれ言葉を交わしていきます。


「ツキヨ様、野営には十分お気をつけください」

「ありがとうございましたカレインさん。こうして旅が出来るのもカレインさんのおかげです」

「いえ。自分は少しお手伝いをさせていただいただけですので」

「謙遜しないでください。私のお師匠様は凄い人だと自慢したいですから」

「わかりました。であるなら、この名がお耳に届くように一層精進します」


 カレインさんからは戦闘だけではなく、旅の仕方などを教えてもらいました。かつて旅をしていたカレインさんから教わる実践的な知識は、私の欲を満たすだけではなく本当に役に立つものばかりです。

 カレインさんと握手を交わし、姉であるエレナさんと向き合います。


「お手伝いをしていただきありがとうございました」

「いえ、お気になさらないでください」

「賃金にイロをつけさせていただいたので、路銀としてお役に立ててください」

「そんな申し訳が」

「お恥ずかしながら、ツキヨ様がおられなければ計算ミスが多発しますので。その分からです」

「ありがとうございます?」


 少し返答に困る茶目っ気のある理由でしたが、エレナさんとも握手して次の方に向きました。


「ツキヨ、寂しくなるわ」

「私もアリサ」

「けど、あなたが決めたことだもの。惜しいけど引き止めはしない」

「ありがとう。絶対にアリサのところに帰えってくるから待ってて」

「うん。いってらっしゃい」


 この世界に来て出来た少しお姉さんの親友。本を読むのが好きだという共通点はあったけど、それ以上に気の合う存在でした。


「あれ姉御、なにしてるんすか?」

「え?」


 姉御、と私を呼んだきたのは、昨日私が倒した近藤くんでした。相変わらず取り巻き二人もいて、彼らも姉御呼びです。おはざすっ!と大きな声を出さないで。


「こ、近藤くん。姉御ってなんですか?」

「昨日の事で目が覚めたんす! 俺達はまだまだ弱くて、情けない男だってことに。姉御みたく強くなって優しくなるって決めたんす! 昨日は本当にすんませんでした!」

「「すんませんでした!」」

「……」


 ええ、まさかの展開です……。近藤くん、見た目だけではなくて脳まで筋肉で出来ているんでしょうか? 自分より強い者を素直に尊敬する。いつの時代に生きているのですか。


「姉御呼びはやめてください」

「いえ! 俺達にとっては姉御は姉御っす!」

「……わかりました。はい、もうそれでいいです」

「ありがとうございます!」

「じゃあ、頑張ってくださいね」

「うす! おらお前ら、とっとと特訓しにいくぞ!」


 近藤くん達は私に礼をすると駆け足で去って行きました。……最初の質問のことを忘れていますが、都合がいいので止めずにおきましょう。


「随分と慕われたんですね、月見里さん」

「やめてください、本当に」

「ふふふ。そうね、わかったわ」


 宮古先生は穏やかな表情のまま訪ねてきました。


「本当に行くんですね?」

「はい」

「なら、気をつけて行ってね」

「はい。ご迷惑をおかけします」

「いいのいいの。生徒はいつか巣立つけど、月見里さんはそれが早かっただけなんだから。ちょっぴり危険な世界だけど、危険じゃない世界なんてないもの」

「はい」

「だから、楽しんで。成長した月見里さんとまた会えるのを楽しみにしてます」


 どこか自分に言い聞かせる意味もあるのか、宮古先生の目には涙が浮かんでいます。それを指摘するというのは無粋です。


「宮古先生、本当にありがとうございました」

「はい」


 かなり早い卒業式みたくなってしまいました。宮古先生が泣く前に行ってしまいましょう。

 私は全員の顔を見渡して、笑顔で言います。これからの旅に希望を込めて。


「行ってきます」



お読みいただきありがとうございます!


一章は次話を以って終了となり、短編版のその先を描く二章へと続きます。


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