第4話 そんなにも痩せる事が悪いのか?
宮中の反対を振り切り、ダイエットを始めて3日目。
食事制限は元より、体を動かす事にも余念はない。
ストレッチ、筋トレ、水中運動、ジョギング……。
ジョギングは先日で懲りたので、あれ以来やっていない。
大臣や妃達は依然必死だが、どこ吹く風……とも言ってられなくなってきた。
どうにもたった1回のジョギングがマズかったらしい。
その姿を国民に見られたのが事の始まりとなった。
洒落でもなく瀬戸際に立たされている。
「王は魔族に取り憑かれたあああああああ!!!」
「国を滅ぼす気かあー!? 天罰が下るぞおー!」
「王の気が触れるとは……わしらどうすりゃええんじゃ」
国民が王宮に詰め掛けてきている。
跳ね橋を上げ城門を閉じて何とか凌いでいるが、放置もできない。
堀の向こうからは、怨嗟の声や憂いの声が絶えず上がっていた。
そしてやっぱりどいつもこいつも、太ましいし声は野太い。
ジョギング一つでこれかと、太い腕で頭を抱える。
「どうなさるおつもりですか? このままでは……」
傍の爺の声は、心配と諌める気持ちを孕んでいる。
どちらかといえば、考え直せという気持ちの方が強いようだ。
それを受け、眼下に民を見据えても、やはり気持ちは変わらない。
でっぷりとした腹を城壁の上に置き、『これで良いわけないだろう』と溜息をつく。
そろそろダイエットと共に進めていた事が結果を出す。
それで大臣達を黙らせる事ができれば……。
「王よ、仕度は整いました。既に皆様も会議室に……」
「ありがとう、これで納得させられるだろう。直ぐに行こう」
先日の会議、あの時に賛同してくれた大臣に、必要なデータを集めてもらっていた。
反対派の大臣達を、まずは理詰めで納得させる。
ざっくりとだが、肥満率と事故の件数や平均寿命などを纏めたものだ。
既に内容も確認している、前回の二の轍を踏みはしない。
大臣と爺を伴って、のっしのっしと会議室へと足を運ぶ。
「……という訳だ。肥満率の増加に伴って工事や兵士等、体を使う仕事での事故の増加。原因のほどは定かではないが、平均寿命も下がっている。国としてこれを放置する訳にもいかん」
発表は終わった、皆は騒ぎもせずに黙って聞いてくれた。
少しは考えが伝わったと思いたい。
成人病や心筋梗塞等は、大雑把にしか知識がない。
仮に知識があっても、この世界はそこまで医療や科学は発達していない。
やはりボカし気味にせざるをえない、もどかしい気持ちだ。
相変わらず太ましい顔をしかめっ面にして、何やら話しあっている。
「王よ、我々もそれに応じた用意があります。この場で聞いて頂けますかな?」
反対派の大臣の1人が進み出る。
予想外の展開だが、避けては通れぬもののようだ。
ずんぐりと頷き、席に座る。
「ありがとうございます。では我々と致しましては……」
――――――――――
既に国民達が去り、平穏が訪れた玉座の間。
難しい顔をした王と、同じく難しい顔をした大臣が溜息をついている。
「大臣、あれは知っていたのか? あれでは、ちょっとなあ……」
「いいえ私も。……管轄外の事でしたので」
お互いに何度目かの溜息をつく。
反対派の大臣の発表は、何とも面倒なものだった。
太っている人ばかりというのを前面に打ち出した、観光立国としての側面。
食料品を中心とした、諸々の消耗品の消費バランス。
急な体制変更に伴う国内の混乱。
これらを全てどうにかしない事には、王のダイエットは許可できないと押しきられてしまった。
「一気にそんな事を言われてもなあ……。俺が痩せたいってだけなのに」
玉座にて途方に暮れる、太ましい王。
圧迫された喉から、息苦しい溜息を漏らす。
だが、これでへこたれてもいられない。
「一気には無理かもしれん……。それでも、協力してくれるか?」
傍の大臣に問い掛ける、しんどいので動きはせずに。
姿は見えないが、野太く頼もしい声が返ってくる。
「勿論です王よ。私は真剣に国政の事を考えております、このまま放っておいて良いとは思えません」
1人ではへこたれてしまうかもしれない。
しかし、1人だけだが味方がいる。
ならばお互いに支え合っていけば、2人分以上の力を出せるかもしれない。




