【1–1】動機
長ったらしく書いていくスタイル
暗く寂しく小汚い部屋に、大沢悠人と、彼の手に握られた封筒だけがある。
「咳払い…」
咳払いとは、通称:赤原奈津子のことである。中学時代からの同級生で、何故か時々、家の前までやってくるのだ。無論、俺は無視するが。
どうして咳払いが封筒を?何のために?疑問はたくさんあるが、悩んでいてもしょうがない。とりあえず、開けてみよう。
その中には、ノートの切れ端が一枚と、なにかのチケットが入っていた。
「まずは紙切れから処理しよう」
自分の口から飛び出た爆弾処理班のようなセリフに、思わず吹き出しそうになってしまったが、なんとか耐えた。耐える意味なんて、全くないのに。
紙切れを取り出して、それを
「ーー読めない」
視力が格段に落ちているということに気がついた。ゲームのやり過ぎだろうか。とりあえず、当分は千円で即買いしたあの眼鏡に頼る生活になりそうだ。鼻の違和感なんて気にしない。
眼鏡をかけて再度挑戦すると、目の前に能天気な文章が現れた。
『不健康でかわいそうな君に、私がとっておきのプレゼントを用意しました。祝!引きこもり生活半年記念!動機は与えたから、あとはあなたが勝手にしてね♡』
お節介なやつだ。
ハートマーク、動機、気になる点はいくつかあるが、そんなことはどうでもいい。
1番の謎は、彼女がこの封筒を出した動機だ。
まず、アイツが俺に恋愛的な感情を抱いているなんてことはありえない。
彼女は俺とは相容れない存在だ。
例えるなら、朝と夜、陰と陽、S極とN極、月とスッポン、そんな感じなのだ。
よし、この謎は迷宮入りということにしておこう。
「次はチケットか」
封筒からチケットを取り出し、内容を確認する。
『エスぺリー美術館』
聞いたことのない名前だ。
別に俺は美術館が好きじゃないし、彼女が美術館好きと言うわけでもないだろうに、何故、美術館のチケットなんかを送りつけてきたのだろうか。
まあ、そんな事はどうでもいい。とりあえずそのエスペリー美術館とやらに行ってみよう。
「もう一眠りしてからな」