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1話 私、弱いのですが

短編版で人気が出て、連載化希望がありましたので更新スタート! 是非是非最新話まで読んでいただけると嬉しいです。


ブクマついでに評価もお願いします! どちらもボタンを押すだけで済みますので! それだけで作者のやる気が変わります。

他作者様の作品でも、どうかよろしくお願いします!

 私もファンタジーの世界は知っています。魔法で溢れていたり、ドラゴンが火を吹いていたり、エルフが森に静かな営みを築いていたり。人の想像が利くのならその世界は無限の広がりを見せ、それこそ人の数だけファンタジーの世界があると言っても過言ではないと思います。


 ですがそれは想像の産物なのであって、決して現実として現れることはないのです。いえ、ないはずでした。


 私が、私達2年B組が異世界へと召喚されるまでは。




 その日はいつもどおりの日でした。特に学校行事もなく、授業変更もなく、比較的辛いと言われている曜日の時間割を順調に消化していました。

 四時間目の授業は担任の宮古先生が受け持つ世界史の授業でした。宮古先生の授業は評判もよく、また先生自身も愛らしい容姿をしているので、寝ている生徒はほとんどいません。特に男子はです。


 授業も終盤、時計の長針が6を指し示し残り10分を知らせている時でした。突如として床が光はじめーー今思えば魔方陣でしょうーー視界を白に塗り潰していったのです。

 謎の現象にクラスメイト達はあたふたとしていたようですし、宮古先生もそれを鎮めようと声を張っていました。何も見えませんから、声から判断しただけです。


 私自身混乱していました。が、謎の現象が落ち着くのを待っていてくれるわけもなく、ほんの一瞬の浮遊感が訪れると光は引いていきました。そして、椅子に座っていた私は尻餅をつきました。

 視界が回復してクラスメイト達を確認すると相変わらず元気はあるようです。私と同じく尻餅をつく人や、逃げようとしていたのか立っている人も。


 床が冷たいですし、部屋の明かりが変でした。それもそのはず。私達がいたのは日当たりのいい教室ではなく、謎の光体が部屋を照らす石造りの部屋だったからです。


 なんなんだここは、と誰かが呟きました。同じ気持ちです。私達はどうしてこんな場所にいるのでしょうか。


 混乱にある私達に声がかけられました。


「異世界より参られた方々。初めまして、私の名はアリシア・メイ・グランスタール。アルカンティー王国の第3王女です」


 鈴を転がすような声の持ち主は、明らかに日本人ではない色素の抜けた金髪と整った顔に青の明眸(めいぼう)を持つ、名乗り通りお姫様のような少女でした。年は私達と大差ないように思います。


 アリシア王女殿下? の名乗りに応えたのは私達の中で唯一の大人であり代表であるはずの宮古先生ではなく、クラスのリーダー的存在である明智くんでした。


「俺は明智晴翔(はると)って言います。俺達はなんでここに? どういう状況なのか教えてくれないか?」


 まるで初対面の人間ではないかのように、高校生的コミュニケーション能力で臨む明智くん。物怖じしないところは凄いのですが、もう少し状況と相手を鑑みて欲しいです。


 まず初対面の人間にその態度はあり得ません。確かに同年代には見えますがそうでないかもしれませんし、相手が丁寧な口調で話しいるのにこちらが応じないのは失礼です。

 それに相手は仮にも王女を名乗る人物です。本当か嘘かはこの際置いておきますが、失礼な態度をとっていい理由にはなりません。

 私達の態度一つで状況が一変するかもしれないのに、もう少し慎重に口調を選んで欲しいものです。


 アリシア王女殿下は明智くんの不敬な態度にも寛大で、私の不安は杞憂に終わりました。


「それは、申し訳ありませんが陛下の御前にて。こちらへどうぞ」


 はぐらかされたのか事前に決まっていた事なのか。おそらく後者だと思いますが、結局私達が置かれている状況を知ることは叶いませんでした。いち早く知って、どうにかこの不安を拭い去りたいのですが。




