10話 覚悟
この世界に召喚されて半年が経ちました。
魔術の訓練をひたすらした私は『属性魔術水属性』を中心としたいくつかの魔術系スキルを習得してスキルレベルを上げました。
さらにはカレインさんに師事し戦闘のイロハを教えていただきました。……シアとお茶をすることも。
それでも私はクラスメイトの輪には加わりませんでした。むしろカレインさんにもお願いして私が戦えることを隠しました。
というのも私には一つの夢が出来たからです。
私は書物庫でこの世界のことを知るたびに思うことがありました。実際に見て触れて知りたいと。
その欲は「この世界を旅したい」というものに昇華され、それが私の夢になりました。妖精に会いたいと。
ですがこの世界には魔物が跋扈していますし、治安がどの程度整っているのかは怪しところです。か弱き乙女のまま旅をしたら、きっと惨たらしい最期を迎えることになってしまいます。
そのために私は魔術を磨き自衛できるようになりました。知識を蓄え、コツコツと旅の準備を進めてきたのです。
ですがさすがに誰にも言わず出て行くのは厄介事を引き起こしかねません。
私は今一応保護者と同義である先生と対話していました。私の夢と、それを可能にする能力もある程度は見せています。
先生は深刻そうな表情で、若干の怒りを持っています。声は少し震えていました。
「月見里さん、もう一度よく考えてください。この世界は危険なんですよ」
「心配してくださるのは嬉しいですが、私の考えは変わりません」
「っ!」
「それに、魔王を倒せば本当に地球に帰らせてもらえるとお思いですか?」
私の何気ない質問に先生の顔が間抜けだものになりました。どうやら、考えていなかったようです。
「この国は勝手な都合で私達を召喚しました。そんな国が私達を帰らせると?」
「それは、切迫詰まっているからじゃないんですか?」
「そうです。勇者と強い力を持つとはいえ子供の私達を戦場に送らなければならないほどに戦力がギリギリなのです。
そこで仮に魔王を倒したとしましょう。この国以外にも国はあります。そんな中、一大戦力とも言えるこの国が、貴重なそれを手放すと思いますか? 魔王を倒したあとには他国との覇権争いが起こりうるのに」
「……」
これは、妄想に近い言葉です。
「他にも根拠はあります。
『勇者召喚』の魔術式を見させていただきましたが、その名前の通り召喚する効果しかありませんでした。……あ、どうしてわかるのかは秘密です。
送還の魔術式も城中どこにも見つかりませんでした。
つまり、どうやって私達を地球に帰すのか、方法は不明なのです」
私の、はたからしたら突拍子もない話も先生は一つひとつを吟味して真摯に受け止めてくれました。
「だから私が探してきます」
私の夢のおまけですが。
「なら、私も一緒に」
「無理ですね。先生はクラスを観なければいけませんし」
「生徒達も」
「逃してもらえませんよ。それに彼らが今の生活を捨てるとは思えません」
クラスメイト達は充実しています。強い力を持ち財力もある。これを捨てるには私の話は信憑性にやや欠けています。
「無理はしません。私も死にたくはありませんから」
「わかり、ました。でもなるべく危険な事からは避けてください」
「はい」
「それで、いつ発つんですか?」
「3日後を予定しています」
「そうですか。……それまでは十分休んで、英気を養ってください」
「はい。では、失礼します」
こんなにも私を心配してくれる先生には申し訳ないと思います。先生だってきっと苦渋の決断でしょう。これが私のわがままだという事も自分でわかっています。
色々理由は言いましたが、結局根本にあるのはそれなのです。
窓と外に煌めく星を見上げます。
地球では見られない、色とりどりの星で出来た空の絨毯。
夜空は寂しい物だと思っていた私の価値観を変えた星空があれば、これからの旅もきっと大丈夫。そう思えてきました。
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