第7話 デブのデブによるデブのための演説
王城前、多くの国民がひしめき合っている。
9割方の人たちは、言うまでも無い程に太ましい恰幅だ。
逆に極僅かの太ってない人達は、どうにも肩身が狭いようだ。
比喩ではなく物理的に、そして精神的にも。
それを城壁から見据える王は、やはり立派なお腹である。
今日はただ人々の声を受けに来た訳ではない、逆だ。
諸々の改革を行う前に、国民へと演説を行う。
魔法だか魔術だかで、ここにいない人達にも声は伝わる様に整えてある。
皆で作り上げた台本を手に、城壁の前面に立つ。
「今日集まってもらったのは他でもない、先日公開した政策に関して私から話したい事があったからだ」
既に政策に関して、広く内容や意図を伝えてある。
当然大きな混乱や議論を読んだ。
演説でいきなり発表するよりはマシだろうと考えての事だったので、それは覚悟の上。
目の前の人々にも動揺や、王への不満や疑念が見て取れる。
「この国は今のままではジリ貧である! 古い観念に捕われず……」
既に台本は何度も目を通した。
肥満を良しとすることでのデメリットを整然と順序立て、その上でどうするべきか述べた内容だ。
その内容には、一切不満はない。
「実際に体を動かす職場での事故の増加や、健康への悪影響も……」
そうだ、内容には不満はない。
実際に聴衆の多くも耳を傾けている。
王という立場や肩書きの恩恵もあるだろうが、実際に肥満による弊害を肌身に感じている人も多かったのだろう。
だが……。
「故に私は、国策を大きく転換させる。放棄地や未開発地への着手も同時に行い……」
だがこれは、俺が言いたかった事なのか?
俺はただ単に、健康的な体を欲していただけだった。
勿論今やってる事はそれに繋げるために必要な事だ、そう理解している。
「余るであろう食料品等は、貿易や貧困層への支援に役立てる。それらの生産現場でも……」
だが……それを伏せたまま、論と損得だけで進めて良いのか?
気付けば台本は殆ど終わり、締めの言葉に差し掛かろうとしている。
聴衆達のざわめきは演説が始まる前とは別のものになっていた。
演説はそれなりの効果を発揮したのだろう、だがしかし。
台本を持つ太い腕が、ぐしゃりと握り潰す。
「……王よ、どうなされ」
「―――ぁー……もう沢山だ。猫を被るのはここまでだ」
聴衆達だけでなく、後ろの大臣達もざわめきだす。
傍の爺は察してくれたのか、やれやれとしている。
「俺は! ただ自分がデブなのを何とかしたいだけだ!! それに文句を言われたくなくて、あれこれと動き回った結果がこれだ!」
聴衆達のざわめきはピタリと止まる。
城壁の上で、息を荒くしているデブを見上げて静まり返った。
それには一切構わずに、言いたい事を即興でぶち撒ける。
「俺は……夢を見ていた。ここではないどこか遠い異国の夢だ。……そこではやはり大勢の人がいたが、体格は様々だった。痩せてる奴も、太った奴も、チビもノッポも、皆ばらばらだった」
流石に別の世界から来ました、なんて言っても受け入れられないだろう。
とりあえずは夢という事にしておく。
別に別の世界から来た事は明かしても良いのだが、今は話を理解してもらいたい。
「誰が太ってるか痩せてるかなんて、強制も無いし国からどうこうしろなんて事もない。好きに食って好きに痩せて、自分の好きな様にしていた。そこではそれが当たり前で、特に目立った問題も起きてなかった」
聴衆は静かなまま聴いてくれている。
後ろの大臣達も、狼狽えずに耳を傾けていた。
まあどっちにせよ洗いざらい吐き尽すつもりなのだが。
「確かに勇者、様の『国民皆で暖衣飽食を目指す』というのは素晴らしい。実際にそれで今まで国は富み栄えてきた。……だが未来に目を向けるとどうだ? デブを売り出した観光は衰退続き、工事現場や兵士の現場では、事故や怪我が相次いでいる」
お世辞でもなく、国民皆の食や住まいを充実させようというのは、とても立派だと思う。
だがそれも過度であったり、押し付けがましいものは息苦しい。
太りたい人が太るのは構わないが、それを他人にまで強制するのは間違っている。
「俺は何も、皆に痩せる事を強制してるんじゃない! 痩せたい人は痩せれば良いし、デブが良い人は勝手にデブでいれば良い。暖衣飽食を皆から取り上げるつもりはこれっぽっちも無い!!」
気付けば聴衆の顔は、とても真剣な目を向けてきていた。
それは太っている人も痩せている人も変わらない。
まあ殆ど9割はデブなのだが、自分も含めて。
「俺が目指してるのは! 一人一人が自由に、自分の体と向き合って痩せるも太るも好きにして良い国なんだ!! その上で、皆で豊かに幸せになっていこう!!!」
言いたい事は言い終えた。
ぶはぁーっと息を吐いて、後は大臣達に任せる。
これはこれで良いダイエットになったのかもしれない。
「王よ、良い演説でしたな。民達にも伝わりましょう」
付いてきてくれる爺は、良い笑顔で褒めてくれる。
お世辞という感じはしない。
爺自身にも色々と響いたのだろう。
「アイスコーヒーが良いな……少しだけ甘いのね」
疲れた体は甘いものを欲しがる。
節制を美徳とするつもりもない、自分に正直に爺にリクエストした。




