第1話 餓えるよりはマシだけど、デブになりたいなんて言ってない!
「王よ! どうかお考え直し下さい!」
必死に呼び止める声が聞こえる。
暴君を諌める臣下の声だ。
「うるさい! 黙ってろ!! 全く、どいつこいつも……」
臣下を顧みず、王は書類の束を抱えて行く。
多くの家臣はそれを、暗い面持ちで眺めている。
痛ましい光景だが、しかし。
どいつもこいつもデブばかり。
響く声も太ましいものだった。
――――――――――
「なるほどなるほど、餓えで死んでしもうた魂か。不憫よのお」
真っ暗闇の中、どこからか声が聞こえた。
朧気な意識でそれを受け取る。
あまり覚えてはいないが、飢えて死んだと言われて納得してしまった。
ここは、あの世とか言う場所だろうか?
「ふむ……結果は出た。安心せよ、悪いようにはせん」
瞬間―――あらゆるものが反転する。
真っ暗闇とは少し違う、明るい所で目を閉じている感覚。
意識も既にはっきりとしていた。
暖かく、柔らかな物に体を包まれている。
「ここ、は……?」
自然と声が漏れる。
眠いわけでもないが、何か声を出しにくい。
腕も体も、何か重いものを巻かれている様な……。
「おや王よ、起きられましたか? のんびりしていて良いのですぞ?」
人の良さそうな、老人の声。
眠いわけでもないのに、重い瞼を持ち上げる。
柔らかい椅子に座っているのだと気付き、立ち上がろうとするが。
体は重く立ち上がれず、目が開かれる。
「……な、な……なんじゃあああこりゃあああ!?」
起きた場所は、玉座であった。
煌びやかで開放感のある広い空間。
華美に過ぎない装飾と、全身鎧の兵士が警備をしている。
しかし驚いたのはそこではなく、自分の体。
「これは……まさか……は、腹?」
自分の足が見えない。
寝ている訳でもない、椅子に座っているというのは解る。
その体勢で、足さえ見えない。
視界を丸く遮っている2段の丘。
手を伸ばして触れれば、それは確かに自分の胸と腹。
さらにその手さえも、ぶくぶくと肥えている。
「どうしました王よ……豊かなお腹ではございませんか。富める国の証ですぞ?」
比喩でもなく重い首を回してみれば、傍に控える老人もデブ。
よく見れば兵士達も、鎧のデザイン自体がデブっちょだった。
「一体……これは……?」
自分が生き返ったか、転生でもしたのだとは理解している。
しかし赤ん坊でも若者でもない。
初老とまではいかないが、慣れ親しんだ三十路前後の体。
その上で、余りにも太ましい。
立つ事さえも苦しい体で、何をどうしろと言うのか。
「なんてこった……。こりゃ、まずは……」
老人は首を傾げて覗き込んでくる。
人の良さそうな憎めない、そしてやっぱり太ましい顔と首で。
「まずは……痩せないとな」
瞬間、玉座の間に戦慄と絶叫が轟く。
爺や家臣や、衛兵に至るまでが驚愕の声を上げる。
まるでこの世の終わりか、魔王でも降臨したかのような。