 アリシア王女殿下とその護衛の騎士の案内で私達は謁見の間へと連れてこられました。やはり私がいた謎の部屋と同じで、白い光体が部屋を照らしていました。

 部屋の奥、玉座に威風堂々と座している皺の深い男性ーーアルカンティー王国国王陛下と対面です。


「陛下、こちらが召喚された方々です」

「うむ、ご苦労」


 アリシア王女殿下が国王陛下にそう伝えました。国王陛下の碧眼が私達を捉えます。


「私はアルカンティー王国国王アルベルト・スルト・グランスタール。此度はこちらの都合でお越しいただき、誠に感謝する」

「俺は明智晴翔です。状況を説明して欲しいんです。俺達は何が起こったのかまるでわかりません」


 明智くんにも僅かですが敬語を使う心はあったようで、国王陛下に無礼を働くことはありませんでした。

 しかし、やはりここは宮古先生が応対した方がいいと思うのです。礼儀はなっていますし、見た目はさておき唯一の大人なのですから。高校生とは言っても私達はまだ子供ですし。


「うむ、そのつもりだ」

「ありがとうございます」


 ですが、国王陛下と明智くんの間では既に相手選ぶ段階ではなくなっています。クラスメイトも明智くんならと納得しているようで、何も言いませんでした。


「事の発端は魔王の復活にある」


 魔王っ!? という気持ちはクラス共通のもので、声にはしていませんが全員が怪訝な表情を浮かべています。が、自分達の倍以上は生きているであろう国王陛下にそれを言うことはできませんでした。

 何しろ国王陛下の表情は真剣そのものですし、厳威を伴った声の響きは冗談ではないと物語っていました。


「魔王が復活した事で、世界各地にいる魔物が活発化した。活発化した魔物は凶暴となり、群をなし、人々を襲っている。

 その魔物には平時より魔物の討伐を生業としている冒険者と、民の守護を使命とした各国の軍が協力して対応している状況だ。

 しかし魔王が復活した今、さらなる脅威となる強力な魔物が生まれ、本格的な魔王による侵略が始まるのも時間の問題だ」

「それに俺達となんの関係が……」

「そこで私は古きより王家に伝わってきた魔術『勇者召喚』をすることにした。そして、召喚されたのがそなたらなのだ」

「俺達が勇者?」

「いや、そなたらの中に一人だけ勇者がいる」


 そう言った国王陛下は側に控えていた侍従に目配せをし、何かを持って来させたました。

 侍従は台座を浮かして運び、国王陛下の目の前に置く。その台座に突き刺さっていたのは、鈍く光を放つ鉛色の剣でした。


「これはかつての勇者のみが扱えたと伝わる聖剣エクスカリバー。勇者が触れば本来の姿を取り戻し光り輝くと言う。確かめてはくれないか」


 とは言われたものを、誰から行くとはなりませんでした。当然のことように明智くんが推され、寧ろ明智くん以外に勇者がいるのかという、出来レースのような状況です。


「じゃあ」


 クラスの総意で選ばれた明智くんは、勇者の選定に一番候補として臨みました。台座の前に立ち、一つ呼吸し、剣の柄を力強く握り締めました。

 そして、


「おぉ」


 国王陛下も思わず息を呑む、太陽が如き黄金の光が鉛色だった筈の聖剣から放たれました。思わず目を細めると次の瞬間には光は聖剣へと収束し、秘めたる輝きに満ちていました。


「これが聖剣エクスカリバー……」

「そなたが勇者であったか。どうであるか?」

「軽いです。まるで何も持っていないみたいだ」

「勇者が持つとそうなるが、そうでないものが持つととても振るうことは出来ない」


 明智くんも男の子だからでしょうか、聖剣をブンブンと振り回して感触を確かめています。とても普通の男子高校生が振れるようなものではないと思うのですが。


「勇者殿、そしてその友人達。どうか魔王討伐の為に力を貸して欲しい。頼まれてはくれないか?」

「俺だけじゃないんですか? 俺達は普通の学生なんです。戦う力はないですが」

「いいや、そなたらが異世界人ならば大丈夫だ。異世界の者は多くが力を宿しているのだ。ステータスを確認してみるがいい。念じれば己のものが示される」


 ステータス。社会的地位や身分、あるいは状態を表す英語。それがなんだと言うのでしょうか。クラスメイト達はどうやらわかっているようで、その上で驚いたいるようですが。


「スゲェー。本当に見えるよ!」

「マジで!?」


 一人の男子を皮切りに、ステータスの確認が始まりました。一体どいうことなのでしょうか。


 ステータス。そう念じて見えたものは、半透明のプレートに表示されたいくつかの項目とその数値でした。プレートには触れることが出来ず指は空を切ってしまいます。顔を動かせばそのまま追随し、一定の距離と大きさ保ちます。


 幻覚、ではないみたいですが現実に存在しているようでもありません。思考も正常ですし、これは、本当に異世界なのでしょうか。


「レベルは1だとは思うが、数値が100を超えていればそれは平均値を大きく上回る値だ。技術スキルもおそらくいくつかあるはずだ」


 国王陛下の説明が耳に入っているのかいないのか、クラスメイト達はそれぞれのステータスを言い合い比べ合いっこをしています。本能的に理解しているのですか?


