観覧車
──なあ、お前さ。15分で回りきっちゃうのかよ。
少女の声が聞こえた。心の声だ。私の紹介文を見ていたらしい。身長は60m。1周は約15分だ。
声の感じとは少し違って、黒い髪を艶やかに伸ばしている清楚な少女だった。
──お前、せっかちなのか。
ゆっくりとまわる私を見て彼女は言う。ちなみにどちらかといえば私はのろまな方だ。
──もっと、ゆっくり回ってもいいと思うぜ。
彼女のさらに後ろの方から、ギャーという声が聞こえた。絶叫系のアトラクションからもれてきているらしい。
──あたしは、あんたが1時間も2時間もかけて回ってくれてもいいんだけどさ。
跳ねるように言い切って彼女は隣の少年を見る。少し弱そうな少年だ。
──あんたみたいなの、なかなかいないからさ。もっと仲間増やせよ。
彼女は腕のフリーパスを見せ、彼は財布からチケットを出した。
──なんであいつ、こんなとこ好きなのかな。
彼女の声は少し震えていた。私に乗りこむと彼女の声は聞こえなくなる。少年と話しているようだ。
私はゆっくりと動き続ける。
──早いよ。
また、聞こえた。珍しいこともあるものだな。
下りた後、彼は違う乗り物を指さしていた。でも彼女は私を指さしている。
彼女は彼に引きずられるように乗り物に並んでいた。しばらくして彼だけが出口から出てくる。
彼は外で彼女に手を振っていた。
なるほど。
乗り物を降りてきた彼女に彼はまた別の乗り物を指し示す。彼女は少し困った顔をした。
「もう一回観覧車に乗って、もう帰ろう」
彼は少し驚いたように、だが頷いたようだ。
彼らは再び私の前に立つ。
──あの子は、絶叫できるアトラクションが好きなはずなのに。ねぇ、君はどうしてだと思う
聞こえたのは彼の声だった。