第3話 まあそりゃ、王様が1人で出歩くのも変ですけどね?
翌日、早速ジョギングに出かける。
王宮内では必至な叫び声が木霊しているが、知った事ではない。
何とも大げさに『国が滅びますぞ!』などと言われても、呆れるしかなかった。
まあジョギングといっても、殆どウォーキングレベルのものだが。
抑えているのではなく、体のせいで不可能なのだ。
「しっかしこれは……本当にデブばかり、だな」
道行く人々は、皆ふくよかな体格をしていた。
町人、商人、汗だくの労働者、真昼間からの酒飲み、皆ふっくらである。
こちらを見る目は一様に驚きに満ちているが、まあ気にしても仕方ない。
「王様が1人でジョギングしてれば、そりゃあ驚くか……しかし」
流石に人目が気になってきた、予想以上の注目と驚きを浴びている。
町中を見ながらジョギングする予定だったが、急遽変更。
郊外の、人気の無い方を目指して方向を変えた。
「……こっちの方は、なんつーか。放棄された地域、かな?」
草が伸び放題の元畑、明らかに人が済んでいない廃屋。
更には、そもそも人の手が入っていない、しかし自然の恵みも無さそうな荒地一歩手前。
そんな風景が長々と続いている。
俺が王だと言うのなら、こういった土地もしっかり有効活用すべきなのだろう。
「ダイエットが落ち着いたら、国内の整備か……。ま、折角もらった転生だ。有意義に」
「おや王様? そんなに急いで、供も付けずにどちらへ?」
すれ違う老婆に話しかけられる、当然ながらやはりご立派な恰幅だ。
無下にするのも悪い、休憩がてら世間話に応じる。
「いやいや急いでいる訳ではなく、俺はダイエットを……」
「ダイエ、ット……? 王よ、それは」
老婆の顔が見る見るうちに強張っていく。
そういえば城を出る時に『ダイエットをしている、という事だけは秘して下され』と念を押された気がする。
今更思い出しても、既に遅いようだ。
「い、いやダイエットというのはだな、その……なんというか。」
「王よ、それは……。誰からか脅迫や、仕方なくでしょうか? もしくは、何か儀式でも……」
どうやら勝手に勘違いしてくれたらしい。
自分から痩せるという事がそもそも頭に無い様だ。
ホっと安堵の息を出す、喉が圧迫されているせいでちょっと太い息を。
「そ、そうなんだよ……少し面倒な事に巻き込まれてなあ。で、では先を急ぐのでな!」
適当に誤魔化して先を急ぐ。
後ろからは『おいたわしや……』等と聞こえてきて少し悪い気がする。
それにしても……。
「マジでダイエットをするのが異常か、或いは悪い事みたいになってるのか。参ったもんだ……」
改めてちょっとおかしな常識を、まざまざと感じてしまった。
一般人レベルでもこの浸透ぶりは、いよいよもってヤバイ。
下手するとジョギングを見られるや否や、襲撃でも食らいかねない。
「……屋内ダイエット。うん、メニューを考え直すとしよう」
町中を避けて城へと戻る、無論ジョギングをしたまま。
ジョギングの爽やかな汗ではなく、不吉を感じる冷や汗を掻きながら城へと戻る。