「これでそなたらに戦う力があることはわかってもえただろう」


 そうなのでしょうか? 私の数値はほとんど100は届いていませんし、唯一魔力だけは少しだけ高いといった具合です。クラスメイト達は違う反応をしていますから、私だけの可能性が高いですね。

 ですが、それは関係ありません。宮古先生はそれをわかっていて、国王陛下に言葉を発しました。


「待ってください」

「そなたは?」

「私は宮古(りん)。この子達の担任、保護者の様な者です」

「そうか。して、何んだ」

「この子達にはご両親がいて、私は責任を持って引き受けています。失礼を承知で申しますが、この世界にこの子達は関係ない。危険な真似はさせたありません。元の世界に返していただけないでしょうか」


 宮古先生の進言に陽気な空気感にあった静まりました。ようやく現実の状況に気がつきはじめたのでしょう。

 そしてそれは、悲痛な沈黙へと変えられます。


「それは出来ぬ」

「な、なぜです!」


 宮古先生の震えた声が私達の思いを代弁してくれました。


「魔力が足りぬのだ。送還するのには大量の魔力が必要になる。戦わぬというならば、100年後に訪れる月食で魔力が増加するのを待つ必要がある」

「そんな」

「しかし魔王を倒せば話は変わる。魔王はその核に膨大な魔力を有している。それがあれば、今にでも送還することは可能だ」

「では、私達は召喚された時点で残された道は一つだということですか」

「その通りだ。こちらのかってな都合であることは承知しているが、そうもいっていられないのが現状。それほどに魔王は強大なのだ」


 国王陛下は申し訳なさそうにし、悔しさからくるのか握った拳が震えていた。

 相対する私達は恐怖や不安が入り混じり、女子の中にはへたり込む人もいました。


 それを打ち破ったのたのは明智くんでした。


「みんな、戦おう」

「明智くん、何言ってるの?」

「宮古先生、俺達が帰るにはそれしかありません。それにこの世界の人が苦しんでいて、俺達には救う力があるんです。見捨てるような真似できません!」


 まるでヒーローのような言葉。明智くんというリーダーが言えば、それに追従するのがこのクラスです。明智くんが言うなら、明智がやるなら助けたい。それがこのクラスです。


「みんな、そうだろう? 困っている人がいるなら助ける、人として当たり前のことだ」

「待ちなさい明智くん。そんなこと許せません。命がかかっているのよ」


 宮古先生が止めに入ります。至極真っ当な意見です。私もその意見には賛成です。

 しかし火のついたこのクラスを止める術はありません。既に賽は投げられたのです。


「大丈夫ですよ先生。俺達はどうやら強いみたいですから」

「そういうことじゃ」


 戦うにしてもクラスの総意ではなく、あくまでも個人個人が冷静になって判断するべきです。が、場の雰囲気というものは圧倒的な圧力となり、それを許しません。明智くんにはそれが味方のように働くのです。


「俺達が帰る為に、そしてそのついでに世界も救おう!」

『おう!!』


 クラスはほぼ一つに纏まりました。明智くんのおかげでクラスから悲壮感が抜けたのはいいのですが、それはつまり国王陛下への返答ということでしょうか? この世界を救うために戦うという。


「感謝するアケチ」


 国王陛下の感謝ですべては決まりました。先生の歯止めも虚しく、私達2年B組は魔王と戦うことになったのです。


 しかし、どうしましょう。


「私、弱いのですが」


お読みいただきありがとうございます!


数話をお読みいただき、気に入っていただけたら是非ブクマ等よろしくお願いします!


レビューも嬉しいです。かわいい、面白い、等単純な言葉で大丈夫です!

最低150文字ですし、お気軽によろしくお願いします!

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